メルカリBitcoin取引サービスローンチの背景にあるBitcoin決済技術の進展 ~Lightning Networkの概要と活用への取り組み

メルカリがローンチしたBitcoin取引サービスの好調な滑り出し

株式会社メルカリ(以下、メルカリ)の子会社で、暗号資産やブロックチェーンに関するサービスの企画・開発を行う株式会社メルコイン(以下、メルコイン)が2023年3月9日にBitcoinの取引サービスをローンチしました。

ローンチから約1か月後の4月3日、メルコインのプレスリリースにおいて、Bitcoin取引サービスの利用者数が開始2週間で10万人に達したと好調な滑り出しを発表しています。

上記プレスリリースでは、サービス利用者の大半がメルカリのアプリで初めてBitcoinを保有したという報告もあり、メルコインが掲げた、Bitcoin取引の経験がないユーザーにもBitcoinを身近に感じてもらう、という当サービスにおける目的は一定の成果を上げられたように思われます。

先月ローンチされたメルカリのサービスは、現状、アプリ内で購入できるのはBitcoinのみ、購入したBitcoinをアプリ外には出金できない仕様となっており、さまざまな暗号資産を取り扱う一般的な暗号資産取引所の売買サービスとはUXも用途も大きく異なります。

日本国内では珍しいサービスですが、米国では、暗号資産取引所以外にも、サービスやアプリ内において、Bitcoinや暗号資産を利用できる機能を提供したり、提供の計画を公表していたりする企業やサービスはあります。

例としては、TwitterやNostrではBitcoinなどの暗号資産をアプリ内で投げ銭として支払ったり、PayPal、CashApp、Robinhoodでは法定通貨(米国ドル)と暗号資産の交換を行ったり、スターバックスコーヒー、マクドナルドではBitcoinを商取引の決済として利用したりできます。

しかし、そのようなサービスやアプリ内の機能を利用せず、⁠厳密な説明・表現を無視して述べると)Bitcoinのそのものの決済速度を向上して日常の少額決済・商取引にも利用できるように目指している技術もあります。

その中で、今後発展が有力視されている技術の1つとして、⁠Lightning Network」⁠ライトニングネットワーク)というオープンソースのプロトコルがあります。

さきほど述べた米国でBitcoinを送金や決済に用いるサービスやアプリはもちろん、米国の暗号資産取引所などにおいては、Lightning NetworkをBitcoinの送金に導入している、もしくは導入しようとするものが増加しています。

NASDAQ上場企業で、米国最大手の暗号資産取引所「Coinbase」CEOブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)氏も4月9日のツイートで、Lightning Networkの導入予定について公言しました

そして、3月30日、先日ローンチされたメルカリのBitcoin取引サービスで、バックエンドエンジニアを務める清水勇介氏が「企業のためのビットコインセミナー Vol.1」⁠主催:Diamond Hands)と題したセミナーにて、Lightning Networkの概要と昨今のビジネスユースケースを解説、発表しました。

当日のセミナーの模様は、Diamond HandsのYouTube Channelで4月6日から公開されています。

セミナー動画:ライトニングネットワークとビジネスユースケース By 株式会社メルコイン清水勇介

セミナーでは、清水氏個人のアイデア段階という断りは入れながらも、メルカリのアプリ内のポイント補充として、Lightning Networkを活用する機能のデモムービーまで公開されており、メルコインとしてもLightning Networkの導入については強く意識しているように見受けられます。

当記事では、セミナーで紹介されたLightning Networkで重要となる概念や機能について、補足を交えながら解説します。

そして、記事の後半では、メルコインがBitcoin、Lightning Networkを自社サービスに取り入れようとしている背景として、現在、世界中の国や地域、企業で広がっているBitcoin、Lightning Networkを利活用した取り組みについても紹介します。

Lightning Networkとは?参考ドキュメントやセミナーでの解説要点

はじめに、Lightning Networkの概要について簡単に述べると、Bitcoinの支払いを「オフチェーン取引」で実行できるようにするオープンソースのプロトコルです。

