あけましておめでとうございます。株式会社ミツエーリンクスの中村直樹です。昨年と同じく、2024年のWebアクセシビリティに関連する出来事を振り返りつつ、2025年のWebアクセシビリティの展望について俯瞰していきたいと思います。
WCAG 2.2と関連文書
2023年10月のWCAG 2.
昨年はWCAG 2.
WCAG 2.2日本語訳と解説書
ウェブアクセシビリティ基盤委員会
WCAG 2.
- 目標
- フォーカスのある項目を見えるようにしておく。
- 何をすればよいか
- 項目がキーボードフォーカスを取得したときに、その項目が少なくとも部分的に見えることを保証する。
- なぜそれが重要か
- マウスを使用できない人々は、キーボードフォーカスがどこにあるかを確認する必要がある。
どのような達成基準なのかが端的に説明されており、あまり技術に詳しくない人でも理解しやすいような工夫が取り入れられています。
WAICの翻訳ワーキンググループでは、WCAG 2.
WCAG 2.x Backlog Task Force
WCAGを開発しているW3CのAccessibility Guidelines Working Group (AG WG)では、WCAG 2.
年に一度に開催される、W3Cの技術カンファレンスであるTPAC 2024にあわせて、AG WGがYouTubeで公開したAccessibility Guidelines (AG) Working Group updateというタイトルの動画では、タスクフォースが約200件のGitHub
Techniquesの翻訳であるWCAG 2.
WCAG2ICTとWCAG2Mobile
前述のAG WGのYouTubeの動画では、WCAG2ICTにも触れています。WCAG2ICTというのは、Guidance on Applying WCAG 2 to Non-Web Information and Communications TechnologiesというW3C Group Noteのことです。これはWCAG 2.
筆者の個人的な感覚ですが、WCAG2ICTは日本ではあまり注目されていないW3C文書であるように思われます。しかし、WCAG2ICTのBackgroundのセクションで述べられているように、
また、AG WGのMobile Accessibility Task Force (MATF)は、昨年の初頭に新たなファシリテーターを迎え、WCAG2Mobile (Guidance on Applying WCAG 2.
まだ公開草案は発行されていませんが、GitHub
ISO/IECの動向とJIS改正の見通し
国際規格であるISO/
DIS (Draft International Standard)というのは国際規格案と呼ばれるステータスであり、ここからISO/
ISO/
WAICでは、日本規格協会のJIS原案作成公募制度によって、JIS原案の作成を検討しています。公募ができた場合、約1年でJIS改正に漕ぎつけられる見通しです。作業部会6としては、今年中に原案作成委員会を立ち上げたい意向です。
WCAG 3.0について
昨年は、Global Accessibility Awareness Day (GAAD)にあわせる形で5月のWCAG 3.
5月の草案では、Guidelineのセクションに、174ものoutcomes
5月の草案がそういう調子でしたので、12月の草案についても特筆すべき内容がないのでは……と考えていたのですが、実際には筆者の予想を裏切る、内容を伴った大幅な更新がされました。
12月の更新では、WCAG 3.
AG WGのco-chair
WCAG 3.0の構造
12月の草案では、WCAG 3.
要件は、WCAG 2.
アサーションは以前の草案でも議論されてきたものです。適合を主張するとき、アサーションを用いることで、アクセシブルなデザインシステムの利用、支援技術でのテスト、ユーザビリティテストのような、アクセシビリティの改善や検証を行ったことを主張できるようになります。
また、recommendations
12月の草案にはディシジョンツリーが組み込まれています。これは、AG WGがWCAG 2.
適合
Rachael氏のBlog記事では、AG WGの決定事項として下記が引用されています。
The most basic level of conformance will require meeting all of the Foundational Requirements. This set will be somewhat comparable to WCAG 2.
2 Level AA. Higher levels of conformance will be defined and met using Supplemental Requirements and Assertions. AG will be exploring whether meeting the higher levels would work best based on points, percentages, or predefined sets of provisions (modules).
訳すとすれば、次のようになるでしょうか。
- もっとも基本的なレベルの適合は、基本的な要件をすべて満たすことを必要とし、これはWCAG 2.
