世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書
~グローバルなチャレンジを成功させるOSの作り方

[表紙]世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書 ~グローバルなチャレンジを成功させるOSの作り方

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電子版発売

A5判/256ページ

定価1,958円(本体1,780円+税10%)

ISBN 978-4-7741-7604-8

電子版

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書籍の概要

この本の概要

「新しいことに挑戦しなければ,未来はない」そんな時代に成功を勝ちとるために必要なノウハウとは?

海外勤務経験なし・TOEIC600点台で海外との共同プロジェクトメンバーに指名された小川くんと後輩の森さん,そして海外プロジェクトで工場づくりをしてきた広田さんの対話を通じて,新しいチャレンジを成功に導くためのプロジェクトマネジメントの考え方と技術,そして海外プロジェクト特有の落とし穴と対策を解説。

「計画がきちんと立てられず,いきあたりばったり」
「だれが何を決めるのかわからず,意思決定が遅れる」
「以心伝心・暗黙の了解で動いて,言葉にしない」
「契約感覚に乏しく,地雷を踏んでしまう」

そんな日本人が世界で通用するための考え方がわかります。

こんな方におすすめ

  • 会社として新しいことにチャレンジしようとしているものの,上の人が仕切れているわけでもなく,管理職ではなくとも実質的なプロジェクトマネージャーとしてチャレンジを成功に導かなくてはいけない方
  • 海外の企業とプロジェクトを進めることになった(進める予定がある)方

著者の一言

38歳の時,わたしは自分から手をあげて海外プロジェクト部門に職種を転じました。海外型のプロジェクトマネジメントを経験したいと思ったからです。

その時から,自分の人生が大きく変わりました。

それまでは,設計部門で,おもに国内のお客様向けの仕事をしていました。最初は化学エンジニアとして,その後はシステムアナリストとして,工場そのほかの設備投資にまつわる計画立案と,生産システムの設計・構築に携わりながら育ったのです。海外向けの仕事を手伝うこともありましたが,自分が直接お客様と接することはまずありませんでした。

しかし,海外プロジェクトのチームに所属したその翌日から,すぐ米国人たちとのミーティングの場に放り込まれます。まだプロジェクトマネジメントを一から学んでいる身,そして英語もしどろもどろでしたが,次々と対応すべき問題がふりかかる毎日でした。

今から思い出しても,その最初の1年間ほど,自分が仕事で学んだ時はありません。設計部門もやりがいのある仕事でしたが,どこかで自分の限界を感じていました。殻を破って外に出てみると,目の前には未開の沃野が遠く広がっているようでした。

それから,約20年が経ちました。ひどく苦労の多いプロジェクトもいくつか経験しましたが,あの時の決心を後悔したことは一度もありません。「30代半ばを過ぎてから,今さら海外部門に移るなんて遅すぎないか」という心配は,杞憂でした。自分に本当に必要なチャレンジには,「遅すぎる」ということはないのです。語学の問題について言うと,若いころ,米国に1年間留学したのですが,むしろ仕事で使うようになってからのほうが,英語ははるかに上達した実感があります。真剣勝負だったからでしょう。

不思議なもので,勤務先の仕事が広がると同時に,社外の人脈も広がりました。縁あって診断士仲間と共著で本を書くことになり,つづいて単著の執筆を依頼されるようになりました。さらにプロジェクトマネジメント理論の問題に自分なりに取り組み,工学博士の学位をとったり,学会で研究部会を主催したり,はたまたブログを書いたりといったふうに,自分の活動範囲も思わぬ方向に発展していったのです。海外に得た友人も多く,彼らに励まされて進んだ仕事も少なくありません。

プロジェクトとは,人と一緒にチャレンジし,成長するための,唯一最大の仕組みだと思います。日本国内に漠然とした閉塞感が漂う今日,「外に出て,新しい自分を試してみたい」と思う人たちの力に少しでもなりたくて,この本を執筆しました。類書にはない独自の知見を盛り込んだつもりですが,ねらいどおりの1冊となったかどうかは,読者の皆さんの評価にお任せします。

本書がこれから,はじめて異国での仕事にチャレンジしようという方に,少しでも役立つことを願ってやみません。

目次

プロローグ

  • 英語ができればいいわけではない
  • 「技術の問題を乗り越えればうまくいく」という誤解
  • 「グローバル人材に任せればうまくいく」という幻想
  • 計画も契約もない
  • 日本企業が海外型プロジェクトに取り組むときの3つの問題点
  • 知識や技法だけでは十分ではない
  • チャレンジの成功確率を上げる態度・習慣を身につけよう

第1講 プロジェクトを進める前に知っておきたいこと

1.1 プロジェクトとは何か? マネジメントとは何か?

