IBMは4月4日(米国時間)、メインフレームポートフォリオ「IBM z16」および「IBM LinuxOne」の新モデルをそれぞれ発表しました。本稿では同日、日本IBMが開催した製品説明会をもとに、刷新されたIBM LinuxONEポートフォリオについて紹介します。
オンチップの推論用AIアクセラレータ搭載
IBMは2022年9月にハイエンドのLinux専用メインフレーム「IBM LinuxONE Emperor 4」をリリースしましたが、今回追加された2モデルはEmperor 4のミッドレンジ版に当たる「IBM LinuxONE Rockhopper 4 シングル・フレーム」と、シングルフレームと同等のスペックでラックマウント型の「IBM LinuxONE Rockhopper 4 ラック・マウント」となります。なお、Emperor 4の正式名称も「IBM LinuxONE Emperor 4 マルチ・フレーム」となりました。ミッドレンジ版の登場により小規模なニーズにも対応できるようになり、より多様なビジネスの基盤として導入されることが期待されます。
Rockhopper 4の新しい2モデルにはEmperor 4およびIBM z16と同様に、IBMが2021年8月に発表した7nmのマイクロプロセッサ「IBM Telum」が搭載されています。メインフレームに最適化されたTelumには暗号化と圧縮のアクセラレータに加え、オンチップの推論用AIアクセラレータが組み込まれており、大量のトランザクションを実行中にレスポンスを犠牲にすることなくAI推論を行うことが可能となっています。
IBMメインフレームは世界的な金融機関や通信会社などで数多く導入されていますが、こうした企業でのミッションクリティカルなワークロード ―たとえばクレジットカードの不正利用検出や金融機関でのマネーロンダリング防止などにおいて、他のシステムにデータを出すことなくメインフレーム内の閉じた環境でトランザクションとAI推論を低レイテンシで実行できることは、パフォーマンスとセキュリティの両面で非常に大きな優位点となります。
LinuxONEはスケーラビリティにもすぐれたメインフレームとして評価されていますが、ミッドレンジとなるRockhopper 4も最大68コアのLinuxコアを搭載でき、サイジングに応じて最大16TBのRAIM(Redundant Array of Independent Memory)を搭載可能です。また、Telumに実装されているメインメモリの透過的暗号化機能や耐量子暗号システム「Crypto Express8S」により、ハイブリッドクラウドにおけるセキュリティを大幅に向上させることが可能になっています。
なお、Rockhopper 4でサポートするOSは現時点で以下の通りとなっています。
- SUSE Linux Enterprise 15 SP3 / 12 SP5
- Red Hat Enterprise Linux 7.9 / 8.4 / 9.0
- Ubuntu 20.04.1 LTS
LinuxONEが提供するサステナビリティ
Rockhopper 4のもうひとつの大きな特徴は、シングルフレームに加え、同じスペックのラックマウント型が提供されている点です。これは顧客が所有する19インチラックと電源ユニットを活用できるモデルで、1ラックでストレージやSAN、スイッチを統合することができるほか、データセンター内で他社製品と共存させることも可能なので、データセンターのフットプリントを大幅に削減することにつながります。
日本IBM 執行役員 テクノロジー事業本部 メインフレーム事業部長 渡辺卓也氏はミッドレンジのメインフレーム製品にシングルフレームとラックマウントを用意した理由として「ハイブリッドクラウドをベースにしたイノベーションの加速、ビジネスレジリエンスにおけるリスクの低減と信頼性/透明性の向上、そしてセキュリテイやパフォーマンスを妥協しないサステナビリティの実現」を挙げています。なお、Rockhopper 4と同時に発表されたIBM z16も同様にシングルフレームとラックマウントが用意されています。
ここでIBMがとくにフォーカスしているのがサステナビリティという要素です。すでにグローバルではLinuxONEによる効率的なワークロード統合が実現したことでサステナビリティが向上したという事例がいくつか発表されており、たとえばCiti Groupは大量のMongoDBインスタンスをLinuxONEに移行し、パフォーマンスが15%向上したほかセキュリティ機能も大幅に強化、「ネットゼロカーボンミッションへの取り組みにおいて大きな成果を上げることができた」とLinuxONEのサステナビリティを高く評価しています。
また、ヨーロッパのある金融機関はOracleワークロードをLinuxONEに統合、16台のx86サーバを1台のLinuxONEに統合し、コア数は1/15、さらに電力消費量の70%削減とソフトウェアライセンス数の60%削減を実現、TCOと温室効果ガス排出量を大きく低減させました。
このようにリソースを効果的に集約できるLinuxONEに、さらにデータセンターの効率的な運用を実現するラックマウントモデルを追加することで、サステナビリティを経営課題とする企業に対して幅広い選択肢を提供していくとしています。
「世界中でメインフレームを売る企業がIBMだけになっても、決してメインフレームをやめることはない」(渡辺氏)とメインフレームビジネスへのコミットをあらためて表明したIBM。Linuxメインフレームにおいても、マルチフレーム(ハイエンド)の大型なコウテイペンギン(Emperor)に加え、より軽量で俊敏性の高いイワトビペンギン(Rockhopper)も一緒に着実に世代を重ねていくことになりそうです。