3DP ジャングル

おもしろ継手の河合継手を作ってみよう!

前回までで、3Dプリントをするのに必要な基本は情報は一通りカバーしましたので、今回は実践編として、ちょっとおもしろいタイプの継手である、河合継手を3Dプリンタで作成してみましょう。

継手とは一般的に二つのパーツを接合させる構造のことですが、日本の伝統建築では、その中でもパーツを接合してより長くするつなぎ方を継手、角度を持たせて接合するのを仕口と呼びます。日本の伝統建築では釘を基本的に使わないので接合する木の形状を工夫し、重力、あり(ほぞ⁠⁠、栓などを用いて複数の木材を接合する技術が発展してきました。

伝統建築はおもしろいトピックですが、ここでは実用性より設計する楽しさに着目して、日本建築からインスピレーションを得た、河合継手の設計とプリントを紹介します。

河合継手とは、1970〜80年代[1]に河合直人教授が考案した、同じ構造の細工を施したパーツを使って直線方向と垂直方向の2方向に接合可能な継手です。実際に作ってみるとわかりますが、継手としての強度はあまり高くなく、重量を受けなければいけない建築には不向きですが、プリントして手元に持っておくアイテムとしては非常に面白いので、今回紹介することにしました。

河合継手のデザイン

Fusionをつかって設計する方法を紹介します。河合継手の構造自体は比較的簡単なのですが、複数の面を使って図面を作成しなければいけないので初めてデザインする際には少し混乱するかもしれません。今回はなるべくステップバイステップで各工程を紹介していきます。

なお、本来は河合継手のデザインも手作業を前提とした墨付け[2]の方法があるのですが、今回はFusionで行うことを前提に筆者が現時点で考えうる一番シンプルな方法で解説しています。

0. 事前準備

設計の前にまず事前準備をしましょう。Fusionを起動して新しいファイルを開き、すぐにファイルに名前を保存しましょう。その後、アセンブリ>新規コンポーネントを選び、子コンポーネントを作成します。今後の操作はファイル全体に対応するものを除き、すべてこの子コンポーネントにたいして行います。

1. ベースの作成

まず全体の寸法を決めるために、修正>パラメータを変更からユーザパラメータを追加します。ここではSizeというパラメータに40mmの値を設定しました。

次にXY平面にデザインを作成し、一辺がSize、もう一辺がSize * 2.5の長方形を作図します。そしてその長方形をSizeの高さに押し出します。もしあとでプリントの大きさを変えたければ、この変数を変更するだけで、大きさを変えることができます。

次に直方体の上面にデザインを作成し、長い方の辺上に角からSize移動した位置に点を作成します。

そして構築>3点を通過する平面を選択し、この点と角の点二つの三つの点を使って平面を定義します。さらに修正>ボディを分割を選び、直方体と今作った平面を利用してボディを分割します。

この操作でできた形の面をそれぞれ、斜面、前面、上面、右面、左面、下面と呼びます。

2. 図面の作成

ここからいくつか図面を作成しないといけません。まず斜面にできた正三角形を9個の正三角形に分割します。斜面に図面を作成し、二つの頂点から垂線を反対側の辺に向かって引き、これらを補助線とします。この二つの直線が交差する場所に点を作成しましょう。

次にこの点を通過するようにしつつ、三角形のそれぞれの辺と並行な線を3個描きます。さらにこの線でできた点を直線でつなぎ、六角形を作成します。これでこの斜面に対する作図は終了です。

今度は前面に作図します。前面は直角二等辺三角形になっており、この直角の点を頂点とする五角形を描きます。その際五角形の底辺となる辺は、先ほど作図した三角形の内部の辺と外部の辺が交わる点を結ぶものとします。Fusion上ではこの交点はすでに描かれているように見えますが、これは現在作業している平面とは違う面に定義されているものなので、そのまま使うことはできません。

そこで作成>投影/取り込み>プロジェクトを使って、二つの交点を選び、それらの点を作業中の図に取り込みます。あとはこの点どうしを線でつなぎ、今度はこの線から対応する辺の中点に向かって線を引き…と線をつなげていき、五角形を作成します。

次は右面と下面に五角形を作図します。今度も重要な線と点をいくつか投影で取り込みます。具体的には上面と右面の間の辺上で距離がSize分の点、そしてその点と下面の頂点を結ぶ直線およびその直線状の点二つです。

