OSSデータベース取り取り時報

第111回MySQL 9.1イノベーション⁠リリース⁠PostgreSQL 17と“Tsurugi”最新情報

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

[MySQL]2024年10月の主な出来事

9.x系のイノベーション・リリース第3弾となるMySQL 9.1イノベーション・リリースが公開されました。また、MySQL 8.4 LTSとMySQL 8.0の各マイナーバージョン、および各クライアント・プログラムがリリースされました。

ロックやロック解放待ちの状況を示すPerformance Schemaのdata_locksテーブルとdata_lock_waitsテーブルが各バージョン共通で再設計され、これまでよりもメモリ消費を抑え、かつ高速にアクセスできるようになりました。MySQL 8.0の課題としてバグレポートされていたものが改善されています。また同梱されるOpenSSLのライブラリがバージョンアップしていますので、セキュリティの観点からもバージョンアップをお勧めします。

なお各クライアント・プログラムのバージョン9.1からすべてのMySQLサーバーのバージョンに接続可能になっており、クライアント・プログラムの8.4.3や8.0.44はリリースされていません。

MySQL 9.1 MySQL Enterprise Editionの機能強化

MySQL 9.1イノベーション・リリースのEnterprise Editionバイナリでは、高可用性、可観測性(オブサーバビリティ)およびセキュリティに関する強化が行われています。

MySQLの高可用性を実現するInnoDB Clusterのデータ同期の仕組みであるグループ・レプリケーションでは、データ更新時に何らかの理由で大幅に書き込みが遅れているノードが出た場合、キューを使って流量を制御するフロー・コントールの仕組みが用意されています。MySQL 9.1ではこのフロー・コントールをチューニングするために必要となるステータスを表す変数が追加されました。

MySQL 8.1イノベーション・リリースからOpenTelemetryをサポートするコンポーネントが追加され、MySQL 8.4 LTSではトレースとメトリクスがサポートされています。MySQL 9.1からはログにも対応し、MySQLサーバーのログのイベントをOTLP HTTPプロトコル経由でエンドポイントに送信できるようになりました。

MySQL OpenTelemetryの概要
MySQL OpenTelemetryの概要

セキュリティに関してはOpenID Connect(OIDC)ベースの認証への対応が重要な機能追加です。OpenID Connectはオープンな標準で、各種のアプリケーションやサーバーのユーザー認証情報を統合できる仕組みです。MySQL Enterprise EditionがOpenID Connectに対応したことにより、Oracle Identity CloudMicrosoft Entra ID(旧Azure Active Directory)Windows ServerのActive Directory Domain ServicesAuth0 by OktaなどIDトークンの発行者である各OpenIDプロバイダーを利用した認証が可能です。MySQL Shell 9.1、MySQL Router 9.1や各Connector 9.1は、OpenIDプロバイダーでの認証情報を元にMySQLサーバーに接続を行います。

オープンソースのノーコードツール「プリザンター」のMySQL対応

株式会社インプリムが提供する、マウス操作で業務アプリが簡単に作成できるノーコードツールの「プリザンター」がMySQLに対応しました。プリザンターは営業部門向けの顧客管理や商談管理、経理部門向けの契約書管理や在庫管理、各種の業務向けのタスク管理や作業日報などの多彩なテンプレートが用意されている業務アプリ作成のためのノーコードツールです。バックエンドのデータベースとしてこれまではMicrosoft SQL ServerおよびPostgreSQLに対応していましたが、10月8日にMySQLへの対応が発表されました。

[PostgreSQL]2024年10月の主な出来事

9月末にPostgreSQLの新しいメジャーバージョン17が正式リリースされたところですし、10月は既存のマイナーバージョンも含めて新たなリリースはありませんでした。そこで、新バージョン17を理解するための情報源の紹介、それから10月に開催されたオープンソースカンファレンスやその他のイベントから、PostgreSQLと劔⁠Tsurugi⁠についての情報をお知らせします。

新バージョン17を理解するための情報源

10月25日、SRA OSS主催のウェビナー「PostgreSQL 17最新情報セミナー ~ ポイントをスペシャリストが解説 ~」が開催されました。講師は日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)の理事でもあるSRA OSSの高塚遙さんです。

セミナーの内容は、前回のこの連載でも紹介をした「PostgreSQL 17検証報告」に基づいたものの様ですが、セミナーの場で専門家に説明いただく方が、重量級の報告書を読むよりもわかりやすかっただろうと思います。なお、セミナー資料は公開されているので、聴講できなかった方も是非ご参照されると良いでしょう。

