3DP ジャングル

3DP ことはじめ ~3Dプリンターの選定と実際の購入に至るまで

みなさん、こんにちは! 今回よりソフトウェア一辺倒・一切ハードウェア素養のない初心者による3Dプリンティング(以下3DP)の世界についての連載をさせていただきます。この連載を通してこれまで3DPに興味はあったけど一歩が出なかった方や、イマイチどういうことなのかピンと来なかった方たちが最初の一歩を踏み出す助けになればと思います。

また、自らの失敗や発見、その過程で学習していったティップスなども紹介していく予定です。しかし筆者はあくまで初心者ですので、間違いや見落としもたくさんあるかと思います。そのような際には是非コメントを寄せいていただけるとうれしいです!

第1回の今回は、一番最初の3Dプリンターをどのように選定・購入したのか、その経緯を紹介します。

はじめてのプリンター選定

今回私が3DPをはじめたのは、突然「これからは3DPだ!」となったわけではなく、実は何年も前から興味あったことにようやく手を付けた、という流れでした。そもそもまわりに何人か自らのプリンターを駆使して色々作っているのは見ていて、これを買えばすぐにでもはじめられるのはわかっていました。

しかしそれでもなかなかふんぎりがつかなかったのは、やはり3Dプリンターとは「わかっている人」が使うものだという認識があったからです。組み立てるのにも、初期設定するにも、そしてメンテナンスをしていくにもある程度以上の知識が必要では「プリンターを購入したとしてもすぐ使うのをやめてしまうだろうな…」と容易に想像してしまっていました。

その認識が変わったのは2022年にあのAnker社が3Dプリンターを作る、となった時です。さすがにAnkerが出す製品であればある程度はコンシューマー向けに調整されているのでは…?というところから利用に際しての現実味がでてきました。そこでようやく重い腰をあげて色々と調べてみることにしました。

図1 AnkerMake M5のサイト
図1

情報ソースは主にYouTubeでした。実は今回購入を検討する以前から、趣味で3Dプリンターを活用する人々のチャンネルをいくつか登録して情報収集はしていたのです。自分で3Dプリンターを持っていないから内容はよくわからないのですが、それでもモノづくりをしている人達の情報は好きだったのである程度知識の蓄積はありました。

ちなみに私がよく見ていたのは以下のチャンネルあたりです。購入を検討するにあたっていくつか3Dプリンターのレビューをしている動画も見ましたが、正直あまり参考にはなりませんでした。それより、3Dプリンターで何かを作っていたり、ぶち当たった問題について語っている動画を確認するほうをおすすめします。

FDMプリンターの機能や違い

真面目に購入を検討する時点でまだどんなプリンターがあるのかも知らなかったので、少しずつ調べていきました。

まず一番大きいのは造形方式の違いです。大きくは2つあり、FDM方式に代表される、溶かした素材をつみあげていく熱溶解方式、そしてSLA/DLP方式などの素材に光をあてて素材を凝固させていく光造形方式です。これらの方式の詳細はそれだけで記事が数本書けるので割愛しますが、現時点ではFDMは緻密な造形という点ではSLAなどと比べると劣るものの、より安価で手軽と言えるため一般的に3DPというとFDM方式を思い浮かべる方のほうが多いでしょう。一応SLA方式についても真面目に考えたのですが、今回はそのあたりは割愛してFDM方式に関してしか記述しません。本記事では特に指定しない限りは3Dプリンターのことを指すときはFDM形式のプリンターを指して記述しているものと思ってください。

さて、FDMプリンターにはいくつか種類がありますが、どれもフィラメントを素材として造形していきます。フィラメントは造形に利用する素材をひも状に成形したもので、これらをだいたい200℃以上の温度で溶かして所定の位置においていくことで造形が可能となります。このフィラメントを溶かし、ノズルからその素材を一定の量ずつ押し出していくのがエクストルーダです。このエクストルーダを所定の位置に素早く絶妙に動かす仕組みとエクストルーダがどれだけ正確にフィラメントを押し出していけるのかが、FDMのプリンターの肝でしょう。

図2 エクストルーダ
図2

さらにこのエクストルーダが素材をプリントする土台となるところがヒートベッドなどと呼ばれています。溶解した素材の温度が突然下がって凝固するとまっすぐにプリントしてもそれが縮小して反ることがあるため、ある一定の温度になるように制御されています。そしてエクストルーダもヒートベッドも温度制御が重要なため、それらの熱が大きく変化しにくくなるよう囲われており、その囲いをエンクロージャと呼びます。

このような機能を調べていくと、FDM方式の3Dプリンターにおいて主だった性能の差としては大きいもので以下のようなものがあることがわかりました(細かく言えばこれ以外にもいくらでも差はあるのですが、ここでは割愛させていただきます⁠⁠。

  • 最大造形サイズ
  • 造形スピード(加速度)
  • 対応可能温度
  • プリント可能サイズ
  • エンクロージャの有無
  • データの転送方式や、操作パネルなどのUI

これらをベースに様々な機能や様々なオプションによって値段も安いものは1万円前後から高いもので15万円くらいまでのものがあるようでした。Anker Make M5を見て「簡単そう!」と思って見始めたわけですが、どうもこれは奥が深そう…ということが段々わかってきました。

なにが大事なのか⁠の選定

ここまで色々見てきて、考慮する要素はたくさんあることは理解できました。色々一長一短だということもわかったため、まずは自分が3DPを始めるにあたっての目標から逆算して選定をしてみることにしました。そもそも私がAnker Make M5にぐっと来たのは以下の2点からです。

  • Ankerなら絶対ある程度わかりやすくしてくれるはずだから開封後いきなり躓くようなことにはならないだろう!
  • 商品説明を見ると「すごい速い」って書いてある!

