実践!仮想化ソフトウェア 2009

第1回2009年の仮想化ソフトウェア概観─各ソフトウェアの特徴と最新動向

2009年は仮想化ソフトウェアのコモディティ化が一気に進んだ年と言えます。この連載では、比較的容易に試用可能なフリーの仮想化ソフトウェアを実際に導入し、最新の仮想化ソフトのポテンシャルを紹介したいと思います。

第1回目となる今回は、各仮想化ソフトウェアの現状を、2009年に起きた事柄と合わせて概観してみます。

VMwareが「vSphere 4」にメジャーバージョンアップ

VMwareは、⁠Virtual Infrastructure 3」から名称も変更して「vSphere 4」へとメジャーバージョンアップを行いました。。

核となるハイパーバイザー部分は「VMware ESX Server」および「VMware ESXi」ですが、基本的な機能としては従来のバージョン3.5.0と大きく変わっているところはありません。バージョン2.5系からバージョン3.0へのメジャーバージョンアップ時には、ドライバモデルの変更や、VMFS2からVMFS3への変更など大幅な仕様変更が加わったことに比べると、変更されたところを見つけ出すのが難しい程度のバージョンアップとなっています。

vSphere 4でライセンスラインナップが大きく変更

では、大きく変わったのは何かというと、商品としてのライセンスのラインナップです。従来は2プロセッサか4プロセッサで使用することを前提としたライセンス形態でしたが、ライセンス単位が1プロセッサ毎になりました。そのため、小規模で利用するのであれば1プロセッサしか搭載していないサーバーでも利用することができます。1プロセッサがサポートするコア数は6コアまでとなっているので、従来の2コア×2プロセッサ=4コアよりもライセンス的に有利といえます。

また、vSphere 4にはさまざまな機能がオプションとして用意されており、エディションによって利用できるオプションが細かく異なっています。エディションは、最も基本となるStandard EdtionからAdvanced、Enterprise、Enterprise Plusと用意されています。

さらに、小規模なシステムを構成する場合には、最大3台までのESX Server/ESXiと、管理用のサーバーであるvCenter Serverが利用できるEssentials/Essentials Plusまでが用意されており、全部で6種類のライセンスとなっています。システムに応じて最適なライセンスを選択するには、かなり迷いそうです。

ライセンス選択は、大まかな目安として以下のように判断すればよいでしょう。

  • 小規模で拡張する必要がなければ、3台までの利用に制限されるがEssentials Plusを選択。Essentialsでは高可用性を実現する「VMware HA」が利用できないので、それであれば無償のVMware ESXiでもいいでしょう。
  • VMotion(VM無停止でのホスト間移動)が必要なければStandard。VMware HAが利用でき、Essentials Plusと異なり台数制限がありません。中規模レベルならStandardで十分。
  • Storage VMotionが必要なければAdvanced。VMotionは利用できるし、ストレージ間移動が必要な時は仮想マシンを計画停止すれば事足ります。
  • ブレードエンクロージャー間に跨るような大規模なネットワークが必要なければEnterprise。Enterprise Plusになると、vNetwork Distributed Switchが利用できるようになります。

新機能としてはvNetwork Distributed Switchに注目

vSphere 4に追加された新機能として注目したいのは、⁠vNetwork Distributed Switch」です。

vNetwork Distributed Switch
URLhttp://www.vmware.com/jp/products/vnetwork-distributed-switch/

仮想ネットワークの機能をより強化すると共に、⁠Cisco Nexus 1000V」のような仮想スイッチ製品を利用可能にしてくれます。

Cisco Nexus 1000V
URLhttp://www.vmware.com/products/cisco-nexus-1000V/

残念ながら、まだvNetwork Distributed Switchを活用しなければならないような実際のシステムを手がけたことがありませんが、使ってみたい機能として挙げられます。

VMware Fault Toleranceはまだまだこれから

新機能として挙げられるものとして「VMware Fault Tolerance」があります。仮想マシンの状態を常時複製し、耐障害性を高める機能です。

非常に興味深い機能ではありますが、機能的には仮想マシンに割り当てられる仮想CPUは1つ、1ホストあたり4VM、高速な複製用ネットワーク、負荷が高くなった際の複製待ちの発生など、要件を見極めて使わないといけない点が多々あるようです。

本当にFTレベルのシステムが必要であれば、今のところはハードウェアでFTをサポートする製品上でESX Serverを動かすのが現実的なように思われます。

今後、制限が取り払われ、高速通信のための10G Ethernetなどのコストが安くなれば利用可能性も高くなる、今後に期待の機能でしょう。

vSphere 4でライセンスコストは下がったか?

vSphere 4でライセンスが細かく分かれたことにより、工夫することでライセンス費用は下げられるようになりました。ただし、VMotionのような「使えるとちょっと便利」というような機能を入れると、ライセンス費用はじわじわと高くなっていきます。

また、ハードウェアの台数を減らそうとすると、どうしても2プロセッサ構成になり、見かけの単価は1プロセッサで安くなったように見えても、×2で計算していくと意外と高い、という点も注意が必要です。

vSphere 4は機能的に完成度が高い反面、ある程度のまとまった台数の仮想ホストを用意して運用しようとすると、やはりまだまだライセンス費用が高いとユーザーからは感じられることが多いようです。ライセンス費用を安くしようとすると便利な機能が利用できなくなるという二律背反の関係を如何に割り切るか、あるいは割り切らずに便利な機能を買って後の運用を楽にするか、という計算が必要になってきます。