オフチェーン取引とはBitcoinのブロックチェーンの外部に取引情報(以降、トランザクションとも呼びます)を移行することで、Lightning Networkでは1円以下の少額でも、安い手数料で、高速に、プライバシー性を高めて決済できるようにすることをおもな目的としています。

Lightning Networkは、有志により、その技術を解説するドキュメント『Mastering the Lightning Network』がGitHub上で一般公開されています。

上記ドキュメントの作成、公開には、⁠Mastering Bitcoin』⁠Mastering Ethereum』などの著者で、BitcoinやEthereumなど暗号資産関連の技術解説を精力的に発信しているギリシャ出身の実業家アンドレス・M・アントノプロス(Andreas M. Antonopoulos)氏など、著名な人物も携わっています。

Andreas M. Antonopoulos氏
Twitter:https://twitter.com/aantonop
YouTube:https://www.youtube.com/@aantonop

セミナーでは、清水氏はおもに上記のGitHub上のドキュメントを引用しながら、Lightning Networkのとくに重要な以下の概念、機能を抜粋して、説明しています。

  • フェアネスプロトコル
  • Bitcoinのスケーリング
  • ペイメントチャネル
  • マルチホップ
  • インボイス
  • オニオンルーティング

セミナーでは上記用語をベースにLightning Networkの要点をまとめられていますが、時間の都合もあり、全体的に説明が簡略化されています。当記事では対象読者を「Lightning Networkの名前は聞いたことはあるくらいで、詳細は知らない」といった入門者にも広げられるように、GitHub上のドキュメントを参考にしながら、補足や意訳を加筆して解説します。

引用元ドキュメントの「Attribution-ShareAlike 4.0 International (CC BY-SA 4.0)」ライセンスに基づき、要件を満たせば、当記事の内容は引用や改変が可能です。

フェアネスプロトコル

図1

まず清水氏は、Lightning Networkの具体的な機能解説をはじめる前に、BitcoinやLightning Networkにおいて重要となる「フェアネスプロトコル」という概念について解説します。

一般的に、銀行など既存金融機関のシステムにおいて、資金を送金したり着金したり管理する際は、第三者を信頼することが前提になります。この第三者は、システムを管理しており、システムの参加者同士の支払い結果を左右できるほどの権限を持つ集権的な機関です。

しかし、Bitcoinのような分散型システムにおいては、特定の第三者に依らずプロトコルに対して信頼(トラスト)を置いています。このような仕組み・概念をフェアネスプロトコルと呼びます。

フェアネスプロトコルが機能することで得られるメリットは、集権的な第三者機関を信頼せず、第三者機関からの許認可を必要とせず、はたまたシステムの参加者同士で信頼関係を構築せずとも、参加者が望んだ通りの公正な支払い結果を得られることです。

また第三者機関への信頼を必要とするシステムは、何らかの理由で該当の第三者機関がシステムの運営・維持を約束できなくなった場合、当然ですがシステムの参加者は望んだ通りの公正な支払い結果を得られません。つまり、該当の第三者機関がシステム全体の運営・維持に影響を与える可能性のある唯一の弱点となり得ます。

フェアネスプロトコルは、Bitcoinが第三者に依らず公平な商取引を保証するための大前提と呼べるほど重要なものです。

Bitcoinにおいては、このフェアネスプロトコルが機能するために、ハッシュ関数や公開鍵暗号など暗号技術、電子署名技術の組み合わせ、ゲーム理論で裏付けされたインセンティブ設計などを用います。

BitcoinやLightning Networkは、さまざまな技術や理論を組み合わせて、システム参加者の行動に強制力を働かせ、第三者に依らない形でシステムが自律的に駆動するよう設計されている、といえます。

フェアネスプロトコルにとって重要なPoW⁠そしてハッシュレート

清水氏はBitcoinのフェアネスプロトコルの具体例として、コンセンサスアルゴリズムの「Proof of Work」⁠PoW)を挙げ、PoWがしっかり機能しているかどうかの指標の1つに、マイニングのハッシュレートが参考になると見解を述べます。

ハッシュレートとは、Bitcoinマイナーがマイニング(Bitcoinの新規発行、およびトランザクションの正当性の検証)をする際の1秒あたりの計算能力、採掘速度を示すものです(単位はhash/s⁠⁠。ハッシュレートが高ければ高いほど、Bitcoinマイナーによるマイニングの作業が盛んに行われていることを表します。

