PyCon JP 2025開催レポート ―コミュニティの大切さを再発見した3日間

はじめに

こんにちは。PyCon JP 2025広報チームの重見です。9月26日から28日にかけて広島国際会議場で開催された「PyCon JP 2025」の開催後レポートをお届けします。

この記事では、3名の主催メンバーそれぞれの視点から、PyCon JP 2025の様子をお伝えします。参加した方はもちろん、参加できなかった方も、この記事を読んでイベントの雰囲気を感じていただければ幸いです。

キーノート

1日目と2日目のキーノートについて、会場チームの森藤がご紹介します。

キーノート1日目⁠Behind the scenes of FastAPI and friends for developers and builders ―Sebastián Ramírez

1日目の基調講演には、FastAPIの作者であるSebastián Ramírez(セバスティアン・ラミレス)氏が登壇しました。

Sebastián Ramírez氏
Sebastián Ramírez氏

ラミレス氏のスピーチテーマは「優れたプロダクト開発とオープンソース管理のための原則⁠⁠。その中で特に印象的だったのは、新しく作るものは既存のものをわずかに上回るだけでは不十分で、圧倒的に優れている必要があるという考え方です。「天秤を転倒させる(trip the scale⁠⁠」 ほどの違いがなければ、開発する価値はないと力強く語る姿が印象的でした。

そのうえで、ユーザー体験(UX)の重要性を強調し、ドキュメンテーション駆動で開発を進めることで、ユーザー(開発者)にとって理解しやすい設計を実現することの大切さを説きました。FastAPIがこれほど支持されている理由が、ここにあるのだと実感させられる内容でした。

話はオープンソースプロジェクト運営のモチベーションへと移ります。多くのオープンソースプロジェクトは、ごく少数の開発者(1〜2人、あるいはそれ以下)によって維持されているという現実。だからこそ、すべての開発者は 「コミュニティがなんとかしてくれる」と考えるのではなく、⁠自分自身がコミュニティの一員である」 という意識を持つべきだと訴えかけました。

一方で、プロジェクト運営者に向けては、「すべてがあなたのエネルギーに値するわけではない」という大切なメッセージも。ネガティブなものに無駄に巻き込まれず、プロジェクトのスコープ外や将来の計画と衝突するPRなどに対して、丁重に「No」と言うことを学ぶことの重要性を語りました。オープンソース運営の経験から生まれたとても実践的なアドバイスであり、多くのオープンソース運営に携わるエンジニアに勇気を与える言葉だと感じました。

最後は、FastAPIの展望についてです。ラミレス氏は、FastAPIの登場によりAPIを定義することはとてもシンプルになったものの、それをクラウドにデプロイするのはあまりにも難しいという課題を指摘します。そこで立ち上げたのがFastAPI Cloudというプロジェクト。「複雑性を減らす」という原則を、FastAPIユーザーが直面する具体的なデプロイの問題に適用するための取り組みです。新たなチャレンジを発表する姿に、会場からも大きな拍手が起こりました。

Go and solve a problem.

スピーチの最後、ラミレス氏はこの力強い言葉で締めくくりました。問題を見つけ、それを解決する。そのシンプルで力強いメッセージが、会場にいた多くの開発者の心に響いたのではないでしょうか。明日から自分も何かを作りたい、そんな気持ちにさせてくれる素晴らしい基調講演でした。

キーノート2日目⁠プログラミングの未来を駆ける!~2年間の挑戦が見せてくれた⁠プログラミングのこれから~ ―大塚 あみ

2日目の基調講演には、大塚あみ氏が登壇しました。スピーチのテーマは「#100日チャレンジしたら人生が変わった」です。

大塚あみ氏
大塚あみ氏

物語は大学在学中、ChatGPTを使うと宿題がサボれるという話を耳にしたことから始まります。そこから1日10時間を費やして、いかにバレずに宿題をサボるかを試行錯誤したという大塚氏。その探求心は、ChatGPTを使って100日間毎日Pythonでアプリを作り公開し続けるという挑戦へと発展しました。

この100日間の記録を書籍化したものがベストセラーとなり、一躍時の人となった大塚氏ですが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。⁠実際の業務とは違う」⁠これで開発者と名乗れるのか」といった批判的な声も少なくなく、なかには「髪の毛重そう」といった見た目に関する心ない批判もあったそうです。だからこそ今日の講演のために、コーディネートとメイクを依頼してしっかり外見にお金をかけてきたとのこと。その率直な語り口に、会場からは共感と応援の空気が広がりました。

振り返ると、#100日チャレンジの達成、書籍の出版と、ちょうど10ヵ月間隔で人生が変わり続けているという大塚氏。そして今日、PyCon JP 2025の登壇日は、ちょうど次の10ヵ月にあたる時期です。「新たに人生を変えるためにここに来た」と力強く語る姿に、会場は一気に引き込まれました。

そこで発表されたのが新作アプリ「めもるん⁠⁠。なんとPyCon JP 2025開催までの100日間で、自分が求めるメモアプリを開発し、実際にApp Storeで公開までしてしまったというのです!

