AI時代のWebブラウザから考えるWebアクセシビリティの本質
――Vivaldiのアプローチから

2023年5月、Vivaldiの日本先行でのiOS版プレビューリリース発表のためヨンが来日したことをきっかけに、インターネットの将来やアクセシビリティについて語る対談の機会が設けられました。

Vivaldiブラウザの創業者ヨン・フォン・テッツナーは、'90年代から長きにわたりWebブラウザ開発に携わってきた、ブラウザ業界のキーパーソンの一人です。彼のブラウザ開発のコアには、ユーザ一人ひとりのニーズに合わせた非常に柔軟なカスタマイズ性や、プライバシー保護があります。また、一部ビックテック企業によるユーザ行動の監視から逃れ、インターネットの安全性を高めるためのオープン標準規格やルール作りなどに貢献する活動も行っています。

聞き手は、ミツエーリンクス社でWeb標準技術の策定やアクセシビリティの啓発に携わってきた木達一仁氏です。

左から木達氏、ヨン、冨田
図 左から木達氏、ヨン、冨田

2023年のホットトピックから~生成系AIの可能性と危険性

木達:まず最初に、この対談を行っている今日5月18日は世界各地でアクセシビリティについて考え啓発する日Global Accessibility Awareness Day(GAAD)です。アクセシビリティについて議論するのに最適な日に、このような対談の機会を持つことができ、とても嬉しく思います。

まず、最近一気に注目を集め、話題の中心となっている生成系AIから取り上げましょう。ここ日本でも生成系AIが大きな話題になっています。5月16日に行われたユーザイベントVivaldiUser Meetupの場でも、参加者からAIに関する質問が出ました。ヨンさんは「すべての技術には良い面もあれば悪い面もある」と発言され、加えて将来についての懸念も示されていました。研究者や専門家の中には、AIは将来的に人類の脅威となる可能性があると本気で懸念している人たちがいます。ヨンさんから見て、AIは将来に何をもたらすでしょうか。

ヨン:技術面を見れば、音声認識の劇的な向上など多くのタスクの改善がなされてきました。アクセシビリティの観点からも、AIが人間が喋る自然言語を理解することでこれまで以上に支援できる領域が増えるでしょう。これはポジティブな面です。

一方で、AIのネガティブな面についても考えなければなりません。私たちはSNSのアルゴリズムが偏った意見を増幅する様を、目の当たりにしてきました。SNS運営企業は、人々を憎み合わせるためにそうしているのではありません。偏った思想を広めることでエンゲージメントが生まれ、ビジネスに繋がるからそうしているのです。生成系AIが、さらに偏った考えを伝搬する流れが加速する可能性は十分にあるでしょう。

AIに質問すると、一見するとそれらしい回答が返ってきますが、必ずしも正確であるとは限りません。AIは、基本的に世の中の情報を雑多に分別なく集め、解釈し、返答します。この種のアルゴリズムは簡単に操作できますし、実際にSNSでは操作されています。これこそが私が最も懸念していることです。

ヨン・フォン・テッツナー
Vivaldi Technologies 共同創業者兼CEO。
アイスランド出身。1994年からブラウザ開発に関わり、1995年にOperaブラウザを提供するOpera Software社を設立。2013年にVivaldi Technologies社を設立し、「Vivaldi」ブラウザを発表した。
図 Vivaldiブラウザの創業者ヨン・フォン・テッツナー
冨田龍起
Vivaldi Technologies 共同創業者兼COO。
2001年にOpera Software社に参画し、日本や米国のオフィスを設立、シニアバイスプレジデントとしてコンシューマ製品ビジネスをリード。2013年、ヨンとともにVivaldi Technologies社を設立。「Vivaldi」ブラウザのビジネス面を統括。
図 Vivaldi共同創業者/COO、冨田龍起

木達:ヨンさんが示された懸念について、個人的にも同感です。アルゴリズムはブラックボックスですね。

ヨン:そうです。次に、教育の観点から考えてみましょう。現在、大学でもAIの活用が進んでいると聞きます。確かに、AIはレポートの執筆や調査の役に立つでしょう。

私は、学習とは反復だと考えています。退屈なタスクもクリエイティブなタスクもすべて機械が代わりにやってくれるとしたら、学生はより多くのことをできるようになるのでしょうか、それともできなくなるのでしょうか。現時点ではまだわからないですが、私はどちらの可能性もあると思います。

WebブラウザにとってのAIの存在とは

木達:教育とAIについては何時間でも深掘りできそうですが、次の質問に移らせてください。MicrosoftはEdgeブラウザに生成系AIの技術を取り込み話題になっています。他のブラウザも同様に、AIを搭載するのがトレンドになりつつあります。Vivaldiは、AI関連機能の搭載の計画はありますか?