また、「PostgreSQL 17検証報告」については、9月下旬の公開以降に内容がアップデートされています。

「オープンソースカンファレンス2024 Online/Fall」から

10月18日と19日にオンライン開催された「オープンソースカンファレンス2024 Online/Fall」では、PostgreSQL関連のセッションが3つありました。

データベース入門 ~ PostgreSQLをインストールして⁠SQLの学習を始めよう!
SRA OSSの三和陽菜さんによる入門セミナーです。PostgreSQLをPCにインストールして実際に触ってみることによって基本的な理解を促そうとしています。このセミナー自身はハンズオン形式ではなくレクチャーですが、聴講後に実際にインストールからやってみることができるように工夫されています。PostgreSQLをDBサーバとして実際に使うときには、Linuxサーバーにインストールすることの方が多いのではないかと思いますが、このセミナーではPostgreSQLとSQLの学習環境を作ることが主目的ですから、Windows版をインストールするようになっています。
このセッションのスライドが公開されていますので、これからPostgreSQLでデータベースの勉強を始める方が最初に手にするのに適した教材になっています。
爆速!DBチューニング超入門 ~DB性能の基礎とPG-Stromによる高速化~
PG-Stromを開発・提供しているヘテロDBのセッションで、講師は日本仮想化技術の宮原徹さんです。PG-Stromは、PostgreSQLをGPUマシンで高速で実行するもので、PostgreSQLの拡張モジュールとして提供されています。
このセッションの半分以上を割いて、データベースの動作原理から性能の基本について解説しています。PG-Stromを使う場合以外でも、またPostgreSQL以外でも参考になる基礎を理解することができます。後半はPG-Stromや、GPUなどのハードウェア技術がデータベースを高速化できる理由などの説明です。
このセッションでは、発表スライドが公開されているほか、動画のアーカイブ配信もされています
PostgreSQL Update 2024
日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)の喜田紘介さんの発表です。PostgreSQL の近況報告として、リリースされたPostgreSQL 17や近年のリリースについての解説でした。このセッションは、この記事執筆時点では発表スライドやアーカイブ動画は出ていませんが、聴講者によるレポートがあります。

リアルタイムにデータをつなぐ次世代高速RDB(国産OSS)“Tsurugi”の挑戦

正式版がリリースされた国産OSSデータベースである劔⁠Tsurugi⁠の最新状況の報告が、日経クロステックNEXT 東京 2024 内のセッションとして行われました。発表者はノーチラス・テクロノジーズの神林飛志さんです。

この発表では、劔⁠Tsurugi⁠がどんなDBMSなのかは簡単な紹介に留めて本が出ているので詳しくはそちらを読んで欲しい」とのこと。今現在にどの様な領域に適用しようとしているのか、メリットが出せそうかに多くの時間を割いて紹介されました。

強みを活かせる活用領域として紹介されたのは2点で、ひとつはAIプラットフォームの低遅延環境に使うことと、拠点間でのデータ複製を超低遅延かつロックフリーで行うこと。1点目の低遅延AIプラットフォームは、AIとDBMSの組合せに最初は意外さを感じましたが、学習後の推論実行をローカルサーバやエッジコンピューティング環境で、超高速な特徴を活かして劔⁠Tsurugi⁠を使う形態が提案されています。

2点目の拠点間でのデータ複製は、劔⁠Tsurugi⁠がロックフリーなのでロックに伴う待ちが発生しない特徴に加えて、日本のものづくりの強みを活かした超低遅延ネットワーク環境(現在研究開発が進行中)の2つが相性良く組み合わさることで実現できるそうです。このセッションは10月10日に開催済みですが、11月20日までアーカイブ配信で視聴できます。ここでは紹介しませんでしたが、AIチップ開発での国際競争や、先進ソフトウェア開発の日本の競争力などについて、舌鋒鋭い、考えさせられるコメントもあり必聴です。

劔“Tsurugi”による低遅延AIプラットフォーム
劔“Tsurugi”による低遅延AIプラットフォーム

2024年11月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

イベントごとに利便性のあるオンライン開催や、従来通りのオンサイト(会場)開催、またはハイブリットが混在するようになっています。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

オープンソースカンファレンス 2024 (11~12月開催分)

日程 〔Shimane〕2024年11月2日(土)10:00~17:00
〔Yamaguchi〕2024年11月9日(土)11:00~17:30
〔Ehime〕2024年11月16日(土)10:00~18:00
〔Fukuoka〕2024年12月7日(土)10:00~18:00
場所 〔Shimane〕島根県民会館(島根県松江市)
〔Yamaguchi〕山口大学工学部(山口県宇部市)
〔Ehime〕愛媛大学城北キャンパス(愛媛県松山市)
〔Fukuoka〕九州産業大学(福岡県福岡市)
内容 11月と12月開催の上記の回は、すべて会場にて展示およびセミナーが設けられます。一部の回ではオンライン配信も計画されています。OSSデータベース関連の展示やセミナーは、出展者の決定後に各開催回のWebページをご参照ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