2レベルAA相当となる。 - より高いレベルの適合は、補足的な要件とアサーションを用いて定義される。AG WGは、ポイント、パーセンテージ、モジュール
(定義された条項のセット) に基づいてより高いレベルを満たすことが最も効果的かどうかを検討する。
AG WGは、今年の上期をガイドラインの作成に費やす予定ですが、その中で特に否定する材料が出ない限り、上記の決定事項で策定を進めていくとのことです。
スケジュール
Explainerからもリンクされているように、スケジュールはWCAG 3 Timelineで公開、メンテナンスされています。
WCAG 3 Timelineでは、アクセシビリティのカンファレンスとして知られ、今年で40回の節目を迎えるCSUNや、11月に神戸で開催されるTPAC 2025がRetrospective
Open UIの合同ミーティングにまつわるトピック
HTMLのトレンドやWeb制作者のニーズを調査したState of HTML 2023の結果が公表されたのは、昨年5月のことでした。その中で、アクセシビリティに関する調査も行われたのですが、
この調査結果に呼応するように、5月からOpen UI、WHATWG/HTML、CSS WGの3グループの合同ミーティングが定期的に開催されています。HTMLとCSSの仕様を策定しているワーキンググループの説明は省きますが、Open UIについて馴染みのない方向けに簡単に説明しますと、Open UIはW3Cのコミュニティグループのひとつです。Open UIは、Webで使用されるフォームコントロールやUIインターフェイスを調査し、Webプラットフォーム間の相互互換性を向上させるための取り組みを行っています。
HTMLの標準フォームコントロールは、デフォルトのデザインが貧弱である、デザインをカスタマイズすることがほぼできない、プラットフォームによって著しく見た目の差異があるなどの理由から、CSSでいちからデザインされることはあります。ところが、CSSで見た目はよくデザインされている一方で、スクリーンリーダーのような支援技術には伝わらない情報構造になっているというような、残念なUIが往々にして世の中のサイトで提供されているというのが現状です。
合同ミーティングの中ではかなり込み入った議論がされていますが、CSS Form Styling Module Level 1ではUnofficial Proposal Draftとして、ミーティングの議論を通じて出されたいくつかの疑似要素が集められています。この中でわかりやすいのは::checkmark
疑似要素でしょうか。その名のとおり、チェックマークアイコンに対してスタイルを提供することを試みるものです。
UIの外観については、現在はCSS Basic User Interface Module Level 4で規定されているappearance
プロパティで断続的に長らく議論が行われているという認識です。スタイルの変更ができるようなHTMLの標準コントロールを目指して、appearance
プロパティを含めた議論が継続的に行われていくものと思われます。
ところで、3グループの合同ミーティングでは、CSS Display Module Level 4で提案されるreading-flow
プロパティについても議論がなされていますreading-flow
プロパティになります。フォーカス順序といえば、tabindex
属性を思い浮かべる方も多いかと思いますが、このプロパティとtabindex
属性がどのように影響を及ぼすのかについて、HTML側でも議論が進んでいるところです。
ソルファニャーノ憲章とアクセシビリティ施策
昨年10月に、G7包摂と障害に関する担当大臣会合
ソルファニャーノ憲章では、障害者権利条約の完全実施に向けて8つの優先事項を挙げており、国際機関や民間セクター等と協力して取り組むことが盛り込まれています。その中で、優先事項2として
さて、我が国の公共セクターのWebアクセシビリティとしては、根本にみんなの公共サイト運用ガイドラインが存在します。障害者権利条約の対日審査の総括所見でも評価されている本ガイドラインですが、2024年版の改訂は、筆者としてはやや唐突な動きのように見え、驚きをもって受け止めていました。
2024年版における最も大きな変更点は、WCAG 2.
そのような2024年版のみんなの公共サイト運用ガイドラインですが、昨年12月に行われた第82回障害者政策委員会の総務省提出では、
ところで、昨年は改正障害者差別解消法が我が国のトピックでしたが、EUでは、今年6月にEuropean accessibility actとも呼ばれる欧州アクセシビリティ指令がすべての製品とサービスに適用されます。
欧州アクセシビリティ指令は、いくつかの民間セクターにも拘束力が発生する一方で、みんなの公共サイト運用ガイドラインはその名のとおり、あくまで公共セクターだけを対象としたものです。また、デジタル庁のウェブアクセシビリティ導入ガイドブックについても、第一の読者として行政官を想定するものです。民間セクターを対象としたものとしては、国土交通省のバリアフリー整備ガイドラインが挙げられますが、あくまで運輸セクターに限定されるものであり、欧州と比べると限定的であると言えるでしょう。何よりも、我が国では法的にWCAG 2.
総括所見ではWebアクセシビリティに関して法的拘束力のある基準の整備について直接的な言及がなされています。また前述したように、ソルファニャーノ憲章でも優先事項としてアクセシビリティが取り上げられています。Webアクセシビリティについて我が国での法的なルール作りが少しでも前進することを願って、本稿の締めくくりとしたいと思います。