クラウド運用管理にスポットを当て、技術やノウハウを共有するカンファレンス「Cloud Operator Days Tokyo 2022」 。そのフィナーレを飾るクロージングイベントが、7月27日(水)に東京・御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターでの実イベントとオンラインのハイブリッド形式で開催されました。
Cloud Operator Days Tokyo 2022 運用者に光を! ~変革への挑戦~
URL:https://cloudopsdays.com/
※オンラインセッションは8月31日まで配信
今回は、「 Cloud Operator Days Tokyo 2022」のエッセンスが詰まったクロージングイベントの模様をお伝えしながら、カンファレンス全体を総括します。
CODT実行委員会 委員長の長谷川章博氏によるオープニングトークでは、前身のイベントである「OpenStack Days Tokyo」から数えて今年で10回目の開催であることが紹介されました。クロージングイベント全体を通してもOpenStackに言及するセッションが目立ちました。
最優秀賞は誰の手に? 「輝け! クラウドオペレーターアワード2022授賞式」
クロージングイベントのある意味ハイライトと言えるのが「クラウドオペレーターアワード」の授賞式です。「 Cloud Operator Days Tokyo 2022」全71のオンラインセッションの中から各賞が発表されました。
ヤングオペレーター賞(4セッション)
入社1~2年目の若手による発表の中から選ばれるアワード。働き始めて間もない若手の方が技術イベントのオンラインセッションに登壇すること自体、誇るべきことです。さらにこうした賞を受けることで仕事の自信がつき、より大きな成果を出していく ―そんな成長のサイクルを目の当たりにできる貴重な機会ともいえます。
受賞したのは以下の4セッションです。
インフラ部門に配属された新卒社員がAWS,SSMとか色々使ってテスト環境の構築時間を爆速にした件 (運用自動化)
上田 璃空(AXLBIT株式会社)
Cloud RunからGKE Autopilotへ、FAANSにおけるKubernetes移行の背景とは (サービス・アプリケーション運用)
笹沢 椋太(株式会社ZOZO)
楽天モバイルの仮想化基盤開発に"本格"Agileを取り入れた話 (運用苦労話)
木村 璃音(楽天モバイル株式会社)
監視オペレータはもういらない?―Amazon Connectを用いた、スペシャリスト自動手配システムの内製開発― (運用自動化)
豊岡 大地(東日本電信電話株式会社)
このうち豊岡氏、上田氏、木村氏の3名が登壇し、プレゼンターである実行委員長の長谷川氏より賞品目録の贈呈が行われました。
登壇した3名の皆さん。皆さん発表することによって自分の仕事が外から見えるようになったと語っておられました。
実行委員会特別賞
国内最大級のコンテナ型データセンタをイチから作ってみた~クラウドの先にあるモノ~ (運用苦労話)
石川 大樹(国立研究開発法人情報通信研究機構)
CODTの実行委員会が選ぶアワードです。普段はあまり知られることのないデータセンター構築の裏側を垣間見ることができる、玄人好みなセッションが選ばれました。
受賞した石川氏も登壇されました(写真右) 、プレゼンターは実行委員会の古川氏(左)
受賞した石川氏は「こうしたシステムを作る際にコンピューティングリソースがどのように使われているのかについて話す場がなかったので、こうした発表の場は貴重です。あらためて感謝します」と喜びを語りました。
オーディエンス賞
こちらは最も視聴者からの評価が高かったセッションに贈られるアワード。
効果的なアラートを再考する[メモリ使用率が80%になりました。]んで、どうすればいいん? (運用苦労話)
左近充 裕樹(株式会社ブロードリーフ)
受賞した左近充氏は福岡からリモートで参加。セッションもリモート形式だったため、地方からでも参加しやすいのがよかったとのことです。
「メモリ使用率80%」というフレーズがキャッチーだったのと、アラートの出し方をどう調整するかという工夫、アラートが多すぎて「アラート疲れ」が起こるのをどう回避するか、という点が視聴者の共感を得て受賞につながったという評価です。賞品はちょうどクロージングイベント当日に値上げが発表され話題となったVRヘッドセット「Meta Quest 2」 。左近充氏はVRは未体験でしたが、ニュースで見て欲しいと思っていたそうです。
