OSSデータベース取り取り時報

第86回MySQL HeatWave on AWS発表、Postgres Vision Tokyo開催

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

[MySQL]2022年9月の主な出来事

2022年9月のMySQLの製品リリースは、VS Codeの拡張機能としてMySQL Shellの機能を利用できるMySQL Shell for VS Code 1.4.1+8.0.30と、Kubernetes環境でMySQL InnoDB Clusterによる高可用性構成の構築運用を支援するMySQL Operator 8.0.30-2.0.6でした。MySQL Operatorは商用版も用意されており、MySQL Enterprise Editionのデータマスキングや非対称暗号がデフォルトで利用可能となっています。

なおMySQL Shell for VS Codeは、原稿執筆時点ではプレビューリリースとなっています。9月22日に開催された日本MySQLユーザ会のイベントである「Club MySQL #6」では、MySQL Shellを含めて機能について実際に動作させるデモを交えて紹介されました。当日の模様はClub MySQLを企画および運営している日本MySQLユーザ会副代表の坂井さんのブログにて動画とあわせてご覧いただけます。

MySQL HeatWave on AWS発表

MySQL HeatWave Database Service(通称MySQL HeatWave)は、オラクルのクラウド・サービスOracle Cloud Infrastructure(OCI)上で提供されるMySQLのクラウド・データベースです。MySQLの開発元であるオラクルが提供するサービスで、MySQLの開発チームが構築運用を行い、MySQLの中まで把握したメンバーによるサポートサービスも標準で提供されています。

MySQLサーバーのクラウド・データベース版としても、商用版で利用可能なスレッド・プール機能が利用でき、かつ追加費用無しで高いIOPSのストレージが利用できるため、非常に費用対効果の高いサービスになっています。さらに複雑な分析系のクエリを高速に処理できる、HeatWaveエンジンも利用可能となっています。HeatWaveには機械学習の実行エンジンも同梱されているため、単一のデータベースで更新処理、分析処理、機械学習を高速に実行できるサービスとなっています。

AWS RDSやAuroraからMySQL HeatWaveへの移行事例も次々と出てくる一方で、すでにAWS上にシステムを構築していて周辺サービスの利用などを考慮するとOCIへの移行が困難なケースや、データベースだけOCI上のMySQL HeatWaveを利用する形態を検討しても通信のレイテンシやAWSからのEgress通信コストなどが課題になる、といったお客様の声がありました。

そこでオラクルは、9月12日(日本時間9月13日)にAWS上でMySQL HeatWaveを動作させてお客様にご利用いただけるサービスとしてMySQL HeatWave on AWSを発表しました。

MySQL HeatWave on AWS

このMySQL HeatWave on AWSは動作環境としてはAWSを利用していますが、データベース・サービスそのものはオラクルが提供するものとなっています。サービスの詳細や利用手順などは、10月17日から米国で開催される「Oracle CloudWorld」の中で複数のセッションにて紹介される予定となっています。

なおOracle CloudWorldでは日本からのMySQL HeatWave事例としてトヨタ自動車における先進的なモビリティサービスにおけるデータ収集と分析のプラットフォームとしての用途や、ゲームデータのリアルタイム分析を実現したベストプラクティスをジニアスソノリティのCTOが解説予定となっています。

[PostgreSQL]2022年9月の主な出来事

PostgreSQLの代表的なイベントのひとつである「Postgres Vision」の日本国内向けの開催が9月7日から開催されましたので、今回はこのイベント報告を中心にお知らせします。その前に、次期メジャーバージョン15のベータ版がリリースされましたので、最初にこちらのニュースをお知らせします。

PostgreSQL 15のベータ4がリリース

9月8日に次期メジャーバージョン15の、おそらく最後のベータ版がリリースされました。ベータ4は出ないで次は正式リリースかな?と勝手に想像していたので、予想が外れました。

リリースのお知らせによれば、⁠このリリースには、PostgreSQL 15が一般公開されたときに利用可能になるすべての機能のプレビューが含まれています」と書かれています。

さて、次のリリースはバージョン15の正式リリースとなるでしょう。ベータ4のリリースが9月の上旬でしたので、この記事の執筆から公開までの間、つまり9月末にリリースをネジ込んで来たりしないかと、少々ひやひやしているところです。

EDB Postgres Vision Tokyo 2022

9月7日~9日に、「EDB Postgres Vision Tokyo 2022」がオンラインで開催されました。今回は、私たちOSSコンソーシアムのデータベース部会も一部で関わらせていただきました。

PostgreSQL関連では日本国内にて恒例開催される代表的なイベントがいくつかありますが、Postgres Vision Tokyoもそのひとつです。3日間に20のセッションが設けられました。ここでは、OSSコンソーシアムが関わった初日のセッションの他、筆者がエンジニアの皆さんに紹介したいと感じたものをピックアップしてみました。9月7日~9日の会期の後、9月30日までは動画の事後配信で聴講できましたが、残念ながらこの記事が公開されるタイミングでは終了しています。下記の報告から雰囲気だけでも感じていただければ幸いです。

