Fullstack Al Dev & Raycast SummitはDevX Community Japanが主催する、開発体験向上を目指すエンジニアのためのイベントです。11月23日に開催された
今回のイベントの主な目的は、GraphAIやRaycastなどのAIツールの可能性を探り、AIエージェント開発に関する知見を共有し、さらにエンジニアコミュニティの交流を促進することでした。このレポートでは、本コミュニティの共同Founderかつ当日司会を務めた筆者が、各セッションの内容や会場の模様を紹介します。
なお、開催場所はオフライン・
オープニング
オープニングでは会場の案内や、協賛いただいた企業の紹介を行いました。
本イベントの開始時間は土曜の朝10時30分という早めの設定となっており、イベント運営メンバーからは参加者が集まるかと不安な声も挙がっていましたが、オープニング時点から多くの人に足を運んでいただきました。
会場スポンサートーク
基調講演を前に、会場を提供いただいたファインディさんからのスポンサートークを行いました
基調講演
基調講演は中島聡さんが講演しました
中島さんはWindows 95の開発にも関わった著名なエンジニアで、現在はメールマガジン
今回の基調講演では、いくつかのトピックに分けて話が展開されました。
AGIの時代にそなえて
はじめに、AGIの時代となる
そのようななか、中島さんは入力したらすぐ動くものが好きで、時間のかかるニューラルネットの開発は向いていないと感じたそうです。そのため、より上のレイヤーでがんばりたいと述べていました。さらに、後述のハッカソンも計画していて、そこで実際にAI×アプリケーションを作りたい人を発掘・
非同期・並列タスクを扱いやすくする「GraphAI」
次に、宣言型でAIエージェントを作る仕組みであるGraphAIを紹介しました。
中島さんは、従来のアプリ開発がバックエンドとフロントエンドで構成されたシンプルな同期的処理が中心だったが、AIエージェント時代になると非同期コールが増えて複雑化すると言います。特にJavaScriptで開発する際にawait
やPromise.
を使わなければならず、複数の依存関係を同時に解決したうえで次のタスクを走らせるコードを書くと、どうしても可読性が低下します。こうした課題を解消するために非同期・
GraphAIの強みとして、次のことを挙げて説明しました。
- Nodeにファンクションを対応させ依存グラフを書くだけで、実行エンジンが並列実行や非同期制御を最適化してくれる。
- オープンソースなので、自由に使ってもらえる。
現在実施中のアイデアソンと今後したいハッカソン
中島さんは、ものづくりをするときにまずプレスリリースから作るという発想があることを取り上げ、今後していきたいことを語りました。なお、この発想はAmazonのワークバックワーズ
現在、メルマガの読者に対して
ハッカソンの題材としては次のものを考えているそうです。
- 音声版Instagram:ポッドキャストを誰でも簡単に作れる、AIネイティブなサービス
- GraphAIのWebUIを作り上げる
- Meta Chat:AIが開発しやすい言語を定義する
- AIネイティブな単語帳:Raycastと組み合わせて商用レベルに
中島さんは、成果次第では座組を組んでビジネス化の検討をしたいと述べていました。
「GraphAI: Full-Stack TypeScript Tool for AI Applications」
基調講演の後はトークセッションが行われました。
Singularity Societyの有本勇さんはGraphAIの特徴や、TypeScriptで作ることのメリットを紹介しました
「LLMマルチエージェントアプリケーションの設計のコツ」
PharmaXの上野彰大さんは、LLMに関する勉強会を開催している経験やLLMを用いたプロダクトの開発・
また、LLMエージェントの設計原則を4つにまとめて紹介していました。
- LLMエージェントがこなすタスクはできる限り小さく単一にする
→ タスクを細かく分けて分割するパターンをフローエンジニアリングと呼ぶ。 - RAGは本当に必要な時のみ使う
- LLMエージェントの出力を次のLLMの入力に使う直列構造はできる限り避ける
- 無理してLLMでやり切ろうせず、必要があれば人を介在させる
スポンサートーク(1)
スポンサートークもトークセッションの合間に行われました。BASEのがっちゃんさんは
「AI旅行記事生成PJから学んだ マルチエージェントの本質と可能性 旅行スタートアップの生成AI開発ナレッジシェア」
令和トラベルの宮田大督さんは、旅行関連領域でのマルチエージェント活用事例を紹介しました
Difyを用いた段階的な旅行記事執筆ワークフローを紹介し、品質や生産性を向上させた経験を説明しました。企画→構成→執筆→記事チェックと段階を踏ませたことで、チェーンオブソートに近い仕組みになったのではないかと分析、結果的にエージェント化されていたと解説しました。このエージェントは、目的ではなくクオリティ向上の結果そうなっているものだとも述べていました。
