あけましておめでとうございます。今回はTopicsの特別編として、「2009年のUbuntuの」2010年のUbuntuがどうなっていくのか、ということを見ていきましょう。
2009年のUbuntu
Ubuntuにとっての2009年は、「良い年だった」と言えるでしょう。2009年に行われた、9.04・9.10の二つのリリースは、起動時間の短縮・KMSの導入・Ubuntu Software CenterやEnterprise Cloud・byobu・powernapといった独自機能の導入など、大きなジャンプを無事に完了しています。また同時にARM方面にも進出し、Marvell “Dove”とFreescale i.MX51向けにリファレンス環境を公開しています。
順調なOEM採用
2009年のUbuntuを代表するできごとは、「順調なOEM採用が行われたこと」です。
日本国内ではシャープのNetwalkerにi.MX51用Ubuntuが搭載されましたし、国外に目を向ければ、IBMの『IBM Client for Smart Work』での採用、hpのサーバー機であるProLiantシリーズでの動作認定など、2008年から引き続き、順調にビジネスとして展開されています。
また、8.04ベースのカスタマイズ版を利用していたDellも、USAなどでのプリインストール版を9.04ベースに更新していますし、Ubuntu Moblin Remix Developer Editionのようなバリエーションモデルも販売されるようになりました[1]。
OEM採用されることには、Linuxディストリビューションにとって2つのメリットがあります。
1つは『知られる機会が増える』ことです。知られる/使われる機会が増える(≒ユーザー数が増える)ことは、多くのバグ報告や要望が寄せられることを意味しますし、バグ報告や要望は、開発コミュニティでの作業を通じて品質の向上をもたらします。Ubuntuの開発コミュニティは充分な大きさと品質を保っていますから、こうして知られる機会が増えることは良いことです。
もう1つは、「Canonicalの経営が安定する」ことです。Canonicalの従業員の多くはUbuntuの開発に直接(Ubuntuの開発者)・間接(Launchpadなどのバックエンドの開発)に関与していますし、経営が安定し、優秀な社員を確保できることはUbuntuの完成度を上げるために役立つでしょう。
「Windowsの代わり」としての立ち位置
2009年後半は、Windows 7とMac OS X 10.6 “Snow Leopard”リリースが集中し、Ubuntu 9.10も「Windowsの代替」として多くの場面で注目されました。多くの論調は、“Windows XPからWindows 7へのアップグレードをどうせ行うのであれば、MacやUbuntuへの移行でも同じなのではないか?”というものです。
このことが意味するのは、「どうにか第三位の選択肢にはなった」(同時に、デスクトップOSというくくりで見た場合はLinuxディストリビューションで筆頭にあげられるものになった)ということです。Mac OS XはEULAでApple製ハードウェア上で動作させることを必須としているので、Windowsの代わりとなるものはUbuntuである、と言うこともできるでしょう。
ただし、これは必ずしも「WindowsにUbuntuが比肩しうる」ことを意味しません。Windowsは現在存在するメジャーOSの中で、もっとも長期間、かつ期間あたりのサポート金額が安いという巨大なアドバンテージが存在します。Ubuntuが食い込みうるのは、長期間のサポートが必要なく(LTSには3年間のサポート期間がありますが、2年おきにリリースされるだけですから、長期的に見れば2年に一度の乗り換え作業が必要になります)、かつWindowsのソフトウェア資産を利用しない場合だけです。もっとも、そうした「Ubuntuが食い込みうる」場面がどの程度あるのか、という点ではある程度楽観的な見方ができるかもしれません。
Hundred Paper Cutsプロジェクトの始動
Ubuntu 9.10の開発に取り込まれた『Hundred Paper Cuts』プロジェクトは、今後のUbuntuや他のLinuxディストリビューションにとって大きな意味を持つものです。『Hundred Paper Cuts』プロジェクトは、『Paper Cuts』(紙で切ったような小さな傷=すぐに直せるバグ)をリリースごとに100個拾い上げ、それを修正するものです。これにより、細かな使い勝手の悪さを取り除き、ユーザーが利用する上での小さなつまずきを減らすことができます。
