PyCon APAC 2025の参加レポートをお伝えします。
PyCon APAC 2025は、2025年3月1日から3日にかけて、フィリピンのケソン市にあるアテネオ・

開催概要
- 日程:2025年3月1日~2日
- 場所:アテネオ・
デ・ マニラ大学 (フィリピン・ ケソン市) - イベント内容:
- 講演
- ワークショップ
- パネルディスカッション
- ライトニングトーク
- ポスターセッション
- スプリントセッション
(3月3日に開催)
以下では、本カンファレンスで扱われたセッションを紹介していきます。
全体としては
PyCon JP TVでも、PyCon APAC 2025の報告会を行っていますので、会場の臨場感をより味わいたい方はぜひご覧ください。
会場の様子:会場は大学のキャンパス
現地の雰囲気を感じてもらうために、少しづつ写真を載せていきます。 会場はアテネオ・



Opening
最初にPython APAC 2025の開会式が行われ、Co-ChairsのCyrus氏が挨拶を行いました。

今回のテーマ
Cyrus氏は、多彩な講演やワークショップ、ネットワーキングの機会を通じて互いに学びを深め、コミュニティの結束をさらに強めていこうと強く呼びかけてオープニングを締めました。
セッション紹介
ここからは発表の内容を紹介します。さまざまなセッションが開催されましたが、私が特に印象に残ったセッションを紹介します。
- [Keynote] Haligi of Change: Python for Positive Impact and Innovation in APAC’s Digital Public Infrastructure & DPGs
- [Keynote] Read-Eval-Print: Using Notebooks for Fun and Profit
- Optimizing Dependency Management and Deployment for Serverless Python Applications with uv and Pants
- Demystifying Open Source Contribution; My experience as a Pandas contributor
- Building Bridges Across Asia: The Role of the Python Asia Organization (PAO)
- [Keynote] What AI can do to enhance D&I in the community?
- [Panel Discussion] Fostering Diversity and Inclusion: Stories and Steps for a Better Python Community
- [Panel Discussion] The Future of Software Engineering in the Age of AI
Keynote:Haligi of Change: Python for Positive Impact and Innovation in APAC’s Digital Public Infrastructure & DPGs
1日目はキーノートが2つありました。1つ目がJeremi Joslin氏とEdwin N. Gonzales氏によるデジタル公共インフラ

登壇者
- Jeremi Joslin
(オープンソース技術歴20年以上、政府・ 国連・ NGOとも協働) - Edwin N. Gonzales
(IT業界30年以上、FOSS推進)

概要
ポイント/学び
まず、DPIは道路や鉄道のような
質疑応答
質疑応答では、デジタル公共財の一覧がどこで見られるのかという質問が出ました。これに対して、デジタル公共財アライアンス
参考リンク/リソース
Keynote:Read-Eval-Print: Using Notebooks for Fun and Profit

登壇者
- Clark Urzo
(WhiteBox Research 戦略ディレクター)
概要
このキーノートでは、プログラミング言語Pythonの対話環境
ポイント/学び
セッションの大きなポイントとして、まずJupyter Notebookの隠れた問題が挙げられました。Notebookはセルの実行順序が混乱しやすいことや、依存関係の管理が難しいことなど、
最後に、大規模言語モデル
質疑応答
質疑応答では、まず
続いて、大規模言語モデルのコード生成を使う場合に
参考リンク/リソース
会場の様子:ブース
フィリピンの決済系の企業やグローバル企業などさまざまな企業がブースを出展していました。スタンプラリーやノベルティの配布もあり、大賑わいでした。筆者もbilleaseのブースで人形をもらい、お土産で持って帰り飼い犬が喜んでいました。

Optimizing Dependency Management and Deployment for Serverless Python Applications with uv and Pants

