春の星座9

9おとめ座

乙女座

学 名
Virgo(略号 Vir)
英語名
The Virgin
設 置
古代ギリシア
面 積
1294平方度

天体観測の見どころ

かみのけ座おとめ座銀河団の拡大星図

かみのけ座おとめ座銀河団。系外銀河の群れる全天でも随一のフィールド。

1星雲星団の観察

かみのけ座とおとめ座の境界付近には かみのけ座おとめ座銀河団という系外銀河の広く分布するエリアがあります。「銀河の原」とも呼ばれ、無数の銀河が存在するものの、その多くはとても淡く小望遠鏡の対象とはなりにくいものです。これらの中ではM84、M86、M87は比較的明るい観察対象です。かみのけ座おとめ座銀河団の詳細星図を掲載していますので、ひとつひとつ拾いながら観察して下さい。なお、かみのけ座の領域にある銀河は かみのけ座の章に紹介します。

M49銀河(=NGC4472)

  • 位置(分点2000.0)赤経12h29.8m,赤緯+08°00’ 視直径8.1’x 7.1’,等級8.4,型E2

特徴の乏しい楕円銀河です。一見して恒星に分離しない球状星団のようにも見えます。星雲の中に恒星が乗っかっているのが印象的です。メシエは小望遠鏡で観察し、「微かだが観察するにはそれほど難しくない」と記しています。

M58銀河(=NGC4579)

  • 位置(分点2000.0)赤経12h37.7m,赤緯+11°49’ 視直径5.5’x 4.6’,等級9.7,型SAB

写真では広がった棒渦巻銀河であることが分かりますが、眼視では中心部しか分かりません。銀河の中心部でもとても小さな光のシミで、小口径では見逃してしまいそうです。

M59-M60銀河

M59(=NGC4621)
位置(分点2000.0)赤経12h42.0m,赤緯+11°39’ 視直径4.6’x 3.6’,等級9.6,型E5
M60(=NGC4649)
位置(分点2000.0)赤経12h43.7m,赤緯+11°33’ 視直径7.1’x 6.1’,等級8.8,型E2

東西に並ぶ西側(画面右)がM59で東側がM60です。M59は紡錘状でとても小さく、小口径には難物です。M60にはすぐ北西にNGC4647がくっついていますが、これは薄くて見えにくいです。空の条件が良いときには二重銀河のように見えます。

M61銀河(=NGC4303)

  • 位置(分点2000.0)赤経12h21.9m,赤緯+04°28’ 視直径6.0’x 5.9’,等級9.7,型SAB

中心部が恒星状に集光していおり、その周囲に円盤状に淡く大きく光芒が広がります。写真ではこの光芒が渦巻銀河の腕と分かりますが、中望遠鏡でも渦巻銀河の腕は判別できません。

M84-M86銀河

M84(=NGC4374)
位置(分点2000.0)赤経12h25.1m,赤緯+12°53’ 視直径5.1’x 4.1’,等級9.1,型E1
M86(=NGC4406)
位置(分点2000.0)赤経12h26.2m,赤緯+12°57’ 視直径12.0’x 9.3’,等級8.9,型E3

この付近は、かみのけ座おとめ座銀河団の中心部に当たります。両銀河ともたいして特徴のない楕円銀河で、同じ視野内に入ります。メシエはM86の方を、丸くて中心の核が明るいと記しています。付近にはメシエ番号のない小銀河が散らばっていますがいずれも暗く、小望遠鏡の対象にはなりません。

M87銀河(=NGC4486)

  • 位置(分点2000.0)赤経12h30.8m,赤緯+12°24’ 視直径7.1’x 7.1’,等級8.6,型E

まるでザラザラ感のない球状星団のように見えます。実体は、おとめ座銀河団の盟主的な巨大楕円銀河で、その質量はなんと太陽の1兆倍もあります。巨大な楕円銀河は他の銀河を飲み込んで行って形成されると考えられていますが、このM87もそのようにして成長したと推測され、中心部には巨大なブラックホールのあることが分かっています。中心から北西方向に噴き出すジェットがあり、これは写真でも銀河についたコブのように写っています。

M89-M90銀河

M89(=NGC4552)
位置(分点2000.0)赤経12h35.7m,赤緯+12°33’ 視直径3.4’x 3.4’,等級9.8,型E
M90(=NGC4569)
位置(分点2000.0)赤経12h36.8m,赤緯+13°10’ 視直径10.5’x 4.4’,等級9.5,型SAB

M90は、中心部は恒星状で明るい紡錘状に見えます。M89は、円形でまるでピントのボケた恒星状です。両銀河は低倍率で同一視野に入りますが、いずれもとても淡く、小望遠鏡では見落とすかもしれません。M90の方が若干明るく見えています。

マルカリアンの鎖

かみのけ座おとめ座銀河団の中心部で、M84, M86, NGC4438, NGC4435, NGC4461 と円弧状につながる銀河のチェーンは、研究者の名前をっとって「マルカリアンの鎖(チェーン)」と呼ばれます。この銀河の隊列は、空間的に同じ方向に運動しています。天体写真の対象としても人気のあるエリアです。

マルカリアンの鎖。かみのけ座おとめ座銀河団の中心部で、多数の銀河が円弧状に連なっています。

NGC5363-NGC5364銀河

NGC5363
位置(分点2000.0)赤経13h56.1m,赤緯+05°15’ 視直径5.0’x 3.2’,等級10.1,型IO
NGC5364
位置(分点2000.0)赤経13h56.2m,赤緯+05°01’ 視直径6.6’x 5.1’,等級10.5,型SA

