文字の視認性とコントラストに関する新基準APCAを学ぼう

第1回デジタルコンテンツの視認性とWCAG2のコントラスト比の課題

はじめに

サイオステクノロジーの伊藤と申します。今回から数回にわたりデジタルコンテンツのコントラストというテーマで、WCAG2のコントラスト基準とWCAG3で検討が進められている新しい基準APCAについて解説していきます。

対象読者としては、ウェブサイトやアプリケーションなどデジタルコンテンツの制作に携わるデザイナーやエンジニア、アクセシビリティに関心のある方を想定しています。

現在勧告されているWCAG2の達成基準では、テキストや視覚要素のコントラストが一定の基準を満たす必要があります。たとえば、レベルAAでは文字色と背景色のコントラスト比が4.5:1以上であることが要求されます。

図1 テキストとの視認性を確保するために、背景色とのコントラスト比を考える必要がある
テキストと背景色のコントラストの例として、それぞれの配色が#FFFFFFと#FF9900、#FFFFFFと#E86826、#9B9B9Bと#242424のものを示している。

しかし、人間の目は明るい色と暗い色のコントラストを認識する際に、明るい色の相対輝度が高いほど視認性が高くなるという特性があります。数値上のコントラスト比が同じでも、実際の視認性は異なるということです。

WCAG2のコントラスト比の基準を満たすことは有効ですが、現状のコントラスト比の数字だけでは実際の視認性を正確に表すことができない、という問題があるのです。暗い色を基調としたダークモードでのコントラストを検討するにあたり、この問題は重要な課題となります。

本連載ではAPCAを使うことで、このような問題にどのように対応できるのか、またAPCAの基準について実例を交えて解説していきます。

デジタルコンテンツにおけるアクセシビリティの重要性

近年はPCのみならずスマートフォンの普及により、インターネットを通じてさまざまな情報にアクセスすることが容易になりました。しかし、アクセシビリティの問題を考慮せずにデジタルコンテンツを作成すると、障害を持つ人がそのコンテンツにアクセスすることが困難になります。

また、障害を持たない人でも、環境や状況によってはアクセスできない可能性があります。たとえば、日中は屋外でスマートフォンを利用することも多いと思いますが、屋外では画面の明るさが高くなるため、画面のコントラストが低いと画面が見えにくくなります。また、目が疲れているときや、視力が低下しているときも同様です。

コントラストは一例ですが、普段メガネをかけている人がメガネを忘れてしまった場合や、老化による老眼など、視認性の低いコンテンツの問題は誰にでも起こりうることです。

デジタルコンテンツは私たちの生活に欠かせないものとなっていますが、より多くの人がアクセスできるようにするためには、アクセシビリティを考慮したコンテンツを作成することが重要です。

WCAGの概要

WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)は、W3Cが策定しており、Webコンテンツのアクセシビリティを向上させるためのガイドラインです。1999年にWCAG 1.0が策定されました。その後、改訂を続けて現在はWCAG 2.2が最新のバージョンとして勧告(Recommendation)されています。本記事ではWCAG 2.0から2.2までのバージョンを総称してWCAG2と表記します。

なお、WCAG 2.0がISO/IEC 40500:2012として国際規格となっており、日本では2016年に日本産業規格JIS X 8341-3:2016として発行されています。JIS X 8341-3は、日本国内でデジタルコンテンツのアクセシビリティを向上させるための標準的な指針として利用されています。

WCAG3の策定の背景

WCAG2は、ウェブコンテンツのアクセシビリティを改善する上で非常に重要な役割を果たしていますが、テクノロジーの進化とウェブの発展に伴い、新たな課題やニーズが出てきました。

WCAG3の策定は、これらの課題やニーズに対応するため行われています。より包括的なアクセシビリティを提供することを目指し、最新のウェブ技術やアクセシビリティのベストプラクティスを取り入れることで、より進化したガイドラインを提供することを目的としています。

WCAG3では、アクセシビリティへの取り組みを評価するオプションのスコアリングシステムが含まれる予定です。オプションの適合レベルはブロンズ、シルバー、ゴールドの3つで、ブロンズレベルは各機能カテゴリのスコアと全体のスコアをもとに適合が判断される予定です。

次回、APCAの説明の中でブロンズレベルとシルバーレベルの基準について具体的に取り上げますが、ブロンズが最低限の適合レベルで、シルバーがその上位の適合レベルという認識で大丈夫です。