登壇者
- Arnel Jan Sarmiento
(クラウドネイティブ & サーバーレスアプリのスペシャリスト、Elemnta所属)
概要
このセッションでは、AWS LambdaをPythonで開発・
ポイント/学び
pantsを使うことで、依存関係の自動推論や並列ビルド、キャッシュを活用できるため、大量のLambdaファンクションを抱えるプロジェクトでもビルド時間を大きく削減できることが示されました。各ファンクションが実際にimportしているモジュールだけをZIPに含める仕組みが備わっているので、不要なライブラリを入れずに済む点がメリットです。
Rust製のパッケージマネージャーuvを導入すれば、依存関係の解決やインストールの処理が大幅にスピードアップし、開発者の生産性が高まる可能性があると紹介されました。ただし、uvは非常に新しいプロジェクトであり、Lambda向けの標準サポートは限定的なので、導入にはチーム全体の合意やPoC
最終的にはTerraformなどのIaCツールを用いて、Pantsが生成したZIPファイルをAWS Lambdaにデプロイする流れが説明されました。これによって、依存関係とビルドの管理を一括化しつつ、クラウド側には最適化されたファイルをアップロードできるため、デプロイ時間や失敗のリスクが減ることが期待できます。
質疑応答
質疑では、pantsを使う際にサブモジュールを扱うケースや、企業での採用を検討したときの信頼性について質問がありました。サブモジュールについては、pantsの依存関係推論が自動的に読み込まれるため大きな問題にはならないものの、認証が必要なリポジトリを参照する場合は適切な設定が必要と説明されました。企業導入については、uvがまだ新しいプロジェクトであるため、現状ではPoetryなど既存のツールのほうが実績面で安心できる場合もあるという意見が出ました。
さらに、クロスプラットフォーム対応における環境エミュレーションの必要性や、uvがPoetryよりも依存解決を高速化できるのかといった点も議論されました。総じて、導入には学習コストやDevOps体制の整備が求められる一方で、これらのツールを活用すればLambdaファンクションの管理やビルド効率を大幅に向上できることが示唆されました。
参考リンク/リソース
Demystifying Open Source Contribution; My experience as a Pandas contributor

登壇者
- Kevin Christian Amparado
(「ワントリック・ パイソニスタ」 と称しつつPandasにコントリビュート)
概要
今回のセッションでは、Kevinさんがpandasへのコントリビュート体験をもとに、オープンソースプロジェクトへの参加方法やメリットについて語りました。セッション冒頭では
また、pandasの機能改善として
ポイント/学び
まず、オープンソースプロジェクトへの貢献は、広く使われているライブラリほど
また、GitHubの
発表の中で

質疑応答
まず
また、オープンソースのCIやコード規約を企業のQAに活かせるかという問いかけには、個々のプロジェクトや企業の事情によりけりだが、オープンソースで学んだベストプラクティスは社内にも応用できる場面があると回答しました。
参考リンク/リソース
会場の様子:ポスター発表は屋外
他のカンファレンスでは見たことがなかったのですが、ポスター発表が屋外で行われていました。雨が多い日本では実現できない形式だな、と思いました。

Building Bridges Across Asia: The Role of the Python Asia Organization (PAO)

登壇者
- Ella Espinola
(Python Asia Organization エグゼクティブディレクター/ Python PH アウトリーチ&ダイバーシティ ディレクター) - 寺田 学
(PyCon JP Association理事/ PAO創設者・ 理事/ PSFフェロー)
概要
本セッションでは、Python Asia Organization
現在はGitHub Sponsorsや企業スポンサーからの寄付を集めて運営を始めており、アジア全域の開発者や主催者がアクセスしやすい仕組みづくりを進めているとのことです。
ポイント/学び
まず、PSFからアジア地域に交付される助成金がまだ十分でない現状を踏まえ、PAOが
さらに、イベント・
質疑応答
会場からは、まずPAOのガバナンス構造に関する質問があり、理事会を中心にエストニアの非営利組織として設立されていること、現在は少人数で始めているが、積極的に各国の意見を取り入れる姿勢を貫く方針であると説明がありました。特に、理事になるにはエストニアのeレジデンシーが必要といった要件はあるものの、メンバーシップの拡大や参加手段を今後さらに検討すると回答がありました。
また、
参考リンク/リソース
Keynote:What AI can do to enhance D&I in the community?
登壇者
- Cheuk Ting Ho
(JetBrains AIデベロッパーアドボケイト、Humble Data共同創設者、PSF理事)

概要
このセッションでは、AI
また、アクセシビリティとダイバーシティ&インクルージョン
ポイント/学び
まず、AIエージェントを理解するうえで重要なのは、単純な反射ベースの判断から、学習型・
また、自動字幕や翻訳機能を活用すれば、オンラインカンファレンスでも多言語対応が短期間で実現できるなど、イノベーションの幅が広がります。 さらに、オープンソースの開発においても、コードリーディングの効率化やテスト作成、ドキュメント翻訳など、AIを使うことで参加のハードルを下げられると指摘されました。ただし、データの扱い方やライセンスの条件、誤情報の可能性など、注意が必要な側面もあるため、
Keynoteのアイスブレイクとしてビンゴが盛り込まれていました。そんなKeynoteは初めてだったので驚きましたが、結果的に周りの方と喋る機会になって、とても良いアイスブレイクになりました。 AI Agentの説明がとてもわかりやすく、2025年のKeynoteに相応しい内容だと思いました。

