夏の星座12

12はくちょう座

白鳥座

学 名
Cygnus(略号 Cyg)
英語名
The Swan
設 置
古代ギリシア
面 積
804平方度

天体観測の見どころ

1星雲星団の観察

M29散開星団(=NGC6913)

  • 位置(分点2000.0)赤経20h23.9m,赤緯+38°32’ 視直径6’,等級6.6,星数50

γ星のすぐ南にある小型の散開星団です。星数はまずまずですが、明るい星と微光星が入り混じっていて、こじんまりとまとまった姿は意外と目立ちます。明るい星が「八」の字の形に並んでいます。この付近は天の川の中で微光星がとてもにぎやかです。

M39散開星団(=NGC7092)

  • 位置(分点2000.0)赤経21h32.2m,赤緯+48°26’ 視直径31’,等級4.6,星数30

デネブの北東にある星粒が大きく広い範囲に散らばった星団です。暗夜には肉眼でも存在が分かり、双眼鏡では星の並びが分かります。望遠鏡では低倍率で観察しないと広がりすぎて星団であることさえ分からなくなってしまいます。小望遠鏡向きの観察対象です。

NGC6811散開星団

  • 位置(分点2000.0)赤経19h36.9m,赤緯+46°23’視直径20’,等級6.8,星数70

まばらに集まった小型の散開星団です。中央に星が少なく、ドーナツ状になっている特徴がユニークです。明るい星がなく微光星が群がっていて、小口径の望遠鏡では観察の難しい対象です。口径10cm以上は必要でしょう。

NGC6819散開星団

  • 位置(分点2000.0)赤経19h41.3m,赤緯+40°11’ 視直径9.5’,等級7.3,星数150

NGC6811よりもさらに小型で微光の星団です。望遠鏡の眼視的には星雲に微光星を交えているように見えます。「八」の字型に星が並び、または蝶が羽を広げた姿にも見えます。小型ながら特徴のある対象です。銀河の中で周囲も微光星が多く、埋もれてしまいそうです。

NGC6826惑星状星雲 愛称:まばたき星雲(Blinking nebula)

  • 位置(分点2000.0)赤経19h44.8m,赤緯+50°31’ 視直径25”
  • 写真等級9.8,視等級8.8,中心星等級10.6

小さな惑星状星雲です。中心星が明瞭に分かり、その周囲を星雲が取り囲んでいます。ふたご座のエスキモー星雲(NGC2392)を小さくしたように見えます。まばたき星雲の愛称がありますが、直視すると恒星の周辺にある星雲が見えなくなり、そらし目にすると見えることに由来しています。

はくちょう座の散光星雲

はくちょう座は、散光星雲の宝庫です。これらの多くは目で見ることは出来ませんが、写真では赤い鮮やかな星雲が写し出されます。

はくちょう座の全景。本書に紹介する散光星雲の多くが水素の輝線の出す赤い色で浮かび上がっています。
(撮影:冨満和広/鹿児島県天体写真協会)

IC1318はくちょう座γ星付近の散光星雲

  • 位置(分点2000.0)赤経20h14.3m,赤緯+39°54’ 長径40’×短径30’
  • タイプHⅡ発光
はくちょう座γ星付近の散光星雲。右下端の風船状の星雲はNGC6888(クレセント星雲)。
(撮影:上田聡/鹿児島県天体写真協会)

はくちょう座には肉眼では写真の対象として人気のある散光星雲がたくさんあります。残念ながら、これらのほとんどは眼視で観察することは困難です。はくちょう座γ星の周辺は無数の星雲が複雑に入り組んだ領域です。IC1318はこの中で最も明るい部分ですが、散光星雲の及ぶ範囲はさらに広く直径5°もの星域をカバーしています。

NGC6888散光星雲 愛称:クレセント星雲(Crescent Nebula)

  • 位置(分点2000.0)赤経20h12.0m,赤緯+38°21’ 長径18’×短径13’
  • タイプHⅡ発光
(撮影:隈元俊一/鹿児島県天体写真協会)

