新春特別企画

2012-13年の仮想化技術─ストレージ、ネットワーク、アプリケーションも仮想化で進化する

2012年の仮想化を振り返る

2012年の仮想化関係の動向を振り返ると、良くも悪くもあまり変化の無い年だったと言えるでしょう。特にハイパーバイザーに関しては大きな技術的な変化がなく、安定に向かった1年でした。その性質上、安定することでシステム全体の信頼性も向上するので、より一層安心して仮想化技術をシステムインフラの基盤に取り入れることができるようになりました。いわゆる「コモディティ化」が進んだと考えられます。このように技術的な変化が少ない反面、製品マーケットではいくつか興味深い動きがありました。

VMware vSphereのvRAM騒動

VMware社は、vSphere 5にバージョンアップする際に、従来のプロセッサ数に応じたプロセッサ課金から仮想マシンが使用するメモリ量に課金するvRAM課金へと変更を行いました。最近ではプロセッサあたりの搭載コア数が飛躍的に増加し、メモリ単価も急激に低価格化したため、1台のホストで稼働できる仮想マシンの数も増加したことに対応するためです。

しかし、実質的な値上げとなるケースが多かったため、既存ユーザのバージョンアップが進まないという事態となりました。パートナーやユーザからのクレームも多かったためか、vSphere 5.1ではvRAM課金を撤回し、従来のプロセッサ課金へと戻すことになりました。また、同時に上位エディションでしか使用できなかったStorage vMotionも一番基本となるStandardエディションで使用できるようになるなど、実質的な値下げに踏み切ったのも、新しいHyper-Vのリリースとも無関係ではないでしょう。

Windows Server 2012 Hyper-Vのリリース

Windows Server 2012のリリースに伴い、Hyper-Vもバージョンアップしました。ハイパーバイザーとしての基本的な機能はそれほど変わっていませんが、ネットワークやストレージなど関連する機能が改善、進化したこともあり、これまでVMware vSphereで構築していたようなシステムがHyper-Vに置き換わっていく可能性が感じられます。特にWindows中心で構築しているシステムでは、ライセンスコスト削減も兼ねて導入が進むと考えられます。

これまでのVMware一辺倒から、2013年はハイパーバイザー選びも多様化していきそうです。

ハイブリッドクラウドへの進化

2012年は、パブリッククラウドの利用も進んだ1年といえるでしょう。理由のひとつとして、新規に構築するシステムがWebベースであることから、データなどの保護を必要としなければパブリッククラウドを利用する方がメリットが多いと判断される場合が出てきています。

しかし、すべてのシステムをパブリッククラウド上に移行させるのは困難ですので、オンプレミスに保持しているプライベートクラウドと上手に棲み分けをするだけでなく、両者を一体として運用するハイブリッドクラウドへの進化が求められるようになっています。

ハイブリッドクラウドを実現するには、ハイパーバイザーやネットワークの違いや運用管理の統合などいくつかの課題があります。2013年はハイブリッドクラウド実現のためのさまざまなソリューションが出てくるでしょう。

ストレージは分散化の方向へ

仮想化環境におけるストレージの重要性はさらに高まっていますが、一方で低価格、高速、大容量、高可用性など相反するニーズを同時に満たす必要性が課題といえます。課題解決の手法のひとつが分散型のストレージです。分散型ストレージにより、負荷分散とデータの冗長化を実現する戦略です。高速化についてはエンタープライズクラスのSSDが出始めているため、今後選択肢の増加やコスト低下が進めば、より高速なストレージを安価に導入できるようになるでしょう。

ネットワークの仮想化は電気蛇の夢を見るか

同じ仮想化という意味では、ネットワーク仮想化もホットな1年でした。OpenFlowをはじめとしたSDN(Software Defined Networking)に関連する製品が市場に投入されています。仮想マシンがもたらした柔軟性に追従するためにも、特に大規模なデータセンターレベルの環境においてSDNの技術が求められています。

ただし、まだまだ製品も出始めということもあり、すぐに本格導入というわけにはいかないようです。ひとまずはVLANの上位代替としてVXLANの採用など、導入が容易な技術から進めていき、2013年はSDNをあれこれと評価する1年になるのではないでしょうか。

アプリケーション仮想化の進展

デスクトップ仮想化、いわゆるVDIは一時期に比べると特別扱いされることなく、費用対効果を見据えながら導入が進んでいます。今後、より幅広い利用を考えると、デスクトップを丸ごと仮想化するのではなく、アプリケーション単位で仮想化する「アプリケーション仮想化」が注目されてきています。たとえばライセンスの関係で利用ユーザ数などが決められているアプリケーションなど、ユーザ環境にインストールせずに実行時に呼び出すことができるアプリケーション仮想化は、バージョン管理などの面でも有利です。今後、アプリケーションを端末にインストールせず、アプリケーション仮想化で集中管理する手法が一般的になるかもしれません。

クラウドにおいてこそDevOpsの重要性が増す?

開発と運用を一体化していく考え方としてDevOpsというキーワードがさまざまなところで見受けられるようになりましたが、クラウドが進展することでNoOps、つまり開発者は運用を考えなくてもよくなるでしょうか。

実際には、クラウドを採用しても運用的な要素を完全に排除することはできず、フルアウトソースするのであればSaaSのようにユーザエンドの機能だけをサービス提供するしかないでしょう。それでも、運用的な要素を100%完全に排除することはできません。むしろ、運用管理面での柔軟性を仮想化技術が提供したことで、より開発ニーズに合わせたインフラサービスが提供できるようなったと考える方が自然です。

現状においては、インフラエンジニアと開発者は役割分担がはっきりしていることもあり、断絶のようなものが生まれているように感じます。このような断絶を解消するために、インフラエンジニアは開発のことを理解し、開発者はインフラのことを理解する。2013年は相互理解を深めていくための1年になっていくのではないでしょうか。そしてその繋ぎ役が、コモディティ化した仮想化技術であることは間違いありません。

2013年はキャッシュ技術に注目

最後に、2013年の注目技術を挙げておきましょう。前述したとおりハードウェアの性能は日々向上し、仮想化技術に最適となりつつありますが、それでも自ずと限界があります。特にストレージなどでは性能、容量、コストをバランスさせるのは容易ではありません。そこで注目されるのがキャッシュ技術です。

たとえば2012年ではAppleがMacの技術として発表した「Fusion Drive」は、SSDを大容量キャッシュとすることで、HDDの弱点である性能をカバーする手法を取り入れています。ハイエンドからミッドレンジクラスのストレージではすでにSSDとHDDを組み合わせる手法が取り入れられつつありますが、今後エントリークラスのストレージでも同様の技術が利用可能になると思われます。ストレージ選択のひとつの目安とすると良いでしょう。

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