Ubuntu Weekly Recipe

第885回Windows 11にアップグレードできないCPUでもUbuntuが快適に動作するか検証する

今回は古いCPUでUbuntuを動作させ、現在のCPUと比較してどの程度の速度で動作するのかを検証します。

Windows 10のサポート終了

Windows 10のサポートが10月14日で終了しました。正確には10月の「パッチチューズデー」で最後のWindows 10向けのアップデートがリリースされて終了ということであり、時差の関係で日本では「パッチウェンズデー⁠⁠、すなわち10月15日がサポート終了日となりました。

ただし、1年間のサポート延長が可能な拡張セキュリティ更新(ESU)プログラムがあり、一定の条件を満たすか、別途購入すれば利用可能です[1]

今更述べるまでもなく、Windows 11は動作要件が厳しめで、Windows 10からアップグレードできないPCがたくさん排出されることになりました。

ではWindowsではないOSにしてみましょう……ということで、本連載ではUbuntuになるわけですが、そもそも、そんな古いPCでUbuntuが快適に動作するのかが気になります。

Ubuntuが快適に動作するかどうかを定量的に計測するのは難しいので、最近のPCと比較してどの程度の速度が出ているのかをベンチマークで計測することとします。

比較するCPU

とすると、次に考えるのは、どのCPUと比較するべきかということです。筆者宅にもいくつかWindows 11の基準に満たないCPUがありますが、果たしてそれを使用すればいいのか、それともギリギリ足切りにってしまった第7世代のCore iシリーズを入手すればいいのか、あるいはもっと他に選択肢があるのか、なかなかに悩みどころです。

そこで思い出すのはAMDのSocket AM4です。最初に販売されたのが2016年で、現在はより新しいSocket AM5に移行しているものの、今年に入ってもまだSocket AM4対応CPUが新規に販売されている、現役のプラットフォームです。

せっかくなのでSocket AM4の初期に販売されたCPUと、最新かつスペックのよく似たCPUを対比させるのがわかりやすいでしょう。

というわけで、買ってしまいました。A12-9800Eを図1⁠。

図1 A12-9800E近影(ピントがズレているが……)

国内の業者に発注したものの、中国から送られてきたので、そういう業者なのでしょう。ちなみに価格は3990円で、別途送料が1500円かかりました。

一方、スペックが似たCPUとなると、Ryzen 3 5300Gが適任でしょう。こちらは自宅に2つほどあるので、新規に購入はしていません。

Intelはというと、Core iシリーズではなく、N100と比較するのが妥当でしょう。本連載でも第761回第785回などで登場しています。

使用するハードウェア

使用するハードウェアをまとめると、次のとおりです。

1台目 2台目 3台目
CPU AMD A12-9800E AMD Ryzen 3 5300G Intel N100
スレッド数 4コア4スレッド 4コア8スレッド 4コア4スレッド
TDP 35W 65W 15W?
発売年 2017年 2021年 2023年
メモリー SMD4-U16G48H-24R-D SMD4-U16G48H-24R-D KVR32N22S8/8
マザーボード A320M-ITX A320M-ITX N100DC-ITX
UEFI バージョン 5.30 10.41 Beta 2.01 Beta
SSD MZ-7PC128D/IT MZ-7PC128D/IT MZ-7PC128D/IT
PCケース BQ656S BQ656S BQ656S
備考 BIOSでSMTをオフに/TDPを35Wに

A12-9800EはAMDのCPUにハイパースレッディング(AMD用語ではSMT)に対応する前の世代なので、4コア4スレッドです。N100も同様です。Ryzen 4 5300Gは4コア8スレッドなので、SMTを無効にして4コア4スレッドとします。同時に、A12-9800EはTDPが35Wですが、Ryzen 3 5300Gは65Wです。これでは同じ土俵に立てるわけもないので、Ryzen 3 5300GのTDPを35Wに下げています。

マザーボードについて

Socket AM4のマザーボードについては注意が必要でしょう。

Socket AM4なので、対応CPUであればどのマザーボードに接続しても動作するのかというとそんなにシンプルでもありません。なにせチップセットが3世代あり、古いCPUは最新のチップセットでは対応せず、古いチップセットでも最新のCPUには対応するものその実力が活かせません。