ヨン:現時点では、具体的な計画はありません。

現状のAIは、プロンプト次第で簡単に問題のある回答を引き出すことができてしまうのです。悪意をもって危険な方向に使えば、社会に負のインパクトを与えます。たとえば軍事用途への活用もありうるでしょう。

多くの企業が競うように、自社製品にどうAIを取り込むか、ビジネス戦略の中にAIをどう位置づけるかに取り組んでいます。革新的な技術への期待もあるし、投資家からの期待もあるでしょう。Vivaldiはプライベートカンパニーなので投資家はいません。そのため、外部からのプレッシャーはありません。だからこそ、安全に、かつユーザの利便性を高められるAI活用についてじっくり考えていきたいと思っています。

Web3と暗号資産への意見表明

木達:生成系AI以外にも、率先して最新の技術を組み込み訴求ポイントにするブラウザも増えています。たとえば、2022年発表された、ブロックチェーン技術に対応しWeb3ブラウザを名乗るOpera Crypto Browserもその1つです。

そうしたWeb3的な技術要素への対応の有無によるブラウザ競争は、ヨンさんにはどのように映っていますか?

木達一仁
宇宙開発関連組織でWebマスターとしての経験を積んだ後、IT業界へ。以来、Webコンテンツの実装工程に多数従事。
2004年から株式会社ミツエーリンクスに参加、現在はエグゼクティブ・フェロー。クライアントワークとしては、主にフロントエンドの設計や実装、関連ガイドラインの策定に従事。
図 木達一仁氏

ヨン:まず、Web3という名前にはフラストレーションを感じます。世の中でWeb3と言われる場合、その多くがWebというよりも暗号資産のことを指しているのではと思えるからです。さらに、個人的には、暗号資産の存在価値はゼロもしくはマイナスだと考えています。気候変動が世界的な問題になっている中、価値のないものに電力を消費するのは馬鹿げています。

Vivaldiは、ワークスペース機能やタブ周りのカスタマイズ性向上など、Webの概念からイノベーションを提供していきたいと考えています。

木達:ヨンさんが責任を持って意見を明確にし、発信している姿勢は素晴らしいと思います。

ヨン:ありがとうございます。暗号資産の存在価値について、私たちは2022年1月にVivaldiが絶対に暗号通貨に手を出さない理由という記事を公開しました。

当時は、暗号資産への反対意見は少なかったです。そんな中でも、自分たちが良くないと思うことについてはしっかりと意見を表明していくことが非常に大事だと思っていますし、これからも続けていきます。

サステナブルなサーバーホスティング

木達:他に社会課題や環境問題に対して取り組んでいることはありますか?

ヨン:Vivaldiはサーバーをアイスランドでホスティングしています。アイスランドは国自体がグリーンエネルギー、つまり水力と地熱で電力を100%まかなっています。さらに、アイスランドの冷涼な気候によって、サーバーの冷却に余り電力がかからない。サーバーホスティングにかかる環境負荷が少なくて済みます。

社会課題という点では、SNSの問題についても私たちは行動しています。先ほども申し上げたように、SNSプラットフォーム側の利益最大化を目的とした表示内容のコントロールは社会の分断を深めていると考えています。

私たちはFediverseの一員として、Mastodonでも使われているActivityPubをサポートすることにしました。ActivityPubがW3Cで標準化されている事実は正当性を与えてくれると思います。

一部の企業がクローズドなシステムで運営するソーシャルでは無く、支配されないオープンソーシャルが広がることは非常に意義のあることです。

補足情報

2023年6月以降、とくにTwitter界隈ではさまざまな動きが見え、7月に入りTwitterでのAPI制限が実施され、多くのユーザに影響を与えました。その動きを見てか、もう1つの巨大SNSを運営するMetaが、Instagramをベースとした新サービス「Threads」を7月6日にリリースしました。

Threadsでは、今後ActivityPubをサポートし、Mastodonなど他のプラットフォームのユーザとのやりとりが可能になると発表されています。

SNSの観点からも、今後の動きに注目です。

セキュリティとプライバシー

木達:セキュリティとプライバシーについてもお聞かせください。これらは、ユーザにとっては非常に重要なことで、Vivaldiは以前から注力されてきたと思います。一方で、Braveブラウザも同様にセキュリティとプライバシーを謳っています。これらはブラウザベンダーにとって、もはや当たり前の機能要件になり、競争上のポイントにはなりにくいと考えていますが、ヨンさんはどのようにお考えですか?

