なぜAppleは強いのか ――製品分解からわかる真の技術力

著者の一言

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弊社は年間100製品を超えるさまざまな製品の分解,チップ開封解析を行っています。その中で,これまでにApple製品を網羅的に分解し続けています。Apple製品は外観や機能だけでなく,内部の基板,構成,形状などがどのメーカーの製品にも似ていません。さらに基板上に配置される通信チップやプロセッサ,メモリ内部のコントローラ,電源系のICまでAppleは自前で開発しています。プロセッサやメモリチップの内部のシリコンをAppleが自前で開発するようになったのは2010年のiPhone4で採用されたA4プロセッサのリリースからです。Appleが自前でシリコン開発を行っておおよそ13年です。この13年の間にAppleの開発力は各段に高いものになりました。

2023年にAppleから発売開始になった最上位機能製品,Mac ProやMac StudioにはApple独自のプロセッサM2 Ultraが採用され,旧Mac Proで採用されていたIntelやAMDはいっさい使われていないものになっています。現在のApple製品には,半導体ビッグ3と呼ばれるIntel,AMD,NVIDIAのチップが使われていないのです。しかしその性能はビッグ3並みを実現できています。

このような独自の道を,なぜAppleが歩んでいるのか。この疑問をApple製品の分解,チップの開封解析を通じて明るみにしたいといつも思っています。Apple製品の最大の特長は独自性です。内部にほとんど隙間がない,最小サイズでデジタル,アナログ,パワー,メモリといったすべての半導体にAppleが常に関与し,パッケージの構成から形状まで独自のものを使い続けていることにあります。Apple Watchではケース形状に合わせた複雑な形状のSystem In Packageが使われ,AirPods Proでは耳に入れやすい外部形状にフィットしたラウンドパッケージが採用されています。

iPhoneに採用されるAシリーズは,1つのパッケージ内にプロセッサ,DRAM,シリコンキャパシターなど15個を超えるシリコンが入っています。それらが最適最小面積に実装され,さらに製品の内部でも周囲の形状に溶け込むように無駄なく配置されています。ここまで徹底した部分と全体の整合性のあるApple製品は内部まで唯一無二のものになっているのです。

外部のメーカーから購入してきたチップを並べてつないで製品化するだけでは,Appleのような製品は生まれません。常に最適化と整合性を求めていない限り,Appleが作り出すようなハードウェアは生まれないわけです。一般で販売されている半導体は,多くのユーザーを対象にするので,不足機能もあれば過剰機能もあります。またメーカーが売り込むものをそのまま使っているだけでは差別化,優位化も生まれにくいのです。

Appleの無駄のない,最適化された内部までていねいに作り込まれた世界を本書で少しでも共有したいです。またAppleのような徹底した最適化ができ,作ったものを使い切るという文化を持った会社を再認識する一助になればと思っています。Apple製品の内部が放つメッセージを受け取り,常に最適化を求める姿勢をさらに強化させる必要があると強く感じています。

著者プロフィール

清水洋治(しみずひろはる)

~2003年:日立半導体,1998年~2004年:米国駐在半導体ベンチャー,2005年~2015年11月:ルネサスエレクトロニクス株式会社(設計開発,マーケット,主管技師長)

Apple製品だけでなく中国製スマホから電気自動車Teslaまで,ありとあらゆるIT製品を基板まで徹底分解,さらには搭載されているICチップ,コンデンサに至るまでさまざまな電子部品を詳細解析。半導体を熟知した技術力でプロセッサを電子顕微鏡レベルで解明する。

年間100本以上の半導体関連セミナー講演,エレクトロニクスメーカーやソフトウェア企業のコンサルティングを行う。

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