夏の星座6

6いて座

射手座

学 名
Sagittarius(略号 Sgr)
英語名
The Archer
設 置
古代ギリシア
面 積
867平方度

天体観測の見どころ

1星雲星団の観察

いて座には銀河の中心があり、とても多くの散光星雲、散開星団、球状星団が分布しています。銀河沿いに双眼鏡をゆっくり走らせると、次々に星雲星団が視野に入ってきます。

M8散光星雲(=NGC6523)

  • 愛称:ラグーン星雲(Lagoon Nebula),砂時計星雲(Hourglass Nebula)
  • 位置(分点2000.0)赤経18h03.8m,赤緯-24°23’ 長径45’×短径30’タイプHⅡ発光

肉眼、双眼鏡、望遠鏡それぞれで観察して楽しめる全天でも屈指の大型の散光星雲です。肉眼ではμ星,λ星と二等辺三角形を作る位置に、ボーッとした星雲を用意に見つけることができます。双眼鏡ではさらに透明感のある楕円状の星雲と、M8と重なっている散開星団NGC6530が見えてきます。望遠鏡では低倍率で観察しましょう。星雲を横切る暗黒帯や、周囲に広がる淡い部分も見えてきます。視野は天の川の中で微光星にあふれ、実に美しい風景です。

星雲のイメージからラグーン星雲や干潟星雲の愛称があります。また、ジョン・ハーシェルは、中央を横切る暗黒帯の構造から、砂時計星雲と呼びました。

M20散光星雲(=NGC6514) 愛称:三裂星雲(Trifid Nebula)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h02.3m,赤緯-23°02’ 長径20’×短径20’タイプHⅡ発光+反射
M20散光星雲(上)とM8散光星雲(下)。(撮影 佐伯和久(鹿児島県天体写真協会))

M8散光星雲のすぐ北側にある小型の散光星雲です。写真で見るとこの星雲の中を数本入り込んだ暗黒帯があることから「三裂星雲」の愛称があります。透明度の良い暗夜であれば、望遠鏡でも暗黒帯の存在が分かります。写真では赤い色の美しい星雲ですが、望遠鏡で覗いても色のない薄いベール状の天体が分かるのみです。これは人間の目の性質で、暗順応した眼では色を感じにくくなるためです。

M17散光星雲(=NGC6618) スワン星雲(Swan Nebula),愛称:オメガ星雲(Omega)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h20.8m,赤緯-16°11’ 長径20’×短径15’タイプHⅡ発光
ジョン・ハーシェル(1792~1871)が父ウィリアム製作の20フィート反射望遠鏡を使用して記録したM17星雲のスケッチ。

写真は北を上にしていますが、これを逆さまにすると白鳥が水面を泳ぐ姿に似ていることから「はくちょう星雲」「スワン星雲」の愛称があります。また、白鳥の頭からとても淡い星雲のカーブがつながっており、ここまで含めるとギリシャ文字の「Ω」にも見えることから「オメガ星雲」とも呼ばれています。透明感のある美しい散光星雲です。散光星雲の多くは輝度が低いため、月夜では見え方がかなり悪くなってしまいます。透明度の良い月のない暗夜に観察しましょう。

この星雲の北2°にはよく似たタイプの散光星雲M16(へび座)もあり、続けて観察したい観察対象です。

M18散開星団(=NGC6613)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h19.9m,赤緯-17°08’ 視直径10’,等級6.9,星数20

散開星団M18、M21、M23、M24、M25は、いて座の南斗六星の柄の先に点在する散開星団です。この付近は、ちょうど銀河の中心方向に当たりますので、たくさんの星雲星団が重なるように集中して存在しています。

M18散開星団は、これらの中では星数の少ないまばらで小型の散開星団です。

M21散開星団(=NGC6531)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h04.6m,赤緯-22°30’ 視直径13’,等級5.9,星数70

M20三裂星雲のすぐ北東にある散開星団です。星数が少なく小型で、周辺には天の川のおびただしい微光星があり、そのピークを作っているように見えます。この星団単独ではなく、M20と一緒に観察や撮影するとより一層すばらしい光景となります。

M23散開星団(=NGC6494)