最後に座長のnishimotzさんが登場し、⁠自分が同じことをしても100日分のChatGPTの詳細な記録など遡ることができず、せいぜい与えたプロンプトのHistoryを眺める程度だが、どうしてここまで詳細に記録を残すことができるのか?」と質問しました。会場の誰もがうなずくこの疑問に対する答えは、まさにこのアプリにすべて凝縮されていました。

Xには「自分をプログラミングしてデバッグしてGit管理してるみたいな生き方(すごい⁠⁠」というツイートがありましたが、まさに同じ感想を会場の全員が抱いていたことでしょう。

そして大塚氏がこのアプリの発表と共に、「私は今日をもって駆け出しエンジニアから個人開発者になったことを宣言します!」と高らかに宣言すると、会場は祝福の拍手と歓声に包まれ、2日間を通じて最高の盛り上がりを見せました。

質疑応答では、ある参加者から「ChatGPTを10時間も試行錯誤する時間があれば、宿題を片付けるほうが早かったのでは?という質問が飛び出します。大塚氏は少し考えた後、⁠その考えには至りませんでした」と答え、会場は温かい笑いに包まれました。

しかし、この一連のやりとりを見ていて感じたのは、この考え方こそがエンジニアの本質なのではないかということです。多くの時間を費やしてでも面倒な作業を自動化することに美学を感じる。その探求心と情熱こそが、私たちエンジニアの原動力なのだと改めて気づかされました。

大塚氏の姿を見て、⁠自分も何かに挑戦したい」⁠100日チャレンジをやってみよう」と感じた参加者も多かったのではないでしょうか。批判を乗り越え、自分の道を切り拓いていく彼女の姿は、まさに次世代のエンジニア像を体現していると感じた、素晴らしい基調講演でした。

セッションレポート

広報チームの米澤です!今回は私が主催メンバーとして運営をしている中で、空き時間に行くことができたセッションについてレポートします。私のバックグラウンドが生命科学分野を専攻している広島の大学院生であること、今回PyCon JPに参加することが初であること、⁠(恥ずかしながら)実はPythonについて深く知らないことから、以下の2つの条件に合うようなセッションを聞きに行きました。

  1. 「初級」のタグがついているセッション (公式HPのタイムテーブルから調べることができました)
  2. 自分の研究のヒントになる

主催チームとして参加していてもセッションを聞きに行ける時間があるのは本当にありがたかったです。

見てきたセッション
  1. SciPy Conferenceから学ぶ、科学とPythonをつなぐコミュニティの作り方〜オープンサイエンスを支えるスプリント文化とコラボレーションの実践〜
  2. NetworkXとGNNで学ぶグラフデータ分析入門:複雑な関係性を解き明かすPythonの力

DAY 1 フェニックスホール⁠SciPy Conferenceから学ぶ⁠科学とPythonをつなぐコミュニティの作り方〜オープンサイエンスを支えるスプリント文化とコラボレーションの実践〜

まずはTetsuo Koyamaさんのセッションを聞きに行きました。自分は前から「オープンサイエンス」に興味があり、研究データのオープン化などに自分のできる範囲でやってきていたので、まさにこのセッションはとても興味があったので足を運んできました。

スピーカーのTetsuo Koyamaさんが使用したスライドは以下からアクセスできます(余談ですが発表の前後に発表資料を公開する文化がとてもいいなと感じました... 他の分野の学会でも広がるといいなあと思いました⁠⁠。

小山哲央氏のセッション
小山哲央氏のセッション

セッション内容

まずはSciPy Conferenceという国際的なカンファレンスの報告から始まりました。このようなカンファレンスがあることを恥ずかしながら知らなかったのですが、Pythonを軸とした科学コミュニティというのがあることに感動しました(いつかこれは行ってみたいです⁠⁠。

