新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
今回は新年最初ということもあり、いつもと志向を変えてLinuxデスクトップに関する現状と展望の記事を書かせていただきました。
また、本年はWindows XPのサポートが終了する年ともなり、Linuxデスクトップが脚光を浴びるかも知れませんし浴びないかも知れません。そのあたりは本文でご確認下さいませ。
Linuxデスクトップとは
まずは今回扱う“ Linux デスクトップ” について定義しておきたいと思います。ここではデスクトップ環境を含んだLinuxディストリビューションのこととさせてください。デスクトップはPCの筐体のことではないので、ノートPCも含みます。デスクトップ環境やウィンドウマネージャーはたくさんありますが、ここではGNOME/KDE/Xfce/LXDEについてのみ扱います[1] 。UbuntuのUnityは、今回は扱いません。今年のUbuntuに関しては今月18日発売のSoftwareDesign 2月号の特集2に書きましたので、そちらをご覧ください。また、厳密に言えばDebianはLinuxディストリビューションではありませんが[2] 、今回は対象とします。
2013年まとめ
2013年は、Linuxデスクトップ云々以前にAndroid/iOSがインストールされたスマートフォン/タブレット端末が普及し、そもそもPCの出荷台数が減る、という年でした。Windows 8/8.1もタブレット端末にインストールして販売されていますが、それには虎の子のMicrosoft Officeをオマケともいえる安価で供給しており、4万円ほどでMicrosoft Officeがインストールされたタブレット端末が購入できるようになりました。これはルールが変わったことを端的に示すエピソードだと思います。
あとは若干ゴシップ的ではありますが、GNOME創始者の1人であるMiguel de IcazaさんがGNOMEの使用をやめる 、ということがありました。正確には使用をやめたのは去年ではなく、あくまで公表したのが去年というだけですが、ブログを読むとLinuxディストリビューションの断片化が気に入らず、テスト用に使用していたMacが気に入り、引っ越しを機に移行した、とのことです。
デスクトップ環境に関しては、偶然にも大きな変化の前の年、という感じになりました。詳しくは後述します。
日本語ユーザーにとって重要なインプットメソッドは、IBus 1.5が広く使われるようになりました。最初に採用した[3] Fedora 18[4] や19ではあまり混乱した様子は伝わってきませんでしたが、とくにUbuntuでは独自の理由もあって上を下への大騒ぎとなりました。詳しくはUbuntu Weekly Recipe第296回 と第297回 をお読みいただければと思います。またFedora 19では、新しく変換エンジンが開発 され、Anthyに代わってデフォルトになりました。
ディスプレイサーバーも興味深い出来事がありました。将来的にWaylandを採用すると見られていたUbuntuが、独自のディスプレイサーバーであるMirの開発を発表しました。そのあたりはUbuntu Weekly Topics でも触れられていたのでここでは省略しますが、Waylandも開発が進み、バージョンアップを重ねています。GNOMEやKDEといったデスクトップ環境もWaylandで動作するように開発されていますし、Raspberry Piでは実際に動作 させています。そればかりか、IBusとFcitxの2つのインプットメソッドがWaylandでも動作するように開発されました[5] 。
2014年
デスクトップ環境
GNOMEは2012年に行われたGNOMEのカンファレンス(GUADEC 2012 )で、今年リリースされるGNOME 3.12をGNOME 4.0とし、さらにGNOME OS とする、という発表 がありました。確かに去年リリースされたGNOME 3.8からsystemdが必要になったり、GNOME 3.10ではWaylandへの移植が進んだり、さらに地図や写真などの新規アプリケーションを追加したりなど、OS(もっと言えばモバイル端末用のOS)として使用されることを意図して開発が進んでいるように見えます。しかし、現在のロードマップでは今のところGNOME 3.12をGNOME 4.0とするというプランはなく、GNOME 3.12としてリリースされる予定となっています。GNOME 4.0やGNOME OSはさておき、GNOMEの方向性は窺えるように思います。
KDEで採用しているツールキットであるQtは、一昨年メジャーバージョンアップ版の5.0がリリースされました。その後も順調にバージョンアップを重ねてQt 5.2までリリースされています。KDEはこれまでもQtに追随してメジャーバージョンアップを行ってきましたが、昨年ついにその移行計画が披露 されました。もともとKDE 4.xは大きくKDE(Plasma)ワークスペース、KDEアプリケーション、KDEプラットフォームの3つに分かれており、それらを総称してKDE SC(Software Compilation)と呼んでいます 。KDE SC 4.11で4.x系列のSCは終了し、以後はKDEアプリケーションだけがバージョンアップし、KDEワークスペースとKDEプラットフォーム(5からはフレームワーク)は4.11の保守だけを行い新規開発は5向けに集中する、という発表でした。KDEフレームワーク5のリリースが今年前半、KDEワークスペース2[6] が今年第二四半期のリリースを予定していることから、年内にアプリケーション5が出揃うのは難しいかと思います。ということはユーザーが触れる機会は今年中にあるかないか微妙ではありますが、いずれにせよ大きく変わる年になりそうです。