γ星周辺の散光星雲群の南のはずれにある独特な形状をした星雲です。これも写真のみの対象で肉眼で見ることはできません。星雲の半分が円弧を描いていることから「クレセント(三日月)星雲」の愛称があります。この星雲は中心にある大質量星が25万年程前から周囲に噴き出したガスで形成されていると考えられています。今後数百万年以内に超新星爆発を起こすと考えられています。

NGC7000散光星雲 愛称:北アメリカ星雲(North America Nebula)

  • 位置(分点2000.0)赤経20h58.8m,赤緯+44°20’ 長径120’×短径100’
  • タイプHⅡ発光

たくさんの散光星雲のあるはくちょう座の中でも最も有名な星雲です。その形状が北アメリカ大陸に似ていることから「北アメリカ星雲」の愛称があります。1等星デネブのすぐ東側にある大型の星雲です。天の川がくっきりと見える条件の時には、注意深く観察すると肉眼でその存在が分かります。望遠鏡では、拡散して輝度が弱くなり見ることができません。

IC5070散光星雲 愛称:ペリカン星雲(Pelican Nebula)

  • 位置(分点2000.0)赤経20h50.8m,赤緯+44°11’ 長径60’×短径50’
  • タイプHⅡ発光

北アメリカ星雲のすぐ西隣にある散光星雲です。星雲の形状がペリカンに似ていることから愛称があります。北アメリカ星雲とセットで撮影の対象となることの多い天体です。

北アメリカ星雲(NGC7000)とペリカン星雲(IC5070)
中央が「北アメリカ星雲」とそのすぐ右が「ペリカン星雲」。右の輝星はデネブ。
(撮影:上田聡/鹿児島県天体写真協会)

NGC6992-5,NGC6960散光星雲 愛称:網状星雲(Veil Nebula)

  • 位置(分点2000.0)赤経20h45.6m,赤緯+30°43’ 長径78’×短径8’,長径70’×短径6’タイプ超新星残骸
網状星雲の全景。(撮影:吉見昭文/鹿児島県天体写真協会)
網状星雲の東側。(撮影:上田聡/鹿児島県天体写真協会)
網状星雲 東側拡大。(撮影:上田聡/鹿児島県天体写真協会)

網状星雲は、写真で繊細なフィラメントが複雑に入り組んだ様子がとても美しく写し出される人気の被写体です。全体では直径3°にも及ぶ広がりがあります。写真で見ると、水素輝線の赤い色だけではなく、青い色も含んだ色鮮やかな星雲であることが分かります。とても淡いのですが、口径15cmクラスの望遠鏡の低倍率で、眼視的にもカーブした姿を観察することができます。東側のループ状の星雲がNGC6992とNGC6995でより濃く、写真ではわりあいに明瞭に撮影できます。その西側にはNGC6960があって、これも緩くカーブしています。これらは全体では大きなリング構造を成していて、「はくちょうループ」とも呼ばれます。これは、約8000年前に爆発した超新星残骸のガスが広がっている姿だと考えられています。東西両ループの間にも淡い星雲が広がっています。

IC5146散光星雲 愛称:まゆ星雲(Cocoon Nebula)

  • 位置(分点2000.0)赤経21h53.4m,赤緯+47°16’ 長径10’×短径10’
  • タイプHⅡ発光
IC5146まゆ星雲。(撮影:上田聡/鹿児島県天体写真協会)

はくちょう座の東の端、とかげ座との境界に近いところにある小型でよくまとまった散光星雲です。「まゆ星雲(Cocoon Nebula)」の愛称で知られています。これだけまとまっていると眼視的に見えそうですが、やはり写真のみの対象となる天体です。

2重星の観察

β星アルビレオ

  • 位置(分点2000.0)赤経19h30.7m,赤緯+27°58’
  • 主星3.2等,伴星4.7等,位置角54°,離角34.2” (2022年),スペクトルK3II+B9.5

はくちょう座のくちばしに位置する全天でも最も有名な二重星のひとつです。主星はオレンジ色、伴星は深青色で溜息をつくような美しさです。天上の宝石とも称され、宮沢賢治は、童話「銀河鉄道の夜」の中で、「トパーズとサファイア」と表現しています。小望遠鏡の低倍率でも美しく観察でき、三脚に固定すれば、双眼鏡でも二重星であることがわかります。