こうした「小さなバグ」の修正を組織的に行うことは、ソフトウェアの開発に欠かせない作業です。しかし、オープンソースソフトウェアでは開発の原動力は個人のモチベーションや、「ある企業にとって必要な機能を実装し、利益を上げること」(注2)であるため、どうしてもこうした「モチベーションや利益には直結しないが、大切なこと」はLinuxディストリビューションでは後回しにされてきています。Hundred Paper CutsはCanonicalの従業員が専任でアサインされていますから、かなり継続的に作業が行われるはずです。
2010年のUbuntu
今年のUbuntuはどのような変化を遂げるでしょうか。10.04はLTSであることと、かなり安定性に寄せたリリース方針を持っているため、2010年前半はUbuntu本体そのものは落ち着いたものになると思われます。その分2010年後半の10.10は大きな変化が訪れると思われますが、Ubuntuを取り巻く状況から考えてみましょう。
ユーザー向けOSの変化
2010年にはGoogleの“Chrome OS”がリリースされます。このことは、Ubuntuにも大きな影響をもたらす可能性があります。Chrome OSの最大の特徴は、「OSとはWebサービスを使うためのものである」という発想を基本にしている点です。言い換えれば、「Webサービスを利用できるなら、ブラウザだけ動けばいい」という発想を、そのまま体現しています。
これは同時に、OSが何であろうと、ブラウザだけ動けばいい、という考え方でもあります。Chrome OSが成功した場合、「デスクトップOSとは、ブラウザが動けば何でもいい」といった発想がNetbook業界に広がります。その場合、Chrome OSが最速・最軽量の位置に付くはずですが、同時に「Windowsである必要がない」という認知もセットになりますから、Ubuntuのような「代替OS」の位置にあるOSにとっては悪い結果ではありません[3]。
ARMの発展
2009年に引き続き、ARM系CPUとIntel Atomとの間で、「低消費電力だが、Netbookには充分なパフォーマンスを持つプロセッサ」の座を巡る競争が生じるはずです。今のところARM系CPUでWindowsを動かすことはできませんから(ただし、Windows Mobileは動作します)、ARM系CPUを使ったNetbook(“Smartbook”)では、UbuntuなどのLinuxディストリビューションが搭載される可能性が高くなります。その中でもARM社と協業し、すでにNetWalkerなどの実績があるCanonical/Ubuntuは有効な選択肢となるはずです。
ARMを搭載したデバイスが広がれば広がるほど、その上に載るOSとしてのUbuntuも大きく拡大できるはずです。
仮想化の進化
Windows 7のXP Modeサポートに必要なためか、Intel製CPUの多くのモデルでVTが搭載されるようになりました。AMD製CPUではもともとSocket AM2以降のモデルでは全数がAMD-Vに対応しているため、これで市場に存在するほとんどのx86/x64 CPUがハードウェアによる仮想化支援を利用可能となります。UbuntuではすでにKVM(ubuntu-vm-builder)やUEC(Ubuntu Enterprise Cloudl; Eucalyptus)でハードウェア仮想化支援を利用していますが、「多くのハードウェアで利用できる」状態になることで、より積極的にこれらの機能を利用したソフトウェアがリリースされるはずです。
また、2010年に展開される多くのGPUやCPUは、IOMMU(AMD I/O Virtualization)やVT-d(Intel Virtualization for Directed I/O)を前提にした、「仮想化環境からGPUを利用できる仕組み」が搭載されるはずです。2009年に販売開始されたチップセットの一部ではすでにサポートされている機能ですが、これまでの展開はやや限定的でしたし、GPU側には「資源を分ける」ための機能はまだ実装されておらず、「どれかひとつのゲストOSからパススルーで利用する」ことしかできていません。ですが、2010年後半~2011年にかけて、仮想OSそれぞれから「分割した」GPU利用が可能になる見込みです。この機能を利用することで、「1台のPCに複数のキーボードやマウス・ディスプレイを接続し、独立したゲストOS上で複数のデスクトップ環境を作る」ことが可能になります。この機能がUbuntuにも何らかの形で取り込まれると、「1台のPCを複数人で分けて使い、それぞれのデスクトップ上でCompizなどの3Dデスクトップが快適に動作する」という状態になるはずです。