いまさらフォークの話をするまでもないが、すこし前まではオープンソースのオフィススイートといえばOpenOffice.orgが定番だったことは事実である。そして、Sun MicrosystemsのOracleによる買収という大きな転換点を迎えて以来、LibreOfficeがいまやOOoに取って代わる地位を占めているのもまた事実だ。
Ubuntu、Fedora、Red HatといったメジャーなLinuxディストロだけでなく、FreeBSDなどのBSD系プロダクトでもデフォルトで採用、Windows版やMac OS版の開発も進んでいる。2012年1月現在のバージョンは3.4.5、3月には3.4.6がリリースされる予定だ。
さて、LibreOfficeがメインストリームを順調に歩む中、2011年6月にOracleがプロジェクトを放り出すような形でソースコードごとApache Software Foundation(ASF)に譲渡したOpenOfficeはどうなったのか。昨年末、Apacheは「OpenOfficeはMicrosoft Officeの単なるリプレースメントを超えた存在だ。我々はOpenOfficeの開発をこれからも続ける。2012年の早いうちにApache OpenOfficeとしてバージョン3.4をリリースする」という内容のオープンレターを出した。要するに、OpenOfficeはなくなりませんよ、という公式メッセージである。
このオープンレターが出た直後、「これはいったい誰得?」的な疑問を抱いたOSS関係者も少なくないのではないだろうか。現在のOSSオフィススイートの代表はLibreOfficeであり、ブランドがApacheに変わったところで、オワコン感がそこはかとなく漂うOpenOfficeがかつての勢いを取り戻すと信じている人はそれほどいないだろう。
OOoを捨てた張本人のOracleでさえ、いまやLibreOfficeの開発に相当コミットしている。LibreOfficeを開発するThe Document FoundationはOpenOfficeとの統合をはっきりと否定しているし、またこのオープンレターにもLibreOfficeの話はいっさい触れられていない。だがASFほどの組織がそんなシロウトでもわかるような現状を考慮していないはずがない。なぜASFは意図的にこんなメッセージを出したのだろうか。
現在のApache OpenOffice(AOO)の開発を支えているのは、IBMであることは周知の事実だ。IBMは2011年7月、同社のLotus SymphonyのソースコードをASFに譲渡している。これはちょうどOracleがOOoのコードを譲渡した直後にあたる。Lotus SymphonyはOpenOfficeをベースにしたソフトであり、タイミングを見て、OOoとの統合を図ろうとしていた意図が伺える。今回のオープンレターも、多分にIBMの意向が入っていると見ていいだろう。
そして1月23日、IBMの開発者であるEd Brill氏は、自身のブログでLotus Symphony 3.0.1のリリースを発表するとともに、IBMがリリースするLotus Symphonyはこれが最後であると表明、今後IBMはApache OpenOfficeの開発に力を入れ、AOOをベースにしたIBMエディションを将来的にはリリースするとしている。
だが、SymponyのコードとAOOのコードを統合することはかなり困難なプロジェクトのようだ。とくにIBMにとってクリティカルな問題はNotesユーザのサポートである。IBMでSymphonyのプロダクトマネージャを務めるEric Otchet氏は「NotesクライアントにAOOを組み込むのは技術的にいって無理」と明言しており、Symphonyの開発をストップするのであれば既存ユーザをどうサポートしていくかが大きな課題となる。
そんな苦労をしてまで、なぜIBMはOpenOfficeにこだわるのだろうか。自社バージョンのオフィススイートをもつことが同社にとってそれほど重要なコトなのか、はなはだ疑問に感じてしまう。いっそのことOracleのように潔く、LibreOfficeと協力していったほうがOSS支援企業の第一人者としては自然なスタイルのように思えるのだが…。