OSSデータベース取り取り時報

第99回次世代RDB“Tsurugi”リリース⁠MySQL 8.2.0リリース⁠PostgreSQL Conference Japanが今月開催

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

次世代高速RDB 劔“Tsurugi”のOSS版が遂にリリース

前回にお知らせした次世代の高速RDBである劔⁠Tsurugi⁠が、予定通り10月5日にOSSとしてリリースされ話題になっています。劔⁠Tsurugi⁠は多数のCPUコア(メニーコア)と大容量メモリ時代の新しいハードウェアアーキテクチャに合わせた設計思想に基づいて開発されたデータベースエンジンです。

OSS版リリースと同時に解説本も発売されました。またWebでの連載記事も始まっています。本格的に劔⁠Tsurugi⁠を理解されたい場合には、解説本をベースとした勉強会も始まっています。この勉強会はオンラインでの開催ですが、解説本の主に第三部を読んで議論し、本格的に理解を深めることが目的とされています。したがって、参加条件としてTsurugi解説本を持っていて、⁠健全な議論を心掛ける」ことが求められており、ちょっとハイレベルな勉強会になると思われるので、希望される方は気を引き締めてご参加される必要がありそうです。

なお、この連載ではこれまでも劔⁠Tsurugi⁠の開発途中の状況をお知らせしてきましたが、国内の仲間が取り組んでいるこの新しく本格的なOSSデータベースの状況をリリース後もひきつづきお知らせしていきたいと思います。

[MySQL]2023年10月の主な出来事

10月にはMySQLのイノベーション・リリースであるMySQL 8.2.0MySQL 8.0のマイナーバージョン8.0.35MySQL 5.7の最後のマイグレーションMySQL 5.7.44、および各クライアントプログラムがリリースされました。MySQL HeatWaveでもMySQL 8.2と8.0.35が利用できるようになっています。MySQL 8.2.0は新しいリリースモデルとなって2回目のリリースです。

MySQLのライフサイクル⁠ポリシー

MySQL 5.7は10月にリリースされたMySQL 5.7.44をもってSustaining Supportのフェーズに移行します。このSustaining SupportになったMySQL 5.7には、コミュニティ版、商用版ともに新規のパッチは提供されないため、MySQL 8.0やイノベーション・リリースへの早急なバージョンアップをおすすめします。MySQL 8.0へのパッチ提供は少なくとも2026年4月まで継続されます2023年10月18日版のOracle Lifetime Support Policyより⁠⁠。

MySQLの製品ライフサイクルはオラクルのLifetime Supportに準拠しています。下記はMySQLのライフサイクル・ポリシーです。期間はメジャーバージョンのリリースからの年数です。

Lifetime Supportステージ 期間 問い合わせ対応およびパッチ提供
Premier Support 5年 新規を含め全て提供
Extended Support 3年 新規を含め全て提供
Sustaining Support 無期限 既存のもののみ提供

オラクルの多くの製品はExtended Supportでは追加のサポート料金が必要となりますが、商用版MySQLのサブスクリプションには追加料金は発生しません。このため実質的にメジャーバージョンのリリースから8年間は、同様のサポートとパッチ提供を受けることが可能です。

なおMySQLのイノベーション・リリースにはこのポリシーは適用されず、基本的リリースから3ヵ月間のみお問い合わせへの対応を提供し、次のイノベーション・リリースが出た段階でバージョンアップをしていただく形式となっています。2023年10月末時点ではリリース日は確定してませんが、今後のリリースが予定されているLTS(Long Term Support)リリースはポリシーの対象となり、8年間のサポートとパッチ提供がされると発表されています。

MySQL 8.2.0の新機能と変更点

主な変更点は下記の通りです。

  • 機能変更
    • MySQL 8.0.34で非推奨(deprecated)となったmysql_native_passwordがプラグインとなり、MySQLサーバーの起動時に無効にしておくことが可能に
    • [Enterprise Edition] スマートカードやセキュリティキー、生体認証用デバイスなど利用するFIDOおよびFIDO2に準拠したWebAuthnに対応
    • STR_TO_DATE()関数が不正な日付をエラーで返すように ⁠韓国情報通信技術協会のGS認定への対応)
  • 非推奨となる主なパラメータや機能
    • システム変数oldnew(MySQL 4.0など古いバージョンでの互換性確保のためのパラメータ)
    • --character-set-client-handshake(古いバージョンからのバージョンアップ用)
    • マルチスレッド・レプリケーションでの 並列処理方式を設定するbinlog_transaction_dependency_tracking(MySQL 8.0.35でも同様)
    • 権限付与の際などのワイルドカードである⁠%⁠⁠_⁠がデータベース名としては非推奨、ホスト名は従来通り利用可能だが仕様変更に
    • INFORMATION_SCHEMA.PROCESSLISTPerformance Schemaに変更)
  • 削除された主なパラメータや機能