【基調講演&パネルディスカッション】デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中で考えるべきデータベースのモダナイゼーションの方向性
このセッションの前半は、鈴木康介さん(IDC Japan株式会社 リサーチマネージャー)による基調講演です。
PostgreSQLにフォーカスした話ではなく、これからのデータ活用の目指すべき方向やデータ管理の在り方を、根拠となる具体的な調査データを示しつつ、高い視点から説明されました。機械学習の技術によってデータが価値を生み出しつつあることは、どなたでもよく認識されているかと思います。また、プライバシーテックと呼ばれる分野において、これまでひたすら守りの対象であった分野においても、個人情報を守りながらも価値を生み出すことが可能になってきています。IDCによる企業を対象にした調査では、データ活用に関する最重要のテーマは「分析対象とするデータの量も種類も増やすこと」だと答えている企業がもっとも多いことが示されました。PostgreSQLに限らず、DBMSというカテゴリに限らず、これからのデータ管理基盤が備えるべき要件や達成すべき機能を示唆する講演でした。
後半は、鈴木さんの講演を受けてのパネルディスカッションです。OSSコンソーシアムデータベース部会もここにお招きいただき参加することができました。北川晋さん(EDB日本支社代表)の司会により、パネリストとしては講演された鈴木康介さん、佐瀬力さん(アシスト ビジネスインフラ技術本部 データベース技術統括部 技術4部 部長⁠⁠、溝口則行(OSSコンソーシアムデータベース部会リーダ)が意見を述べ合いました。
昨今ではDBサーバもクラウドサービスを利用することが増えつつあります。そして主要なクラウドサービスを使い分けることが可能になってきています。しかし、鈴木さんによれば、大量のデータを保持する企業では、特定のクラウド事業者にロックインされる傾向が出始めている様です。パネルディスカッションでは話題の一つとしてこの点を取り上げました。データにせよアプリにせよ重要性が高くなると特定のベンダや一番実績のある製品に頼る傾向が従来から見られます。場合によってはそれを「標準化」と称して良いこととしてきた面もありました。ITベンダが「ロックイン排除」を説得しようとする時には、なぜロックインされるのが良くないのかを丁寧に説明する必要がありそうです。また、特定プラットフォームに偏ったデータベースを移行する技術や製品も揃ってきているので、大量データの偏在を解消することは、少なくとも技術的には難しくは無いのだという説明もされました。
Postgres Vision Tokyo 2022 パネルディスカッションの画面
Postgres Vision Tokyo 2022 パネルディスカッションの画面
OracleからPostgreSQLへ、移行か併用か?そして開発・監視・運用はどうする?(クエスト・ソフトウェア)
クエスト・ソフトウェアの青木浩朗さんの発表です。PostgreSQLの様なOSS製品の周辺で使用するツールは、やはりOSSとして提供される場合も多いですし、いわゆる商用製品がある場合でもOSSが選ばれる場合の方が多いだろうと思います。データベースとしてOSSを選択するケースではコストを掛けにくいというのは以前も今も多く見受けられ、周辺ツールにだけ商用製品を使うというのは難しいだろうというのは良く理解できます。ただ、トラブルや性能問題への対処や予防のためのツールでは、視野を広げて商用ツールも検討した方が結果的には良いのではないかと、かつて火傷をした経験したことへの反省を込めて思います。日本国内では、クエスト・ソフトウェアの製品はあまり知られていないように思いますが、PostgreSQLの運用や異種DBからの移行などで活躍するツールがありますので、調べておいて損は無いと思います。
代表的なのはToadでしょう。これはDB管理者の作業を効率化するさまざまな機能を持っています。長年OracleのDB管理者に愛用されてきたものです。今から10年以上前だと思いますが「ToadのPostgreSQL版を出す予定は無いのですか」と訊ねたことがあります。そのときの回答は商品化するだけの販売数が見込めそうにない(という趣旨)のものでした。当時はそれも納得できました。ただ、現在は対応ツールを販売するだけの土台がPostgreSQLにはあるということです。ちなみにMySQLにも対応しているようです。
他に、性能ベンチマークツールのBenchmark Factory for Databases、モニタリング(監視)をするFoglight for Databases、バックアップためのNetValut PostgreSQLプラグイン、異種DBMS間でデータのレプリケーションを行いデータベース移行にも便利なSharePlexなどがあります。多くは同類のOSSツールもありますが、一度比較検討してみる価値はあると思います。
さらに進化したデータベースのためのインフラとデータベース運用の効率化(Nutanix)
Nutanixの今野雅子さんの発表です。Nutanixの名前はご存知の方が多いでしょう。HCI(ハイパーコンバージドインフラ)のパイオニアです。ざっくりしすぎているかもしれませんが、仮想化技術を使って汎用のサーバ環境を提供するものなので、データベースに特化しているわけではないというのが、かつての私の印象でした。たぶんそれは間違えてはいなかったと思います。しかしHCIはデータベースサーバを稼働させてもメリットが大きいのですよ、というのが発表の前半のメッセージです。データベースサーバをパブリッククラウドで運用するのに違和感の無い時代です。HCIだって当然と言えば当然でしょう。発表では、データ配置(ローカリティ)の工夫、HAの方式、スケールアウトの実現などデータベースサーバを稼働させるときのメリットと、PostgreSQLの性能測定結果を示して、説得力ある説明をされていました。
後半は、Nutanixによるデータベース運用に特化した新サービスDatabase as a Service on Nutanixの紹介でした。PostgreSQLに限らず多種類のDBMSを対象にし、NutanixのHCI環境やパブリッククラウドに跨がるようなデータベース環境の運用を支援するサービスとのことです。DBプロビジョニングの標準化、過去の時点のデータに戻るTime Machine機能など、HCI基盤で築いたノウハウをDBサーバ運用に活かしているのだろうと思います。Nutanixが⁠レイヤを1段上げてきた⁠という印象です。
2022年はPostgresの転換期(EDB)
主催者であるEDBのメッセージも1つ紹介しましょう。EDB社CEOのエド・ボヤジンさんです。メッセージビデオでは、WD-40という米国では超有名らしい防錆スプレーになぞらえて「画期的な発明だが有名になるまで長い期間が掛かった製品がある。そして今ではどこの家庭にもあり、無くてはならないものになった」と、PostgreSQLを評しました。⁠どこの家庭にもある」「どこの企業でも使っている」と置き換えた方がいいのでしょうが、そういうポジションに達したという自信の表れでしょう。また、ここまで普及するのに長い時間が掛かったこともたしかに事実です。
エドさんとは、Postgres Vision Tokyoの後で対談をさせていただく機会をいただきました。EDB PostgresやPostgreSQLの普及に時間が掛かったことや、OSS開発コミュニティとの協力関係などについて意見交換ができました。この対談についてはこの連載の次回に詳しくお伝えします。

