親子で楽しむプログラミング

第29回“ことば”ならない言葉を獲得する ――小学生のスクラッチプログラミング

小学校プログラミングのいま

小学校のプログラミング教育が必須化されて5年以上が経ちました。小学校では、算数や理科、総合的な学習の時間でプログラミングが利用されています。そのきっかけとなったのは、1人1台の端末が配布されたGIGAスクール構想でした。子どもたちの手元にいつでも使える端末があることが、自然とICTの活用や情報について考える機会になっています。さらにプログラミングを経験した子どもは、プログラミング的に考えることが出来るようにもなってきています。

その一例として、小学校の先生から面白いエピソードを聞きました。ある小学校低学年の男の子が自分のしたいことを他者に伝えることが苦手で、自分なりのことばをつくして話すのですが、うまく伝わらなく困っていました。そのとき、プログラミングで習ったことを利用して、自分の思いをプログラミングの手順になぞって話すことでうまく伝わった話です。それには、条件によって分岐すること、繰り返すところはまとめること、など習ったことを思い出して、プログラミング的に考えました。そうすると、自分が意図したとおり相手に意味が通じてコミュニケーションができていた、とのエピソードがありました。その先生は、ことばにならない言葉(コード)を子どもが獲得した瞬間を目の当たりにしたとおっしゃっていました。それはどういったことでしょうか?

ことばにならない言葉(コード)の例

たとえば、その子どもならこうするという例を示してみます。その子自身ではなく、他の子がそうじ当番を代わってほしいけど相手がいない場合を想定します。主人公のその子は他の子に対して「こういう風に言うんだよ」と、プログラミング的に教える場面を考えます。次にその子が言ったことと、それに対応するこのプログラムの例を示します。

『これから言うことは、相手が見つかるまでずっと繰り返すんだよ。まずは、身近なお友だちに「そうじ当番を代わって」と聞いて、返事を待つんだよ。もし、その子が「はい」だったら、代わってもらっておしまい。もし、⁠はい」じゃなかったら、⁠だれかできるひとをおしえて」って聞いて待つんだよ。その名前のひとに「ちょっといいですか?」といって、最初の「そうじ当番を代わって」ということを繰り返すんだよ。これで、そうじ当番を代わってもらえるよ。』

図1 プログラミングの例

この内容をScratchのプログラミングにした例を図1に示しました。このプログラムは実際に動きますし、そうじ当番を代わってもらうことが出来るまで繰り返します。プログラミング的には、⁠① 順次実行⁠⁠、⁠② 繰り返し⁠⁠、⁠③ 条件分岐⁠⁠、⁠④ 変数のプログラミング」の要素が入っています。その子にとって今までは、脈絡なく話していた曖昧な「ことば」が、役割を持った「言葉(コード⁠⁠」になって、自分の考えていることが明確に相手に伝えられた瞬間となっています。

もし、このコラムをお読みになっている保護者のかたの中には、小学校のプログラミング教育が何に役立っていると疑問符をお持ちかもしれません。しかし、子どもたちはプログラミング的に考え、そして表現できることで、コミュニケーションの手段が広がっていることも事実なのです。もし、お子さんが伝えることが苦手だった場合、プログラミングを学ぶことで、本人の思考が整理されて、説明することが得意になるかもしれません。このようにプログラミングの効果は情報機器に対しての優位性のみではなく、自らのコミュニケーションの幅を広げる機会にもなっていると考えられます。

これからはAI時代に生きていく子どもたちにとって、プログラミング的思考[1]できることはとても重要な能力の1つなのです。直近の学力調査での学力低下が叫ばれている現在ですが、今の子どもたちにとって必要な能力は我々大人が判断しづらいくらいに社会の変化が進んでいるようです。⁠この話の元ネタとなった附属K小学校のO平先生に感謝いたします。)

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