CEDECへ行こう!
~CEDEC2024参加レポート

2024年8月21日から23日の3日間、パシフィコ横浜ノースにてCEDEC2024が開催されました。この時期は猛暑が続いていましたが、熱気に負けず多くの参加者が会場に集まり、活気に満ちたカンファレンスでした。

本稿では、筆者が聴講したセッションの模様を中心にレポートします。

CEDEC2024

CEDECとは

CEDECは、ゲームを中心とするコンピュータエンターテインメント開発者や制作者を対象とし、ゲームに関する技術や知識を共有する国内最大級のカンファレンスです。毎年3日間にわたって開催されています。

実際に参加した体感では、エンジニア、デザイナー、アニメーター、学生が多かった印象です。参加者同士が交流し、最新技術やトレンドについて熱心に語り合う様子が印象的でした。

なお、CEDECの参加パスは有料ですが、学生にとっても参加しやすい環境も用意されています。IGDA日本は2011年からスカラーシップを行っており、このスカラーシップに合格した奨学生にはCEDECのレギュラーパスが支給される仕組みがあります。

セッションは約200あり、エンジニアリング、プロダクション、ビジュアルアーツ、ビジネス&プロデュース、サウンド、ゲームデザイン、アカデミック・基盤技術の7分野のテーマに分かれて行われました。

今回は、聴講したセッションの一部の模様を取り上げます。

C++と日々闘っている同志が集結

セッション「ゲーム開発者のためのC++17〜C++23, 近年のC++規格策定の動向」では、日本語C++リファレンスcpprefjpのメンバー、鈴木遼さん(cpprefjp/Siv3D⁠⁠、松村哲郎さん(cpprefjp⁠⁠、安藤弘晃さん(cpprefjp)の3名が登壇しました。

今回の発表では、C++23の新しいコア言語機能や標準ライブラリ、最近の規格策定の動向を取り上げました。なおCEDEC2020でもこのお三方による発表が行われており、今回も多くの参加者に注目されていたセッションでした。

セッション中取り上げられた内容から、いくつか取り上げます。

コンパイル時に関数の引数をチェックできる

consteval指定を応用するテクニックで、コンパイル時に引数をチェックすることが可能になりました。関数やコンストラクタでこのテクニックを利用することで、引数の誤りを実行前のコンパイル時に検出できます。

cpp_consteval

文字や文字列の含有チェック

C++23では、文字列に特定の文字や文字列が含まれているかを確認する.contains(x)メソッドがstd::stringおよびstd::string_viewに追加されました。より直感的なコーディングが可能になり、効率的な文字列操作が期待できます。

cpp_contains

規格策定の現状と今後

C++の新しい規格が決まる過程を解説したうえで、規格の最新動向を調べる方法や提言を行う方法を紹介しました。

新しいバージョンで追加された機能を学ぶには、cpprefjpcppreference.comを挙げていました。

また、提案されている内容や議論の状況を調べるにはC++ 標準化委員会リポジトリのIssue トラッカーを、提案文書の日本語訳を公開しているブログとして安藤さんのブログを紹介していました。

ゲーム業界におけるC++

このセッションには150〜200名が集まっており、ゲーム業界でのC++の存在感の大きさが感じられました。発表者が手がける「cpprefjp」は多くの開発者に日頃から親しまれているようで、質疑応答では「日頃から参考にしている」⁠助かっている」といった感謝の声も寄せられていました。

IPv6でのNATを理解する

セッション「IPv6向けNATの台頭と新たなNAT挙動を理解・対応実装を学び、変化するIPv6環境に備えよう!」の発表者の佐藤元彦さんは、ネットワーク技術に精通した専門家で、NAT越えアルゴリズムやIPv6、IPv4/IPv6共存技術等の研究・開発を行っています。

佐藤さんは過去のCEDECでもネットワーク技術に関して講演していますが、今回のセッションでは、IPv6向けのNATについて、最新の動向や課題、それに対する解決策を解説しました。

IPv6でのNATの台頭

ここでいう「IPv6環境」とは、クライアントがIPv6アドレスをバインドし、IPv6通信先に直接接続できる状態を指します。本来、IPv6にはNATは不要であるべきですが、実際には、IPv6環境でもNATのような仕組みが登場しているそうです。これでは、せっかくIPv4からIPv6に移行したにもかかわらず、逆に事故を起こしてしまう可能性が大きいという課題があると言います。

KDE_NAT-example1
KDE_NAT-example2

ゲーム環境からみたIPv6

ゲームのこれまでのIPv6のNATに対するスタンスは、⁠あくまで例外、一般ユーザーが遊ぶ環境としては考えない」というものでした。そのため、NAT66は原則考慮しないものでしたが、NAT変換に見えるIPv6環境が増加傾向にあります。

game_NAT66_1
game_NAT66_1

今後の環境変化

今後の環境変化として、普通のNAT66は増えていきそう、NPTv6はやや落ち着いたが企業NWの構築や仮想環境での採用は伸びていきそうない状況だそうです。

KDE_NAT66
KDE_NPTv6

対処実装の例

佐藤さんが所属する株式会社コナミデジタルエンタテインメントでは、一例を挙げると、下記のようにIPv6に対応した新たな挙動定義を行い、それを活用した実装を取り入れています。