ヨン:確かに多くのブラウザベンダーが、セキュリティとプライバシーを訴求しています。その意味では、競合優位性にならないというのはおっしゃるとおりだと思います。ただしそのプライバシー保護機能は、実際にきちんと機能しているかどうかには疑問を持っています。

競合企業を語るのは好きではありませんが、たとえば言及されたBraveブラウザは、広告や暗号資産に関わるサービスを運営している会社だと、私は思っています。

プライバシーに関しては「私には隠すほどの情報はないし、無料のサービスを使うためなら自分のプライバシーが使われてもいい」と考える人も多いです。私は、プライバシーはパーソナルなものではなく、社会全体のものであると考えています。企業が私たちについて多くを知ることで、個人や社会全体に影響を及ぼす可能性があるからです。たとえばそれらの情報はソーシャルメディアのアルゴリズムに組み込まれ、我々のオンラインでの行動に影響を与えます。日本ではわかりづらいかもしれませんが、特に米国のSNSではかなり思想の過激化が進んでいることに危険性を感じています。

私たちは自社製品の競争優位性のためではなく、過度なデータ収集を止めるための規制作りに貢献したいと思っています。サービス運営上、ある一定の情報収集はもちろん必要です。ですが、たとえばメールサービスを運営する企業が顧客のメールを読み、広告配信に活用してよいとは思っていません。個人のリアルタイムな位置情報を知っていても、それはユーザの追跡ではなくサービスのために使うべきです。

私たちは実際に、EUの規制当局にプライバシー保護のためのルール作りについて働きかけています。

同時に、Vivaldiは自社製品やサービスのためにユーザの情報を収集しません。さらにユーザ行動を記録するトラッカーのブロック機能をデフォルトで搭載することで、ユーザのオンラインでの安全性を高めています。もちろんこれだけでは完璧ではなく、最初の一歩です。

図

車載ブラウザのユーザ体験

木達:少し視点を変えましょう。2023年のGoogle I/Oでは、車載ブラウザとして Vivaldiが紹介されていましたね。Vivaldiは、PC・タブレット・スマートフォンといった人間自身が直接操作する一般的な環境に加えて、人間が利用するマンマシンである自動車でも動作する唯一のブラウザだと思います。今後、新たな種類のデバイスをサポートする計画はありますか?

ヨン:自動車へのブラウザ搭載はとてもやりがいのある仕事です。私たちは、2年前から車載ブラウザに取り組んで来ました。ルノー、メルセデス、フォルクスワーゲングループのアウディ、他にも多数のブランドの自動車でVivaldiブラウザが利用できます。車載ブラウザを提供するのが、現時点では私たちだけであることには少々驚いています。とはいえ、おそらく遠くない将来に、他のブラウザも進出してくるでしょう。

アクセシビリティ観点からも、ユーザが使っているデバイスに対応することで、あらゆる場所にWebを届けることが我々の仕事だと思っています。自動車も広義の意味でデバイスと考えられますし、今後はさらに多くの多様なデバイスへ取り組みたいと思っています。メーカーさんからご相談をいただくこともあるのですが、私たちはとても小さな会社なので少しずつWebを届けるためのデバイスを増やしていきたいと考えています。

木達:自動車の中で使うVivaldiは、どんな体験なのでしょうか?