8年にわたる長期サポートを提供するLTSリリースに向けて、レガシーな機能の削除と各種パラメータの整理が進められています。

[PostgreSQL]2023年10月の主な出来事

秋はOSSに限らずさまざまなイベントが開催されます。10月末までEDB Postgres Vision Tokyo 2023がオンライン配信されていました。そして11月はもうひとつの代表的イベントであるPostgreSQL Conference Japan 2023がオンサイト(会場)で開催されます。これら2つのイベントの案内・報告と、その他のPostgreSQL関連の興味深い発表をピックアップしてお知らせします。

11月24日⁠PostgreSQL Conference Japan 2023が開催

PostgreSQL Conference Japanは、国内で開催されるPostgreSQL関連の代表的なイベントで、今年は11月24日の金曜日に東京・日本橋で開催されます。すべてのプログラムが確定し、参加申込(チケット販売)も始まっています。昨年と同様に今年もセミナー後に懇親会が計画されており完全復活しています。ここでは、開発者の視点で新しい新機能が紹介されるであろうセッションを紹介します。

PostgreSQL and SQL:2023 - Property Graph Queriesの話題と各RDBの実装
Neo4jなどでもご活躍の案浦浩二さんによるProperty Graph Queries ⁠SQL/PGQ⁠⁠ についての発表です。Property Graph Queries ⁠SQL/PGQ)はSQL:2023で追加され、PostgreSQLでは将来の機能となるであろうものです。他のRDBでも実装が始まっており、それぞれ実装はどう違っているのかについてお話されるとのことです。
正規表現で行パターンを検索する「行パターン認識」をPostgreSQLに実装しよう!
SRA OSSの石井達夫さんと陳寧イさんの発表です。行パターン認識はSQL標準の機能で、今までの問い合わせ機能では難しかった検索が可能です。この発表では、行パターン認識の概要の説明と、行パターン認識をPostgreSQLに実装する試みについて紹介されます。
pgvectorを使ってChatGPTとPostgreSQLを連携してみよう!
NTTデータグループ、石井愛弓さんの発表です。ChatGPTから外部データとしてPostgreSQL の情報を参照させる方法についての発表です。ChatGPTとPostgreSQLを連携するライブラリの紹介、連携の手順、性能向上のヒントなどについてお話しされる模様です。

EDB Postgres Vision Tokyo 2023報告

EDB Postgres Vision Tokyo 2023が10月末までオンデマンド配信で実施されていました。前回記事で国内3社の事例については簡単に触れましたので、ここではその他の発表から筆者が興味を持ったセッションについて報告します。今回の記事では紹介していませんが、EDBのアジア太平洋地域Field CTOであるAjit Gadge氏とエンタープライズDBの執行役員セールスエンジニアリング本部長である村川了氏は、11月20日開催のセミナー「PostgreSQLユーザーに捧ぐ、EDBを使ったDB機能向上とコスト削減の両立」でも講演されますので、ぜひそちらのセミナーをご聴講ください。後述のイベントコーナーでお知らせしています。

Postgresの今後に向けて
EDB Chief Product Engineering OfficerであるJozef de Vries氏の発表です。ご存知のようにPostgreSQLはコミュニティが開発のコアになっています。この発表では開発コミュニティと共にPostgreSQLを進化させると同時に、ミッションクリティカル領域や、複雑化するエンタープライズ領域に適した製品に取り組んでいる現状と今後の方向性について発表されました。この取り組みの成果として、バージョンアップに伴い性能改善が進んでいる様子や、多様なデータ形式やワークロードにも対応できるようになりつつある状況が示されました。
Jozef de Vries氏の発表
Jozef de Vries氏の発表
EDB Postgresで99.999%の高可用性を実現するEDB Postgres Distributed
エンタープライズDB、執行役員サービス事業部長の高鶴勝治氏の発表です。上述のVries氏の発表ともつながりますが、ミッションクリティカル領域に適用する際に求められることとして、何らかの障害があっても可能な限り停止時間を作らない高可用性が挙げられます。この発表では、EDB Postgresでマルチマスターレプリケーションを実現すること、そして構成の仕方によってどのような差異があるかなどについて解説されました。
高鶴氏の発表
高鶴氏の発表

PostgreSQL関連のリリース情報など

10月はPostgreSQL本体のリリースはありませんでしたが、関連ツールでは、pgAdmin 4のバージョン7.8が10月22日にpgAdmin Development Teamからリリースされています。

また、9月にリリースされた新メジャーバージョン16の日本語での技術解説が、10月2日にSRA OSSから公開になっています。新バージョンについて理解する有益な情報源です。

NECがPostgreSQL 11のサポート終了後も修正パッチを提供へ

本連載の過去回にて大手ITベンダがPostgreSQLサポートを強化している件を紹介しました。NECではコミュニティでのサポートが終了した後のバージョンについての修正パッチを提供するサービスを発表していましたが、まもなくサポートが終了してしまうPostgreSQL 11をこのサービスの対象にすることが発表されました。以前はバージョン12以降が対象でしたが、拡大されました。