これらの見極めを適切に行うには、それなりにVMwareの機能に精通している必要があるので、しっかりと評価版などで機能の検証をしておくべきでしょう。

無償で利用できるようになったCitrix XenServer

VMware ESX Serverの対抗馬として挙げられるのはオープンソースのXenですが、Xenを組み込んだ製品として「Citrix XenServer」(以下、XenServer)が2009年3月から無償提供されるようになりました。

Citrix社はXenの中心的な開発を行っている会社であるXenSource社を買収してXenServerおよびXenDesktopを製品ラインナップに加えていましたが、Xenは主にLinuxディストリビューションに組み込まれて利用されていることもあり、Xen関連製品の知名度は必ずしも高くなかったように思います。そこで方針を転換し、XenServerを無償化し、高度なサポート製品「Essentials for XenServer」を有償提供するスタイルに変更しました。

無償となったXenServerでは、ライブマイグレーション機能である「XenMotion」までが利用できます。そしてフェールオーバークラスタであるHA機能は有償です。これはvSphere 4がAdvancedのライセンスでないとVMotionが行えないのとはちょうど逆の設定になっています。

私個人の判断としては、ライブマイグレーション機能は「あれば便利だが必須ではない」もの、HA機能は「絶対に必要なもの」と考えています。この考えから判断すると、Cirtixのやり方は「かなり正しいがEssentialsがvSphere 4に比べると高く付くのが難点⁠⁠、VMwareのやり方は「ユーザは基本的にStandard Editionまでで満足するだろう」と見えます。どちらも一長一短でしょう。

現在のところまででは、ハイパーバイザーとその周辺の基本的な機能では大きな差を見いだしにくくなってきており、残念ながらコスト勝負に陥りがちです。Citrix社がVMware社のシェアを奪還していきたいのであれば、無償化の判断は間違ってはいないと思いますが、Essentialsがもっと売れるような施策が必要のように思います。

スモールスタートならXenServerもアリ

では、XenServerが無償版で使えないかというとそうではなく、かなり使えると思っています。VMwareで無償ならESXiですが、これはほとんど1台だけで利用するイメージです。それに対してXenServerはXenMotionもできますから、2台から3台並べてたくさんのVMを動かすような構成が作れます。たしかにHA機能は欲しい機能ですが、各マシンの構成を冗長化しておけばそうそう壊れるものでもないので、監視などの機能をしっかりとしておけば、意外と無償版だけでもなんとかなってしまいます。

VMwareのvCenter Serverのように、管理用サーバーを別途用意する必要がないのも嬉しいところ。Windows用のドライバも用意されているし、CentOSなどのフリーのLinuxディストリビューションも積極的にサポートされているので、スモールスタートに仮想化を始めたい人には逆にXenServerがおすすめできるのではないでしょうか。

本格的な競争に入るHyper-V 2.0

第三勢力として注目されているマイクロソフトのHyper-Vですが、Windows Srever 2008 R2で用意されるHyper-V 2.0で、本格的な競争相手となりそうです。当初は2010年に入ってからのリリースと見られていましたが、かなり前倒しになって2009年10月からの投入となりました。

機能的な見所としては、ライブマイグレーション機能がサポートされるようになったこと、共有ストレージとして「Cluster Shared Volumes」がサポートされるようになったことなどでしょう。どちらも前述2製品ではすでにサポートされている機能だけに取り立てて騒ぐほど機能ではなく、遅ればせながらという感じではありますが、これでやっと本格的に複数ホストで仮想化環境を構築できるようになったということがいえます。

Hyper-Vを利用するためのライセンスに注意

Hyper-VはWindows Server 2008で標準で利用できる機能として提供されますが、完全に無償というわけではありません。ライセンス上、以下の点に注意しておく必要があります。

  • Hyper-VはWindows Server 2008の機能なので、ゲストOSの種類を問わずすべてのクライアントに2008対応CALが必要。
  • Windows Server 2008のエディションによって、1つの物理ホストで動かせるWindows仮想ゲストのインスタンス数が以下のように異なる。
Standard1仮想
Enterprise4仮想
Datacenter無制限
※親パーティションは必須なので数えていない

さらにゲスト上で動作する各種ソフトウェアについてもライセンスが異なるので、注意が必要でしょう。

System Centerをどう絡めるか?あるいは別の選択

Hyper-VはWindows Server 2008の機能として提供されていることもあり、かなりの部分が標準で利用できるようになっています。たとえばHA機能もMSCS(Microsoft Cluster Service)と組み合わせて実現されています。

一方で、テンプレート機能といった運用管理を行っていく上で便利な機能は管理ツールである「System Center」と組み合わせなければ利用できません。

今のところSystem Center無しではシステム管理ができない、というレベルの普及度に達してはいないため、なんでわざわざSystem Centerを入れないといけないの?という印象があるようです。仮想化では運用管理が重要ではありますが、ここの部分でマイクロソフトが自社製品への囲い込みを強硬に行おうとすると、Hyper-Vそのものの普及が阻害されるおそれもあるでしょう。

繰り返しになりますが、ハイパーバイザーとその周辺での差別化は困難になってきており、コストや運用管理のしやすさまで含めたトータルな判断で選択が迫られてきます。その時にオープンな選択が行えないのは、場合によっては致命的な問題になるかもしれません。最近のクラウドサービスの状況などを見ていると、多くの場合Xenが選択されているのも、コストはもちろんのこと、オープンな選択が可能であると見ています。

もちろん、社内サービスを構築するためにはクラウドほど完全なオープンさが要求されるわけではありませんが、一つの目安にはなるのではないでしょうか。機能だけでなく、システム全体としてのトータルな判断が必要が重要でしょう。

それでは、次回から各製品やその他の周辺技術について解説していきます。

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