なぜこの2点が重要だったかと言えば、三日坊主が怖かったからです。自分の性格的に、箱を開けてすぐなにかプリントできなければやる気をほとんど失うことはわかっていましたし、さらに失敗を繰り返して色々試したかったので、プリントの一回一回が遅いとその間に飽きることが目に見えていたのです。さらに言えば、某有名3Dプリンターのようにオープンハードウェア(コンポーネントの仕様を公開することによって修理や改造をやりやすくしてくれる、OSSのハードウェア版のような思想のもの)より、問題があったら製品の交換に応じてくれるような形にしてくれないと、やはり少なくとも初心者のうちは面倒くさくなって飽きそう…という不安が強かったため、Anker社という後ろ盾はとても魅力的だったのです。

このあたりは各個人によって優先順位が違うかもしれませんが、とにかく私はそのように決めて、なにを許容できてなにが許容できないかと考えたところ、以下のようになりました。

  • 買ってきたらとりあえずすぐ動いてほしい(初期設定は自動であってほしい)
  • 細かいチューンアップやカスタマイズはいらない
  • プリントスピードは速ければ速いほうがいい

となるとAnker Make M5はやはりかなり魅力的なオプションでした。…しかし、さらに動画や記事を読んでいくと、Anker Make M5は開封した!という記事や動画は多いものの、⁠購入〇か月後」のような続報が(その時点では)ほとんどないことが気になりました。初心者ですから実際の性能などについてはわかりませんが、毎日のようにプリントしていると言っている人がM5開封3ヶ月経っても一個も続報がないのはどういうことだ…?と疑心暗鬼に駆られ始めてしまったのです。

ということでさらに調べ続けた結果、Anker Make M5より速く、プリントエリアが広く、半自動的に初期設定も行ってくれるものとして私のレーダーにあがってきたのがSnapmaker J1でした(正直に言うと、Twitter上で悩みを書いていたらポロっとSnapmakerというブランド名が出てきたので調べてみた、という感じです⁠⁠。ここまでさんざんAnker、Ankerと言ってたのに突然他の機種かよ!と思われるかもしれませんが、スピードと、初期設定の簡単さを動画等で確実に確認できたことと、どうもヒートベッドがよさそう、ということがわかったのでもうこれで行こう!という気分になったのです。

ちなみに、Snapmaker J1は正直オープンハードウェアな機種と比べるとかなりのお値段です。それの理由のひとつはSnapmaker J1はIDEXと呼ばれる、いわゆるエクストルーダ2本差しの3Dプリンターであることが大きいと思います(このことについては、またいつか触れたいと思います⁠⁠。ただ、正直この機能のために追加の料金を払う必要はないと思いますので、もし興味を持った方がいたらそのあたりを心にとどめておいてください。

ともあれ、今回は諸事情によりこの程度の予算でも充分いけることがわかっていたので、最終的にはドキドキしながらSnapmaker社のホームページから購入ボタンを押したのです…!

なお、参考のために私が調査していた2023年初頭頃の情勢でいうと、小さくて簡易なプリンタは100米ドル以下のものもあり、実績のある機種の少し古い型なら100米ドル台から、新型のものでも300米ドルから600米ドルくらいでも購入可能です。ハードウェアをチューンしたりするのが苦にならない人はそれくらいでかなりの性能のものが購入できるはずです。ですが、私はそのあたりもひっくるめても金で解決しよう、という判断をした次第です。

そして40日

……そして私は3Dプリンターについて、しばらく忘れました。

どういうことかというと、私が購入した時点で、Snapmaker J1はまだpreorderという扱いになっていて、購入即出荷というわけにはいかなかったのです。ウェブサイトには「購入後1か月以内には送れると思うよ!」という希望観測が載っていましたが、実にその後40日ほど一切音沙汰がありませんでした…。

とはいえ、私も海外から購入するものに関しては様々な経験がありますので、そこは慌てずに待っており、最悪届かなくてもしょうがないな、という気持ちではいました。それがある日、突然香港から小包というには大きすぎる25kgほどの品物が届き、私は3Dプリンターのオーナーとなったのです。

図3 購入した、Snapmaker J1
図3-1
図3-2

さて、こうしてついに3Dプリンターのオーナーとなった私ですが、皆さんもご存じの通り、ギターを持ってるからギタリストになれるわけでもありませんし、Cコンパイラを持っているからと言ってCプログラマを名乗れるわけでもありません。3Dプリンターを持っていても3Dモデリングができなければ3DPはできないのです…!

図4 If you can't 3D model, You can't 3D print
図4

次回はまだ3DPを全然わかってない私が、3Dプリンターがどうやって3Dモデルを造形するのかその仕組みを学び、そして私がどのように3Dプリンターを使うために3Dモデリングをし始めたのかについてを解説する予定です!

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