  • 位置(分点2000.0)赤経17h56.8m,赤緯-19°01’ 視直径27’,等級5.5,星数150

この付近にある散開星団M18、M21、M23、M24、M25の中ではもっとも大型で星数も多い小口径での観察に最適な星団です。明るさが均一にそろった星が広範囲にちらばっていて、星粒をまぶしたようです。双眼鏡でも美しく観察できます。

M24散開星団(=NGC6603)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h18.4m,赤緯-18°25’ 視直径5’,等級11.1,星数100

メシエは、この付近の天の川の最も濃い領域「スタークラウド」をM24としたと考えられます。この場合は星団とは認定できないのですが、まさに肉眼・双眼鏡でもっとも美しく観察できます。ところが、この中にある小型の散開星団NGC6603をM24とみなす場合もあり、本書の写真はこのNGC6603を紹介したものです。NGC6603は、11等級のかなり暗い散開星団で大きさも5’しかありません。消え入りそうな微光星が均一に密集していて、たて座のM11星団を小さくしたような印象です。そもそも天の川の中スタークラウドの中ですから、天の川の星々に埋もれてわかりづらく、見逃してしまいそうです。

M25散開星団(=IC4725)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h31.6m,赤緯-19°15’ 視直径 32’,等級4.6,星数30

小口径での観察に最適な大型の星団です。性状がM23散開星団によく似ています。M23よりも星数は少なく、構成する星の明るさは不揃いで変化に富んでいます。天の川の銀河中心にも近くにぎやかな領域で、星団の周囲も微光星であふれています。双眼鏡でも美しく観察できます。

M22球状星団(=NGC6656)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h36.4m,赤緯-23°54’ 視直径24’,等級5.1,集中度(高1-低12)7

数多いいて座の球状星団の中で、M55とともに最大で明るい観察対象です。しばしばヘルクレス座のM13と比較されます。たしかに両星団とも非常に素晴らしい星団ですが、特徴はずいぶん違います。M13は中心部までびっしりと恒星が詰まっていますが、M22はややまばらで広がりのある印象です。高倍率で見るよりも低倍率、中倍率の方が美しく見えます。観察会では、M13と比較してみると面白いでしょう。写真ではとても写りがよく、標準レンズではまるで明るい恒星状に写り目立ちます。いて座の南斗六星のすぐ北にあり、星の並びも分かりよいので探しやすいでしょう。

1665年ドイツのイーレが発見し、史上最初に発見された球状星団とされています。

M28球状星団(=NGC6626)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h24.5m,赤緯-24°52’ 視直径11.2’,等級6.8,集中度(高1-低12)4

λ星のすぐ北西1°にあります。中型の球状星団ですが、周辺の広がりのすそ野は広いです。特徴ある富士山型に星が集まっていて、中央に鋭く集光しています。そしてその周囲はすぐにまばらに広がり星に分離します。

M54球状星団(=NGC6715)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h55.1m,赤緯-30°29’ 視直径9.1’,等級7.6,集中度(高1-低12)3

南斗六星のマスの先の部分にある小型の球状星団です。低倍率では恒星状です。かなり集光の強い星団です。

M55球状星団(=NGC6809)

  • 位置(分点2000.0)赤経19h40.0m,赤緯-30°58’ 視直径19.0’,等級6.4,集中度(高1-低12)11

いて座の星雲星団銀座からはずっと離れて東側の恒星の少なくなる星域にあります。暗夜に観察すると肉眼でも恒星のように認めることができます。双眼鏡で小さな星雲状。望遠鏡で倍率を観察すると中心付近まで星に分離する、球状星団としてはかなりまばらな部類になります。丸く大きな形状をしていて星団の境界が割合にはっきり分かります。M22球状星団に次いで大型で明るい観察対象です。

M69球状星団(=NGC6637)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h31.4m,赤緯-32°21’ 視直径7.1’,等級7.6,集中度(高1-低12)5

M70球状星団(=NGC6681)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h43.2m,赤緯-32°18’ 視直径7.8’,等級8.0,集中度(高1-低12)5

M69とM70球状星団は、いて座の下半身の近い位置にあり、いずれも小型の球状星団で性状がよく似ています。すぐ北東のM54球状星団もまた似た性状で、まるで3兄弟のようです。両星団とも中央に集光しています。星団の周囲は星に分離して観察できます。

M75球状星団(=NGC6864)