Xfceは、昨年3月に予定していた4.12がリリースされず、現在もどうなっているのかよくわかりません。とは言えデスクトップ環境としてまとまらなくても個別の開発は進んでおり、Xfceを熟知したメンテナーがいればLinuxディストリビューションとしては適切なリリースが行えるのではないかとは思います[7] 。
LXDEは恥ずかしながら筆者の観測から外れていたのですが、非常に興味深いことが起こっていました。昨年初めより開発者がLXDEのファイルマネージャーであるPCManFMをQtに移植 しており、この段階ではLXDEをQtに移植するほどの決意ではなかったようですが、その後猛烈にQtへの移植を進め、GTK+ 2から移行する決定をしました。GTK+ 3はパフォーマンス上問題があると言うことのようです。Qtを使用した軽量デスクトップ環境としてはRazor-qt もあり、両者のプロジェクトがマージする こととなりました。確認したところLubuntu 13.10ではQt版を採用しておらず、おそらく14.04でも同様と思われますが、軽量Linuxディストリビューション愛好者にとっては目の離せない展開となりそうです[8] 。
インプットメソッド
インプットメソッドの騒動は、今年中に収まるのではないでしょうか。どうしても旧来の使い方がいい場合はFcitxに、それ以外はIBus 1.5と住み分けが進むでしょうし、実際に現段階でもIBus 1.5の問題点は徐々に解決されつつありますし、それでももし問題があれば、報告 すれば改良してくれるかも知れません。もっとも、英語なのでハードルが高いですが……。
あとはAnthyがフェードアウトする1年になればいいとは個人的に思いますが、なかなか難しいかも知れません。
文字コード
文字コードというと大雑把ですが、具体的にはUnicodeのIVS、異体字サポートが他のプラットフォーム[9] と比較して貧弱ですので、課題としてあるというのは認識しておくといいと思います。IVSは実際には日本ぐらいでしか使わなさそうなので、日本語話者が何とかする必要があるように思います。
Wayland
Wayland[10] の開発はいろいろありながらも順調に進んでいます。Fedora 21では、ログイン時にXかWaylandかを選択してログインできるようにするという計画 があるくらいです。プロプライエタリなドライバなどどうにかできる人/企業が限られるので難しい要素があって一筋縄では行かないでしょうが、いずれにせよUbuntuのMirを含めて脱X Window Systemが進む1年にはなりそうです。
Windows XPのサポート終了
今年といえばWindows XPのサポートがついに終了するわけですが、XPから軽量Linuxディストリビューションに移行する人がどのぐらいいるかというと、確かにそういう人もいるでしょうがあまり多くはないのではないか、というのが筆者の予想です。企業はともかく個人で未だにXPを使用し続けているユーザーはライトユーザーであり、そもそもサポート期間の終了を知らないか、知ったとしても安価なタブレット端末に移行すると考えるのが自然ではないでしょうか。
とは言えPCそのものに愛着がある場合は別です。自分好みのPCを、OSのサポートが終わったからと言って捨てる必要はまったくありません。そういった場合には、前述のLubuntuなどはいい選択のように思います[11] 。
[11] いくつかコツは必要のように思いましたが、ChromiumかGoogle ChromeをインストールしてChromebookのような使い方をするのはありだと思います。このあたりはいつかUbuntu Weekly Recipeに書きたいところです。
デスクトップ以外への進出
デスクトップ以外、すなわちスマートフォン/タブレット端末への進出を考えているLinuxディストリビュータは、現段階では残念ながらUbuntuのCanonical以外にはなさそうです。理由は簡単で、各Linuxディストリビュータはより収益が見込めるクラウドに投資を集中させているからです[12] 。その例はSUSEで、LibreOfficeサポート担当社員がCollaboraに移籍することになったのですが、理由としてクラウドへの投資のフォーカス を挙げています。このあたりは後日公開されるLibreOffice/Apache OpenOfficeの新春特別企画に詳しく書かれていますので、そちらをご覧ください。
すなわち、Linuxデスクトップのデスクトップ以外への進出はCanonicalの肩にかかっているというのが現状です。筆者の立場をさておくと、正直つまらないと思いますので、もう少しプレイヤーが増えてくれるといいなと思いますが、次に候補として挙がってくるのはGNOME OSをサポートする企業なのかも知れません。