2022年10月以降開催予定のセミナーやイベント、ユーザ会の活動

オープンソースカンファレンス 2022 Online

日程 〔Online Hiroshima〕2022年10月1日(土)10:00~18:00
〔Online Fall〕2022年10月28日(金⁠⁠、29日(土)10:00~18:00
〔Online Fukuoka〕2022年11月26日(土)10:00~18:00
場所 オンライン開催(ZoomおよびYouTube Live)
内容 オープンソースカンファレンスは、オープンソースの「今」を伝える総合イベントとして、東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで全国各地で開催しています。2020年の春以降はオンラインでの開催となっています。今後の開催予定は10月のOnline/Hiroshima(広島)Online/Fall、11月のOnline/Fukuokaです。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

第36回 PostgreSQLアンカンファレンス@オンライン

日程 2022年10月14日(金)20:30~23:00
場所 オンライン開催
内容
  • 初心者による「使ってみた/動かしてみた」
  • 中級者による「こういうノウハウ使ってる」
  • 上級者(?)による「こういう拡張してみた」
その他、PostgreSQLに関連する話題であれば何でもOK! アンカンファレンス形式なので、何が出るかは当日参加してのお楽しみ。
主催 PostgreSQLアンカンファレンス

アシストテクニカルフォーラム2022 ~クラウドへのリフト&シフト~

日程 2022年10月17日(月)10:00~10月28日(金)17:00
場所 オンライン開催
内容 OSSデータベースに特化したイベントではありませんが、⁠DB-7]⁠どうする? クラウド時代のデータ連携 ~PostgreSQL現場エンジニアのEPRS活用術~」があります。
主催 株式会社アシスト

PostgreSQL入門コース(有償)

日程 2022年10月開講
場所 オンデマンド(31日間)
内容 2022年10月に新規にスタートするオンデマンド形式のトレーニングコースです。PostgreSQL を使用した開発・管理を行ううえでのファースト・ステップとして、PostgreSQL の役割、基本構造、インストール方法概要などを幅広く説明します。
主催 株式会社アシスト

PostgreSQL Conference Japan 2022(有償)

日程 2022年11月11日(金)10:00~18:00(開場 9:30)
場所 AP日本橋(東京駅より徒歩5分)
内容 日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)によるPostgreSQLの総合カンファレンスです。プログラムが確定し発表になっています。本イベントは有料です。参加チケットの販売も始まっており、早割チケットは10月14日までです。また今年はついに懇親会も開催されるようです。
主催 日本PostgreSQLユーザ会

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