KDE_Tb1
KDE_Tb2

IPv6とNATの今後

このセッションでは、IPv6 NATの状況と今後の動向、そしてそれに対応するために必要な考え方や手法を提示しました。IPv6の環境は変化を続けていますが、ノウハウ蓄積や変化に対応するための標準化も進んでいて、NAT66の諸問題については今年度Internet-Draftを作成し、IETFへ申請予定だそうです。

スケールしないスクラム開発

セッション「ゲーム開発におけるスケールしないスクラムの事例」の発表者はスクウェア・エニックス クリエイティブスタジオ1でプログラマーとして活躍する菊池桂司さん。

今回の発表では、菊池さんが経験した「大人数でもスケールしないワンチームスクラム」について、そこに行きつくまでの過程や実際の取り組みを紹介しました。

ゲーム開発のスクラム事情

ゲーム開発では各セクションの協力が必要なため、セクション横断で、制作物に応じたチームが必要となります。また、そもそも1週間では短いので、2〜3スプリント繰り返すことで精度を上げているそうです。

Scrum_project

なぜスケールしなかったのか?

以前はプレイヤー班、エネミー班で分かれて作業をしていましたが、バトルで合わせたときに問題が多発したため、両班を合併してバトル班を結成しました。その体制は現在までうまく機能しているそうですが、当初は追加メンバーが急激に増え、スケール化を考えていたそうです。

そんななかで、Scrum@ScaleやLeSS(Large Scale Scrum)を参考にして、なぜスケール化したいのかを考え直し、ワンチームで進めることを決断したと言います。

Scrum_solution

ゲーム制作におけるアジャイル開発

「たのしいオープンなビュー会」「ボトムアップ型スプリントプランニング」など、ワンチーム大人数スクラムの現場で行われている取り組みも紹介しました。

セッションはゲーム開発の開発体制で悩む人にとって大きな助けになる内容であり、また、ゲーム開発ならではの苦悩が知れて、非常に興味深いものでした。

海外進出 デザイン

セッション「国境を超えて輝くデザイン 〜UI/UXデザイナーのためのクロスカルチャー入門〜」の登壇者は、NetEase Games社でUXデザイナーとして活躍する末安愛さん。末安さんは幼少期からゲーム業界を志し、日本、欧米、中国においてコンシューマゲームやモバイルゲームの開発を経験。現在は日本向けタイトルのデザイン制作やローカライズの監修を担当しています。

このセッションでは、ゲームのローカライズに関する知見を紹介しました。

ローカライズのポイント

海外進出において対応が求められるのは、⁠言語」「視覚文化」の違いです。具体的には、単なる翻訳ではなく自然な言葉遣いにすることや、文化に合わせたアイコンや色の選択などが行われます。しかし、これだけでは不十分で、⁠仕様」「デザイン」のレベルでローカライズする必要があります。

あれっぽくしてくださいは通じない

「これをあれっぽくしてください」という曖昧な要求は国や文化によって通じにくく、具体的な理解と調整が必要です。例えば、同じ「赤色」でも日本と中国ではイメージが異なります。

design_red

こういった違いがあるため、具体的に、⁠このタイトルの」⁠この部分の」⁠こういう部分に着目している」など、詳細な説明を行うことで、意図を正確に伝えることができます。

成長期に親しんだデザインに強く親しみを持つ

最も印象的だったのは、⁠ユーザーは成長期に親しんだデザインに強く親しみを持つ」という点です。例えば、中国と日本でゲーム画面のイメージが異なる理由は、中国にテレビゲーム文化が発達しなかった背景があるからだそうです。

こうしたユーザーに受け入れられるデザインを理解することは、海外進出のときのみではなく、国内向けのコンテンツを作る際にも重要になる視点だと思います。

アーティストとカメラの理解

セッション「アーティストのためのカメラの仕組み講座」は、バンダイナムコの鈴木雅幸さん、溝口優子さん、山口将平さんが登壇しました。アーティスト、特にCGクリエーター向けに、カメラの仕組みを詳細に紹介しました。

なぜカメラの理解が必要か

CGは現実世界の物理法則や仕組みをもとに構築されているため、現実世界のカメラを理解することは、よりリアルなCG表現を実現するために不可欠です。

カメラの知識がもたらす効果

CG制作において、クリエーターは時に「こう見せたい」という思いを優先しすぎて、物理的に不可能な見え方を生み出してしまうことがあります。

これは作品に違和感を生じさせる原因となります。意図的に非現実的な演出を求めるのであれば別ですが、リアルさを追求する場合はカメラの原理を理解し、それを踏まえた表現が求められます。

camera_angle1
camera_degree2

初心者におすすめのカメラは?

セッション中、聴講者から「初心者におすすめのカメラは何か?」という質問がありました。これに対しては、絞りとシャッタースピードを調整できるカメラが最おすすめで、カメラに慣れてきたらレンズを交換してさまざまな表現を試すのが良いとのことでした。私自身もカメラに挑戦してみたいと思えるセッションでした。

CEDECの歩き方

CEDECでは、アイスコーヒーの提供が行われていました。

COFFEE

また、昼食として、サンドウィッチ、おにぎりの提供も行われていました。パシフィコ横浜の近くには飲食店が多くないため、多くの参加者に利用されていました。

CEDEC参加のすゝめ

CEDECは、ゲーム業界で活躍を目指すすべてのクリエーターにとって非常に有意義なイベントです。業界のトップランナーたちの知恵や最新のトレンドや知識を吸収できる機会は貴重でした。普段の業務とは異なる角度からの知識をインプットすることで、新しい視点やアイデアが得られるのではないでしょうか。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