冬の星座5

5オリオン座

 

学 名
Orion(略号 Ori)
英語名
The Hunter
設 置
古代ギリシア
面 積
594平方度

天体観測の見どころ

オリオン座には、たいへん多くの散光星雲があります。もちろん筆頭はM42(オリオンの大星雲)ですが、肉眼では困難でも天体写真の被写体に人気のある散光星雲が目白押しです。馬頭星雲やバーナードループ等は、どこかでご覧になったことのある星雲でしょう。オリオン座には二重星も多数存在します。もっともよく知られているのは、これもM42の中心にあるθ星(トラペジウム)です。他にも個性的な重星を数多く楽しめる星座です。

1星雲星団の観察

M42散光星雲(=NGC1976)通称:オリオンの大星雲

  • 位置(分点2000.0)赤経05h35.4m,赤緯-05°27’長径65’×短径60’
  • タイプHⅡ発光+反射

M43散光星雲(=NGC1982)

  • 位置(分点2000.0)赤経05h35.6m,赤緯-05°16’長径20’×短径15’
  • タイプHⅡ発光+反射
(撮影:上田聡/鹿児島県天体写真協会)

オリオンの大星雲は、全天でも1、2位を争う素晴らしい観察対象です。肉眼では、小三ツ星の付近がなにやらベールを伴ってごちゃちゃと見えます。双眼鏡では透き通った星雲がその中央にあることが分かります。望遠鏡では、低倍率から高倍率まで様々な姿を披露してくれる、肉眼から大口径の望遠鏡まで楽しむことのできる素晴らしい天体です。

中心部の四重星トラペジウムを囲んで広がる散光星雲は暗黒帯が入り乱れて、その複雑な濃淡模様は何度見ても見飽きることはありません。全体の印象は、よく「鳥が羽を広げている姿」に例えられます。M42は、この大きな本体部分で、M43は大きな本体部分にくっつく鳥のくちばしの部分に当たります。くちばしの付け根は、暗黒帯が深く切れ込み、その間に位置する四重星トラペジウムは宝石のように輝きます。口径10cmでは星雲の濃淡と暗黒帯の切れ込みの具合が、より一層明らかに見えてきます。口径20cm以上の大きな口径になると、星雲の色も分かるようになります。面白いことに、この星雲は写真では赤い色なのに、眼視では薄い緑色に見えます。これは、人間の眼の感度は緑色付近にピークがあり、星雲の放つ酸素の色を見ているためです。赤い色は、励起された水素原子の放つ色で、人間の眼は赤色に感じにくいのですが、写真では明らかになってきます。なお、この色の見え方は筆者や公開天文台の来館者の感想で、個人差がかなりあります。なかには、赤っぽく見えるという観察者もあります。

星雲の広がりは星雲の薄い部分まで含めると、満月の2倍ほどの直径があります。さすがに眼視では周辺部の淡い部分までは分かりません。しかし、写真と違って星雲のとても明るい部分から薄い部分まで一度に感じることができます。写真では淡い部分まで写そうとすると中心部はどうしても感度オーバーとなってしまいます。

M78散光星雲(=NGC2068)

  • 位置(分点2000.0)赤経05h46.7m,赤緯+00°03’長径8’×短径6’
  • タイプ反射

オリオン座の中心近くにある散光星雲です。自らは発光せず、星雲の北端にある2つの恒星に照らされて光っています。それほど顕著な天体とは言い難いのですが、この星雲を見たいという声はとても多くあります。なぜなら、ウルトラマンの故郷はM78星雲という設定なのですから!淡い星雲ですので、月明かりのない夜に低倍率で観察しましょう。

NGC2174-5散光星雲

  • 愛称:モンキー星雲
  • 位置(分点2000.0)赤経06h09.7m,赤緯+20°30’長径40’×短径30’
  • タイプHⅡ発光
(撮影:吉見昭文/鹿児島県天体写真協会)

