Ubuntu Weekly Recipe

第741回UbuCon Asia 2022 Korea参加レポート

2022年11月26日、27日に韓国ソウルでオンラインとオフラインのハイブリッドで開催されたUbuCon Asia 2022に参加してきました。

Ubuntuコミュニティ全体会議であるUbuntu (Developers) Summitに対して、UbuConは地域コミュニティによる、より「小さな」イベントを指しています。アジア圏におけるUbuConであるUbuCon Asiaは2021年に完全オンラインのイベントとして開催され、今年で2回目、対人で開催されるのは初となります。

筆者はUbuntuのカジュアルユーザーに過ぎませんが、実行委員の一人でRaspberry Pi Users Groupの太田昌文氏による熱心な勧誘を受けて登壇募集に応募したら採択されたことから、⁠じゃあ韓国は近いのに行ったことないから現地参加にするか」と気軽に出かけていった感じです。そんな筆者が面白いなと思った発表をいくつか紹介します。

なお、メイントラックについてはYouTubeでLive中継時の動画がそのまま公開されています。

図1 会場のNuritkum Square Business Office。この3階がカンファレンス会場
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1日目

オープニングトーク

Ubuntuの韓国におけるLoCo(ローカルコミュニティ)Ubuntu Koreaのリーダーであり、かつUbuCon Asia実行委員長のYoungbin Han氏によるオープニングトークがありました。

そのトークで、グローバルおよびアジア圏で行われたさまざまなイベントからUbuntuもアジアでカンファレンスをやりたいという気持ちが高まったという発言がありました。言及されたイベントの中に、日本国内で活発に開催しているオープンソースカンファレンスや、筆者も運営の手伝いをしたことがあるopenSUSE.Asia Summitなどが含まれていたことは、個人的に感慨深かったです。

キーノート「Improving FOSS Security」

Canonical社のMark Esler氏によるキーノート「Improving FOSS Security」では、UbuntuのようなFOSSにおけるセキュリティの考え方と、氏が所属するCanonical社セキュリティチームがどのようにUbuntuのセキュリティを担保しているかといった内容でした。

ソフトウェアの上流・下流といった考え方と脆弱性、バックポート、またCWE、CVE、CVSSというセキュリティ用語について、ていねいに解説がありました。あらゆるパッケージの下流プロジェクトであるUbuntuがセキュリティをどう扱っているのか、一般にOSSのセキュリティをどう担保するかを解説する興味深いプレゼンでした。

図2 OSSの「上流と下流」について説明するEsler氏
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「Ubuntu Contributions and Membership」

マレーシアのKhairul Aizat Kamarudzzaman(Fenris)氏による「Ubuntu Contributions and Membership」は、Ubuntu Membership Boardでもある氏によるUbuntuに対する貢献およびUbuntuメンバーシップについての発表でした。

どのOSSコミュニティでもいわれることですが、Ubuntuにおいてもコードを書くだけが貢献ではなく、さまざまな貢献のスタイルがあることを強調していました。自分も貢献してみたいけどどんな貢献が望まれているかわからない人は、login.ubuntu.comでまずはアカウントを作ってから各LoCo(日本の場合はUbuntu Japanese Team)にコンタクトを取るとよい、とのことでした。日本の場合はメーリングリストで聞いてみるのがよいかもしれませんね。

図3 Ubuntu Membershipについて説明するFenris氏
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「t2linux Linux on 2018+ Intel Macs」

興味深かったセッションはt2linux teamのWoohyeon Cho、Mark Vainomaa両氏による「t2linux Linux on 2018+ Intel Macs」でした。

t2linuxはAppleのT2チップが載ったIntel Mac上で動くLinuxを作るというプロジェクトです。T2チップは2018年以降のIntel Macに搭載されているセキュリティチップで、これに対応しないとmacOS以外のOSでは各種ハードウェアを認識できません。ここはUbuConなので……といいつつUbuntuでさまざまなデモを行っていました。

現状は「とりあえず動く」ステージとのことで、t2linuxのカーネルで起動したUbuntuでプロジェクターに画面を出しつつWi-Fiを有効にしてpingが外部に飛ぶデモを実行していました。またアプリケーションは現在、GNOMEの「設定」は動くもののFirefoxなどの実用的なアプリはプロジェクションできないとのことです。