審査員特別賞(変革編)
Yahoo! JAPAN プライベートクラウドにおける事故防止の取り組みの変遷 (運用苦労話)
寺田 圭太、水落 啓太(ヤフー株式会社)
「審査員特別賞」として2つの賞が発表されました。まずは「変革編」 。なかなか外に出せない事故発生から対応までの模様を赤裸々に語ったところ、そして予見できる事故と予見できない事故の切り分けを行うポイントが評価され、受賞につながりました。
授賞式にリモート参加した受賞者のお一人 寺田氏。「 大きな組織での対応でありながら、小さな施策を積み重ねて良い効果を挙げることができた。ミニマムで物事を考えるきっかけにしてほしい」と受賞の喜びを語りました。
審査員特別賞(挑戦編)
クレジットカード会社のGameday、あるいはKubernetesに”Gremlin”を解き放った話 (サービス・アプリケーション運用)
鳩貝 祐斗(株式会社ジェーシービー)
もう1つの審査員特別賞(挑戦編)は、クラウドやツールベンダーの参加が多い中、エンドユーザからの発表という貴重なセッションが選ばれました。「 カオスエンジニアリング」という新しい手法の実例としても高評価を得たとのことです。
リモートで授賞式に臨む受賞者の鳩貝氏
受賞された鳩貝氏は、今回発表を行ったことでさらに運用の知見を積むことができ、今後のGameday運用の品質も上がることを期待しているとのこと。いいサイクルを生み出せているのが受賞コメントからもうかがえます。
最優秀オペレーター賞
そして最優秀賞には、“ 運用苦労話の決定版” と言えるセッションが選ばれました。
OpenStack NFV基盤のバージョンアップと運用改善を内製対応した話(KDDI編) (運用苦労話)
米村 淳、松本 良輔(KDDI株式会社)
受賞した2名は会場で登壇されました。プレゼンターは審査員を務める東京大学教授 関谷勇司氏(左)
プレゼンターの関谷氏はこのセッションについて「ソフトウェア基盤を用いた大規模システムを、バージョンアップを含め定常的に回していく難しさ、そして内製で行わなければならない並々ならぬ苦労が伝わり、文句なしに『Cloud Operator Days』にふさわしいセッション」と絶賛。
大賞受賞の挨拶に立った米村氏は「賞がいただけるとは思ってもいなかった。作業をしていた当時はきちんと理解できていなかったことが、この活動で理解できるようになった」と喜びを語りました。また松本氏は「初参加で大賞をいただけて光栄。最初の半年性能がまったく改善しなかったのが苦しかったが、作業を続けてミッションクリティカルな基盤を運用する自信がつき、この受賞でさらに自信を増した」とコメント。このイベントへの参加、そして受賞がエンジニアとしてのさらなるステップをもたらしたようです。
表彰式の最後には、関谷氏から講評がありました。「 『 Cloud Operator Days』として開催も2年目となり、昨年は様子見といった参加があったが、今年は趣旨を理解して、自分の仕事で何に苦労したのか、何が生み出されたのかがきちんとわかる発表が増えた」と評価、「 来年も生々しい声を期待する」と結びました。
「初参加でも大賞が取れる。ぜひ生の声を聞かせて欲しい」と語る関谷氏
これら受賞セッションを含め、全オンラインセッションは8月31日まで配信しています。見逃しているセッションも再度ご覧になると、新たな発見や日々の運用業務を行う上でのヒントがきっと得られることでしょう。
クロージングならでは! 豪華セッションの数々
クロージングイベントでは、「 クラウドオペレーターアワード授賞式」以外にも、キーノートセッションが3本、パネルディスカッション2本、特別講演1本と豪華なプログラムが組まれました。その中からいくつかご紹介します。
キーノートセッション① デジタル田園都市構想を実現するクラウドインフラ
クロージングイベント最初のキーノートは、デジタル庁 Chief Architectを務める東京大学 教授の江崎 浩氏による講演でした。データセンターやクラウドのこれまでの歴史を振り返りつつ、「 デジタル田園都市国家構想」実現のための地方、世界レベルのインフラ整備の延長線上にあるSDGs/カーボンニュートラル、そのためのIPv6普及やゼロトラストセキュリティの整備など多岐にわたる話題が、江崎氏独特のざっくばらんな口調で語られました。