ヨン:私は、Vivaldiを搭載するポールスターに乗っています。タブレット端末のような大きい画面の車載端末にブラウザが搭載されていて、停車中のみ利用できます。キーボードを接続するためのポートもあるので、十分仕事ができます。残念ながら私の車載端末にはカメラが搭載されていないのですが、カメラを搭載している車種であれば、移動先でオンラインミーティングも可能です。仕事はもちろん、Web上のサービスを通じて動画閲覧やゲームをプレイできます。これはとても楽しい体験ですね。

Webブラウザにおけるこれからのイノベーションとは

木達:Web標準の話に移りましょう。これまで私自身もWeb Standard Projectのメンバーとして、業界や社会にとってのWeb標準の重要性を伝えてきました。現在では、Web標準の重要性がブラウザベンダーや制作者の間でも浸透しています。つまり、Web標準のサポートがブラウザ間における差別化にはつながらなくなりました。かつてのブラウザ戦争が終結し、レンダリングエンジンの寡占化が進んだ現在となってはますます、ユーザにとっての使い勝手やカスタマイズ/パーソナライズのしやすさこそ差別化のポイントになり得ると思いますが、どのようにお考えでしょうか?

ヨン:おっしゃるとおりだと思います。かつてはブラウザごとにサポートする技術や仕様の違いがあり、大きな課題となっていました。今は、主要なブラウザエンジンはほぼ同じコードを利用しているため、そこでの差別化はできません。

現在標準化の観点で取り組んでいるのは、非中央集権型の分散SNSの標準仕様「ActivityPub」です。SNSが一部の大手企業のクローズドなアルゴリズムで管理されている現状は、Web黎明期を思い起こさせます。当時私たちは、マイクロソフトやAOLなどが運営するクローズドなソフトウェアと競合する中で、W3Cの標準技術を使ってWebをオープンにしていこうと動いていました。今回も同様にオープンな標準技術でWebに貢献していきたいと考えています。

ブラウザの差別化という観点では、各社がUIの部分でユーザの利便性をいかに高めていくかに委ねられるでしょう。

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木達:VivaldiはChromiumを採用しているわけですが、ほかにもBlisk、Brave、ArcといったChromiumベースのブラウザは、いずれもChromiumの採用する方針に従わざるを得ない側面があります。先日、画像形式のひとつであるJPEG-XLのサポートの是非を巡りちょっとした論争を目にしました。技術的な議論というよりも、政治的な論争だったように私には見えましたが、ヨンさんはそうした状況をどのように捉えていますか?Vivaldiの開発戦略と、Chromiumプロジェクトの戦略が対立した場合、どうなるのでしょうか。

ヨン:彼らが目指す方向性に同意できないことはあります。特にプライバシーに関する「FLoC」「Topics」の計画に関しては、私たちは明確に反対の意見を表明してきました。

一方で、JPEG-XLのようなファイルフォーマットに関しては、たとえVivaldiのみがサポートを継続したとしても、GoogleやMicrosoftがサポートしない限りほとんど使われないでしょう。そのため、Vivaldiとして力を入れている部分ではありません。

プライバシーに関してはユーザの安全を守るために非常に重要なので、積極的に私たちの意見を表明し、しかるべき場所に訴え、変更を促していきたいと考えています。

私たちはユーザや社会のために重要であり、貢献できることに注力して取り組んで行きます。

木達:Web技術は日々進化しているものの、ユーザ視点から見るとここ数年ブラウザの利用体験に大きな変化は生まれていないように思います。ブラウザに将来、イノベーションは期待できるでしょうか?期待できるとすれば、それはどのようなイノベーションでしょうか?

ヨン:ブラウザは、ユーザにとって最も重要なソフトウェアであり続けてきました。Webページを表示し、コンテンツを閲覧し、サービスを利用するために毎日使われています。

自動車をイメージしてみてください。エンジンがあってボディがあって、といった基本的な構造は長年変わりませんが、乗り心地は日々良くなっています。またエンジンが同じであっても、自動車ごとにそれぞれ特徴がありますね。

ブラウザも同様に、基本的な機能や構造は同じでもUIは日々洗練されてきましたし、エンジンが同じであってもブラウザごとにその使い勝手は異なります。

加えて、これからもまた新しいデバイスで、新たなブラウジング体験をすることになるでしょう。これは私たちが25年以上前から言っていることです。

20年程前、Opera時代にモバイル端末へのブラウザ搭載に取り組みはじめたとき「携帯電話の小さな画面でインターネットなんか、誰も使わない」と言われました。今、手元でブラウザを使うのは当たり前ですね。

