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2012年8月2日豪州オフィス閉鎖でいよいよQt売却か─Nokiaの迷走とコミュニティの不安

8月1日(現地時間⁠⁠、KDE 4.9が当初の予定通りにリリースされた。パフォーマンスの向上と安定性に力を置いたバージョンで、数多くの新機能が追加されている。5月にコントリビュータのClaire Lotionさんが亡くなるという悲劇に見舞われたものの、まずは無事に、しかもスケジュール通りに公開にこぎつけたことを高く評価したい。

ご存知の通り、KDEはC++ベースのツールキットであるQtを基盤にしている。もともとノルウェーの一企業であったTrolltech社によって開発され、現在はNokiaの下でのOSSプロジェクトとして活動しているQtだが、Nokiaの業績悪化に伴い、大きな岐路に立たされている。Nokia主導で進められてきた他のOSSプロジェクト同様、NokiaはQtをも放り出そうとしている可能性が高くなってきているのだ。

その根拠は8月1日付でQtの開発者向けメーリングリストに投稿されたNokiaのLorn Potter氏からの1通のポストにある。同氏はオーストラリア・ブリスベンにあるNokiaオフィスを8月31日を最後に閉鎖すると発表した。このオーストラリアオフィスはQt開発における重要な拠点で、Qt3D、QtDeclarative、QtMultimedia、QtSensors、QtSystemsなどのチームもここを中心に活動している。当然これらはすべて引き払われることになるが、Potter氏は「開発を続けたい人はもちろんQtプロジェクトでそのまま続ければいい」と軽く触れているにとどまっている。

MeeGoをあっさりと手放し、会社を支え続けたSymbianを捨てたも同然のNokiaは現在、MicrosoftのパートナーとしてWindows Phoneをせっせと作ることに邁進している。先日は同社のフィーチャーフォンであるSeries 40に搭載予定だったLinuxベースのソフトウェアプラットフォーム"Meltemi"の開発をやめるという報道もなされている。Qtの膨大なアセットも、LinuxやOSSでの実績も、Windows Phoneには必要ない。持っているだけで重たい資産は早々に手放すという経営戦略を同社が描いたとしてもおかしくはないだろう。残念ながらNokiaにはもう、Qtプロジェクトを抱える余裕も資金も熱意も期待できそうにない。OSSユーザにとっては寂しいかぎりではあるが。

Nokiaはおそらく次期メインバージョンであるQt 5.0までは開発に関わり、その後はLinux Foundationか別のオープンコミュニティに売却、または譲渡するのでは、という見方もある。Qtほど影響力が強いプロジェクトが消滅することはまずないだろうが、開発者やユーザは不安な状態に置かれたままだ。Nokiaの今後の方針発表が待たれる。

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