夏の星座10

10こと座

琴座

学 名
Lyra(略号 Lyr)
英語名
The Lyre
設 置
古代ギリシア
面 積
109平方度

天体観測の見どころ

1星雲星団の観察

こと座には2つのメシエ天体があります。なかでもM57惑星状星雲は有名な必見の観察対象です。

M56球状星団(=NGC6779)

  • 位置(分点2000.0)赤経19h16.6m,赤緯+30°11’ 視直径7.1’,等級8.3,集中度(高1-低12)10

はくちょう座との境界付近で、アルビレオとも近い位置にあります。メシエ番号を持つ球状星団の中では最小の天体です。小口径の望遠鏡では星雲状に見えます。メシエも「星のない星雲でほとんど輝いていない」と記し、星団とは理解していませんでした。口径20cmでも星雲状ですが、ザラザラした質感から星団であることが分かります。

M57惑星状星雲(=NGC6720)愛称:リング星雲,環状星雲(Ring nebula)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h53.6m,赤緯+33°02’ 視直径71”
  • 写真等級9.7,視等級8.8,中心星等級15.3

全天でも最もよく知られた惑星状星雲のひとつです。β星とγ星のほぼ中間にあり探しやすい位置にありますが、小型の天体であるために望遠鏡のファインダーでは恒星と区別できずに見逃してしまいそうです。いったん視野に入れば、たいへん明瞭なリング状の星雲とすぐに認められます。その形状から「リング状星雲」「環状星雲」「ドーナツ星雲」などの愛称があります。木星より若干大きな視直径の小型の天体で、倍率を上げてもよく耐えて見やすい観察対象です。中心星は口径10cmくらいから見え始めます。

1779年にメシエが発見しました。ウイリアム・ハーシェルは、「煙草の煙でできた環」に例えていますが、これはよく出来た比喩です。肉眼では透明感のある星雲として見え、色合いまではなかなか感じることは出来ませんが、写真では色が豊富で美しく写ります。中でも緑色が豊富で、これは星雲の中に含まれる酸素の出す色です。人の目は緑色を中心とした波長に感度が高いために、一般的な酸素輝線の多い惑星状星雲は、データ以上に肉眼では見やすい特徴があります。一方で、暗所に順応した人の目は感度が高くなる半面、色には鈍感になるために、星雲の色はよほど濃くない限りは分かりにくくなります。

2重星の観察

こと座は面積が小さい星座ですが、そのわりには見ごたえのある重星が多い星座です。なかでもε星はダブルダブルスターとしてよく知られています。

Σ2349星(=HIP 91235)

  • 位置(分点2000.0)赤経18h36.6m,赤緯+33°28’
  • 主星5.4等,伴星9.4等,位置角201°,離角6.8”(2013年),スペクトルB8II-III

4等級の光度差がありますが、明るく観察しやすい重星です。主星、伴星とも青白色です。

ε星ダブルダブルスター

  • 位置(分点2000.0)赤経18h44.3m,赤緯+39°40’
  • ε1 4.7等,ε2 4.6等,位置角172°,離角209.4” (2021年),スペクトル A4V F0V
  • ε1 5.2等,伴星6.1等,位置角345°,離角2.2” (2021年)
  • ε2 5.3等,伴星5.4等,位置角75°,離角2.0” (2021年)
こと座ε1星
こと座ε2星

こと座ε星は、二重星の主星と伴星がさらに「二重星」となっているユニークな重星で、ダブルダブルスターとしてよく知られています。北側の「ε1」と3.5’南にある「ε2」は,双眼鏡で見分けることができます。ε1とε2はそれぞれがよく似た二重星となっています。ε1は、1804.4年周期、ε2は、724.3年周期の連星系を作っています。現在、ε1の離角は少しずつ狭まりつつあり、ε2は少しずつ広がっています。2100年頃にはε1は離角0.77”にε2は離角2.6”になります。こうなると随分アンバランスなダブルダブルスターになりますね。

ζ星

  • 位置(分点2000.0)赤経18h44.8m,赤緯+37°36’
  • 主星4.3等,伴星5.6等,位置角150°,離角42.0” (2018年),スペクトルF0IV