オリオン座の北端,ふたご座との境界に近い冬の天の川の中にある散光星雲です。写真は北を上にしていますが、南を上(さかさま)にすると、猿の顔のように見えるために「モンキー星雲」の愛称があります。多くの散光星雲と同様に、肉眼ではほとんど見えません。
この星雲の中にある小型の散開星団はNGC2175です。

NGC2194散開星団

  • 位置(分点2000.0)赤経06h13.8m,赤緯+12°48’視直径8’,等級8.5,星数80

オリオンの振り上げたこん棒の持ち手のところにある散開星団です。オリオン座には不思議と散開星団が少ないのですが、これはあまり知られていないにもかかわらず、微光星を多数含んだとても美しい星団です。小さな星団で、ある程度倍率をかけた方が美しく見られます。冬の天の川の中で周囲も微光星が多く、星団を見失いそうです。

バーナードループ(=Sh2-276)

  • 位置(分点2000.0)赤経05h48m,赤緯+01°長径600’×短径30’
  • タイプHⅡ発光
バーナードループとその周辺
(撮影:上田聡/鹿児島県天体写真協会)

オリオン座の東半分を大きく覆っているループ状の散光星雲です。1895年に米国の天文学者バーナードが写真により発見したことからこの名称があります。この星雲は約200万年前の超新星爆発の残骸であると考えられています。

NGC2024散光星雲

  • 愛称:火炎星雲(Flame nebula)
  • 位置(分点2000.0)赤経05h41.9m,赤緯-01°51’長径30’×短径30’
  • タイプHⅡ発光

馬頭星雲(Horsehead Nebula)

  • 位置(分点2000.0)赤経05h41.0m,赤緯-02°28’長径60’×短径10’
  • タイプ暗黒星雲
NGC2024と馬頭星雲。画面左上の明るい円形の散光星雲がNGC2024。画面中央の突起状の暗黒星雲が馬頭星雲。
(撮影:上田聡/鹿児島県天体写真協会)

オリオン座の三つ星の左側ζ星の周辺は、肉眼では分かりませんが赤い散光星雲にあふれています。ζ星の東に隣接して散光星雲NGC2024があり、写真の印象から火炎星雲の愛称があります。この星雲は比較的明るいために、Hα光専用のフィルターを用いて、明るいζ星を視野から追い出して観察すると望遠鏡の低倍率でうっすらと認められます。
ζ星の南側には散光星雲IC434が南北に長く広がっています。その中央に突起状に暗黒星雲があり、その形が馬の頭によく似ているために「馬頭星雲」と呼ばれています。

2重星の観察

ρ星

  • 位置(分点2000.0)赤経05h13.3m,赤緯+02°52’
  • 主星4.6等,伴星8.5等,位置角64°,離角6.8” (2021年),スペクトルK2II

色と光度のコントラストの効いた見ごたえのある重星です。明るい主星は赤橙色で、4等級の光度差のある空色の伴星があります。

β星リゲル

  • 位置(分点2000.0)赤経05h14.5m,赤緯-08°12’
  • 主星0.3等,伴星6.8等,位置角204°,離角9.4” (2021年) ,スペクトルB8I

ギラギラと輝く主星は、冬の代表的な1等星として知られます。そのすぐ傍らにポチッと小さな伴星がついています。離角は十分広いのですが、大きな輝度差があるために意外と見落としてしまいます。青白い主星と紫色の伴星のペアです。
伴星はさらに、7.5等と7.6等が離角0.1”で近接していますが、これは大望遠鏡でも分離困難です。

23番星

  • 位置(分点2000.0)赤経05h22.8m,赤緯+03°33’
  • 主星5.0等,伴星6.8等,位置角29°,離角32.0” (2019年) ,スペクトルB1V

離角が広く、小望遠鏡から観察しやすいみごとな重星です。明るい橙色の主星に灰青色の伴星のペアです。

Σ701星(=HIP 25187)

  • 位置(分点2000.0)赤経05h23.3m,赤緯-08°25’
  • 主星6.1等,伴星8.1等,位置角138°,離角6.2” (2019年),スペクトルB8III

