使える!サーバ運用の実践テクニック

第15回2011年クラウドサービスの適用ドコロ

2010年は、それまで一部の技術者の間だけで盛り上がっていたクラウドサービスが、ある程度の品質、価格で提供されはじめた1年だったかと思います。初期コストが非常に安くなったこと、実際の利用者が一般から企業等、導入事例などが出はじめたことなどから、今まで検討中だったユーザや、そもそもクラウドをどのように活用しようかなどといったユーザの敷居が下がったのではないかと思います。

また、クラウドを提供する側も、有名企業で展開している大規模サービスや、データセンター等を運用している企業が、そのサーバ、回線などの資産を共有し、低価格で提供するスタイルは、同様の業種に参入しようとしている中小企業から見れば非常に魅力的なサービスに映るようです。

しかしながら、個人利用ではなく、企業が利用しようとした場合、提供する業種、サービスなどによってはフィットするしないが明確化しているように見えます。

クラウドがフィットする業種、しない業種

たとえば、クラウドがフィットするような業種はどのようなものでしょうか?

SNS関連における、SAP関連企業、Android、iPhoneをはじめとしたスマートフォン関連の業種にはフィットしやすい部分なのかなと感じています。トップダウンでも「とりあえず始めようか?」などとなりやすく、個人でも「とりあえず作ってみようか?」のレベルで気軽に利用できるようになっていると思います。この辺りは、気軽に環境を構築する事ができるよりも、稟議を通しやすい価格設定(とりあえずサービスをはじめ、トラフィックが増えた場合は別の環境を準備すればよいという割り切りができる)や、比較的時間のかかる回線の調達などの期間短縮などがあげられます。

逆に、まだクラウドの活用方法、効果が見えにくい業種はどんなものでしょうか?

実は上記以外の業種から見れば、まだベストフィットするような利用用途が見えておらず、金融企業の勘定、情報系などで利用するには敷居が高いでしょう。同じように、物流関係など、⁠止まる事が許されない」⁠漏洩してはならない」なにより「何かあった際は明確な理由を突き止める事ができ、改善案を適用する事ができる」等と言った慣例を踏襲するようなシステムに関してはなかなか難しい部分もあるようです。そのような企業でクラウドを利用する候補としては、情報システム部門の一部、システム関連の研修、開発環境等でのトライアル的な用途にとどまっているような印象を受けます。

実際には、クラウドの業者やサービス内容に関しては日々進化していくものです。実際に自社のサービスに合っているかどうかは、自社内で検討したりWebで情報収集するほか、クラウドサービス展開業者では専任のアドバイザーを置いていたりする場合もありますので、昨今の最新技術をヒアリングする意味でも気軽に相談してみるも良いでしょう。

さて今回は、一人のインフラエンジニアとして、クラウドサービスをどのように感じ、進化をしていくのか、その中で自分はどのようになっていくべきかの一部を紹介したいと思います。

ソーシャルゲームに参入しやすい環境をもたらすクラウド

冒頭にも記した通り、とくに中小企業が、これからミクシィ、グリー、モバゲーなどにSAP(ソーシャルアプリケーションベンダー)としてゲーム等を提供しようとした場合、ゲームなどのアプリケーションについては、各社の提供するプラットフォーム等を利用して非常に簡単に参入することができます。特に現在は大ヒットしたゲームがあることと、参入障壁の容易さから業界は活性化し、名乗りを上げる企業が増え続けているかと思います。

しかしながら、アプリケーションは簡単にできてもインフラ周りの準備に関してどのように対応すれば良いか? 企業として予算を組み、当然のように「大ヒット」を前提とする場合、それ相応のセンター、サーバ、ネットワークなどを準備する必要があり、自社運用、クラウドなどの中からベストアンサーを模索する日々が続いていたのが現状かと思います。

各フェーズでのクラウド活用

アプリケーションの企画立案~アルファ版の作成

まず社内でソーシャルアプリ(SAP)をやることとなった場合、その内容に関するアイディアを出し合い、パラパラ漫画のような画面遷移や絵図を確認するかと思います。もちろん、自席などのPCなどでも代用することはできますが、この時点からクラウドを利用して構築することができれば、関係する誰もが気軽に確認しながら進めることができます。

現在では、月額1,000円を割る金額でスタートすることもできるため、自社で資産を持つ必要がなく、稟議なども非常に早く進み、意思決定、調達、構築などにスピード感を持たせることができます。具体的には、トラフィック予測、マシン台数の確定、ネットワーク回線調達の省略、⁠必要に応じて)ドメイン、証明書などの対応と、それぞれ物理的立地に関する対応を省略することができ、その恩恵は大きいと思います。

開発局面

サーバ役割変更AP/DBを別ノード化など、スケールアウトなどの設計に関しても非常に柔軟に対応が可能です。その他、サーバの構築手順などの確認に関してもある程度自社(自席)から対応が可能になります。ただし、本番サービスを見越した場合、容量、トラフィックなどによってはクラウドサービスより自社センターで運用を行った方が、結果的に費用が安い場合があります。 このあたりはきちんと需要予測を行い、適切な対応を行う必要があります。

サービス開始から運用局面

サービス開始当初は想像以上にトラフィックが伸びる可能性もあり、自社運用の場合、機器を発注して構築までしなければならず、クラウドでも新たにノードを追加しなければなりません。手順としてはクラウドの方が楽な点もありますが、どちらも深夜に急激にトラフィックが伸びた場合、サービス停止の可能性を秘めています。

クラウドサービス業者の中にはオートスケールに対応したサービスを準備しているところもあります。一時的な負荷をオートスケールで担保することによりサービス品質と売り上げなどが確保できるようであれば、導入を検討しておきたいと考えますが、単なる表示負荷によるスケールアウトを行う場合は「課金が発生しない割にはノードが増える」という可能性もあり、オートスケール型のクラウドの場合は利用料金に直結する可能性もありますので注意が必要です。

クラウド時代のインフラエンジニア

これから5年後、あるいはもっと早いかも知れませんし、その時は来ないかもしれませんが、新人エンジニアが入社した会社がクラウドサービスに頼った運用を行っていた場合、データセンタ自体の存在、サーバ、ラック、電源、回線の調達などに関する知識はほとんど必要とせず、⁠インフラエンジニア」とは主に、OSからミドルウエアまでの知識のことを指す企業が出てくるかもしれません。

あるいは、アプリケーションエンジニアやディレクションを行う担当が、クラウドに関するサービス選定や契約、ノードなどの追加設定などを行うようになっているかもしれません。別途「クラウドエンジニア」などといった新しい何かが定着する可能性もあります。どちらにせよ、大きな変化がおこる可能性もあると思います。

しかしながら、どのような時代でも、それぞれきちんとサービスを理解し、動向などを予測、最適なオペレーションができる人材が重宝されることは間違えなく、ますます専門職化が進む職種なのではないかと思います。特に実体が仮想化される変化の場合、実体に関する知識は決して無駄になりません。逆に実体を理解せずに仮想(クラウドなど)を選択する場合、きちんとオペレーション、マネジメントができなくなる可能性があり、問題が表面化した後に、コンサルティングやサービスを別の金銭(予算)で解決する必要が出てしまうのではないかと感じています。

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