ベガの南東にある離角の広く開いた観察しやすい重星です。双眼鏡で観察可能です。薄い金色をしたペアです。

β星

  • 位置(分点2000.0)赤経18h50.1m,赤緯+33°22’
  • 主星3.6等,伴星6.7等,位置角149°,離角45.7” (2017年),スペクトルB7V+A8

3.6等の明るい主星から、北東に大きく離角を空けたところに伴星があります。光度差がありますが、伴星も明るいため小口径でも分離は容易です。青白い主星に白色の伴星のペアです。

β星は「こと座β型変光星」としても知られる食変光星です。約12.9日の周期で3.25等~4.36等の変光をします。食変光星とは、近接した連星が、公転中にお互いを隠しあうことで、地球から見た場合の明るさが変化するメカニズムを持った変光星です。

17番星

  • 位置(分点2000.0)赤経19h07.4m,赤緯+32°30’
  • 主星5.3等,伴星9.1等,位置角281°,離角3.2” (2017年),スペクトルF0V

光度差と離角がいずれも小望遠鏡には微妙に難物です。口径10cmでは分離できますが、シーイングが悪いと分離できないこともあります。容易に観察できるよりも、分離可能か楽しめる対象でしょう。明るい黄色の主星のすぐ近傍に、消え入りそうな伴星が見つかります。

Σ2470星(=HIP 94043)

  • 位置(分点2000.0)赤経19h08.8m,赤緯+34°46’
  • 主星7.0等,伴星8.4等,位置角267°,離角13.8” (2017年),スペクトルB5V
視野円15’低倍率での観察イメージ。

Σ2474星(=HIP 94075)

  • 位置(分点2000.0)赤経19h09.1m,赤緯+34°36’
  • 主星6.8等,伴星7.9等,位置角262°,離角16.0” (2019年),スペクトルG1V
視野円15’低倍率での観察イメージ。

やや暗い対象ですが、Σ2470星とΣ2474星は、望遠鏡の低倍率で観察できる「もうひとつのダブルダブルスター」です。あまり知られていないので紹介しました。こと座のβ星とδ星とで正三角形の頂点を作る位置にあり、それを手がかりにすると二つ行儀よく並んだ重星が意外と楽に見つかります。南にあるΣ2474星(6.8等)の方がやや明るく、その位置角337°離角10.3’にΣ2470星(7.0等)があります。それぞれが小口径で観察しやすい重星です。南側のΣ2474星は主星伴星とも明るい黄色のペアで、北側のΣ2470星は主星伴星とも明るい純白のペアです。

北側のΣ2470星の主星はさらに6.9等星と9.0等星が離角0.1”で近接した連星で、これはさすがに小望遠鏡では太刀打ちできません。

η星

  • 位置(分点2000.0)赤経19h13.8m,赤緯+39°09’
  • 主星4.4等,伴星8.6等,位置角81°,離角28.4” (2017年),スペクトルB2.5IV

観察会には最適の光度差を楽しめる見本のような重星です。4等級の差がありますが、離角は十分ですから小口径で十分楽しめます。青色の主星に紫色の伴星です。天の川に近いために視野の中は微光星であふれています。

3こと座流星群

  • 活動期間:4月16日~4月25日。極大4月22~23日頃(太陽黄経32.3°)。
  • 極大ZHR18。対地速度49km/s。

こと座流星群は、4月中旬に活動する中規模の流星群です。こと座流星群という名前が付いていますが、放射点はこと座ではなく境界付近のヘルクレス座にあります。放射点は夜半前から東天に上り、薄明開始の頃に天頂近くまで達するので、明け方の観測がお勧めです。

この群はピークが鋭い方で、1日ずれると3分の1程度の出現に減ってしまい、2日ずれるとZHR1~2程度まで出現数が減少します。この群は、過去に何度も100個/時以上の突発出現をしており、1982年にもZHR250の記録があります。母天体はサッチャー彗星(C/1861 G1)という周期400年以上の長周期彗星で、これによる1公転トレイルと遭遇すると、活発な出現が見られます。

4月23日2時頃(東京)でみる こと座流星群のイメージ