KeebKaigi 2023 レポート ~Rubyコミュニティと自作キーボードコミュニティのつながりから生まれたイベント

2023年5月11日から13日に行われたRubyKaigi 2023のプレイベントとして、5月10日に自作キーボードに関するイベントであるKeebKaigi 2023が長野県松本市のコワーキングスペース33GAKUにて行われました。

会場入り口
図1

KeebKaigiとは

なぜ、RubyKaigiのプレイベントに自作キーボードのイベントが行われたのでしょうか?

近年のRubyKaigiの会場では、RubyKaigiの参加者たちが自主的に自作キーボードを持ち寄り廊下でミートアップが開催されていました。

そして今年の開催地である松本市には、44キーの分割キーボードであるSilverBulletや、自作キーボードの試作に便利な基板である無限の可能性の設計者である王立魔界鍵盤製作所魔王さんが住んでいます。そんな彼が松本開催のRubyKaigi 2023のローカルオーガナイザーとして参加するということになりました。一方、Rubyで自作キーボードの設定を書くことができるファームウェアであるPRK Firmwareが2021年にhasumikinさんにより開発されます。

このような流れがあり、松本開催のRubyKaigiのタイミングでRubyコミュニティと自作キーボードコミュニティのつながりがもてるようなイベントが行えないかと企画がスタートしました。

自作キーボードとRubyKaigiの融合ということで、英語圏でのキーボードを指す「keeb」とRubyKaigiの「Kaigi」から、KeebKaigiという名前が誕生したのでした。

開催までの道のり

オーガナイザーは、東京、松本、松江とバラバラの地域で生活しているため、KeebKaigi当日まで一度もリアルでは集まらず、オンラインで開催準備をすすめていきました。

最初はゆるいイベントを想定していたのですが、イベントのページを合同会社esaken_c_loさんにお願いしたところ、我々の予想を上回る素晴らしいランディングページをデザインしてくれたため、デザインに負けないイベントになるように気合が入りました。

ホームページを公開した直後から反響が多く、チケットは数日で完売。スピーカーを公募した"狭ピッチ"トークは応募者多数だったり、様々な企業からの支援等があったりし、無事開催することができました。

当日の会場の様子

当日は発表者の方を含め、50名以上の参加がありました。来場者には、ノベルティとして松本城の3Dモデルを利用したキーキャップが配られました。

当日配られた松本城キーキャップ
図2

スポンサーで、日本最初の自作キーボードオンラインショップTALP KEYBOARDさんより、PRK Firmwareを動かすことができる、Raspberry Pi Picoとともに使うキーボード用の基板Gherkin for the Raspberry Pi Pico(赤色版)も配布されました。このほかTALP KEYBOARDさんには KeebKaigi当日限定の送料無料クーポンも発行していただけました。

TALP KEYBOARDさんより配布されたGherkin for the Raspberry Pi Picoの基板(撮影:やまぐちなおと)
図3

同じくスポンサーで、個人の開発した自作キーボードなどの頒布によく使われるBOOTHを運営しているpixivさんからは、自分のBOOTHのURLをだすことのできるアクリルスタンドが頒布されました。

同じくスポンサーで、秋葉原に店舗を構える自作キーボードショップ遊舎工房さんは会場にブースを出展し、販売しているキーボードの展示やキースイッチの試し打ちのできるコーナーを用意しました。さらに遊舎工房オリジナルキーボードPrimer79のKeebKaigi特別仕様モデルの展示もありました。

KeebKaigi仕様のPrimer79
図4

また、参加者が自身のキーボードを持ち込み展示し、お互いのキーボードを試すことができる交流コーナーが用意されました。

展示されたキーボードたち(1)
図5
展示されたキーボードたち(2)
図6

この会場の様子は、メカニカルキーボードのレビューや自作キーボードイベントの配信で有名なDaihuku KeyboardDaihukuさんにより、YouTube Liveで配信されました。イベント終了後の現在では、当日のアーカイブと発表のみにフォーカスされた編集版が公開されています。

トークの様子

KeebKaigiオーガナイザーのKakutaniさんから、自作キーボードとRubyKaigiの歴史や今回の開催に至った主旨、本日の発表者の紹介、会場の諸注意等が紹介が行われ、KeebKaigi 2023がスタートしました。

オープニングトークの様子
図7

ここからは、KeebKaigi 2023の発表について紹介していきます。

Me, Keyboard, and RubyKaigi 2023

KeebKaigi 2023最初のトークは、RubyKaigi 2023ローカルオーガナイザーであり、KeebKaigi 2023のオーガナイザーでもある魔王さんのトークでした。

はじめに、スタッフとして参加したRubyKaigi 2022において誰が一番変なRubyのコードを書けるかを競い合うTRICKに影響を受けたことを挙げ、自身も挑戦した結果を紹介しました。紹介されたコードは、最初松本城のような形状のコードが実行すると、KeebKaigiのロゴに変化し、ゲーミングキーボードのようにグラデーションするというものです。

KeebKaigi最初のトーク
図8

そこから、自身が作製したこれまでのキーボードや、RubyKaigiとの関わりを紹介しました。そして、KeebKaigiのノベルティとして作製した松本城キーキャップや、RubyKaigi 2023のノベルティとして作製された特製キーキャップと2x2キーのマクロパッドを披露しました。

RubyKaigi 2023のノベルティのキーボード
図9

KeebKaigiの目的の一つである「キーボードコミュニティーとRubyコミュニティーの相互交流」を表現したかのようなトークでした。

Buillding the Perfect Custom Keyboard

続いて、Nomu30Choco60といった人気のあるキーボードを設計しているrecompile keysの人であり、古くからのRubyistでもあるtakaiさんによる完璧なカスタムキーボードを作製するというトークがありました。