ハッシュレートはBitcoinのマイニングが開始されて以降、右肩上がりで成長しており、このハッシュレートの高さが維持されれば、Bitcoinの公正な取引を検証するマイナーの数も多いことになり、すなわちBitcoinのシステムとしての持続可能性も維持される、といった主旨でハッシュレートの重要性を説明しています。

Bitcoinのスケーリング

図2

続いて、BitcoinにLightning Networkが必要とされ開発された理由の1つとして、Bitcoinのスケーリング問題について清水氏は解説します。

Bitcoinは、グローバルに、つまりインターネット上に分散・共有・公開された台帳(過去の取引履歴すべてを記録したもの)に取引が追記される仕組みにより、恒常的に大量のデータが生成されるため、スケーラビリティ(拡張性)が困難である課題が度々指摘されます。

Bitcoinは、仕様上、1ブロックあたりの生成時間が約10分間隔、取引を記録できる1ブロックあたりのデータサイズ(以降、ブロックサイズとも呼びます)は1MBに制限されています。そのため処理できるトランザクション件数が毎秒6件前後といわれています。

処理できるトランザクション件数に限りがあるため、Bitcoinネットワークの取引ボリュームが増えると、ブロックに入りきらず捌き切れないトランザクションが生じます。そのようなトランザクションは「mempool」と呼ばれるキュー(先入れ先出し方式のデータ構造)に一時的に保持され、そこでマイナーによるトランザクション承認を待つことになります。

多くのユーザーは、自分のトランザクションを他より優先して承認してもらいたい場合、高い手数料を支払うようになり、自然とユーザー間に競争が生じて、トランザクション手数料は高騰します。

スケーラビリティ問題に対処しようとした過去事例とBitcoinが図るオフチェーン⁠スケーリング

ブロックサイズの容量制限により処理できるトランザクション件数に限りがあること、承認待ちトランザクションの渋滞により手数料高騰を招くこと、とスケーラビリティに起因する諸々の課題解決へのアプローチは過去いくつか試されています。

たとえば、Bitcoin CashやBitcoinSVでは1ブロックあたりのブロックサイズを拡大したり、Litecoinではブロック生成時間を短縮したりして、対応を試みる別の暗号資産が登場しました。

しかしこれらのアプローチは、管理すべきブロックサイズが肥大化し、ノードの運営負担が増大。結果的に高度な管理能力を備えた少数のノード運営者の集権化を招いてしまいます。ちなみに、ノード運営者とは、特定のブロックチェーンに参加するコンピュータの所有者や管理者全体のことを指し、マイナーに限らずフルノードを保持する者も含めます。

Bitcoinにおいては、ノード運営者の集権化を避けながら、スケーラビリティ問題を解決するために、Bitcoinのブロックサイズやブロック生成時間などの仕様変更ではなく、オフチェーン取引(オフチェーン・スケーリング)を行うアプローチが図られています。オフチェーン取引とは、前述しましたが、ブロックチェーン外にトランザクションの記録を残す方法で、レイヤー2プロトコル、レイヤー2ソリューションなどと呼ばれる場合もあります。

そして、Bitcoinにおけるレイヤー2プロトコルの提案として、現在最有力とされているのがLightning Networkです。

ペイメントチャネル

図3

次にLightning Networkの基礎といえる、ペイメントチャネルに解説が移ります。

清水氏はペイメントチャネルのことを「Bitcoinのブロックチェーン上のスマートコントラクトで、P2Pネットワークを作って通信するプロトコル」と表現します。別の表現に言い換えると、入金側と着金側の二者間に設定されるオフチェーンの送金通路、といえるでしょうか。

ペイメントチャネルを開くには、まずBitcoinの送受金をしたい二者間で、⁠Lightning Peer Protocol for Channel Management」という通信のルールに則ったメッセージのやり取りを行い、⁠2-of-2マルチシグアドレス」⁠入金側と着金側両者の署名が必要なアドレス)を作成します。次にそのアドレスに資金(BTC)を預け入れます。この資金を預け入れることを「ファンディング(入金)トランザクション」と呼び、Lightning Networkにおいては、通常Bitcoinの最小単位である「Satoshi」⁠0.00000001BTC=1Satoshi、1億分の1BTC)単位で計上されます。