アルビレオの主星には、分光で存在のわかる5.1等の伴星があり連星系を作っています。

16番星

  • 位置(分点2000.0)赤経19h41.8m,赤緯+50°32’
  • 主星6.0等,伴星6.2等,位置角133°,離角39.7” (2020年),スペクトルG1.5V

広い離角のある小望遠鏡で観察しやすい重星です。両星とも黄色で明るさもほとんど変わらない双子のようなペアです。この主星と伴星は、太陽によく似た特徴の恒星としても知られています。

δ星

  • 位置(分点2000.0)赤経19h45.0m,赤緯+45°08’
  • 主星2.9等,伴星6.3等,位置角213°,離角2.7” (2020年),スペクトルB9.5IV

明るい黄色の主星に可愛らしい青緑色の伴星がついています。光度差があるため、この離角では分離することは意外と難しい対象です。この星は公転周期918年の連星系を作っており、現在は少しずつ離角を開けつつあります。

17番星

  • 位置(分点2000.0)赤経19h46.4m,赤緯+33°44’
  • 主星5.1等,伴星9.3等,位置角68°,離角25.9” (2020年),スペクトルF5V

光度差がありますが、十分に離角がありますので観察は容易です。黄色に近いオレンジ色の主星と水色の伴星のペアです。

Ψ星

  • 位置(分点2000.0)赤経19h55.6m,赤緯+52°26’
  • 主星5.0等,伴星7.5等,位置角175°,離角2.9” (2017年),スペクトルA4V

2.5等の光度差ですが、離角2.8”と近接していますので、気流の悪い時には観察が困難になります。くすんだ黄色の主星に水色の伴星がくっついています。

Σ2671星(=HIP 100097)

  • 位置(分点2000.0)赤経20h18.4m,赤緯+55°24’
  • 主星6.0等,伴星7.5等,位置角337°,離角3.8”(2021年),スペクトルA2V

重星の観察には楽しい光度差と離角の観察対象です。小望遠鏡でもなんとか観察可能です。白色の主星に、黄色に近いオレンジ色の伴星です。

52番星

  • 位置(分点2000.0)赤経20h45.6m,赤緯+30°43’
  • 主星4.3等,伴星9.5等,位置角74°,離角5.8” (2021年),スペクトルG9III

網状星雲の西側に重なっている恒星です。明るい主星におぼろげな消え入りそうに小さい伴星のペアです。離角はありますが、意外と手ごわい対象です。オレンジ色の主星にグレーの伴星があります。

Σ2741星(=HIP 103530)

  • 位置(分点2000.0)赤経20h58.5m,赤緯+50°28’
  • 主星5.9等,伴星6.8等,位置角24°,離角2.0” (2019年),スペクトルB5V

離角が小さく、小望遠鏡ではシーイングが良くないと観察の困難な対象です。主星と伴星双方とも青白い色をしています。まるで主星にコブがあるように見えます。

61番星

  • 位置(分点2000.0)赤経21h06.9m,赤緯+38°45’
  • 主星5.2等,伴星6.1等,位置角154°,離角31.9” (2021年),スペクトルK5V+K7V

小望遠鏡で観察しやすく、観察会でもお勧めの重星です。678年の公転周期をもつ連星系で、現在は最も離角の広い時期に当たっています。主星・伴星とも明るい黄色みがかったオレンジ色をしています。この星は5等級の目立たない星ですが、前述の通り地球から近距離にある恒星として、また史上初めて年周視差の求められた恒星としても注目されることの多い恒星です。

Σ2762星 (=HIP 104371)

  • 位置(分点2000.0) 赤経21h08.6m, 赤緯 +30°12’
  • 主星5.7等,伴星8.1等,位置角303°,離角3.3” (2020年),スペクトル B5V

かなり近接した、不等光のペアです。小口径の望遠鏡でこれを見ることは困難ですが、伴星を見つけると達成感を感じる見ごたえのある対象です。主星は黄色とオレンジ色の小さな伴星です。