現在私たちは自動車に取り組んでいますが、今後も新たなデバイスに広げていくことになるでしょう。

話題になっているAIも、ブラウザUIに大きなイノベーションを起こす可能性があります。良い影響も悪い影響も考えられるため、よく見極めることは必要です。AIがブラウザをどのように操作するのか、そのサービスを誰がどんな目的で提供しているのかが着眼点になるでしょう。たとえばそのAIが利用者の個人情報を収集する目的で作られているとしたら、大きな問題ですね。

その意味で、ブラウザのイノベーションは今後も続くでしょう。

ブラウザのアクセシビリティ機能進化の方向性

木達:ユーザの多くは、Webを受動的に、まるでテレビを見るように利用しているように、私には思えます。積極的にブラウザを通してコンテンツに手を加え、Webを活用している例は多くありません。

これは私見ですが、Webブラウザはもっとコンテンツのカスタマイズ/パーソナライズ機能を提供すべきだと考えています。制作側のお仕着せではなく、ユーザ本位の、ユーザにとって真に見やすく使いやすいコンテンツを提供するよう、Webブラウザはブラウジング行為をもっと積極的に支援できるし、支援すべきだと考えています。その前提においてWebブラウザには、コンテンツのアクセシビリティを高める余地があると考えています。ヨンさんはもともとアクセシビリティについて積極的でいらっしゃいますが、どのようにお考えでしょうか。

ヨン:私の父は、障害を持つ子どもを専門とする心理学者でした。父の姿を見て、私自身も子どもの頃からあらゆる人々のニーズを満たす方法について考える機会があったのです。

ブラウザ開発を行う中でも、アクセシビリティの視点は常に根幹にあります。Webの仕様はそもそもデータ構造と視覚デザインが分離されているので、ページの見え方の部分だけを操作するのは可能です。VivaldiにはブラウザUIやWebページの拡大縮小、色の反転やモノクロ化などの複数のフィルターなどの機能を搭載しています。また、その操作も複数の方法を用意しています。キーボードだけで可能なショートカットや空間ナビゲーション、マウスだけで可能なマウスジェスチャーなどがあります。

インターネットが生まれたことで、多くの人々にとって情報へのアクセスやサービス利用の扉が開きました。私たちはブラウザベンダーとして、あらゆる人々のニーズを満たし、情報へのアクセシビリティを高めるべく開発を進めていきたいと思っています。

木達:現状でもユーザは、コンテンツのフォントのサイズや行の高さ、カラーコントラストなどを調整できます。ブラウザ側でのさらなるカスタマイズやパーソナライズの機能拡充は、ゲームチェンジャーになると個人的には思っています。

Webのコンテンツは制作者が作ったとおりそのまま利用するのではなく、ユーザ側がブラウザで見え方を変えることができると考えています。

その観点でいえば私が考える理想的なブラウザとは、ユーザにとって使いやすいユーザスタイルシートやユーザスクリプトを自動的に作成するものだと思うのです。現状、Vivaldiは理想に最も近いブラウザです。この考えについてどう思われますか?

ヨン:VivaldiはブラウザのUIの配置やサイズを細かくカスタムできますが、同様にWebページもユーザのニーズに合わせて自由に変えられるべきですね。

Vivaldiはページの見え方を変えられるページアクション機能を搭載していますが、独自のページアクションを編集し共有できる機能はまだありません。

CSSやJavaScriptの知識のある方ならば、さまざまなルック&フィールを適用するページアクションを作成できます。将来的には、Vivaldiのテーマギャラリー同様にページアクションを共有できる場所を用意することで、誰もが自分にあった見え方でWebページを利用できるようになれば良いと思っています。

補足情報この対談収録から数週間後、Arcブラウザがこれに近い機能Boostsの提供をはじめました。

とても良いアイデアだと思いますし、今後取り組んでいきたいことの1つです。

木達:ありがとうございます。もう1つのアイデアを共有させてください。

制作側の望むレイアウトなりビジュアルデザインをある程度は尊重しつつも、たとえば文字の大きさや行間、色のコントラストなどについてカスタマイズ/パーソナライズした結果をVivaldiが記憶できれば、同じサイトにアクセスしたときに常に見やすく使いやすい状態でアクセスできます。さらには、そのようなカスタマイズ/パーソナライズの「傾向」をVivaldiがAIを使って学習し、初訪問のサイトであってもユーザの特性にあわせてあらかじめ見やすく読みやすい設定を提案したりもできるのではないでしょうか。Webブラウザが進化する1つの方向性として、そうした方向はありうるでしょうか。

