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第875回夏休み特別企画 自作PCを組もう[前編] —⁠—2025年8月におけるミドルローPCを組むためのパーツの選定

今回は自作PCを組み立て、Ubuntuをインストールする特別企画の前編です。まずはパーツの選定です。

Ubuntuと自作PC

自作PCは安く済むといわれたのは昔の話で、今はAmazonやら何やらに一体どうやったらそんな値段で売れるんだというミニPCが溢れており、なんならWindows代で本体が買えるのだが、という価格付けのものすらあります。

ただPCがほしい、PCでやりたいことができればいいしPCそのものには興味がないということであれば、ミニPCを購入するのは最も安く済む選択です。そしてUbuntuのインストールも比較的容易です。

自分がやりたいことがミニPCの範疇に収まればいいのですが、そうではなくなった場合はもう大変です。それにふさわしいPCを自分で見繕わないといけません。昨今はドスパラのGALLERIAを筆頭にショップブランドPCも充実しており、そちらを選択するという手もあります。正直なところ値段としてはそちらのほうが安いです。

自作PCのいいところは、すべてのパーツを自分好みにできるところでしょう。そして拡張も容易であるということです。ミニPCでもSSDやメモリーの交換ぐらいならできるものが多いですが(メモリーはオンボードのものがあり、速度的にはメリットがあるので必ずしも悪いものでもないですが⁠⁠、グラフィックボードを追加しようとするとOCuLinkポートの有無を気にしなくてはいけません。筆者が少し試したところでは、どうもOCuLinkはコネクターの接触によって認識したりしなかったり安定しませんでした。大人しくPCIeスロットに接続できたらこんなに苦労しないのにと思ったものです。

たしかに初期導入コストは安価とはいえないものの、パーツ単位で交換できるのでその後拡張に対する費用は比較的安価に抑えられます。10万円のSSDを買ったりしなければですが。ショップブランドPCでもおおむね同様のことは可能ですが、自分で1から組んだわけではないので、そもそもどういうパーツを使っているのかわかりませんし、あとから手を入れるのも慣れていないのでなかなかに大変です。

だったら、低スペックでもいいので一旦自分でパーツを買ってきて組んでみて、そこからステップアップするのがコストを抑えられ、何よりPCに対する理解が進みます。何なら余ったパーツを組み合わせて1台生えてきます。PCって生えてくるものだったのです。驚きですね。

ミニPCのメリットはWindowsプレインストールモデルが多い(ベアボーンの場合はOSレス)ので、Windowsを別途購入しなければいけない自作PCは不利ですが、Ubuntuであれば無料なので、何ならその分の予算をパーツの強化に回すことができるのもメリットです。

このように自作PCとUbuntuはいろいろ楽というくらいで特に関連性が高いわけではありません。しかし今回は「特別企画」ということで、普段よりも少しディーブなハードウェアの話となります。

パーツ選定

自作PCで楽しいのはパーツの選定です。あまりにも自由度が高いので、基準を設けるのが難しいです。よって、今回は2025年8月に組むミドルローPCとします。ローエンドとなるとN100DC-ITXになってしまいます。これはこれで面白いマザーボードですが、かなり用途が限定されるので、初手で手を出すべきかといわれるとなかなかに厳しいです。

GPU

ではいよいよパーツの選定に入っていきます。現在自作PCの価格と性能に占める割合が一番大きいのはGPUだと考えておおむね間違いないでしょう。

GPUは外付けGPU(ディスクリートGPU、dGPU、グラフィックボード、ビデオカード)と内蔵GPU(統合GPU、iGPU)に分かれます。

昔はGPUはゲームをやるためのものでしたが、今はLLMでも必要なものとなりました。性能の向上とともに価格も上がっていき、それなりの大きさのモデルが動かせるdGPUのVRAM 16GBモデルで、NVIDIA GeForce RTX 5060 Tiだと75000円前後、AMD Radeon RX 9060 XTで65000円前後です。もうこれだけでそれなりの性能のミニPCが買える価格です。

