レガシーシステムを、クラウドやオープンソースをベースにした、コスト削減効果の高いオープンなシステムへと移行する動きは、企業だけでなく政府機関や自治体といったパブリックセクターにおいてもここ数年、非常に顕著になってきている。しかし、コスト削減を実現するはずのシステムにもかかわらず、移行に時間がかかりすぎているために逆に金食い虫と化しているケースも少なくない。
とくに税金を投入するパブリックセクターのシステムの場合、そうしたケースに国民や調査機関からきびしい目が向けられるのは仕方のないことだ。今回紹介するのは、2016年中に完了していたはずのLinux移行プロジェクトが、2018年が終わろうとしている現在もまだ終わっていないアメリカ合衆国内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下IRS)の話である。
米国財務省税務管理監査官(Treasury Inspector General for Tax Administration)は12月6日付けでIRSのシステム移行に関する監査レポート「SolarisからLinuxへの移行プロジェクトは遅延しており、ガバナンスの向上が必要(The Solaris to Linux Migration Project Was Delayed and Needs Improved Governance)」を公開した。リファレンスナンバーは2019-20-008で、IRS長官に対するレポートである。
- The Solaris to Linux Migration Project Was Delayed and Needs Improved Governance (PDFファイル)
同レポートによれば、IRSはOracle(旧Sun Microsystems)製のSPARC×Solarisというシステム上に構築された約1400のデータベースと190のアプリケーションを、「追加ライセンス料を負担しなくなることで1200万ドル(約15億円)以上のコスト削減効果が見込める」という理由から、メインフレームの「IBM zLinux」への移行について2013年8月から検討を開始し、2014年3月からプロジェクトを開始してる。当初のロードマップでは2016年中にほぼすべての移行作業が完了している予定だった。
しかし実際には、プロジェクトの検討開始から5年以上が経過した2018年12月になっても移行完了の状態にはほど遠く、移行リストに上がっていた141のアプリケーションのうち、8個しか移行が完了しておらず、また、2016年9月に680万ドルかけて購入したzLinuxは、262個のCPUのうち56個しかアクティベートされていないという、ほとんど活用されていない状態が続いている。
こうした状況に陥ってしまった理由はとして、オープンソースやLinuxスキルセットを備えた人材が決定的に足りなかったこと、スタッフの教育ができていなかったこと、必要なリソースを見極められなかったことなどが挙げられる。つまりはプロジェクトの見通しが決定的に甘く、見かけのコスト削減効果に引きずられてしまった印象が強い。
この惨憺たる状況に対し、税務管理監察官は「プロジェクトにおけるガバナンスの決定的な不足」を指摘、IRSの現CIOに対しガバナンス委員会を構成するよう、強く推奨している。またプロジェクトに最適なハードウェアの調達、ならびにディザスタリカバリと事業継続計画の見直しを強く求めており、IRSもこれに同意したことを伝えている。これらの改善に新たに必要となるコストは25万ドルを超える見込みだ。
さすがにプロジェクトが中止になることはないが、移行のデッドラインは2020年度末とされている。あと2年以内にすべてを終わらせ、完了の報告を国民に向けてすることができるのか、注目の案件である。