なお、WCAG3はWCAG2.2の後継バージョンではありますが、それ以前のWCAG2の基準を廃止するものではありません。WCAG 2.2レベルA及びレベルAAに準拠するコンテンツは、基本的にはWCAG3でも準拠レベルを満たすものとして整理が進められると思われます。

WCAG 2.2のコントラスト基準と課題

WCAGの内容すべてについては本稿では扱いませんが、WCAG 2.2では、以下の4つの原則(Principle)が定義されています。

コントラストはこの4つの基準のうちの「知覚可能」「操作可能」に含まれ、関連する基準は以下の4つです。

これらの基準は、コンテンツの内容を理解するために必要なコントラストを確保することを目的としています。特に1.4.3と1.4.6は、テキストコンテンツのコントラストに関する基準です。

この中でも特に参照されることの多い1.4.3のコントラスト基準は、以下のように定められています。

テキスト及び文字画像の視覚的提示に、少なくとも 4.5:1 のコントラスト比がある。ただし、次の場合は除く:

  • 大きな文字
    サイズの大きなテキスト及びサイズの大きな文字画像に、少なくとも 3:1 のコントラスト比がある。
  • 付随的
    テキスト又は文字画像において、次の場合はコントラストの要件はない。アクティブではないユーザインタフェース コンポーネントの一部である、純粋な装飾である、誰も視覚的に確認できない、又は重要な他の視覚的なコンテンツを含む写真の一部分である。
  • ロゴタイプ
    ロゴ又はブランド名の一部である文字には、最低限のコントラストの要件はない。
WCAG 2.1日本語版「達成基準 1.4.3 コントラスト (最低限)

いくつかの例外要件はありますが、基本的にはテキストコンテンツに対して、背景との4.5:1のコントラスト比を満たすことが求められています。

WCAG2.2のコントラストの達成基準をまとめると、以下のような表になります。

要素 最低限の規準(AA) 高度な基準(AAA)
テキスト、文字画像 4.5:1以上 7:1以上
大きな文字 3:1以上 4.5:1以上
UIコンポーネント、コンテンツの理解に必要なグラフィック 3:1以上
フォーカスインジケーターのフォーカス有無の状態の差 3:1以上
ロゴタイプ、非活性なUIコンポーネント、付随的コンテンツ 要件なし

コントラスト比を定めた論理的根拠については、WCAG 2.1解説書[1]達成基準 1.4.3: コントラスト (最低限)を理解するに詳しく記載されています。大きな文字に対する緩和要件などについても解説されていますので、興味のある方はぜひご一読ください。

現在のコントラスト基準のもつ課題

WCAG2では、要素の種類に対し2つの色の相対的なコントラスト比とフォントのサイズを基準としています。しかし、実際の人間の知覚する色やコントラストは絶対値で安定しているものではなく、以下のように周辺の色や情報に影響を受けて見え方が変わります。

図2 チェッカーシャドウ錯視の図(出典:WikiMedia Commons
薄い灰色と濃い灰色の正方形のチェック柄の平面があり、角のほうに一つの円柱がある。そして、光が円柱方向から投影され、円柱の影になる平面部分は影を落ちるため暗くなっている。完全に影のあたらない平面の濃い灰色の正方形の一つに「A」を書く。また、この影に完全に覆われた薄い灰色の正方形に「B」を書く。この「A」と「B」の文字色は同じ色で、薄い灰色と濃い灰色の間の灰色とする。

これはチェッカーシャドウ錯視(図のAとBは同じ色)という有名な例ですが、状況により数値的には同じ色であっても人間の知覚的には別の色に感じられる場合があります。不思議なことに、同じ背景色の上の同じ文字の色にも関わらずAとBでは感じられるコントラストも異なり、より背景が明るく感じるBの文字のほうが視認性も高く感じられるのではないでしょうか[2]

現在のWCAG2のコントラスト比は、明るい色の相対輝度を暗い色の相対輝度で割ったものとして計算されます。計算式は以下の通りです。

コントラスト比 = (明るい色の相対輝度 + 0.05) / (暗い色の相対輝度 + 0.05)

コントラスト比に対する説明は、WAICの解説書「達成基準 1.4.3: コントラスト (最低限)を理解する」コントラスト比 (contrast ratio)に詳しく記載されています。