スピーカー控室ではteamの一人、Cho氏のPC(t2linuxカーネルのArchLinux)を囲んで盛り上がっていました。

図4 Woohyeon Cho氏のt2linux環境。スピーカー控室で[撮影:Dan Ginovker氏(License: CC BY-SA)]
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「ONLYOFFICE: Paperwork automation and smart collaboration on Ubuntu」

Mikhail Korotaev氏による「ONLYOFFICE: Paperwork automation and smart collaboration on Ubuntu」は、オープンソースのオフィスソフトとしては比較的新興なONLYOFFICEについてのプレゼンでした。

ここでいうPaperwork automationとは、文書を印刷して必要事項を記入してスキャンして提出……というオフィスワークを廃止するために、共同編集機能およびフォーム機能を活用しようという意味とのことです。

ONLYOFFICEのフォーム機能はなかなか強力で、LibreOffice愛用者の筆者もちょっと試してみたくなりますね。ONLYOFFICEはDEBパッケージ以外にも、Snap、Flatpak、AppImageとモダンなパッケージングシステムに対応しているため、軽く触ってみたい人から本格的に活用したい人まで広くリーチできているのではないでしょうか。

図5 ONLYOFFICEの最新版、バージョン7.2について説明するKorotaev氏(ビデオ講演)
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2日目

「WebAssembly & Ubuntu Containers The Power Couple」

Shivay Lamba氏による「WebAssembly & Ubuntu Containers The Power Couple」は、タイトルの通りWebAssemblyに関する発表です。

「WebAssembly(Wasm)はWebという名がついているがWeb専用ではない、Binary instruction format for a virtual machineである」という説明から始まり、Wasmがセキュリティアイソレーション、クロスプラットフォームという点で通常のLinuxコンテナよりも優れており、要求リソースも小さくk8sエコシステム向きであるとまとめていました。

図6 登壇するLamba氏
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「CUDA with WSL2 and Ubuntu without Docker」

Geoff Yoon氏による「CUDA with WSL2 and Ubuntu without Docker」はタイトルの通り、DockerなしでWSL2からCUDAを使おうというものです。

なんだかんだいってDeep Learningの世界ではCUDA一択で、これをWSLから使いたいのが人情。幸いなことにWSL2からはこの構成で利用できるようになりました。またWindows 10ではDocker化が必要だったところ、Windows 11からはWSL上のUbuntuにNVidiaのドライバーおよびCUDA Toolkitをインストールすれば使えるようになったとのことです。実際にStable Diffusionを動かして見せてくれるなど面白いセッションでした。

図7 Windows 11ではDocker化がいらなくなったよ……という説明
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「Using Multipass as replacement for WSL2」

Byeongseung Cho氏は「Using Multipass as replacement for WSL2」というタイトルで、Canonicalが提供するクロスプラットフォームの軽量仮想マシンマネージャであるMultipassについて発表しました。

MultipassはたくさんのプリセットなUbuntuを持っており、LTS以外も簡単に利用可能です。またWSLではサポートしていない複数バージョンの混在も可能です。WSLの場合はwsl.exeコマンドを用いることで直接Linux側のコマンドをWindowsからキックできますが、Multipassでも同様のことができるそうです。またWindowsコマンドラインからMultipassのコマンドにエイリアスを作るMultipass aliasという機能も存在するとのこと。

筆者はWSLであまり困っていなかったので、WSLの代替として使うという文脈でのMultipassはほぼノーチェックだったのですが、すこし面白そうですね。

図8 multipass aliasの説明をするCho氏
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「Status and future of LibreOffice Korean community」

LibreOfficeの韓国語コミュニティのリーダーであるDaehyun Sung氏は、⁠Status and future of LibreOffice Korean community」にて韓国のLibreOfficeを取り巻く現状について発表しました。

LibreOfficeは韓国で使う基本的な機能を有しており、また韓国政府の標準文書フォーマットを既定した文書ではLibreOfficeの標準フォーマットであるODF形式が採用されています。それにも関わらず、残念ながら政府系を含めてLibreOfficeは広く使われるには至っていないとのこと。