適度な離角と2等級の光度差で、観察して楽しい重星です。青白色の主星に伴星は青い色をしています。

η星

  • 位置(分点2000.0)赤経05h24.5m,赤緯-02°24’
  • 主星3.6等,伴星4.9等,位置角79°,離角1.8” (2021年),スペクトルB1V+B2

この重星の観察は小望遠鏡では困難です。かなり近接していますので、口径15cm以上は欲しいところです。大望遠鏡でもシーイングが悪いと分離して見えないでしょう。麦色の主星と黄白色の伴星のペアです。主星はさらに3.8等と5.3等が離角0.1”で近接した連星系ですがこれは分光観測の領域です。

31番星

  • 位置(分点2000.0)赤経05h29.7m,赤緯-01°06’
  • 主星4.7等,伴星9.7等,位置角87°,離角12.7” (2015年),スペクトルK5III

離角はまずまず広いのですが、光度差のある重星です。金色の主星に青みがかった伴星があります。

δ星

  • 位置(分点2000.0)赤経05h32.0m,赤緯-00°18’
  • 主星2.4等,伴星6.8等,位置角4°,離角56.2” (2017年),スペクトルB0III

光度差が大きく離角は非常に大きい重星です。主星は青白色の輝星。この北に離れたところに紫色の伴星があります。伴星の色に注目して下さい。主星はさらに2.4等と3.8等が離角0.3秒で近接する連星系です。この分離には大望遠鏡を要します。

λ星

  • 位置(分点2000.0)赤経05h35.1m,赤緯+09°56’
  • 主星A 3.5等,伴星B 5.5等,位置角43°,離角4.1” (2021年),スペクトルO8 B0.5V
  • 主星A 3.5等,伴星C 10.7等,位置角185°,離角29.3”(2017年)
  • 主星A 3.5等,伴星D 9.6等,位置角272°,離角78.5”(2012年)

全体では四重星系ですが、観察の対象になるのは主星A(3.5等)と伴星B(5.5等)です。なんとも近い位置に2等級差の伴星で、伴星の検出にチャレンジしながら楽しく観察できます。主星は灰青色で、これに紫色の伴星です。
伴星C(10.7等)と伴星D(9.6等)は離角の大きな位置にありますが、とても暗いので、大口径の望遠鏡で観察する機会があれば探してみて下さい。

θ星トラペジウム

  • 位置(分点2000.0)赤経05h35.3m,赤緯-05°23’
  • 主星A 6.6等,伴星B 7.5等,位置角32°,離角8.7” (2021年),スペクトル O7+B1V
  • 主星A 6.6等,伴星C 5.1等,位置角132°,離角12.8” (2021年)
  • 伴星C 5.1等,伴星D 6.4等,位置角62°,離角13.4” (2019年)

オリオンの大星雲(M42)の中心にある、通称トラペジウムです。トラペジウムは、ラテン語で「台形」の意味があります。四重星といえば即座にトラペジウムと理解されるくらいによく知られています。小望遠鏡からとても興味深く楽しく観察できます。大望遠鏡で観察すると、さらに微光の2星のついていることが分かります。つまり6重星です。トラペジウムの星々はいずれも高温で青白い色をしています。

ι星

  • 位置(分点2000.0)赤経05h35.4m,赤緯-05°55’
  • 主星2.8等,伴星7.7等,位置角141°,離角11.2” (2021年),スペクトルO9III

大きなコントラストのあるペアです。離角は十分ですが、5等級の光度差ですから何気なく見ると見逃してしまいます。主星は黄白色で、伴星はとても暗くて灰色に見えます。

Σ747星(=HIP 26197)

  • 位置(分点2000.0)赤経05h35.0m,赤緯-06°00’
  • 主星4.7等,伴星5.5等,位置角224°,離角36.3” (2019年),スペクトルB0.5V+B1V