Google Cloud のPostgreSQL互換AlloyDB OmniとCloud Spanner情報

クラウドサービス各社が自社サービスの中でPostgreSQLやMySQL、その他のOSSデータベースを提供することは今では当たり前になっています。標準的なOSSプロダクトそのままを提供するだけではなく、独自の改善や機能追加を行ったサービス製品でも激しい競争をしています。10月にはGoogle Cloudから2件の発表がありました。

AlloyDB Omni正式版リリース
4月にテクニカルプレビューの発表があったAlloyDB Omniが正式リリースになりました。冒頭で「クラウドサービス各社が自社サービスの中でOSSデータベースを提供」と書きましたが、このAlloyDB OmniはクラウドサービスであるAlloyDB for PostgreSQLをクラウド環境ではなくオンプレミス環境で稼働させるものです。しかし、クラウドにおけるマネージドデータベースサービスでの激しい競争の一面であると言っていいでしょう。
Cloud Spannerの性能向上
既存サービスであるCloud Spannerのコストパフォーマンスの大幅な向上の発表です。以前と比べてスループットが最大50%向上し、ノードあたりのストレージが2.5倍になったと発表されています。⁠Amazon DynamoDBの半分のコストで、強力な一貫性と1桁ミリ秒のレイテンシを備えています」と、挑戦的なメッセージが添えられています。

2023年11月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

オンサイト(会場)開催が復活しつつあります。また、利便性のあるオンライン開催もこの3年間で定着し、オンサイト/オンライン/ハイブリットが混在するようになってきました。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

Tsurugi本勉強会

日程 〔第1回〕2023年11月7日(火)21:00~
〔第2回〕2023年11月21日(火)21:00~
※第3回以降も予定されています。
※初回(Tsurugi本勉強会#0)は10月24日に開催済みです。
場所 オンライン開催(Zoom)
内容 Tsurugiの解説本の主に第三部を読んで議論し、理解を深めることを目的として、解説本の16〜23章+αが対象です。なお、参加条件として、Tsurugi解説本を持っており、内容に興味があり、健全な議論を心掛けることが求められています。
主催 Tsurugi本勉強会

オープンソースカンファレンス2023 Hiroshima⁠Niigata⁠Fukuoka

日程 Hiroshima〕2023年11月12日(土)10:00~18:00
Niigata〕2023年11月25日(土)12:00~17:00
Fukuoka〕2023年12月9日(土)10:00~18:00
場所 〔Hiroshima〕サテライトキャンパスひろしま
〔Niigata〕新潟市立中央図書館(ほんぽーと)
〔Fukuoka〕福岡SRPセンタービル 2F
内容 オンサイト(会場)開催のオープンソースカンファレンスが戻ってきました。今回ご案内する地域はすべてオンサイト(会場)開催です。今回お知らせしているHiroshima(広島⁠⁠、Niigata(新潟⁠⁠、Fukuoka(福岡)はセミナーと展示の両方です。出展者やセミナープログラムはそれぞれの開催回ごとのWebページをご参照ください。なお、会場開催の回に参加する場合でも、参加人数把握のために参加登録をお願いします。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

PostgreSQLユーザーに捧ぐ⁠EDBを使ったDB機能向上とコスト削減の両立

日程 2023年11月20日(月)15:00~17:00(受付開始14:30、懇親会17:15~18:15)
※申込期限:2023年11月17日(金)17:00まで
場所 株式会社アシスト 市ヶ谷本社
内容 PostgreSQLにさまざまな機能と保守も付加したEDBの製品戦略とユースケース、機能を紹介します。本セミナーはエンタープライズDBとアシストの講演に加え、エンタープライズDBのアジア太平洋地域 Field CTOであるAjit Gadge氏がグローバル視点でのDB市場やトレンドについて講演します。また、セミナー後に懇親会も開催されます。
主催 株式会社アシスト
協賛:エンタープライズDB株式会社

PostgreSQL Conference Japan 2023

日程 2023年11月24日(金)10:00〜18:10(開場 9:30、18:30から懇親会あり)
場所 AP日本橋(東京都⁠⁠ 6F(東京駅より徒歩5分)
内容 記事本編でも紹介した、日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)によるPostgreSQLの総合カンファレンスです。午前は基調講演などがあり、午後は3つのトラックに分かれて多数の講演が設けられています。参加にはチケットの事前購入が必要です。また、懇親会は別料金です。
主催 日本PostgreSQLユーザ会

db tech showcase 2023

日程 2023年12月6日(水⁠⁠~12月8日(金)10:00〜17:45または18:45
場所 ベルサール六本木 グランドコンファレンスセンター
内容 国内で開催されるデータベース関連の主要なカンファレンスのひとつです。OSSデータベース専門のセミナーではありませんが、MySQLやPostgreSQLをはじめさまざまなOSSデータベースについての多数のセッションが毎年設けられています。
主催 株式会社インサイトテクノロジー

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