トヨタのリコールショック
トヨタが米国で厳しい批判に直面している。プリウスのブレーキが特定の条件で効くまでにタイムラグが発生する不具合について、リコールを始める前から改修していたとされる問題で、プリウスに限らず多くの車種、かつ全世界での大規模なリコールに発展した。
専門家の間で証言の信頼性を疑問視する声もあるが、米国議会の公聴会では「アクセルを踏んでいないのにエンジンが急加速した」との証言も出た。
今後この問題がどう進展するかは予断を許さないが、リコールに起因する生産調整や、大規模な集団訴訟、個別の交通事故に対する賠償責任を求められる可能性が懸念される。
さまざまな機構/機能の連動
本稿執筆時点(2010年2月)、トヨタから届け出されたリコールで「ABS(アンチロックブレーキシステム)の制御プログラム」に関するものがある。
最近のブレーキは強く踏まずとも効くように補助する他、強くブレーキ踏んだ場合も制動を失わないよう効き具合を調整する「ABS」、車を止めようとする力で発電する「回生ブレーキ」などさまざまな機構/機能を連動させている。それらの挙動が危険回避でブレーキを踏んでから効き始めるまで、従来と比べ長めの時間がかかるものの、当然のことではあるが、安全基準はクリアしているという。
求められる客観的な評価
メカトロ(ニクス)であれば部品の破損、ソフトウェアであればクラッシュのように、通常の利用形態で明らかに壊れたのであれば欠陥として速やかにリコールされるべきだが、ブレーキの効き具合のような制御プログラム(ソフトウェア)を通じた運転感覚の“味付け”で、どこまでメーカーの責任を問うべきか必ずしも明確ではない。
運転者が動転中に動転してブレーキとアクセルを踏み間違える場合もあるし、気が動転しているときの記憶や時間感覚はアテにならない。自動車の動作ログに当たるブラックボックスなどの運転記録に沿って事故を客観的に事後評価すべきだろう。
ソフトウェアがますます重要になる時代
今回トヨタがリコール前からABSソフトウェアの不適切部分を改修していたことが強く批判された。リコールを伴わないソフトウェアの改修は今回に限ったことではなく、これまでも定期メンテナンスの時などに「サービスキャンペーン」と称して行われてきたようだ。
ソフトウェア改修の情報提供と適用の方法について、今後さらなる透明性が求められよう。
未来志向的な問題解決を
微妙な政治環境の中で、エコカーで先行するトヨタが真っ先に社会的批判にさらされたが、電気自動車や燃料電池自動車ではハイブリッド車以上に、ソフトウェアが自動車の運転感覚を左右することになる。エンジンと比べて小さな走行音など安全基準の議論は始まったばかりだ。
今回の騒動を早期に収拾するばかりでなく、ソフトウェアが重要な役割を担うエコカー時代の安全基準や運用保守、事故調査のための枠組みを考え直す機会とすべきではないか