教科書には載っていない ネットワークエンジニアの実践技術

第2回ネットワーク遅延と高速化

皆さんこんにちは。今回は、前回の話の続きです。

まず前回のおさらいをすると、以下のようになるということでしたね。

●TCPを用いるアプリケーションの最大スループットは、往復の遅延時間(RTT:Round Trip Time)の影響をうける
●ウィンドウサイズが64Kバイトの場合のTCP最大スループットの理論値は以下のとおり

  • RTT 1msec のとき 512Mbps
  • RTT 5msec のとき 102.4Mbps
  • RTT 10msec のとき 51.2Mbps
  • RTT 15msec のとき 34.1Mbps
  • RTT 20msec のとき 25.6Mbps
  • RTT 50msec のとき 10.24Mbps
  • RTT 100msec のとき 5.12Mbps
  • RTT 200msec のとき 2.56Mbps

では、現実のネットワークではどのくらいの遅延が発生するのでしょうか?

ネットワークにかかるさまざまな遅延要素

LANケーブルや光ファイバの中を信号が伝播する速度は、おおむね 1kmあたり5マイクロ秒とされています。たとえば、東京から大阪まで光ファイバを敷設した場合、直線距離なら400km程度ですが、ケーブルは一直線に敷設できるわけではないので、ケーブル長としては1000kmくらい必要になると思われます。ということは、片方向で5ミリ秒ほどの遅延が発生しますので、RTTは10ミリ秒になります。

また、この他にもルータや伝送機器などを通過する際に遅延が加わりますので、RTTはもっと大きくなる可能性があります。実際に、東京に設置されたサーバに大阪からPingを打つと、10~20ミリ秒くらいのRTTになる場合が多いです。ということは、東京~大阪間を100MbpsのWANで接続したとしても、RTTが20ミリ秒だと仮定すると、最大25.6Mbpsのスループットしかでないのでしょうか?

答えは、「TCPのコネクション数による」です。

先のTCP最大スループットの理論値は、あくまでも1つのTCPコネクションあたりの速度を表しています。したがって、東京のサーバに入っている大容量のCADファイルを大阪からFTPでダウンロードするような場合には、25.6Mbps以上の速度を期待してはいけません。

もっとも、ネットワークに接続しているPCが100台あって、それぞれが何らかの通信を行っている場合、100台のトータルでは100Mbpsの帯域幅を使い切ることが可能です。ですから、通常の用途であれば、遅延が大きな問題になることは、あまりないと思います。

しかし、遅延が問題になるケースもあります。代表的な例は、国際間通信とモバイル通信です。

国際間通信

たとえば、GoogleやAmazonが提供しているクラウドサービスを利用する場合、海外のデータセンターにアクセスすることになるので、一般的に100ミリ秒以上のRTTが発生します。

モバイル通信

たとえば、イーモバイルなどの3G携帯データ通信サービスを利用してインターネットにアクセスする場合、やはり一般的には100ミリ秒以上のRTTが発生します。仮に200ミリ秒のRTTがあると、最大でも2.5Mbps程度のスループットしか出ません(個人的にイーモバイルを利用していますが、経験的にもそのくらいが最高速度です⁠⁠。

このような場合には、もっと高速化したいと思う人も出てくるでしょう。ひとつの方法としては、パソコンの設定を変更して、TCPのウィンドウサイズを64Kバイトよりも大きくすることが考えられます。しかし、ウィンドウサイズの変更方法はOSの種類やバージョンによってまちまちで、ものによっては変更が難しい場合もありますまた、企業の情報システム部門としては、パソコン1台づつの設定を変更する手間は省きたいと考える場合も多いでしょう。

ネットワーク遅延の解決策

そこで、WANを高速化するための製品を導入する企業が増えてきています。代表的なものとしては、シスコのWAASおよびWAAS Mobile、リバーベッドのSteelheadおよびSteelhead Mobile、ジュニパーのWX/WXCシリーズなどがあります。このような製品は、TCPの(見かけ上の)ウィンドウサイズが64Kバイト以上となるようなテクニックを使ったり、圧縮技術やキャッシングと組合せることで、巧みに「体感速度」を向上させてくれます。

WAN高速化テクノロジー解説
URLhttp://www.cisco.com/web/JP/news/cisco_news_letter/tech/waas2/index.html

これからの企業ITでは、クラウドサービスをモバイル環境から利用するようなシチュエーション(すなわち、とても遅延が大きくなる状況)が出てくると予想されますので、高速化ソリューションは重要な「売れ筋」商品となる可能性があり、要注目ですね。

手前味噌になりますが、シスコWAAS Mobileの効果について測定したレポートがありますので、ご興味のあるかたは参照してみてください。

中小企業向けシスコ製品の特徴について(WAAS Mobile編)
URLhttp://www.tncjp.com/report01wa01.html

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