その要因は、韓国ではハンコム社のHWP(Hangul Word Processor)というワープロソフトが非常に広く使われているからとのことです。LibreOfficeは、例えばMS Wordに比べると韓国語対応に優れた点があるものの、HWPに比べるとまだ劣る点があるとのこと。またHWPの文書がLibreOfficeで読み取れないこともLibreOfficeの普及を阻んでいるのだそうです。これらの現状を改善するべく活動を広げていきたいとのことでした。

図9 Sung氏の自己紹介スライド
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日本からの登壇

UbuCon Asiaということで日本からも3名登壇しました。

「Install Windows and WSL on LXD/VM」

Recipeでもおなじみ柴田充也さんは、⁠Install Windows and WSL on LXD/VM」と題して、UbuntuのLXDの中にWindowsをインストールし、その中でWSLのUbuntuを動かすという発表を行いました。

さらにそのWSL内でsystemdを有効にして、⁠systemdが必要でUbuntuユーザーが使いたいものといえば……LXDですよね」としれっと仰って、LXD on WSL/Windows on LXDという入れ子構成を作り、さらにLXDのREST APIを用いて内外のLXDを繋ぐという面白いネタを、柴田さんらしい隙がない丁寧な説明で行ったとても興味深いセミナーでした。資料はこちらで公開されています(PDF)

図10 柴田さんの発表の様子。日本語トラックだったため別室。右側にいらっしゃるのは現地スタッフ
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「Building microk8s Server on Raspberry Pi - to understand k8s mechanism」

記事冒頭で触れたRaspberry Pi Users Groupリーダーの太田昌文さんは、⁠Building microk8s Server on Raspberry Pi - to understand k8s mechanism」というタイトルでワークショップを実施しました。

日本からラズパイを8個持参し、前の日も夜遅くまで準備にかかったとのことで大変そうでしたが、定員を上回る参加者を集めて大盛況だったとのこと。筆者は別セッションを聞いていたので参加はしていませんが、太田さんから苦労談をたくさん聞くことができました。おつかれさまでした。

図11 ワークショップ会場で自己紹介する太田さん
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「2022's Ubuntu Desktop Printing Technology」

筆者は「2022's Ubuntu Desktop Printing Technology」と題した発表を行いました。タイトルははっきりいって釣りで、2022年の最新動向を伝えるというより、Linux/Ubuntuの印刷シナリオの基礎を説明した後、ドライバー不要で印刷できるようになったしくみ「Driverless Printing」の解説をしました。

Ubuntuをデスクトップで利用していても印刷の仕組みを知らない人はそこそこにいたようで、なかなか良い感触で発表を終えることができました。筆者の発表資料はこちらです。

図12 Ubuntuの印刷シナリオについて説明する筆者[撮影:Daehyun Sung氏]
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全体を通して

イベント全体の感想としては、やはりコロナ禍でなかなか集まれる機会がなかったところ、初の対人(ハイブリッド)開催に踏み切ったUbuntu Koreaコミュニティの努力を感じられました。初めてということもあってすこしばかり荒いところもありましたが、とにかく第一歩を踏み出したということの意義は強調してもしきれません。筆者も久しぶりのオフラインイベントを楽しむことができました。

また、メイン会場だけとはいえ、英→韓、韓→英の同時通訳が入っていたことは助かりました。イベント主催側としては同時通訳は途端に予算が跳ね上がります。筆者が日本で開催した国際イベントでは諦めてしまっていたので、スポンサー集めなどの苦労がしのばれるところです。

図13 多種多様なスポンサーたち。Government partnersに名を連ねているNIPAは日本におけるIPA的な役割を持つ組織だとのこと
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図14 スポンサーブース
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図15 コミュニティによるステッカー配布ブース
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図16 カンファレンスディナーでビール片手に語り合う。オフラインイベントはやっぱり楽しい
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UbuCon Asia自体が2021年の初開催以来、Ubuntu Koreaのメンバーが中心になって牽引してきたところがあります。その韓国開催が終わった今はまだ、2023年にどこがホスト国で開催するのかまだ見えないところがありますが、若いイベントが育っていくところを楽しみつつ、来年もぜひ参加したいなと考えているところです。

みんなありがとう、Thank you、감사합니다!

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