かみのけ座おとめ座銀河団からは20度ほど東に外れたところにある、南北に並んだ銀河です。いずれも小望遠鏡では観察は困難でしょう。北がNGC5363銀河で、とても淡い楕円形状の光のしみのようです。明るい部分が偏っているように見えます。すぐ北東にある恒星が目立ちます。南側がNGC5364銀河で、NGC5363よりもさらに淡く、空の状態の良い時でないと口径30cm望遠鏡でも観察の難しい対象です。中心部が暗い恒星状で、その周りがにじむように見えます。写真で見るとスパイラル状の構造が分かります。

M104銀河(=NGC4594)ソンブレロ銀河(Sombrero Galaxy)

  • 位置(分点2000.0)赤経12h40.0m,赤緯-11°37’ 視直径7.1’x 4.4’,等級8.0,型SA

おとめ座銀河団はおとめ座の北端に分布するのに対し、M104は おとめ座の南端、からす座との境界付近にあります。星の並びを追って探すには、からす座の方からが分かりよいでしょう。この銀河は明るく形状もユニークで、小望遠鏡でも十分に楽しめる おとめ座で最もすぐれた観察対象です。メキシコのつば広帽子ソンブレロに似ていることから、「ソンブレロ銀河」の愛称で広く知られています。渦巻銀河をほぼ真横から見た姿勢で、20cm以上の口径なら銀河のエッジを横切る暗黒帯が分かります。

2重星の観察

おとめ座の重星では、実視連星γ星ポリマがよく知られています。広い星座だけあって他にも観察したい重星がたくさんあります。

γ星 ポリマ

  • 位置(分点2000.0)赤経12h41.7m,赤緯-01°27’
  • 主星3.5等,伴星3.5等,位置角356°,離角2.9”(2021年),スペクトルF0V+F0V

ポリマは全天屈指のよく知られた実視連星です。等光度の恒星が169.1年の周期で共通の重心を公転しています。2006年には離角0.4”まで接近し、この時期には50cmクラスの大望遠鏡でも分離してみることは困難でしたが、その後は年を追って離角を拡げており、近年では小望遠鏡でちょうど楽しめる観察対象となってきました。アマチュアの観測ではほとんどの実視連星は動きを実感しにくいものですが、ポリマは年毎に観測していくとその動きを実感することができます。2087年には最大離角6.0”まで間隔を空けます。

Σ1560(=HIP 56775)

  • 位置(分点2000.0)赤経11h38.4m,赤緯-02°26’
  • 主星6.4等,伴星9.4等,位置角279°,離角4.9”(2016年),スペクトルG9III

素晴らしい対象ですが、明るいオレンジ色の主星に暗く接近した伴星の繊細な重星です。

Σ1627(=HIP 59983)

  • 位置(分点2000.0)赤経12h18.2m,赤緯-03°57’
  • 主星6.6等,伴星6.9等,位置角196°,離角20.1”(2020年),スペクトルF2V+F3V

ほぼ同じ光度の恒星が適度に距離を隔てて魅力的な観察対象です。純白と青白色のペアです。

17番星

  • 位置(分点2000.0)赤経12h22.5m,赤緯+05°18’
  • 主星6.6等,伴星9.3等,位置角338°,離角21.0”(2017年),スペクトルF8V

光度差の顕著な対象です。明るい白色の主星に、とても小さな光点が近傍にあります。

θ星

  • 位置(分点2000.0)赤経13h09.9m,赤緯-05°32’
  • 主星4.4等,伴星9.4等,位置角342°,離角7.1”(2015年),スペクトルA0IV

光度差のある魅惑的なコントラストのペアです。明るい黄色の主星に小さな青みがかった伴星が近傍に見つかります。両者は接近していますが、小口径でも十分楽に分離できる離角です。春の重星といえば、ミザール(おおぐま座),コル・カロリ(りょうけん座),アルジェバ(しし座)に目を奪われがちですが、この星も明るく小口径向きで、春の代表に並べてよい美しい重星です。

54番星

  • 位置(分点2000.0)赤経13h13.4m,赤緯-18°50’
  • 主星6.8等,伴星7.2等,位置角33°,離角5.4”(2018年),スペクトルA0V+A1V

素晴らしい観察対象です。重星の離角は接近しているものの主星と伴星が触れ合っているようです。主星の黄色と伴星の青のコントラストも美しいペアです。

Σ1764(=HIP 66476)

  • 位置(分点2000.0)赤経13h37.7m,赤緯+02°23’
  • 主星6.8等,伴星8.6等,位置角31°,離角16.1”(2018年),スペクトルK2III

素晴らしい観察対象です。鮮明な主星の黄色と伴星の青が美しいペアです。

Σ1788(=HIP 67953)

  • 位置(分点2000.0)赤経13h55.0m,赤緯-08°04’
  • 主星6.7等,伴星7.3等,位置角100°,離角3.7”(2019年),スペクトルF8V+G0

光度差の少ないペアがくっつくような近さです。主星は白く、伴星は黄色のコントラストです。この重星は、お互いを公転する連星系で、2613年の公転周期を持っています。

τ星

  • 位置(分点2000.0)赤経14h01.6m,赤緯+01°33’
  • 主星4.3等,伴星9.4等,位置角289°,離角82.4”(2017年),スペクトルA3V

間隔が広く光度差のある対象で大きなながめです。視野の中に明るい白色の主星と小さな光点が容易に見分けられるでしょう。光度差を楽しみたい観察対象です。