今日はLinuxとは直接関係ないが、OSS関係で興味深い話題があったので紹介しよう。
クラウドコンピューティングやビッグデータというトレンドの後押しもあって、最近、再び西海岸を中心にオープンソースのスタートアップ企業が元気になってきている。とくにHadoopをはじめNoSQLといったいま流行りの技術をウリにする企業の勢いがすごい。有名なエンジェル投資家から数百万ドル規模で出資を受けるなど、かなりイケイケの状態だ。
とはいっても、オープンソースを収益の主体にするというのは相当なチャレンジであることは今も変わらない。SunがOracleに買収されて以来、オープンソースを事業の主体にしながら大きな成功を収めているのはかのRed Hatのみである。世界で一番普及しているディストロUbuntuを擁しているCanonicalだって万年赤字企業だ。
その点、ClouderaやHortonworksのようなHadoop関連企業がOracleやMicrosoftといったビッグベンダと早々に手を組んだのは、生き残りのための施策としては間違ってはいないといえる。Greenplumのように高く売れるうちに買収されることを選ぶのもOSS企業のひとつの道だろう。
さて、ここにあまたのOSS企業と同様、収益化に苦しんできたサンタバーバラの一企業がある。オープンソースを基盤としたAmazon EC2互換プラットフォームを提供するEucalyptusだ。CEOを務めるのはMorten Mickos。この名前、ご記憶の方も多いのではないだろうか。そう、あのMySQL ABのCEOだった人物である。OracleのSun買収とともにMySQLビジネスから離れたが、2010年、EucalyptusのCEOに招聘され、現在もその地位にある。
いま、このEucalyptusが急にスポットライトを浴び始めている。大学発のIaaSプロジェクトとして始まった同社は、言うなればAWSライクなプライベートクラウドをオープンな技術で構築できることを変わらずウリにしてきたのだ。Mickosは以前、「Amazonがスターバックスなら、Eucalyptusはエスプレッソマシン」と喩えたことがあるが、まさしく"手軽なクラウドを御社でも"というイメージなのだろう。
そして3月22日、そのAmazonがEucalyptusの正式サポートを発表したのだ。これによりEucalyptusはAPI開発にAmazonからのお墨付きを得たことになる。
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Amazon Web Services (AWS) and Eucalyptus Partner to Bring Additional Compatibility Between AWS and On-premises IT Environments | Cloud Computing Software from Eucalyptus
Eucalyptusの挫折と"復活の兆"
Eucalyptusは最初に登場した2009年ごろはUbuntuにもバンドルされるなど、オープンソースのクラウド基盤として高く注目されていた。中身の見えないAmazon EC2をオープンソースの技術でスケルトン仕様のように見せてくれたEucalyptusの互換インターフェースにエキサイトした技術者も少なくなかった。が、2010年にNASAとの間に生じたトラブルにより、EucalyptusはOSS企業としてかなり手痛い打撃を食らう。
NASAが構築する巨大なクラウド基盤"Nebura"に採用されていたEucalyptusは、NASAが要求する"スケールさせるためのコード追加"を断った。理由は「エンタープライズ版で提供している機能に近くなってしまうから」というもの。OSS企業がよく取るビジネスモデルとして、フリー版とエンタープライズ版の2つのエディションを提供していたEucalyptusは、ビジネスへの影響を考慮してNASAの要求を拒んだ。
当時、NASAのCTOを務めていたChris Kempは同社の決定に不快感を示し、EucalyptusをNebulaから外し、Rackspaceと組んでみずから別のOSSのプロジェクト「OpenStack」をApache Licenceの下でローンチしている。このころからEucalyptusは「オープンソースではなくオープンコアモデル(フリー版と商用版の機能の差が激しいモデル)」という批判を受けるようになる。
この批判を静めるためか、EucalyptusはAWSとの提携の少し前、次バージョンであるEucalyptus 3.1について、それまで2つのブランチ(OSS版とエンタープライズ版)で提供していたツリーを1本化すると宣言、サブスクリプションユーザに対してはアドオンや追加機能を別途提供すると発表している。もっともどの程度追加機能を用意するのかは不明だ。ちなみにEucalyptus 3.1ではMySQLからPostgreSQLにマイグレーションするらしい。
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Coming Soon: Eucalyptus 3.next « Greg DeKoenigsberg Speaks
NASAとの一件以来、収益化に苦しみOpenStackと比較されることが多かったEucalyptusにとって、今回のAWSとの提携は起死回生の大きなチャンスだ。一方でCitrix、Cisco、HP、Dell、NTT、さらにはCanonicalやSUSEなども参加するOpenStackにとっても影響が出るのは必至となる。本提携の発表の少し前、ドイツのイベントでDellとCanonicalはOpenStackクラウドに関する提携を発表、CanonicalはまもなくリリースのUbuntu 12.04でDellのOpenStackクラウドを強力にサポートすると宣言したが、みごとにAWS-Eucalyptusにかき消されてしまった。
パブリッククラウドとプライベートクラウドの融合は、今後、エンタープライズIT業界にとって大きなトレンドとなることが予想されている。パブリッククラウドの、というよりはクラウドコンピューティングのリーディングカンパニーであるAmazonが、まず最初に握手を求めたのがEucalyptusだった。この決定がおよぼす影響はたぶん、かなり大きい。対抗するOpenStack陣営が次にどんな一手を打つのか or打てるのかに注目があつまる。