  • プロジェクトとは,3つの条件を満たす「チャレンジ」である
  • マネジメントとは何か? リーダーシップとはどう違うか?

1.2 プロジェクトの4つの種類と進め方

  • 大規模か小規模か,受注型か自発型かでプロジェクトの進め方は変わる
  • なぜ,標準体系を勉強しても役に立たないのか

1.3 プロジェクトの成功とは何か? プロジェクトはなぜ失敗するのか?

  • プロジェクトの成功率
  • 「予定どおりにできたけど,価値がなかった」場合は,成功か,失敗か?
  • だれがプロジェクトの成功・失敗を決めるのか

1.4 ミッションを明確にする

  • ゴール・目的・目標をはっきりさせる ~ミッションプロファイリング
  • プロジェクトチャーターとして言葉にして共有する
  • 成功の基準はだれでも明確に検証できるように決める
  • 立ち上げフェーズの7つの手順【海外プロジェクトへのアドバイス】

1.5 システムズアプローチとは【「チャレンジのOS」その1】

  • プロジェクトの成功は,リーダーの能力ではなく「組織の能力」で決まる
  • チャレンジのOS=S+3K
  • 管理職レベルでなくても身につける意味がある

第2講 計画を立てる

2.1 プロジェクト計画の立て方

  • プロジェクト全体は4つのフェーズから成り立つ
  • プロジェクト計画立案の5つのステップ

2.2 ゴールからアクティビティを洗い出す

  • スコープを「言葉にしてみる」ことがチャレンジの第一歩
  • アクティビティの構造を理解する
  • アクティビティをすべて,システマティックに洗い出すには

2.3 WBSを作る

  • だれでも正しいWBSをつくれる方法
  • 手を動かしながらWBSの作成手順を身につける
  • WBSを作成する
  • 良いWBS,悪いWBS
  • アクティビティリストをつくる
  • フロントエンドスケジュールをつくる【海外プロジェクトへのアドバイス】

2.4 必ず計画を立てる【「チャレンジのOS」その2】

  • 「完璧な計画か,無計画か」ではなく,少しずつ0を1に近づけていく
  • 共同プロジェクトでの計画に必要なこと
  • 大事なのは「最初にどれだけの幅で可能性を考えるか」

第3講 組織と予算をつくる

3.1 WBSとチーム構成でプロジェクトの成果は変わる

  • 成果物単位で分担していくか,仕事のプロセス単位で分担していくか
  • どの組織形態をとるべきか

3.2 スケジュールを立案する

  • スケジュールは足し算ではなく「逆算」で考える
  • 4種類の着手/完了日を理解する
  • 所要期間を見積もる4つの方法
  • 「並行関係」と「依存関係」を意識しながらスケジューリングを考える
  • クリティカルパス法で工期を計算する
  • 「実行可能なスケジュールを皆で一緒につくる」気持ちが大事
  • 納期を短縮する2つの方法

3.3 予算を立てる

  • 予算とは収支の計画である
  • 「予算」「コスト」「価格」はどのような関係にあるのか
  • 人材のコストをどう考えるか

3.4 契約と責任を重んじる【「チャレンジのOS」その3】

  • 権利と義務はバランスする
  • 「取引相手は対等な他人である」というのが海外での常識
  • 報酬の決め方によって契約の形態が異なってくる
  • 契約の当事者は基本的に対等

3.5 会社組織の制約を乗り越える

  • プロマネはどこにいるのか?
  • 機能型組織の利点と問題
  • タスクフォース型組織の利点と問題
  • マトリクス型組織の利点と問題
  • プロマネは地位ではなく,役割である
  • だれがプロジェクトマネージャーを決めるのか
  • ステアリングコミッティをつくる
  • 外圧をうまく使う【海外プロジェクトへのアドバイス】