「LLMとPlaywrightで実現する非定型なデータの収集」
Macbee Planetの山室友樹さんは、クローリングを自動化する際のTIPSを共有しました
特に次のTIPSを挙げていました。
- Gemini APIの無料枠で収まるのであればそれでPoCするのが良さそう。
- 一方で利用頻度が高いような処理になりそうであれば、Vertex AIを利用したほうが価格面でも周辺処理の機能面でも便利。
- Retry処理は忘れずに。
なお、TIPSを紹介する際に
バナナスポンサートーク
本イベントに約20kgのバナナを提供していただいたドールさんのスポンサートークでは、バナナが糖類の摂取や精神安定に役立ち、エンジニアにとって優れた果物であることが強調されました
「AI x インシデント管理で拡げるサービスオーナーシップ」
インシデント管理サービスを提供しているPagerDutyの草間一人
DevOps化・
「GraphAI x Raycastで自然言語で様々なワークフローの実行できるようにする試み」
DevX Commnityの共同Founderであり、All Adsの矢野通寿さんは、RaycastとGraphAIを組み合わせ、自然言語で様々なワークフローを実行する試みを報告しました
現在は、自然言語でタスクの完了や更新依頼などを伝えると、自動でNotionやSlackなどの外部ツールへの更新・
「Raycast Proで、あらゆるコンテンツをすばやく解読する」
しょっさんさんはRaycast Proを活用し、日々の情報解読を高速化するテクニックを紹介しました
スポンサートーク(2)
広告コンサルティング事業を展開するMacbee Planetさんは広告事業を中心に、
「デザインパターンで理解するLLMエージェントの設計」
ログラスのr.
Agentic WorkflowはAndrew Ng氏が提唱された枠組みで、LLMエージェントに共通で見られる構造を
「LangChain/LangGraphの進化からみるLLMベースのAIエージェントの開発」
ジェネラティブエージェンツの大嶋勇樹さんは、2024年11月に、書籍
今回の発表では、LLMが出てきた当初の
パネルディスカッション
中島聡さんと小飼弾さんのパネルディスカッションが行われました
このパネルディスカッションでは、テーマごとに中島さんと小飼さんの意見を聞きながら進行しました。
「いまAI分野で起業や事業を立ち上げるならどんな事業ドメインでどんなサービスを作るか」
- 中島さん
-
“AIネイティブ” なサービスをゼロから考える発想が重要。 - 既存サービスにAIを
「足す」 より、最初からAIがある世界を前提にデザインすると、これまでにないサービスが生まれる。 - どの領域でも
「AI前提」 で仕組みを再考すると無限のチャンスがある。
- 小飼さん
-
- AI
“ではない” ものとの対比を重視する。 “AIではうまくいかない領域” を見極める。 - そこにこそ新たな創造や人間の開花の余地がある。
- AI
「LLMの推論手法」
- LLMは多くの場合、統計的
(経験的) に次の単語を予測する 「帰納法」 的に答えを導く手法 (システム1) が中心。 - 一方、人間は演繹的に、論理的手順で答えを導く
(システム2)。
という話になり、
- 小飼さん
-
- LLMは
「人間のミス」 も再現する (57を素数と誤認するなど)。 - 現在の仕組みだけでは、LLMの
「システム2」 の獲得は難しいのではないか。 - 一方で、AI研究は
「人間の脳の仕組み」 を解き明かすことにもつながる。
- LLMは
- 中島さん
-
- LLMは
「システム1」 的、反射的な性質が強い。 - Chain-of-thoughtなどのフレームワークで
「システム2」 に近づいているような感覚はあるが、それが本当にシステム2なのかどうかは議論の余地がある。 - AI研究者はGPUを積み、データを増やせば、システム2を実現できると自信を持っている。
- LLMは
最後に
- 中島さん
-
- AGIが来た場合の社会的インパクトは大きい。
- 身体を持たないAIが
「人間をAPIで使う」 という未来すら、可能性としてはある。
- 小飼さん
-
- もしAGIが、人型ロボットの普及よりも先に来るなら、人間はただの
“肉” として使われるかも。 - 理想は
“働きたくない人が働かなくていい世界”。
- もしAGIが、人型ロボットの普及よりも先に来るなら、人間はただの
その後、参加者からの質疑応答も行われました。
たとえば、
また、
Networking
すべてのトークセッションが終わった後に、交流の時間を設けました。参加者・
このNetworkingでは、スタジオユリグラフの中村槙之介
まとめ
今回の
DevX Communityでは今後もAI開発の先端的な動向を追いかけ、エンジニアの開発体験向上のための情報発信や、イベントを開催していきます。