いつからこんなに家が好きになったのだろう、と振り返ってみて、24歳で一人暮らしをはじめてからだ、という答えに行き着きました。
それ以前に暮らしていた実家も、居心地は悪くなかったし、記憶の中にある幼少期の家のリビングは、ソファも、照明も、そういえばなかなかおしゃれなものでした。
でも24歳のとき、自分で探して契約した、三軒茶屋のすみっこに建つ小さなコーポのワンルームの鍵を手に入れた日から、わたしの家好きの芽が花開いたのだと思います。
週末になると、隣町の渋谷、下北沢、中目黒や目黒まで出かけ、家具や雑貨を買い揃えていく日々。
そんな一人暮らしを10年ほど過ごしたのち、古いモノが好きな夫と知り合ってからも、わたしはたくさんのモノと出会い、手放すことをくり返すなかで、自分はどんな空間に惹かれやすく、どんなモノとは相性よく暮らせて、どんなモノとはウマが合わないかを学んでいったのです。
部屋に置くモノをつい人間のように見てしまう傾向や、無条件に胸がときめくインテリアは年令を重ねてもびっくりするほど変わらないこと、だからトレンドがどうあれ、惚れ込んだ家具にはまったく飽きることがない自分の性質を、だんだんと理解していきました。
この本は、20代、30代、40代と、暮らす場所を自分の城にすることに最上の喜びを感じてきたわたしが、50代の現在、ともに暮らしている愛用品を紹介する一冊です。
といっても、一級の審美眼と知見を持つ方が厳選した名品図鑑のような本とは少し(だいぶ)違います。 中には名作と呼ばれる家具や照明もありますが、それが必ずしもみんなの愛用品になるとは限らないし、相性や縁が存在するからこそ、モノ選びはおもしろいのです。だから、これから語るのも、一つひとつが「わたしの愛用品」になるに至った、個人的なストーリーです。
この本をめくってくださる方に渡したいもの、そして共有したいものは、こんなふうに時間をかけてモノを選び、使いながら関係性を育むことの楽しさと、そうしたモノに囲まれて暮らす幸福感への気づきです。
どんな高級ホテルの客室より、自分の家が好きだと思える生活なら、それは幸せな人生を生きているということ。
人によっては首をかしげられそうな、でもわたしにとっては大真面目な価値観に、「うんうん、わかる、そうだよね」と思っていただけたら、とてもうれしいです。
(「はじめに」より)