はじめに、自作キーボードとカスタムキーボードの違いを紹介しました。完璧なキーボードをつくるためには、いろいろなキーボードを触り、経験し、自分にとって完璧を理解する必要があると言います。Appearance, Typingfeel, Typing soundsという評価軸を紹介し、自身にとっての好みを理解しやすくなる手助けをしてくれました。

そして、最近のカスタムキーボードの構造が似通っていることに言及しつつ、その一方今までスタンダードだったものがCovid-19の様々な影響で新しいスタンダードが生まれようとしているタイミングになってきていることを教えてくれました。実に濃いキーボードトークの時間でした。

"狭ピッチ"トーク

技術系のイベントで行われているライトニングトークと同じ形式で、一人 5 分の"狭ピッチ"トークが 11 名で行われました。⁠狭ピッチ」とは、キーボードのキーとキーの幅が通常よりも狭くコンパクトなものを指す言葉であり、KeebKaigi ではその単語が採用されました。

"狭ピッチ"トークでは、初めて自作キーボードを組み立ててみた話から、壊れたキーボードを修理する話や、タイピング練習についての話、キーボードファームウェアで日本語入力やMIDI入力を実装した話、自身でキーボードを設計するための話など、多岐にわたる内容のトークが繰り広げられ盛り上がりました。

HITCHIHIKER’S GUIDE TO THE SELF MADE KEYBOARD COMMUNITY

KeebKaigi 2023は、既に自作キーボードにはまっている人だけでなく、自作キーボードを始めたばかりだったり、盛り上がりをみて興味をもってくれたような人たちも参加者のターゲットとして見込んでいました。そこで、参加者に自作キーボードのコミュニティについても知ってもらうため、自作キーボードコミュニティについての紹介トークを筆者であるtakkanmが行いました。

筆者はRubyKaigiの魅力の一つに、Rubyで楽しく過ごしている人たちを知ることができることがあると考えています。このKeebKaigiが自作キーボードを楽しんでいる人たちを知るきっかけにもなってくれればと思い、このトークを行いました。

Crafting the Endgame Keyboard

自作キーボードコミュニティで強い人気のある40%キーボードのCorneの設計者であるfoostanさんは、自身の設計したキーボードを例にし、どのような思想やアプローチで設計してきたかをふりかえるトークを行いました。

キーボードとして、DIYを意識したCorne、ハイエンドカスタムキーボードを意識したCornelius、それぞれにおいて異なる設計思想やコンセプトや過程を紹介しました。それぞれのキーボードは、先人が作ったキーボードを参考にし、自身の理想に落とし込んでいくという流れが印象深かったです。

また、コミュニティから受けた恩恵をコミュニティに還元していくというソフトウェア業界と同じ流れがハードウェアコミュニティにもあるということを指摘していました。

最後に現在開発中の3Dエルゴノミクスを意識したCornetyl(仮)を紹介しました。

Cornetyl(仮)
図10

自分の欲しいものを追い求めて設計し、実現していく情熱がとても伝わるトークでした。

Pointing Device On The Partner Half

PRK Firmwareの作者であるhasumikinさんは、キーボードファームウェア作者が何を考えて実装しているかを現在実装中のポインティングディバイスサポートを例にして紹介しました。

近年、自作キーボードではKeyballシリーズに代表されるトラックボールのようなポインティングディバイスを組み込んだキーボードが流行しています。また、日本の自作キーボードコミュニティでは、キーボードが左右に分かれている分割キーボードが流行しています。分割キーボードでは、左右のキーボードについているマイコンが通信し、キーの状態をPCに送信することでキーが入力されます。

今回は、その左右のキーボードの両方にポインティングディバイスが実装されたときに、ファームウェアとしてはどのような困難があり、それを解決する方法として複数の方式を提案し、参加者からのフィードバックを求めていました。普段意識せずに使っているキーボードに、どのような難しさや配慮が行われているかがわかるトークでした。

Initial-V, Final Stage!

最後は、RubyコミッターでありRuby on RailsのコミッターでもあるAaron Pattersonさんによる、Vim専用の自作キーボードの紹介トークでした。Aaronさんは、古くからキーボードを自作しており、RubyKaigiにも持ち込んだりしています。

今回作製したInitial-Vと呼ばれるキーボードは、BMW社が販売している車のセレクトレバーを利用したものです。このセレクトレバーは、電子制御されており車の状態に連動するようになっています。今回はそれをVimのモードと対応するように自作していて、セレクトレバーのモードを切り替えればVimのモードが変わったり、Vimのモードが変わったときにセレクトレバーの状態も変わったりするというデモが行われまわれました。これには会場も大いに盛り上がりました。

展示されていたInitial-V
図11

デモの後は、このキーボードを作るまでの道のりを部品の調達から組み立て、ファームウェアとプログラムの仕組みを事細かに面白く伝えてくれました。自分の好きなことを楽しみながらやっている様子がしっかりと伝わってくるトークでした。

クロージング

すべてのトーク終了後に、スポンサーである遊舎工房さんにより提供されたキーボードキットのプレゼント抽選会があり、盛況のうちに幕を閉じました。

最後に

筆者ら運営側としては、どのようなイベントにするかを手探りの状態からすすめてきましたが、無事終わることができて本当によかってです。この場を借りてすべての関係者の皆様、参加者の皆様に感謝を述べたいと思います。

KeebKaigiの今後について現時点では未定ですが、何かしらのタイミングでまた自作キーボードコミュニティとRubyコミュニティをつなぐイベントができればよいと考えています。

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