続いてPythonの科学技術エコシステムをバックアップしているNumFOCUS「Scientific Python」プロジェクトの紹介がありました。特にNumFOCUSがサポートしているプロジェクトにはJupyterなど「え!?このプロジェクトも支援しているんだ!」という驚きがあり印象に残っています。こういうサポートも知らず知らずのうちにお世話になっているんだなあと思いつつ、研究成果だけではなくあらゆるところでぼくらは巨人の肩の上に載っているんだなあと思いました。

コミュニティの話としては、pyOpenSciのお話も興味深かったです。コミュニティ主導のパッケージレビューのシステムがあるのか! という驚きと、自分の研究でもつながってきそうだなと思ったのでとても参考になりました。

情報pyOpenSciに関するお話は、生命科学分野の情報を見ることができるTOGO TVから、Bio"Pack"athon(バイオパッカソン)というコミュニティでの講演としても見ることができます。

DAY 2 ダリア 2⁠NetworkXとGNNで学ぶグラフデータ分析入門⁠複雑な関係性を解き明かすPythonの力

続いてfujineさんのグラフデータ分析入門のセッションを聞きに行きました。

自分が専攻している生命科学分野においてグラフ構造データの構築や解析は精力的に行われており、たとえば最近だとRNAに関する知識グラフRNA-KGなどが開発されています。しかしながら、自分はこの分野については初心者で、⁠グラフってそもそもなんだろう?」⁠どうやったら解析できるんだろう」といった初歩的な部分が気になっていました。まさに自分の知りたい部分と合致していたこのセッションをここ、広島で聞けると知ってから、とてもわくわくしていました。

スピーカーのfujineさんが使用したスライドには、以下からアクセスできます。

セッション内容

このセッションでは、そもそもグラフとはなにか?という丁寧な説明から、Pythonでグラフを扱うためのデファクトスタンダードなライブラリとなっているNetworkXの紹介、実際の実行コードまで教えてもらい、めちゃくちゃ勉強になったところで最新技術のGraph Neural Network(GNN)のわかりやすい紹介をしてもらって、初心者大満足フルコースでした。

1日目に聞いたセッションとも併せて、Pythonはデータサイエンスをするにはうってつけの言語なのかなあ…なんて思ったりしました。

自宅に帰ったらうずうずしてさっそくpip install networkxを実行して試してみました。

セッションを聞いてみての感想

自分が住んでいる広島県では、科学分野でPythonを接点としたコミュニティの話などはなかなか聞く機会がないので、今回PyCon JP 2025で聞くことができて良い経験になりました。自分の研究とは別に、Pythonと科学コミュニティの接点を作れるような場所を作ることも長い目でみるとPythonコミュニティに貢献できるのかな、なんてことも思いました。

スプリント

会場チームの佐野です。ここではスプリントデーについてご紹介します。

集中開発でOSSに貢献!「スプリント」でPythonコミュニティに飛び込もう

PyCon JP 2025では、カンファレンス最終日に「Developer & Community Sprint」通称「スプリントデー」が開催されました。スプリントとは、参加者が一堂に会し、オープンソースプロジェクトへの貢献(コントリビュート)やドキュメントの翻訳などに集中して取り組む開発イベントです。

当日は約60人の参加者が会場に集まり、Python本体やライブラリ、コミュニティなど、さまざまなプロジェクトの開発やディスカッションに臨みました。

スプリントには、参加者にとってさまざまな魅力があります。

  • 第一線で活躍する開発者、普段使っているライブラリの開発者やPythonコア開発に貢献しているコミッターと直接対話し、意見交換や改善提案ができます。
  • OSS貢献への第一歩を踏み出せる: ⁠スプリントリーダー」がテーマを掲げ、参加者をガイドしてくれるため、OSSやコミュニティへの貢献が初めての方でも安心して参加できます。
  • 同じ目的を持つ仲間と集中開発: 同じ空間で、参加者同士が刺激し合いながら、集中して開発や議論に没頭できる貴重な時間です。

当日の会場は、各々が静かにコードを書く「もくもく会」のような光景が広がる一方、活発な議論が交わされる場面も見られました。

スプリントの様子

またスプリントデーの最後には成果発表会が行われ、各プロジェクトで達成された進捗が共有されました。多くの成果が生まれ、1日を参加者の皆さんと振り返りました。

スプリント発表会

記念写真もちゃんと撮影しました!