しかし、人間の知覚的なコントラストは、色の相対輝度の差だけではなく、色の明るさや彩度の差にも影響を受けます。また、人間の五感の感覚は、受ける刺激の強さと対数関係にあると言われています(ウェーバー・フェヒナーの法則⁠⁠。具体的には、同じパーセントの輝度の変化でも、人間の知覚的には明るい色では変化の度合いが小さく、暗い色では変化の度合いが大きく感じられます。

以下は、同じWCAG2のコントラスト基準である4.5:1で作成したカラーパターンですが、背景色の明るさによって文字のコントラストが異なるように感じられるのではないでしょうか。

図3 同じコントラスト比4.5:1で、テキストと背景色が違う4つのパターン
テキストと背景色の配色が#FEFEFEと#777767(Lc76)、#DFDFDFと#636363(Lc65)、#A8A7A5と#3B3E3B(Lc46)、#7D7E7Bと#141417(Lc33)のものを示している。LcはAPACでのコントラスト値で、詳しくは次回説明する。

このように、WCAG2で基準としているコントラスト比の計算の結果が同じであっても、色の選択により実際の視認性は異なる場合があります。

オレンジ問題とダークモード

そのほかにも、有名な例でオレンジの背景色に白と黒の文字色を表示した場合、コントラスト比としては黒のほうが白よりも高い値となりますが、実際には黒のほうが読みにくいと感じられる、というものがあります。

図4 オレンジの背景に白と黒の文字を表示した例
同じ背景色(#E86826)のうえに、#FFFFFFと#000000のテキストを表示している。

上記の例では、オレンジ背景に黒の文字の場合のコントラスト比は6.43:1と4.5:1の基準を上回っています。対して白の文字の場合は3.26:1と基準を下回ります。しかし、皆さんからみて視認性はどうでしょうか。

この問題を取り扱った記事はいくつかありますが、Orange You Accessible? A Mini Case Study on Color Ratioが参考になります。この記事でのアンケート結果では、調査対象者のうち、61%のユーザーが白いテキストのボタンのほうが読みやすいと回答しました。対象者には色覚特性を持つユーザも含まれているのですが、ほぼ同様の結果が得られました。ただし、視覚特性によっては黒のほうが読みやすいと回答したユーザーもいました。

オリジナルの色に加え、色覚特性シミュレータにより作成した色のコントラストも計測して基準に適合するかどうかを確認する、というアプローチは合理的で非常に参考になるものです。詳細についてはこの記事をぜひご覧ください。

オレンジは明るく親しみのある色合いから、企業のブランドカラーやデザインのアクセントとして使われることも多い色です。Webサイトやアプリケーションのデザインにもよく使われるため、この問題は実際にもよくみられます。

また、濃い色を基調としたダークモードのデザインが注目されていますが、ダークモードではコントラストの問題がより顕著になります。現状の数値の相対値のみのコントラスト基準では、ダークモードのデザインにおいての視認性を正確に判断できないという課題があるのです。

図5 ダークモードの比較v2 WCAG2とAPCAの基準での表示の比較(出典:Why APCA as a New Contrast Method?
背景が暗く、テキストが明るいダークモードでのWCAG2とAPCAの基準での表示の比較を示している。

上記は、WCAG2の基準と、WCAG3で検討されているコントラストに関する新基準APCAを用いたダークモードの表示比較です。左側が現在のWCAG2の基準でAAあるいはAAAに準拠したコントラストでの表示例、右側がAPCAの基準に準拠した表示例となっています。

WCAG2の基準では、大きな文字の基準を満たしていても暗い背景色ではコントラストが不足に感じる場合があります。また、小さいフォントサイズの基準が無いため、4.5:1や7:1の基準を満たしていても、実際には読みにくい場合があります。

これに対し、APCAではコントラストに対してフォントサイズ及びウェイトの基準があリます。例ではテキスト色と背景色とのコントラスト値に対して、APCAの基準に準拠したフォントサイズが選択されています。どのテキスト色とサイズでも一定の視認性が保たれているように見えるのではないでしょうか。

まとめ

今回は、Webコンテンツを多くの人にアクセスしやすく、利用しやすくするためにはアクセシビリティが重要であること、またWCAGにおいてコントラストに関する基準がどのように定められているか説明しました。

また、現在のWCAG2の基準には色やコントラストの知覚に関する課題があり、より包括的なアクセシビリティを提供するために、新しいコントラスト基準APCAが開発されていることを言及しました。

次回はAPCAの基準の詳細について実例を交えた解説や、日本語に適応した場合の課題などについて説明します。

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