ι星のすぐ南西にありますので続けて観察しましょう。低倍率であれば同じ視野に入ります。小望遠鏡で楽に観察できます。主星・伴星とも青白色です。

σ星

  • 位置(分点2000.0)赤経05h38.7m,赤緯-02°36’
  • 主星AB 3.8等,伴星C 8.8等,位置角239°,離角11.4” (2019年),スペクトル O9V+A2V
  • 主星AB 3.8等,伴星D 6.6等,位置角83°,離角12.9” (2019年) ,スペクトル O9V+B2V
  • 主星AB 3.7等,伴星E 6.3等,位置角62°,離角41.4” (2019年) ,スペクトル O9V+B2V

四重星といえば、オリオンの大星雲の中心にあるθ星(トラペジウム)があまりにも有名ですが、すぐ近くにあるσ星も見ごたえのある四重星です。さらに主星は4.1等と5.3等が0.3″で近接する重星ですが、これは小口径では分離できません。

ζ星

  • 位置(分点2000.0)赤経05h40.7m,赤緯-01°57’
  • 主星A 1.9等,伴星B 3.7等,位置角166°,離角2.4” (2021年),スペクトル O9.5I
  • 主星A 1.9等,伴星C 9.6等,位置角10°,離角58.5” (2017年),スペクトル O9.7I

かなり近接した重星で、シーイングの良い夜でないと伴星が埋もれてしまいます。明るい主星に接触するように小さな伴星があります。黄色の主星と黄白色の伴星です。この重星は公転周期1509年の連星系で、現在は少しずつ離角を小さくしつつある時期です。
この重星には、さらに離角58.1”に9.6等星がありますが、8等級近い光度差がありますので観察は困難ですがチャレンジしてみて下さい。

Σ855星(=HIP 29151)

  • 位置(分点2000.0) 赤経06h09.0m, 赤緯 +02°30’
  • 主星A 5.7等,伴星B 6.7等,位置角115°,離角29.1” (2019年),スペクトル A3V+A0V
  • 主星A 5.7等,伴星C 9.7等,位置角106°,離角117.6” (2015年),スペクトル A3V+A0V

明るく小望遠鏡で容易に観察できる重星です。主星は白色で、伴星は緑色をしています。離れてもう一星。全体として間隔をひろげた三重星です。

Σ788 (=HIP 27093) , Σ789 (=HIP 27118)

Σ789 (=HIP 27118)
位置(分点2000.0) 赤経05h45.0m, 赤緯 +04°00’
主星A 6.1等,伴星B 10.2等,位置角150°,離角14.0” (2017年),スペクトル gF0n
Σ788 (=HIP 27093)
位置(分点2000.0) 赤経05h44.7m, 赤緯 +03°50’
主星A 7.6等,伴星B 10.1等,位置角91°,離角7.5” (2017年),スペクトル B9
主星A 7.6等,伴星B 10.4等,位置角149°,離角36.2” (2017年),スペクトル B9

二重星と三重星が12’の離角で見られる楽しいエリア。WWスターならぬ、Wトリプルスターです。望遠鏡の低倍率で両重星が入ってしまいます。Σ789, Σ788 それぞれも観察のしやすい対象です。

3オリオン座流星群

活動期間:10月12日~11月7日。極大10月22日頃(太陽黄経208°)。
極大ZHR15。対地速度66km/s。

オリオン座流星群は、オリオンの振り上げたこん棒の位置に放射点があります。ハレー彗星を母天体とする流星群で、高速で印象的な流星が見られます。夜半から夜明け前にかけて放射点が高くなり、流星数も増えていきます。極大は高原状で、2日程度ずれても出現数はあまり変化しません。2006年から数年間は活発な出現を見せましたが、公転周期が木星との1:6の共鳴関係(周期71年)にある流星物質が多い領域による出現と思われます。70年前の頃にも出現が多かったという記録があり、2077年頃にまた出現数の増加が期待できます。それ以外にも、木星の影響により出現数に12年周期があるという研究もあります。

10月23日3時頃(東京)でみるオリオン座流星群のイメージ
ハレー彗星の軌道。地球は10月22日頃にハレー彗星の軌道に近づき、この頃にオリオン座流星群が活動します。