2010年以降に起こったさまざまな変化に対応するために、運用の知識を持った人がマネジメントや発注側にもっと入ってくる必要があると江崎氏は力説
キーノートセッション② Combining Forces: How Open Source Cloud Collaboration is Tackling a Trillion Dollar Industry
このイベントではおなじみ、OpenInfra Foundation COOのMark Collier氏によるセッション。このセッションだけはリモートで行われました。
OpenStackをはじめとするオンプレミス/プライベートクラウドの現状と今後を、具体的なデータや実績を挙げながら紹介しました。AmazonのAndy Jassy CEOによると「世界のIT支出の95%はクラウド以外に使われている」とのこと。オンプレミスやプライベートクラウドで運用管理者が腕をふるう余地は、これからもまだまだあるようですね。
今や世のコンピューティングリソースはAmazonやGoogleなどのメガクラウドベンダーに席巻されているかのような風潮がありますが、そんなことはないと当のメガクラウドのCEOが語っています。
キーノートセッション③ ドコモMECの実現とクラウドのリアル
( 株) NTTドコモ クロステック開発部 担当部長 秋永和計氏によるセッション。NTTドコモといえば、言わずと知れた国内最大の携帯キャリアです。プライベートクラウドの構築くらい、社内のさまざまなリソースを一気に使って簡単にできそう…と思いきや、そんなことはまったくなかったという話から始まります。とはいえ、一度走り出したらそこは流石というか、パブリッククラウド/プライベートクラウドの使い分けや、今回のCODT 2022でも大きなテーマとなっているCCoE(Cloud Center of Excellence)をサクッと立ち上げるなど、組織や担当者の底力がよくわかるお話でした。
「MEC」は“ Multi-access Edge Computing” の略で、エッジ側にクラウド機能を持たせる技術です。このMECが5Gの活用と大いに関わりをもち、5Gの使いどころがどこなのか、というのも理解できるセッションでした。
特別講演 CSDX:クレディセゾンのDXへの取り組み
( 株) クレディセゾンCTO の小野和俊氏によるセッション。小野氏はシリコンバレー勤務やベンチャー立ち上げ→イグジット…といった経験を辿った後、現在のポジションで大企業のDXをほぼゼロから担当されました。その道のりはまさにCODT 2022の各セッションで語られるテーマの集大成といった内容で、大きな組織のDXをどのように進めて行くのか、という知見が随所にちりばめられていました。CODT 2022の締め括りにふさわしいセッションです。
小野氏のDXの進め方ですばらしいのは、“ IT部門とビジネス部門” 、“ 旧来の開発方法とアジャイル的な開発方法” といった対立しがちなグループをバランス良くマネジメントし、双方の長所を上手く引き出しているところ。公開されている動画 でその「手綱さばきの妙」をぜひご堪能ください。
このほか、“ 大人の事情で取材/公開NG” のパネルや、今年も行われたCloud Native Telecom Operators Meetupとのコラボパネルも大いに盛り上がりました。これを含めたクロージングイベント各セッションの動画アーカイブが公開されています。このレポートを読んで興味を持った方は、ぜひご視聴ください。
CLOSING EVENT -Cloud Operator Days Tokyo 2022
URL:https://cloudopsdays.com/0727closing/
クロージングイベントの各セッションや、「 クラウドオペレーターアワード」で受賞した皆さんの話を聞くと、世界のコンピューティングの流れは一見“ クラウド全盛” で当面あまり変化なく続きそうに見えながら、実はいつ次の波が来ても不思議ではないのがよくわかります。その動きを決定づけるのは他でもない、今運用の現場でさまざまな工夫や努力を続けているエンジニアたちではないかと思わされました。