第4講 進捗をはかり,コミュニケーションをする

4.1 進捗を正しくとらえる

  • 進捗は「仕事があとどれだけ残っているか?」ではかるべきもの
  • 「この仕事はいつ終わるか?」を予測するのが進捗管理
  • 進捗を把握する5つのステップ
  • 進捗率をはかる2つの方法
  • 事実を直視しなければ,同じ失敗を重ねてしまう

4.2 スケジュールをコントロールする

  • 工程表は定期的に追記,更新する
  • イナズマ線で進捗度を表記する
  • 二重線で進捗を表記する
  • 参加型で進捗を「見える化」する方法

4.3 費用をコントロールする

  • コストの着地点を予測する
  • プロジェクトの出費を正確に,リアルタイムにとらえられないという問題
  • 「コミットメント+潜在的追加費用」で着地点を見ていく

4.4 コストと進捗を同時にコントロールする

  • 「予算より出費が下回っているからOK」と判断できるか?
  • EVMSで進捗と金額の差異を判定する
  • EVMSの4つの留意点
  • 議事録を残して効率的に進捗管理をする【海外プロジェクトへのアドバイス】

4.5 異文化とコンテキストレベルを理解する

  • 世界の文化は「ソフト型」と「ハード型」の2つに分かれる
  • コンテキストレベルが違うと何が起こるのか
  • 疑問があるなら,直接相手に質問したほうがいい

4.6 言葉を大切にする【「チャレンジのOS」その4】

  • 伝わるように言う
  • 事実と意見を区別する
  • 大事なことを先に言う
  • 文字に書いて残す

第5講 リスクを読み,問題を解決する

5.1 リスクを正しく理解する

  • リスクは本当に「マネジメント」できるのか?
  • リスクに対する2つの態度:安全第一主義と現実主義
  • 「リスク」という用語自体が不確実
  • あるべき姿を考えることが,チャレンジの第一歩

5.2 リスクへの事前的対策のポイント

  • リスクの2つの種類
  • リスク登録簿をまとめる
  • リスクの優先順位を決める
  • 未知のリスクに備えるには

5.3 リスクへの事後的対応のポイント

  • リスクに対抗する2つの方法
  • なぜ,トラブルは厄介なのか
  • リスクの事後的対応6つのステップ
  • コストをとるか,スケジュールをとるかで迷う場合,どうすればいいか?【海外プロジェクトへのアドバイス】

5.4 交渉に強くなる

  • 交渉は勝ち負けでなく「問題解決の場」
  • 最初の要求は大きく出し,気まずくても自分の意見をハッキリと伝える
  • 交渉の余地を検討し,自ら譲歩して,引き換えに相手から譲歩を得る
  • 5つの交渉戦術で臨機応変にやりとりする
  • 頭で覚えただけで終わらず,実践する
  • 交渉は感情も身体も全部繰り出しての戦い

エピローグ

  • 「つらいときに人が助けてくれる」のが人間にとって一番大切な能力
  • スペクトラム社の妙な行動の理由
  • 失敗を通して学んでいく
  • 「自分が命令できない人を動かす」ことが良きリーダーシップ
  • 遠いビジョンをつくって目指すことが大事

おわりに

付録 プロジェクトの格言

著者プロフィール

佐藤知一(さとうともいち)

日揮株式会社勤務。工学博士。中小企業診断士。PMP。情報処理プロジェクトマネージャ。
国内外の製造業のために工場づくり・生産システム構築とプロジェクトマネジメントに従事する傍ら,東京大学,法政大学などでプロジェクトマネジメントを非常勤で教えている。また,スケジューリング学会の下でプロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会を主宰し,有識者の知見を共有する機会を作っている。著書に『時間管理術』(日経文庫),『BOM/部品表入門』『革新的生産スケジューリング入門』(日本能率協会マネジメントセンター),『リスク確率に基づくプロジェクト・マネジメントの研究』(静岡学術出版)などがある。
ブログ:タイム・コンサルタントの日誌から