  • 位置(分点2000.0)赤経20h06.1m,赤緯-21°55’ 視直径6’,等級8.5,集中度(高1-低12)1

いて座の東端、やぎ座との境界付近にあります。いて座に多数ある球状星団の中では、最も小型で、また最も中央部の集光の強い球状星団です。集光度は球状星団の中では最密の分類で、周辺部でも星に分離しない星雲状に見えます。このため一見明るい楕円銀河にも見えます。

NGC6723球状星団

  • 位置(分点2000.0)赤経18h59.6m,赤緯-36°38’ 視直径11.0’,等級7.2,集中度(高1-低12)7

いて座の南端、みなみのかんむり座に近い位置にあり、探すときにはすぐ近傍にある みなみのかんむり座ε星から導入します。大型で広範囲に広がります。集光はほとんどない円盤状で特異な球状星団です。密集した散開星団を小型にしたような印象があります。ユニークな天体で一見の価値があるでしょう。星野写真では恒星状に写り、みなみのかんむり座を構成する星の並びのように見えます。写真南東部の星のにじみは、NGC6726、6727、6729散光星雲の影響です。

NGC6822銀河 バーナードの銀河(Barnard's Galaxy)

  • 位置(分点2000.0)赤経19h44.9m,赤緯-14°48’ 視直径19.1’x 14.9’,等級8.8,型IB

天の川のあるいて座には珍しい系外銀河です。といっても眼視観測の対象にはなりえない非常に淡いものです。数字上の等級が8.8等と明るいので撮影してみましたが、広がりが広いために写真でもとりとめのない光のシミのようです。一方で天文学的には興味深い対象で、私たちの天の川銀河も属する局部銀河系のメンバーとなる不規則銀河です。発見者の名前を取って、バーナードの銀河と呼ばれています。

2重星の観察

β1星

  • 位置(分点2000.0)赤経19h22.6m,赤緯-44°28’
  • 主星4.0等,伴星7.2等,位置角76°,離角28.3” (2015年),スペクトルB8V+F0V

いて座β1星は、いて座の南端で みなみのかんむり座やぼうえんきょう座との境界付近にありますので、南天に低くて観察可能な時間帯も限られてしまいます。写真の恒星の色がにじんでいるのは、低空のために大気が光を屈折する影響です。

いて座β1星は、乳白色の主星とグレーの伴星の観察しやすいペアです。

Pz6星(=HIP 88060)

  • 位置(分点2000.0)赤経17h59.1m,赤緯-30°15’
  • 主星5.4等,伴星7.0等,位置角104°,離角5.9”(2016年),スペクトルM1I+G8II

さそり座との境界付近にあります。主星はオレンジに近い黄色で、伴星は深い黄色です。離角が適度に近く楽しく観察できるペアです。

β245星(=HIP89020)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h10.1m,赤緯-30°44’
  • 主星5.8等,伴星8.0等,位置角345°,離角4.1”(2016年),スペクトルK1II

主星と伴星の光度差があります。小口径の望遠鏡では歯ごたえのある対象でしょう。主星伴星ともオレンジ色です。

η星

  • 位置(分点2000.0)赤経18h17.6m,赤緯-36°46’
  • 主星3.3等,伴星8.0等,位置角110°,離角3.5” (2016年),スペクトルM3.5III

いて座の弓を構成する星の南端にあります。5等級の光度差があり離角も小さいので、意外と困難な観察対象です。中望遠鏡以上で高倍率をかけて観察しましょう。主星に引っ付くように消え入りそうな伴星が見つかります。主星はオレンジ色をしています。

HN119星(=HIP 95865)

  • 位置(分点2000.0)赤経19h29.9m,赤緯-26°59’
  • 主星5.6等,伴星8.8等,位置角144°,離角7.5”(2016年),スペクトルK2III

観察対象としては暗いですが、光度差も離角も面白く観察できる重星です。オレンジ色の主星に乳白色の伴星の色合いも美しいペアです。

54番星

  • 位置(分点2000.0)赤経19h40.7m,赤緯-16°18’
  • 主星5.4等,伴星7.7等,位置角41°,離角45.5” (2019年),スペクトルK2III F8V

いて座の北のエリアにあります。楽に観察できる対象です。黄色みがかったオレンジ色の主星に小さなドット状のシルバーの伴星があります。