ペイメントチャネルでは、ファンディングトランザクションで入金したSatoshiはブロードキャストしません。ブロードキャストとは、トランザクションをBitcoinのネットワーク全体に送信しブロックチェーンに記録させるプロセスですが、ペイメントチャネルは後述する途中での不正防止のためにも、ブロードキャストは行わない仕様になっています。

清水氏も解説では省略していますが、ペイメントチャネルではその後も「コミットメントトランザクション」⁠例:Refund Transaction⁠⁠、⁠クロージングトランザクション」⁠The closing_signed Message)などをオフチェーン上でつなげていき、二者間のBitcoinの送受金を成立させようとします。

オフチェーン上でのトランザクションをつなげていく際、途中、送金を持ち逃げしようと不正を働くノードが現れることが想定されるのですが、ペイメントチャネルでは、⁠非対称コミットメントトランザクション」⁠Asymmetric Commitment Transactions⁠⁠、⁠タイムロック」⁠失効鍵」⁠Revocation Keys)など、不正を防ぐ仕組みも用意されています。

ペイメントチャネルにおけるオフチェーン上で二者間のBitcoinの送受金が成立するまでのプロセスは複雑であるため、詳細はGitHub上のドキュメントを読み解くことをおすすめします。

一貫して、ペイメントチャネルでは、第三者に依らない形、つまりフェアネスプロトコルが機能する形で、Bitcoinの少額決済を実現しようと設計されています。

マルチホップ

図4

ペイメントチャネルは二者間の送金を成立させようとする仕組みを指しますが、二者間のノードが直接接続していない場合、送金はできないのでしょうか。実際には違います。

ペイメントチャネルでは、二者間のノードが直接接続していなくても、二者のノードの間に、複数のチャネルをつなぎ合わせてパス(通り道)を設定することで、Bitcoinの送金をリレー式に転送しながら目的のノードまで迂回して送金することができます。

これは「マルチホップ」と呼ばれる特徴で、インターネットのパケット通信でも、複数の中継ノードを経由してパケットが目的地へと送信される仕組みがありますが、これに似た仕組みといえるでしょう。

マルチホップによるメリットとしては、必ずしもBitcoinの送金側と着金側のノード同士が直接接続されていなくとも、他のチャネルを中継して送金できることです。

また、Lightning Networkに参加するユーザー数(ノード数)が増えれば増えるほど、送金を中継するチャネル数も増えて送金のルートを確保できる可能性が高くなり、送金がより安定しスムーズになる、というネットワーク効果が働く期待があります。

清水氏は解説を省略しましたが、Lightning Network内のノードとそれらノード間のチャネルをグラフ構造にしたものを「チャネルグラフ」と呼びます。このチャネルグラフは、Apache Cassandra、Amazon DynamoDBなどの分散型データベースシステムにも応用されている「ゴシッププロトコル」⁠情報を効率的に伝播させるための通信プロトコル)を用いながら構築されます。

そして送金側が着金側までの連続したパスを探すプロセスを「経路探索」といい、この経路探索の際には送金側はチャネルグラフを調べます。

オンチェーンとオフチェーンのBitcoinは同じ価値

加えて、重要な特徴として、オンチェーン上のBitcoinと、Lightning Networkのオフチェーン上にあるBitcoinは、どちらも同じBitcoinであり、価値も同じである点が説明されています。

これは、オンチェーンとオフチェーンの異なるレイヤーで流通しているBitcoinであっても、それぞれが個別の暗号資産というわけではなく、等価なBitcoinであることを強調しています。

この特徴が強調される理由については、別の暗号資産と比較しながら補足します。

たとえばEthereumでは「Wrapped Bitcoin」⁠単位:wBTC)というERC-20規格に準拠したトークン(暗号資産)がありますが、これはBitcoinをEthereumのブロックチェーン上で相互利用できるようにしたり、BitcoinをDeFi(例:UniSwap)でも取り扱えるようにしたりするため作成されたトークンです。

