明後日のコンピューティングを知ろう ~Internet Forecast Report

第6回HPCの見える

今回は、普段あまり触れることがない「HPC(High Performance Computing⁠⁠」の今を解説します。HPCは、おもにCPUやGPUと専用ハードウェアをクラスタ化した計算機の総称です。私たちがいつも使っているパブリッククラウドの内側とシステム構成的には似ています。しかし、同時に並列して利用する計算機が数百台を超える場合が多く、サーバの物理的構成でラック内の密度が高くなる場合が多くあります。このため、専用の冷却設備を備えた場合が必要になります。MW(メガワット)級のHPC設備では、少なくとも数十億円規模の設備が必要です図1⁠。

図1 HPC向けデータセンターのコスト構造(例:3MW級)
図1

CPUやGPU、専用ハードウェアの単位面積あたりの性能と消費電力も微増ではありますが、増加傾向にあります。今後10年先を予測すると、けっして無視できない規模になっていくと筆者は考えています。1990年代の一般的な計算機設備のラックあたりの消費電力は数kW単位でしたが、現在は10kWを超えています。HPCの設備は計算機を効率的に冷却し、かつ安定して動作させるという点で、私たちが普段使用しているパブリッククラウドのデータセンターと同じです。しかし、HPC向け設備の場合、冷却設備の温度条件がやや厳しい場合が多くあります。そのため、冷却設備が通常のデータセンターよりも複雑で大規模になりがちです図2⁠。

図2 一般的なHPC向け冷却設備のあらまし
図2

いくつかのクラウド事業者では、データセンターの冷却設備効率化やサービス全体最適化を図るため、CPUとして比較的に低周波数かつ低消費電力であるものを選択する傾向があります。10年単位の傾向として、サーバ搭載電源の大容量化と熱密度の増加が続いています。既存のデータセンターやHPC設備の収容能力との不一致は、遠くない将来、その乖離 (かいり)が鮮明に起こっていくことも予想されます図3⁠。

図3 サーバ熱密度の増加と設備不一致
図3

クラウドコンピューティングは雲の向こうに存在しているわけではなく、それを設計構築・管理運用する人によって成り立っています。エンジニアとしてIT社会を支える技術動向を押さえておくのは慧眼を養うことになります。

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