ヨン:AIが、ユーザの行動や操作やページ閲覧などの「データを自動的に集める」部分に関してはプライバシー上の懸念があります。

一方で、AIが「フォントサイズを最小にしたい」⁠画面を読み上げてほしい」といったユーザの希望に合わせた設定方法を提示したり、スタイルシートを出力することはAI技術の良い使い方の1つではないかと考えています。

木達:アイデアの基本的な部分を支持していただけて、うれしいです。それが実現されたら、大きな差別化になりますね。

ヨン:ユーザと社会的意義のために取り組んできたアクセシビリティ向上は、木達さんのおっしゃるとおり製品の魅力を高め市場での競争優位性にもつながりますね。とても、良い議論でした。

UIをシンプルに保つ

木達:高いカスタマイズ/パーソナライズ性を実現するうえで、UIが複雑化する懸念があり、UIをどこまでシンプルに提供できるかは一種のチャレンジであると認識しています。Vivaldiはかなり高いカスタマイズ/パーソナライズ機能をすでに備えていますが、UIのデザインにおいて苦労されている点ですとか、今後に向けてのお考えなどについて伺えたら嬉しいです。

ヨン:おっしゃるとおり、多くの機能を持ちながらシンプルさを保つのは、大きな挑戦です。我々の競合他社は、機能を削ることでシンプルさを保とうとしていますが、それではユーザが必要とすることを実現できません。

私たちはユーザデータのトラッキングを一切行わないので、ユーザのコンピューターの中で何が起きているのか把握していません。代わりに、ユーザと対話しています。今回の来日でも、User Meetupイベントでは多くの方と直接話ができました。皆さんからいただいた声を元に、どうすれば使いやすいインターフェースを提供できるかを日々考えています。

その一例が、インストール直後に「シンプル・ノーマル・アドバンス」の3種類からブラウザの初期設定を選べることです。シンプルを選ぶと、ユーザのプライバシーを保護しながらブラウザを利用するために必要十分な機能を設定したVivaldiが立ち上がります。基本的な使い方に慣れてきたら、その他の便利な機能を少しずつONにすることができます。

ソフトウェア開発において「ユーザの80%を満足させるべき」という主張がありますが、我々は全てのユーザに満足してもらいたいと思っています。一人ひとり異なるニーズや要求に対応する方法を追求していくのが、Vivaldiです。

その方法については、常に議論のテーマになっています。たとえば、Vivaldiを使い始めるユーザにとって迷わず使いやすいUIを考えた結果、インストール時に「シンプル・ノーマル・アドバンス」からUIの初期設定を選べる機能を追加したのですが、この質問に戸惑うユーザもいるというフィードバックを受けました。より良いブラウザのUIについては、これからも常にユーザの声を聞きながら模索し続けていきます。

Web制作者へのメッセージ

木達:Webアクセシビリティを高めていくために、デザイナーやWeb開発者に期待することはありますか?私自身もWeb制作会社に所属する一人として、ぜひお聞かせいただきたいと思っています。

ヨン:大学時代に、ユーザビリティとアクセシビリティについて学びました。その中で最も印象深い1冊が、ドナルド・ノーマンの『誰のためのデザイン?』という書籍です。この本には、見た目は素晴らしいけれども、実際には使いにくいデザインの例がたくさん載っています。たとえば、右に回すと音量が小さくなるアンプや、気づかずに衝突しやすいガラス張りの壁などです。美しい見た目とは裏腹に、機能的ではありません。

私がWeb制作者の皆さんに期待したいのは、ブラウザがコンテンツを扱いにくくするようなページ設計をしないことです。ピクセル位置の厳密な指定やJavaScriptを用いた表示の変更など、操作を難しくする要素を多用するとブラウザが適切な描画をできなくなる可能性があるからです。

見た目の美しさを保ちながらも、全ての人々、たとえば皆さんの母親にとっても使いやすいデザインが求められます。制作者の皆さんには、ぜひこの難題に挑んでほしいです。皆さんは、美しさとユーザビリティ、この2つを両立させられる能力を持っているからです。

補足情報:日本メディアツアー

ヨン氏を中心としたメディアツアーの様子については、以下記事をご覧ください。

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