Wrapped BitcoinとBitcoinは「1wBTC=1BTC」と原則等価していますが、その等価を維持するための仕組みは、BitGoやKyber Networkという企業・組織がカストディアン(管理者)として、Wrapped BitcoinとBitcoinの交換を管理し、保管する役割を担っています。そのため、Wrapped Bitcoinには、Bitcoinとは別次元の、第三者への信頼を必要とする仕組みが内在していることになります。

Lightning Networkのオフチェーン上で流通するBitcoinには、オンチェーンのBitcoinとの等価を維持しようとする第三者は存在せず、つまり第三者への信頼は必要としない形で、オンチェーン上で流通するBitcoinとの等価を保っているのです。

第三者に依らずにシステムが機能する形を、Lightning Networkが追求している特徴が強調されています。

インボイス

図5

Lightning Networkにおける支払いのほとんどは、着金側が生成する「インボイス」⁠請求書、支払い指示書のようなもの)によって始まります。これはBitcoinのアドレス(一般的に27〜34文字の英数字で構成された文字列)を指定して送金する仕組みとは大きく違う特徴です。

インボイスはbech32フォーマットの長い文字列としてエンコードされるか、QRコードとしてエンコードされ、ライトニングウォレット(Blue WalletやWallet of Satoshi、Breez Walletなど)というLightning Network決済に対応したウォレットによって読み込めるようになっています。

インボイスは、Lightning Networkの帯域外、つまりメールやメッセンジャーアプリなど、他の通信手段を介して送金側と着金側はやり取りできます。

これは、現在広く普及しているQRコード決済とUXは似ており、アドレスを指定して送金するオンチェーンの支払いと比較して、送金のミスを減らせるメリットが見込まれています。

清水氏はここで補足として、⁠Lightning Networkでは)部分的に支払いが成功するということはなくて、必ずアトミックに成功するか失敗するかどちらかになる」と説明していますが、これはいわゆる「アトミック性」⁠Atomicity)に関する説明です。

アトミック性とは、特定の処理が全体として完全に成功するか、全く実行されないか(つまり失敗して元に戻るか)のどちらかの状態になることを意味します。

Lightning Networkでは、アトミック性はHTLC(Hash Time-Locked Contracts)という仕組みを通じて実現されています。HTLCにより、送金プロセスが途中で失敗した場合、ペイメントチャネル内に預けた資金は適切に元のチャネルへ払い戻されるようになります。

HTLCがアトミック性を保証することで、送金を中継するノードが送金を持ち逃げしようとする不正防止にも役立っています。

オニオンルーティング

図6

重要機能紹介の最後には「オニオンルーティング」について説明しています。

オニオンルーティングは、インターネット上の通信経路を匿名化するために開発された技術で、Torブラウザでも利用されています。

Lightning Networkの場合は、オニオンルーティングによって各ノードは前後のノードに関する情報以外は知り得ることができない、プライバシー性の向上として寄与しています。

各ノードは直接の前後ノードにしか支払いに関連した情報を把握できないため、Bitcoinのオンチェーントランザクションと比較するとプライバシー性が高い特徴があります。

Bitcoinのオンチェーン上のトランザクションは、ブロックチェーンにすべて記録されているため、ブロックエクスプローラーを使用すれば取引履歴すべてを追跡できます。

それと比較すると、Lightning Networkは、支払いのルート全体についての情報が漏洩するリスクが低減されるため、プライバシーが保護され、第三者による追跡や分析が困難な特徴があります。

Lightning Networkのビジネスユースケース

セミナーでは、最後にこれまで解説したLightning Networkの特徴をまとめて、重要な機能や概念の解説を締めくくります。

続いてLightning Networkをビジネスとして利用しているユースケース紹介へ移りますが、詳細はセミナー動画をご視聴ください。

動画内の「エコシステム」で紹介された、ノルウェーの暗号資産リサーチ企業である「K33 Research」(旧Arcane Research)のレポートでは、Lightning Network上のチャネル数が順調に拡大している推移や、米国におけるLightning Networkを事業に導入している企業のカオスマップが掲載されているため、ビジネスユースケースの概観把握の参考になるでしょう。