一方、iGPUも増えたので、0円にもできます。iGPUでも、最新のものであれば第866回で紹介したように結構遊べます。その分CPUのお値段は高めとなります。

今回は、なしでも構わないものの、できればということで第872回で使用したGeForce RTX 3050 LP 6Gを用意することにしました図1⁠。こちらは「ロープロファイル」という規格に準拠したもので、つまりは背の低いPCケースにも、通常サイズのPCケースにもマッチします。

図1 ロープロファイルブラケットを接続したGeForce RTX 3050 LP 6G

dGPUには多くの場合補助電源というものが必要です。PCIeバスからは最大で75ワット、補助電源を使用すると1本あたり75ワットの電力供給があります。2本の場合も当然あります。詳しくはWikipediaのPCI Expressをご覧ください。

ということはその分より多くの消費電力を使用するため、GeForce RTX 3050 LP 6Gは補助電源が不要なのでそのあたりのことを考えなくてもいいというメリットがあります。価格が安いのもメリットです。もちろんその分機能は制限されます。しかし第872回でも紹介したようにLLMのモデルを選べばそれなりのものでも動作します。

CPU

ミドルローのCPUといえば、IntelだとCore i3-14100(以下14100⁠⁠、AMDだとRyzen 3 5300G(以下5300G)になります。どちらがいいのかというと、断然前者です図2⁠。

図2 Core i3-14100

14100はPCIe 5.0に対応していますが、5300GはPCIe 3.0の対応です。現在販売されているSSDやdGPUの多くはPCIe 4.0対応なので、速度が活かせないということになります。dGPUを接続するのでiGPUは無効でも構わないということであれば、さらに安価なCore i3 14100Fも選択できます。型番の最後に「F」がつくのはiGPU無効モデルと覚えておくといいでしょう。

ミドルローCPUのいいところは、安価であるのはもちろん、発熱も少ないので排熱のことをあまり考えなくてもいい点です。CPUにせよdGPUにせよ発熱はするものの熱には弱いという性質のものであり、仮に冷やせたとしても熱がPCケースの内部にこもるのは問題です。最悪オーバーヒートで落ちます(経験者談⁠⁠。

14100は先述のリンク先の仕様書によるとベースパワーが60ワット、最大ターボパワーが110ワットと記載されています。これはCPUの温度が上限(14100の場合は100°C)に達するまでは110ワットまで電力を使用して速度を上げるというものです。すなわち、最大の消費電力が110ワットであると見積もっておけばいいでしょう。

マザーボード

GPU、CPUが決まれば次はマザーボードが決まります。というのも、14100はメモリーの規格としてDDR4とDDR5の両方に対応していますが、マザーボードはどちらか一方のみの対応です。

マザーボードの大きさは、多くはATX、Micro-ATX、Mini-ITXという規格に則って製造されており、、先に挙げたものから小さくなります。Mini-ITXは小さなケースにも組み込めますが、その分拡張性に乏しく、また小さなケースは組み込むのが難しいので、初めての場合はおすすめしません。一方ATXはケースも大きくなるので、間を取ってMicro-ATXにしておくのがいいでしょう。

マザーボードは多くのメーカーから似たようなものが販売されているので決め手には欠けるのですが、ここでは筆者の独断と偏見でASRock B760M Pro RS/D4 WiFi (B760 1700 MicroATX) ドスパラ限定モデルとします図3⁠。

図3 ASRock B760M Pro RS/D4 WiFi (B760 1700 MicroATX) ドスパラ限定モデル

ASRock製品のいいところは、メモリーの相性問題が発生しにくいところです。相性問題が発生しにくいというのは、それだけパーツ選定の難易度が下がることを意味します。ここ数年に2回ほどマザーボードに起因すると思われる相性問題に遭遇しましたが、いずれもASRockのマザーボードを使用することにより解決しています。Micro-ATXのマザーボードは多くの場合メモリーが4枚挿せるので、より相性問題がシビアになります。DDR5のことですが、ASRock B760M Pro RS WiFi (B760 1700 MicroATX) ドスパラ限定モデルに32GBのメモリーを4枚挿しても何事もなかったように起動してきたのは感動しました。

