不定点観測所

第6回拙速に進むSIMロック規制で一般ユーザに恩恵はあるのか

SIMロックをする理由

総務省は2010年4月2日、SIMロック規制についてヒアリングを実施し、内藤副大臣は即日で「事業者間の合意は得られた」としてSIMロックを解除する方向でガイドラインを整備する意向を明らかにした。

SIMとはSubscriber Identifi cation Moduleの略で、携帯電話に内蔵されている切手大のICカードに電話番号や課金など、携帯電話の加入者に関係する情報が集約されている。このSIMを入れ替えることで簡単に同じ電話番号で端末を切り替えることができるが、端末にSIMロックがかかっていると他の事業者のSIMを入れてもケータイを使うことができない。

通信事業者がSIMロックをかける主な理由としては、①これまで高価な端末を安く提供するために多額の販売報奨金を出しており、乗り換えられてしまうと元を取ることが難しくなってしまうこと、②日本では、i-modeはじめ通信事業者ごとに異なるサービスを発展させ、それらが端末の機能と密接に連携しているために、SIMだけ入れ替えてもこれまでどおりの機能を使えなくなってしまうことなどがある。

政治的思惑!?

SIMロックはすでに欧州で規制が解除されており、日本でも2007年にモバイルビジネス研究会で検討されたが、2010年を目途に再検討という形で先延ばしされていた。

今回のヒアリングは以前から再検討を予定している時期にきたことのほか、PC向けデータ通信カードやスマートフォンといった通信事業者の網機能に依存しない端末が増えたこと、NTTドコモが年末に「LTE(Long Term Evolution⁠⁠」と呼ばれる次世代サービスの提供を開始するなど、技術の節目に当たることが考えられる。しかし、やや拙速な検討の裏には夏の参院選までに改革の成果を誇示したい政治的思惑も透けて見える。

各社の事情

SIMロック解除に対して消極的ながらもNTTドコモやイー・モバイル、KDDIが賛意を示したのに対し、ソフトバンクは強硬に反対している。背景にはインフラ投資が遅れていることでNTTドコモへのiPhoneユーザの流出を懸念するソフトバンクに対し、これまで積極的に投資しサービス品質には自信を持つNTTドコモ、他社と方式が異なりSIMロックが解除されても相互乗り入れできないKDDI、周波数がやや特殊で同様に相互乗り入れの難しいイー・モバイルといった各社の事情がある。

ガイドラインの詳細はこれから詰められることになるが、現行制度でもSIMフリーの端末を提供することは規制されていない。日本でもNokiaやHTCが過去にSIMフリー端末を発売したことがあるほか、執筆現在(2010年4月)では5月末に発売予定のiPadがSIMフリーで提供されると噂されている。

一般の利用者にとって

今後SIMロックが解除されたとしても、多くのユーザがSIMを差し替えてキャリアを乗り換えるとは考え難い。だが、海外にスマートフォンを持ち込んだ場合に現地のデータ定額SIMを利用するヘビーユーザが現れ、そういった利用者を繋ぎ止めるために海外も含めたデータ定額を提供するキャリアが現れるなど、競争活性化の恩恵が一般の利用者におよぶことが期待される。

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