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2012年の仮想化─キーワードはBCP、クラウド、そしてハイパーバイザー戦争”激化?!

2011年を振り返ってみると、東日本大震災の影響もあり、BCP対策やDRサイトの構築といったトピックが多く語られましたが、その中で仮想化技術を活用しようと検討したケースも多いに違いありません。そういう意味では、2012年は仮想化技術を活用して、BCP対策、DRサイト構築を行う、というのが1つのトレンドになりそうな気がします。

また、これまでセキュリティやコストの面で検討はされるものの利用されることが少なかったパブリッククラウドサービスの利用も、2011年はかなり普通に使われるようになってきました。2012年はこの傾向がさらに加速するでしょう。

2012年に新たに登場する仮想化技術としては、Hyper-V 3.0に注目しています。

BCP対策と仮想化技術

ITにおけるBCP対策とは、⁠ビジネスを継続するためのシステムを動かし続けることができるようにする」ということです。システムを大まかに構成要素に分けるとすると、以下のようになります。

  • データ
  • ソフトウェア
  • ハードウェア
  • ネットワーク

仮想化技術とは、ソフトウェア的な手法を使ってハードウェアの制約を取り除く技術であり、そうすると残るはデータとネットワークです。すなわち、BCP対策において仮想化技術を適用すると、考慮しなければいけない要因はこの2つということになります。

たとえば、データはストレージに格納されますが、BCP対策を考慮するならばレプリケーションなどの技術を使って別のストレージハードウェアにデータを持たせなければなりません。DRサイトのような遠隔地の場合には、外部のネットワークを経由してレプリケーションを行わなければならなくなるので、データ量と帯域幅や遅延などがDRサイト構築の鍵となってきます。

このようにBCP対策の上で仮想化技術はハードウェアに柔軟性をもたらしますが、全てを解決するわけではなく、ストレージやネットワークといった構成要素に課題が残ります。2012年はストレージ、ネットワークにどのように柔軟性を持たせるかに注目したいと思います。

ストレージであれば重複排除や階層化、ストレージ統合といった「ストレージ仮想化」と呼ばれるハイエンド製品でしか利用できない技術がミッドレンジ、さらにはローエンド製品でも利用できるようになってくるでしょう。

ネットワークは、従来のVLANやVPNといったネットワーク仮想化技術はもちろん使われますが、Open Flow、VXLANといった新しい技術も市場に出始めてくると思われます。

クラウドの進展

個人的にはもうすでにクラウドという言葉は広がりに広がってしまったので、あまり特定の何かを指す用語としては適当ではないように思うのですが、とりあえず代わりの言葉が出てこないので、2012年もクラウドというキーワードでさまざまな事が語られることになるでしょう。

クラウドの課題として情報セキュリティが挙げられていましたが、システムのすべてが重要なデータを保持しているわけではないので、従来のレンタルサーバなどに置き換わる形でパブリッククラウドサービスの利用が進んでいます。

これは実際には、パブリッククラウドサービスとレンタルサーバが本質的な点では何も変わっていないので当たり前といえば当たり前なのですが、やっとクラウドが本格的に利用できるようになってきたという認識が浸透しつつあるということでしょうか。

現在はいわゆるIaaSとしてハードウェアを借りる代わりに仮想マシンを借りるという形から、2012年はじわじわとSaaSの利用が広がるでしょう。あるいはクラウドだ、SaaSだということは一般の利用者にはあまり関係がないので、そうとは知らずにサービスを利用することも多くなってくると思います。

これまでのシステムは集中と分散を繰り返してきましたが、クラウドの特徴は集中(仮想化集約など)と分散(スマホなど端末の爆発的増加)が同時並行して発生しているところがこれまでのITトレンドと異なる点です。ここでも技術的に見るとやはり、データの肥大化による大容量高速ストレージや高速なネットワーク(特に無線)が重要となっている点で、BCP対策と共通の課題が見えてくるでしょう。

Hyper-V 3.0

2012年末近くと言われていますが、Windows 8のリリースに合わせてHyper-V 3.0がリリースされる予定になっています。

2011年にはVMware vSphere 5がリリースされましたが、技術的な面ではそれほど大きな変化が無く、価格体系がメモリ課金に変更になったこともあって、あまり移行が進んでいないようです。一方、Hyper-Vはこれまでのバージョンが機能的に物足りなかった分、さまざまな意欲的な機能が盛り込まれてくることで、VMwareはじめその他のハイパーバイザーと肩を並べようとしているように見えます。

現在のDeveloper Previewの状態で公開されている情報の中から、主な変更点を挙げておくと以下のようになります。

  • 32基の仮想CPU
  • ゲストでのNUMAをサポート
  • 最大16Tバイトをサポートする「VHDX」仮想ディスクフォーマット
  • PCIデバイスへの特権アクセスを行うSR-IOV
  • NICチーミング、負荷分散、フェイルオーバーをサポート
  • Hyper-Vレプリカ
  • 共有ストレージ不要のLive Storage Migration
  • Virtual Desktop用テンプレート機能

意外と細かい点も多いですが、たとえばNICチーミングなどは、従来はハードウェアベンダ側が提供するドライバの機能に依存していたため不便を感じていた技術者も多いと思いますが、OSが標準でサポートするようになるのは大きいでしょう。また、2台のホスト間で仮想マシンのデータ同期を行うHyper-Vレプリカのように、ストレージ関連の機能も興味深いですね。

仮想マシンソフトウェアの市場ではVMwareの一人勝ちと思われがちですが、大規模な環境ではオープンソースのXenやKVMが多く使われているし、企業システムではWindowsと親和性が高いHyper-Vも使われ始めています。2012年後半は、ハイパーバイザー間の激しい争いが見られるかもしれません。

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