明後日のコンピューティングを知ろう ~Internet Forecast Report

第17回トラフィックの特異点

1990年代、1つのIPアドレスで複数のドメインを扱うことができる名前ベースのバーチャルホスト機能がWebサーバで使われるようになりました。それから20年以上が経過し、Webロードバランサーの開発競争、サーバ仮想化技術の進展、ネットワーク仮想化技術の勃興、アプリケーションのコンテナ化などを経て、私たちがクラウドと呼ぶ情報システムはさらなる発展を遂げてきました。20世紀のインターネットは自前で回線を引き込み、手元の計算機にIPアドレスを付与してWebサーバを立ち上げる、そんな牧歌的なしくみでしたが、現在ではクラウドにログインすれば数回のクリックで必要な計算機リソースが当たり前のようにできあがる、そんな時代となりました。サーバの計算機性能でいえば、昔は数インスタンスの仮想マシンを動かすのがやっとであったCPUも、いまでは数千インスタンスを動かせるまでに進化しました。IPv4アドレス枯渇問題が叫ばれた2000年代はじめ、インターネットサービス・プロバイダーのユーザートラフィックが巨大なNAT装置[1]を介してインターネットを通過するようになったのと同じように、クラウドの向こう側のサービスもNFV[2]やロードバランサー、プロキシー、コンテナネットワークの向こう側にトラフィックが隠蔽されるようになりました。

ZONEFILESの情報によれば、全世界で観測されているドメインは2億6,680万あり、その13.8%が7つのIPアドレスで表現されるWebサービスへ誘引されてることがわかります図1⁠。

図1 全世界のドメインをホストするWebサービスとトラフィックの特異点
図1

同様に日本語と判定されるWebページを分析軸に調査すると、1つのIPアドレスで表現されるWebサービスで、じつに3万のドメインが誘引されていることがわかります図2⁠。

図2 IPv4アドレス空間で観測される「多数のドメインが誘引されていくホスト」(一部抜粋)
図2

クラウド・コンピューティングを支える計算機性能の向上にともない、ごく限られたネットワークアドレス空間にユーザーが誘引されていくトラフィックの特異点の多くが、私たちの知らない間にできあがっているのかもしれません。当研究所は、引き続き注意深く技術進化の転換点を観測していきます。

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