スプリント記念撮影

コミュニティの輪が広がる「交流パーティ」

佐野です。イベントDay1のClosing後には、公式の「交流パーティ」が広島市民文化会館にて開催されました。このパーティは、一般参加者、スピーカー、スポンサー、そして主催メンバーと、皆様が一堂に集まれる機会で、PyCon JPのコミュニティを象徴する時間です。

美味しい食事とドリンクを片手に、イベント参加者の皆さんと技術的な話からコミュニティの話題まで、さまざまな会話で盛り上がりました。

パーティの食事

パーティの食事は広島開催でもあるので、広島らしいものも用意しました。広島のお好み焼き、穴子、牡蠣、瀬戸内の名産もたくさん。広島レモンを取り入れたものもありました。もみじまんじゅうを揚げた「もみじ饅頭の串揚げ」が良かったです。著者のお気に入りです!(写真を取り忘れて残念なところでしたが、来年の広島開催のPyCon JPでもまた食べれる機会があれば!)

広島をはじめ全国各地のコミュニティメンバーと再会できたり、今回の広島開催で生まれた新たな出会いも会場ではたくさん見られました。和気あいあいです。熱気もすごかったですね!

パーティの会場

今回のパーティでは、主催側で開発したWebアプリケーションを通じて参加者が交流できる企画も用意したり、誰もが会話の輪に入りやすいように促す「パックマンルール」も自然とできていたり、オープンで活気のある雰囲気も良かったです。PyCon JPの出会いが、PyCon JPという場所だけでなく、参加者の地元や別の勉強会での再会につながるきっかけになればと思います。今回の交流から、これからの活動のきっかけや盛り上がりになればと願ってます。

技術を学び合う以上に、人と人との繋がりを作り続けることが、PyCon JPの最も大切な価値ではないかなと感じる1日でした。

ランチ⁠おやつなど

今度は会場チームの森藤から、食を通じて広島の魅力をお伝えします!

PyCon JPでは、参加者の皆さんに手ぶらで1日楽しんでいただけるよう、お弁当やおやつをご用意しています。今回は4種類のお弁当を提供し、1日目と2日目で内容も変えるという工夫を凝らしました。

1日目は導線が少しうまくいかず、行列を作ってしまい参加者の皆さんをお待たせしてしまいました。この反省を活かし、2日目にはサンプルを入口に配置するという改善を実施。おかげで受け渡しがスムーズになり、参加者の皆さんにもストレスなくお弁当を受け取っていただくことができました。

2日目には開催地・広島の名物「あなごめし」のお弁当を用意しました。地元の味を楽しんでいただけたようで、参加者の皆さんからも好評をいただきました。

さらに今回は、ヴィーガンやハラール対応のお弁当もご用意しました。多様な食文化や価値観を持つ参加者の皆さんに、誰もが安心して食事を楽しんでいただきたいという想いからです。

スポンサーブースの奥では、コーヒーやお茶、ジュースと共に広島銘菓をご用意いたしました。こちらも参加者の皆さんから地方開催ならではの趣向を好評いただきました。

入口に配置した弁当サンプル(左上)、あなご飯弁当(右上)、ハラール用/ヴィーガン用弁当(左下)、広島銘菓のコーナー(右下)
ランチ、おやつ

お弁当やおやつひとつをとっても、参加者全員に心地よく過ごしていただき、少しでも開催地の広島に触れていただけるよう細部まで配慮を重ねてきました。その想いが少しでも伝わっていれば嬉しいです。

最後に

重見です。PyCon JP 2025の様子についてお伝えしました。

今年はPyCon JPとしては初となる地方開催でしたが、522名もの来場者にご参加いただき、大盛況となりました。PyCon JPがこれほどの盛り上がりを見せるのも、Pythonコミュニティのみなさん一人ひとりの貢献があってこそです。改めてお礼を言わせてください。ありがとうございます!

さて、来年のPyCon JP 2026ですが、開催日は2026年8月21日〜22日(23日にスプリント⁠⁠、開催地は今年と同じく広島国際会議場に決まりました。同じ場所で2回やることで、1年目の経験を2年目に活かすという形式は、PyCon USでも実施されているプラクティスだそうです。パワーアップした広島でのPyCon JPで、皆さんと盛り上がれることを楽しみにしています。

また、来年のイベントを一緒に作り上げていく主催メンバーをこれから募集する予定です。応募方法の詳細は後日お知らせしますので、PyCon JP Blogをチェックしてください。

それでは、来年のPyCon JP 2026でお会いしましょう!

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