データ活用⁠分析を爆速で安価に実現するHeatWaveのご紹介

日程 2024年11月6日(火)15:00~16:00
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 このようなお悩みありませんか?
⁠クラウド上のMySQLにかかっているコストを削減したい」⁠蓄積したデータを分析に活用したいが、追加コストや手間、運用負荷がハードルとなって前に進めない」⁠リアルタイムにデータ分析を行いたい。データ分析に要する時間を短縮したい。」⁠Generative AIやMachine Learningによる高度なデータ分析を簡単に実装したい」
このセッションでは、MySQL本家のOracleがお届けする、クラウドサービス「HeatWave」について、その概要、導入事例、導入に向けた支援メニューをご紹介いたします。
主催 日本オラクル株式会社

MySQLサポートエンジニアが語るMySQLのトラブルシューティングの要点とオラクルサポートの概要

日程 2024年11月12日(火)16:00~17:00
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 サポートエンジニアのトラブルシューティングのノウハウがわかります。
MySQLやリレーショナル・データベースに関する書籍の著者としてもおなじみのMySQLサポートエンジニアの奥野 幹也がMySQLのトラブルシューティングにおける要点を解説します。MySQLの運用時に発生する可能性のあるさまざまな問題に対して、問題の検知や分析、そして解決に結びつけるために役立つツールや機能などをご紹介します。
また、MySQLに関するさまざまな問題や疑問を手間なく迅速に解決することのできるオラクルのサポートについてもご紹介します。MySQLを手間なく安心してご利用になりたいという方必見です。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

はじめてのMySQL Enterprise Edition – 安全で効率的なデータ運用の実現方法

日程 2024年11月21日(木)16:00~17:00
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 改めて考えるEnterprise Editionの魅力
ビジネスが成長するにつれ、データの安全性と運用管理の複雑さに悩んでいませんか?このセミナーでは、MySQL Enterprise Editionを活用して、セキュリティリスクの軽減や効率的な運用管理を実現するための解決策を解説します。データの暗号化、監査機能、スムーズなバックアップとリカバリ、パフォーマンス向上など、現場で役立つ機能をわかりやすく解説。また、実際の導入事例を通じて、他のEditionにはない具体的なメリットを確認しながら、課題解決のヒントを得られます。運用の強化やセキュリティ対策を始めたい初心者の方も、ぜひご参加ください。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

MySQL Router入門 – 高可用性と負荷分散で安定したシステム運用を実現

日程 2024年11月28日(木)16:00~17:00
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 データベース接続の安定性とスケーラビリティを実現する、MySQL Routerで次世代のパフォーマンスを
このセミナーでは、MySQL Routerの基本機能とその利便性をわかりやすく解説します。MySQL Routerは、データベースへの接続を最適化し、システムの高可用性や負荷分散を簡単に実現できるツールです。本セミナーでは、冗長性を持たせたアーキテクチャの構築やトラフィック管理を通じて、安定したデータベース運用をサポートする方法を学びます。システムの安定性を高め、運用の効率化を目指す方に最適な内容となっております。初心者でも理解しやすい説明で、MySQL Routerの魅力を把握できるセミナーです。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

次世代高速RDB 劔"Tsurugi"について (日経クロステックNEXT 東京 オンデマンド配信)

日程 配信中~2024年11月20日(水)まで
場所 オンライン(オンデマンド配信)
内容 劔"Tsurugi"は、従来のRDBに比べて書き込み性能に強く、In-memory/many-coreで性能がスケールするため、高い処理性能を発揮します。本講演では、Tsurugiの特性を生かしたバッチ処理高速化、低遅延AIなどの活用例を中心に紹介をします。日経クロステックNEXT 東京 2024 で実施されたセッションがオンデマンド配信されています
主催 日経BP

PostgreSQL Conference Japan 2024

日程 2024年12月6日(金)10:00~18:10
場所 AP日本橋(東京都)6F(東京駅より徒歩5分)
内容 恒例の日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)主催のPostgreSQL Conference Japan 2024は今年は12月6日の開催です。午前に2講演、午後は4トラックで16講演とクロージングセッションが予定されています。イベント協賛、実行委員・スタッフはまだ募集しています。聴講参加にはチケット購入が必要です。11月7日までは早期割引チケットが販売されています。また、講演終了後の18:30 から懇親会が予定されています。
主催 日本PostgreSQLユーザ会

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