横道にそれましたが、正直なところメモリーはDDR5でも4でもいいものの、マザーボードもメモリーも安いDDR4のほうが選びやすいのではないでしょうか。

DDR5のメモリーにしたい場合は、ASRock B760M Pro RS WiFi (B760 1700 MicroATX) ドスパラ限定モデルがいいでしょう。実はどちらもうちにあります。

メモリー

マザーボードを決めればメモリーも決まります。今回はDDR4対応モデルなので、16GB*2の32GBモデルでCT2K16G4DFRA32Aにしておくのが鉄板オブ鉄板です。

今回は全く同じメモリーではなく、手持ちの機材の関係でやや古いCT16G4DFRA32A2枚にしますが図4⁠、CT2K16G4DFRA32Aとどう違うのかはいまいちよくわかりません。

図4 CT16G4DFRA32A

ただし、これでなくてもメジャーなメモリーであればたいてい動くと思われます。心配であれば相性保証をつけるといいでしょう。ショップによって有償だったり無償だったり、そもそもメモリーについていたり、さまざまです。AmazonなどPCパーツショップでないところで購入する場合は、相性保証付きメモリーを選択するのも1つの手ではあります。

DDR5であれば、筆者はCP2K16G56C46U5を選択するでしょう。実際にこれの1枚32GBモデルがうちに4枚あります。

PCケース

PCケースはIW-BL057B/300BIW-CJ712B/265Bを用意しましたが、後者はすでに廃番でIW-CJ712B/265B/R2となっています。よって前者とします図5⁠。いずれにせよ現在は入手困難のようです。またよく似た新発売のIW-CE685/300G/Cもよさそうです。

図5 IW-BL057B/300Bに、3.5インチベイに何かついているが気にしない

いずれを選択してもあまり差はないので、購入できるものを選択してください。今回はIW-BL057B/300Bを使用します。繰り返しますが、IW-CE685/300G/Cはかなりよさそうです。

なおPCケースと電源ユニットが別売りの場合が多いですが、前述のモデルはすべて電源ユニットが付属しているので別途購入は不要です。もし補助電源を使用する場合はTFXという規格の電源ユニットを購入することになります。小さいので、500ワットともなるとそれなりに高価なのは注意が必要です。

CPUファン

PCケースが決まると、CPUファンも決まります。14100にはCPUファンが添付されているのでこれを使用するのでもいいのですが、マザーボードに引っ掛けて固定するタイプなので、正常に留まっているかどうかがわかりにくく、あまりおすすめはしません。

今回はIS-40X-V3にします図6⁠。

図6 IS-40X-V3

SSD

SSDは本当になんでもいいです。今回はM.2スロットに接続するNVMe SSDとします。その中でも、1TBで1万円くらいのSSD-CK1.0N4PLG3Nでいいでしょう図7⁠。1TBで不安であれば、2TBでも問題ありません。

図7 SSD-CK1.0N4PLG3N

なんでもいいとはいえ、NANDメーカーが販売しているSSDがおすすめではあります。今回のキオクシア(KIOXIA)のほか、サンディスク(SanDisk)/ウェスタンディジタル(Western Digital⁠⁠、サムスン(Samsung⁠⁠、クルーシャル(Crucial)あたりが該当します。

キオクシアは旧東芝メモリで、NANDの生みの親を母体とする国産メーカーです。ウェスタンディジタルはサンディスクを買収しましたが、2025年2月に、再びSSD部門、すなわちサンディスクを分社化しています。当面はウェスタンディジタルブランドも使用していくようですが、いずれはまたサンディスクとなるのでしょう。クルーシャルはマイクロンのブランドです。

後編に続く

今回はここまでです。次回の後編では、実際に組み立て、UbuntuをインストールしてLLMを実行するところまでを扱います。

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