質疑応答
会場からは、オープンソースへのAI支援がライセンス面で問題ないかなどの質問が寄せられました。講演者は
参考リンク/リソース
Panel Discussion:Fostering Diversity and Inclusion: Stories and Steps for a Better Python Community
PyCon APACでは、通常のトーク発表、ポスター発表の他にパネルディスカッションも実施されていました。準備されたトークではなく、インタラクティブな会話の中で発生するリアルな意見を聞くことができ、面白かったです。パネルディスカッションは2つ紹介します。
登壇者
写真に写っている左から順番に記載しています。
- モデレーター:Ivy Fung
(PyCon MY, PyLadies KL) - Aryn Choong
(15年以上のソフトウェア開発経験) - Kalyan Prasad
(PyConf Hyderabad, NumFOCUS CoC委員) - 石田 真彩
(PyLadies Tokyo, PyCon JP Association理事) - Leonora Sison
(Billease QAマネージャー)

概要
このセッションでは、Pythonコミュニティにおける多様性
パネルには、言語や文化が異なるエンジニアが多数在籍する企業のQAマネージャーや、海外カンファレンスの運営を行ってきたベテラン、複数の国でPythonイベントを支えるコミュニティリーダーなど、多彩な経歴を持つメンバーが登壇しました。彼らは各々の視点から、グローバルかつリモートな環境で活動する中で生じる言語の壁やタイムゾーンの違い、ジェンダーや国籍に起因するバイアスにどう対処しているかを語りました。
多様な声が集まることで新しいアイデアやイノベーションが生まれやすくなる一方、視点の違いを尊重し合う
ポイント/学び
「リモートワークが当たり前となった今、世界中から参加者を集められるメリットが生まれたが、同時に言語や時間帯など越えなければならないハードルがある」
これに対しては、オンライン会議の録画や議事録作成など、丁寧なドキュメンテーションを徹底することで情報伝達における齟齬を防ぎ、多様なメンバーが同じ目的に向かいやすくなるといいます。さらに、誰もが平等に発言できる場を設定し、
カンファレンスやミートアップの運営では、ビザ発行や渡航費用の問題など実務面の支援が必要になるケースもあり、それらを運営チームがサポートすることが大切だと語られました。また、コミュニティ活動は
質疑応答
会場からは、海外で開催されるイベントに参加するときの金銭的ハードルやビザ発行の問題について質問があり、パネリストは
また
さらに、AI時代における多様性のあり方についても触れられ、AIモデルはバイアスを含みやすいため、人間側がしっかりと倫理やプライバシーへの配慮を行う必要があると強調されていました。最終的に、パネリストたちは
参考リンク/リソース
Panel Discussion:The Future of Software Engineering in the Age of AI
登壇者
写真に写っている左から順番に記載しています。
- モデレーター:Dexter Gordon
(AI/ソフトウェア開発コンサルSwarm共同創設者) - Iqbal Abdullah
(日本のテック企業で20年以上 / Pythonコミュニティ推進) - Bae KwonHan
(PSF理事 / PyCon Korea創設者) - Dominic Ligot
(データアナリスト・ AI倫理推進者) - Jeremi Joslin
(オープンソースエンジニア、Newlogic CTO経験)

概要
このセッションは
パネルにはAIやソフトウェア開発に深く関わる4名が登壇し、それぞれの立場から
ポイント/学び
まず、開発者にとっては
社会的インパクトの面でも、適切なガードレール
AIの活用方法に関して、筆者が普段日本で感じていることを、他の国の方々も感じていることがわかり、とても共感する部分が多いセッションでした。
質疑応答
「人間もバイアスを持つのだからAIを信頼しない理由は何か」
次に、
参考リンク/リソース
Closing
イベントのクロージングでは、まずスタンプラリーをコンプリートした方を対象に抽選会が行われ、PyCon APAC 2025の各種賞品

イベントは、多くのボランティアやスポンサー、スピーカーへの謝辞とともに締めくくられ、翌日に予定されているスプリント
まとめ
PyCon APAC 2025に参加してきました。大変な盛り上がりでアジアでのPythonコミュニティの繋がりの強さを感じましたし、このイベントを通じてさらに繋がりが深まったと思います。
Pythonを軸にした多彩なテーマ
以下のように多種多様なテーマが話されました。Pythonの活用範囲の広さを改めて感じました。
- 社会的インパクト (DPG/
DPI、エネルギー、オープンデータ) - AI時代のソフトウェア開発 (AI支援ツール、倫理とバイアス)
- OSSコミュニティとD&I
(PyLadies、PAOなど) - 大規模アプリの運用ノウハウ
(サーバーレス、イベント駆動、依存管理)
学び・感想
Pythonは単なる
技術的にはサーバーレスやイベント駆動、ドキュメントベースDB移行、GIL無効化などトピックが盛り沢山でした。Pythonエコシステムの成熟度や広がりを実感しました。
AI普及に伴う倫理やバイアス、雇用・
勉強にもなりましたし、さまざまな方と触れ合うことができて、とても楽しいイベントでした。皆さんも参加してみてはいかがでしょうか。