そこで今回使用したのはA320M-ITXです。ただしこのマザーボード、UEFI BIOSのバージョンが7.0の前後で断絶があります。ただ今回取り上げたCPU、A12-9800Eが動作するのは7.0未満、Ryzen 3 5300Gが対応するのは7.20以降で問題ありませんした。

A320M-ITXはたまたま自宅にあった上、UEFI BIOSのバージョンが古いことは自明だったので、今回のような検証ができました。しかしマザーボードが手元にない状況でCPUと同時に入手するというのであれば、UEFI BIOSのバージョンが不明な場合がほとんどでしょうから、A12-9800Eが動作するかどうかは完全に未知数であり、ギャンブル要素が強くなります(さすがにそんなことをする人はいないでしょうが……⁠⁠。

またベンチマークは通常、一発でうまくいくことは少なく、数度繰り返すことになります。そのような場合、まずA12 9800Eのベンチマークを実行後、UEFI BIOSをアップデートしてRyzen 3 5300Gのベンチマークを実行となると不都合が生じます。よって今回、図2の方法で解決しました。

図2 同じマザーボードを2枚用意

自宅に2枚あったわけではなく、1枚は某所から廃棄予定だったものをいただいてきました。

Ubuntuのインストール

インストールしたUbuntuのバージョンは24.04.2 LTSです。実は検証したのは少し前の、24.04.3リリース前です。すんなりUbuntuをインストールできたかと問われればそうでもなく、インストーラー(Ubuntu Desktop Provision)が落ちてしまって起動しません。どうしようか思案したのですが、エラー的にグラフィック関連かという予測ができたので、起動時に「Ubuntu(safe graphics⁠⁠」で起動してみたらうまくいきました。

Ryzenより前の、AMDの内蔵グラフィック搭載PCにUbuntuをインストールする機会というのもなかなかないと思いますが(そもそも全然売れていなかったので絶対的な台数が少ない⁠⁠、もしインストーラーが起動しない場合には参考にしてみてください。

図3「システム詳細」の内容です。

図3 システム詳細

ベンチマーク

ようやく本題のベンチマークの結果を見ていきます。とはいえ、複数のベンチマークの結果を見て傾向にはほぼ違いはありませんでした。ベンチマークソフトは、いつものPhoronix Test Suiteです。

CPU

CPUのベンチマークは図4図5の2つです。

図4 GCCのビルドベンチマーク
図5 Linuxカーネルのビルドベンチマーク

こうして見るとA12-9800Eは遅いなと感じますが、あくまでCPUの使用率を100%にしてぶん回した結果で、普段遣いはまた違ったものとなります。それにしてもN100の速さには驚かされます。

GPU

GPUのベンチマークは図6図7の2つです。

図6 GPUのベンチマーク(その1)
図7 GPUのベンチマーク(その2)

Vulkanですが、N100よりも速いのは少し驚きでした。それにしてもRyzen 3 5300Gの速度には驚かされます。CPUを変更しただけでこれだけ速くなります。

結論

ベンチマークの数値だけを見ると、A12-9800Eの実用性はあまりなさそうに思えます。しかし、気をつけておきたいのはA12-9800Eはリリース時点ですでに遅いCPUだったという事実です。この頃のAMDのCPUは本当に見るべきところがなく、ずっとAMDユーザーだった筆者も当時はIntelのCPUをメインで使用していました。

同年代のIntel Core iシリーズの6世代目(Skylake)や7世代目(Kaby Lake)は、もっと速いです。現実的にはA12-9800Eに今からUbuntuをインストールするというケースはごく稀で、Intel Core iシリーズの6世代目と7世代目が主流になることでしょう。あるいは8世代目(Coffee LakeやKaby Lake Refreshなど)も含まれるかもしれません。

したがって、ギリギリWindows 11をサポートしないくらいのCPUであればN100と同程度の性能で、Ubuntuは充分な速度で動作する、といえます。ただしインストールするストレージがHDDだと遅く感じるので、そこはSSDにするのがいいでしょう。それだけで使用感に格段の差が出ます。

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