これらと、新しくできた二等辺三角形の等しい辺上の中心点を使って五角形を描きます。

下面にも、右面と同じようにして五角形を作図します。

上面はここまでと違う方向に五角形を描きます。図のように、斜面と右面から5個の点を投影して取り込み、これらを使って五角形を描きます。

左面にも上面と同じような五角形を描きます。

構築>3点を通過する平面を選び、下図のように、前面・右面・下面の頂点、右面・上面の間の辺の点、下面と左面の間の辺の点の3点を通過する平面を定義します。

この平面上に、最初の斜面に書いたのと同じ正三角形の中に9個の正三角形が入っている図を作成します。

作図もあともう少しです。構築>傾斜平面を選択し、上面に引いた前面と並行な直線を使って、90度傾斜の平面を作成します。

この平面上に図の向きで五角形を作図したら、作図はすべて終了です。

3. 継手の形作り

作図した図形に合わせて、ロフト機能を使って継手の形を整えていきます。前面と左面の一番下にある三角形二つをロフトでつなげ、該当部分を削除します。

次に斜面の三角と下面の五角形をロフトでつなげ、削除します。

そして先ほど使った斜面の三角形を再度選び、今度は二つ目の斜面の対応する三角形をロフトでつなげ削除します。

この3ステップでひとつの角が成形できました。

これと同様の作業をあと二回、斜面の六角形内の三角に一つとびで行います。これを3か所で行うと以下のようになります。

ここで完成、さあプリントだ!と行きたいところなのですが、まだ大きな問題があります。それはこの作図上は問題ないように見えても、パーツがお互いかみ合う部分のクリアランスがなにもないため、くぼみ部分にパーツを押し込めないことです。特に斜面上の三角形の中心は、図面では厚さゼロの辺に見えますが、これをプリントするとお互い切れ目のない中心を押し込むことになり、実際にはなにも動かせないパーツができてしまいます。興味のある方はぜひこの状態でプリントしてみてください。

そこでまずこの中心にフォーカスして、ここに後程いれるクリアランスを考慮した隙間を作ります。一番最初に斜面を作る際に作った平面上に作図をしていきます。

今回は後程空いている空間を形成している面をそれぞれ0.25mmずつプレス(押し込む)するので、両側の平面からその分進んだ位置を特定します。そしてその同距離の位置を通るように作成>ポリゴン>外接ポリゴンから正六角形を作図します。なおこの0.25mmという値は私のプリンタで行ったときの値ですので、皆さんのプリンタではまた違う値に設定する必要があるかもれしれません。

この六角形から、二つ目の斜面を定義する際に使った平面へ押し出しを行うと、真ん中をくりぬく形で隙間を開けられます。この際、二つ目の斜面と完全に同じ平面までの押しだしを行うように注意してください。平面がずれていたりするとこの後のプレス・プルが実行できません。

真ん中がくりぬけた状態で、くぼみを構成する横の6面をすべて、修正>プレス/プルからクリアランス分面を0.25mmプレスします。これによって、もう一つのパーツが入り込む余裕が生まれます。

ここまでやって、ようやく完成です!

4. 面取りとプリント

いよいよプリントです!……と話を進めたいところですが、このモデルはまだすべての辺がとがったエッジになっています。3Dプリンタはもちろんとがった角でもプリントできるはずですが、プリントスピードが高速になったり、プリント対称が細かいパーツになってくるとこのようなエッジのたった辺のプリントは間違いを起こしやすいです。そこで面取りやフィレットを適用するべきでしょう。

今回私は直方体の辺にあたる部分に1mmの面取りと、それ以外の細かい細かい凸部分に0.5mmの面取りを付与しました。

河合継手は両方とも同じ形なので、これを二組プリントすれば完成です。私のプリンタでは特になんの設定もせずにサポート無しでプリントできました。組み合わせ部分もきれいにプリントできています。

以下のように同じ形のパーツを向きを変えて組み合わせることで直線方向と直角方向の2方向にパーツをつなぐことができます。

河合継手は知識がない状態からデザインを始めるとどこにどの形が来るのがこんがらがってしまいがちですが、逆に言えばこれをデザインできてしまえば、この程度の形であれば簡単に作ることができるようになるはずです。これまでこのようなデザインをしたことがない方はぜひ挑戦してみてください。

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