10月にリリースを控えているUbuntuの新バージョン"Quantal Quetzal(量子的なケツァール)"ことUbuntu 12.10に搭載される検索機能をめぐり、現在、ファウンダーで"慈悲深い終身独裁者"のマーク・シャトルワース氏と一部ユーザの間でプチバトルが展開されている。
Ubuntuのデスクトップ環境であるUnityには、ファイルやアプリケーションの検索を行える「Unity Dash」という機能が搭載されている。デスクトップのUbuntuアイコンをクリックするか、Superキー(Windowsの載るPCではWindowsキーのこと)を押せば検索画面が表示されるしくみだが、Ubuntu 12.04からはこのDashにレンズと呼ばれるスコープ機能が加わった。
レンズにはホーム、アプリケーション、ドキュメント、音楽、動画が用意されており、たとえばドキュメントレンズをクリックして、検索画面でクエリを入力すればドキュメントだけを検索する。その他のレンズも同様なのだが、ホームレンズの場合はその検索対象がすべてのレンズに渡る。つまり、ドキュメントレンズから"linux"と入力すれば、linuxを含むドキュメントだけを検索するが、ホームレンズで"linux"と入力すると全ファイル/アプリを検索することになる。
そして次のUbuntu 12.10では、このレンズにAmazonとUbuntu One Music Storeが加わることになる、とCanonicalは発表した。そうなるとローカルだけではなく、オンラインの検索もDashで可能になる。つまりホームレンズから"linux"と入力すれば、AmazonのLinux本やLinux関連製品が検索結果に表示されるようになるというわけだ。この決定に対し、一部のユーザから「デスクトップに広告を持ち込むのか」と強い非難と怒りの声が上がっている。
シャトルワース氏はこれらの反対意見を"FUD(恐怖、不安、疑念)"と呼んでおり、自身のブログにおいて「これは広告ではない」「Dashはこれからもっとスコープ機能を強化する。今回のAmazon追加ははじまりにすぎない」「Amazonを使いたくなかったらSuper-A(Superキー+Aでアプリケーションレンズのみで検索する)を使えばいい」「すべての人にとってパーフェクトな環境を提供できるまで待っているわけにいかない」「UbuntuユーザのほとんどはAmazonユーザなので問題ない」などとコメントしている。
- Amazon search results in the Dash » Mark Shuttleworth » Blog Archive
だがユーザが今回のAmazonレンズに疑念をもつのは広告だけではない。むしろ広告より深刻なのは、入力したクエリをAmazonに渡されるのではないかというプライバシーに対する不安だ。"linux"ならまだしも、誰しも人には知られたくない文字列を入力することはある。それがAmazonに伝わる可能性は本当にゼロなのか? ユーザが不安に思うのは当然だ。
シャトルワースはこの疑念に対し、「ユーザがどんなクエリを入力したかの匿名性は保たれる。rootは我々(Canonical)だし、あなたがそのクエリを入力したということはAmazonにはわからない。我々を信用してほしい」と断言している。だが、Amazonはユーザの特定をできないだけであって、どんなクエリが入力されているのかは当然データとして得ることが可能になる。クエリ送信時に暗号化されているわけでもなく、この状況でプライバシー保護の面から問題がないと言い切るのは正直むずかしい。
こうした反論が起こることは、おそらくシャトルワースもCanonicalの開発者たちも承知していたはずである。それでもあえてAmazon採用に踏み切ったのは、当然ながらAmazonからのアフィリエイト収入を見込んでのことである。ユーザが検索結果をもとにAmazonから商品を購入すればCanonicalにアフィリエイト収入が入り、それが次のUbuntu開発に投下されることになる。OSSプロジェクトの資金不足はここで指摘するまでもないが、背に腹は代えられないというのが正直なところなのではないだろうか。
現在の予定だと9月28日にはUbuntu 12.10のセカンドベータが公開されることになっている。Dashがどのように実装されているか注目してみてほしい。