また、清水氏は米国の動向だけではなく、日本国内でLightning Networkを活用しようとしている企業による事例(Nayuta、Diamond Handsなど)も紹介しています。

米国以外のLightning Networkに対する取り組み

以上が、メルカリのBitcoin取引サービス開発者によるLightning Networkの概要およびビジネスユースケースのセミナー解説でした。

メルコインのように、暗号資産取引所以外で、Bitcoin、Lightning Networkに着目する企業というのは、日本国内では珍しいケースでしょう。一方、国際的にみると、Bitcoin、Lightning Networkを商取引に利活用しようとするのは、前述した米国の企業動向以外にも、さまざまな国や地域で見受けられます。

2021年9月に世界で初めてBitcoinを国の法定通貨に採用したエルサルバドルでは、Bitcoinを日常の商取引にも利用できるように、「Wallet of Satoshi」などLightning Networkに対応したライトニングウォレットの利用が推進されようとしています。

その他、スイス・ルガーノの「Lugano's Plan ₿」、グアテマラ・パナハッチェルの「Bitcoin Lake」、フィリピン・ボラカイ島の「Bitcoin Island」という地域単位のプロジェクトもあります。

今年3月には、ベトナム・ダナンで、アジア初のLightning Networkの開発者向けカンファレンス「LIGHTNINGCON VIETNAM」も開催されました。

上記の多くの国・地域のプロジェクトでは、Bitcoinを決済として受け付ける小売店舗があり、決済速度向上としてLightning Networkを活用することが公表されています。

しかし留意したい事項としては、Bitcoin決済が技術的に可能になっているからといって、必ずしも実際にBitcoin決済が普及している、とはいえない状況があります。たとえばエルサルバドルでは、Bitcoin法定通貨化から1年後の2022年の普及状況が日経新聞で報じられていますが、エルサルバドル現地の人々は政府が決定したBitcoinの利用については、総じて冷ややかな印象を抱いている様子が伝わります。

Bitcoinに特化したカンファレンス⁠Lightning Network以外の注目技術

実際にBitcoin決済が普及するかどうかは技術的な課題だけではなく、Bitcoinの急激な価格変動など、経済的な面も含めて複雑な要因が絡むようです。

欧米では、そのような課題も含めてBitcoinを多角的な視点で捉えてBitcoinの可能性を議論するカンファレンスがしばしば開催されています。

2022年には、オランダ・アムステルダムでは「Bitcoin Amsterdam⁠⁠、イギリス・エディンバラでは「Bitcoin Collective⁠⁠、米国・マイアミでは「Bitcoin 2022」といったBitcoinに特化したカンファレンスが開催され、今年2023年も開催される予定です。これら多くのカンファレンスでは、Lightning Network含めて、Bitcoinを活かした多くの周辺技術が紹介されます。

Lightning Network以外で注目されたことのあるBitcoinのレイヤー2ソリューション(もしくはレイヤー3ソリューション)としてはたとえば以下があり、今後も注目されることが予想されます。

  • Drivechain: サイドチェーン技術を用いたBitcoinを拡張させるソリューション
  • Taro:Bitcoinブロックチェーン上でデジタルアセットを発行できるようにするプロトコル
  • RGB:Bitcoinのレイヤー2および3で動作する、クライアントサイド検証型のスマートコントラクトシステム
  • Impervious:Lightning Networkのノード上(Bitcoinのレイヤー3)にさまざまなストリーミングサービスを構築するシステム
  • Sapio:Bitcoinスマートコントラクトを作成するためのフレームワーク

Lightning Networkをはじめ、Bitcoinを一般的に普及させることを目指した技術開発は進められていますが、Bitcoinにはマイニング消費電力による環境負荷や、ランサムウェアに悪用されることが多いなど、社会的には無視してはならない課題もあります。

Bitcoinがそのような課題を解消できず、社会的な有益性も見出せないまま、潰えていく可能性も否定はできないかもしれません。

しかし、現状は世界中のさまざまな国、地域、企業が、可能性を模索して開発を進めている段階といえるでしょう。

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