じめに

「今週の売上データを分析して、来月の仕入れ計画を立てて」とAIに頼んだら、データベースから情報を取得し、外部APIで市場動向を調査し、分析レポートを作成してくれる─⁠─そんな世界が、もう目の前にあります。

現在のAIは確かに賢くなりました。ChatGPTやClaudeは、人間のような自然な会話ができ、複雑な質問にも的確に答えてくれます。しかし、1つだけ決定的に足りないものがあります。それは「手」です。どんなに賢くても、ファイルを読むことも、データベースに接続することも、外部のAPIを呼び出すこともできません。

この限界を突破するのが、本書で学ぶMCP(Model Context Protocol)です。MCPは、AIに「手」を与える革命的な技術。Anthropic社が2024年11月にオープンソース化したこの技術により、AIは単なる会話パートナーから、実際に作業を実行するパートナーへと進化します。そして30分後、第1章を終えたあなたは、その衝撃的な変化を自分の目で確認することになるでしょう。

私が、なぜ、この本を書いたのか?

MCPについて調べると、概念説明のサイトや断片的な技術解説は数多く見つかります。⁠MCPとは何か」を理解することはできるでしょう。しかし、実際に動くものを一から作り上げるとなると、話は別です。

多くの資料は、サーバーの作り方「だけ⁠⁠、あるいはプロトコルの仕様「だけ」を説明して終わります。でも、それで本当にMCPを使いこなせるようになるでしょうか?

そのために本書を書きました。

サーバー構築から始まり、クライアント開発まで踏み込み、最終的にエージェントという自律的な存在を生み出す─⁠─MCPエコシステム全体を一気通貫で構築する体験を提供します。

つまり本書は、MCPの「概念を学ぶ教科書」ではなく、⁠MCPエコシステムを自分の手で構築する実践書」なのです。断片的な知識ではなく、線でつながった実装力を身に付けられます。

日本には伝統的な学びの段階があります。そう、⁠守・破・離」です。本書は、この伝統に基づいて構成されています。

(第1~5章⁠⁠:型を忠実に学ぶ

まず、Claude Desktopという見本の動きを観察し、FastMCPという「型」に従って基本的な電卓サーバーを作ります。コピー&ペーストで確実に動くものを作り、⁠動いた!」という成功体験を積み重ねることから始めます。

(第6~8章⁠⁠:型を応用し、創造性を発揮する

基本の型を身に付けたら、データベース連携、外部API連携、汎用ツール群へと応用を広げます。⁠守」で学んだ基礎の上に、実用的な価値を積み上げていきます。ここで、単なる模倣から、自分なりの工夫を加える段階へと進化します。

(第9~11章⁠⁠:独自の道を創り、エコシステムに貢献する

最後は型から離れ、クライアントを自作し、エージェントという自律的な存在を創造します。そして、あなたの作品を世界に公開し、MCPエコシステムの創造者として独り立ちします。もはや学習者ではなく、新しい価値を生み出す創造者です。

この段階的な成長により、着実に、しかし確実に、MCPマスターへの道を歩むことができます。

必要なものは、PC(Windows/Mac/Linux対応)とインターネットだけです。

プログラミング経験(Python)はあったほうがよいですが、なくても問題ありません。全コードはコピー&ペーストで動作するよう設計されており、つまずきやすいポイントは先回りして解説しています。FastMCPという強力なライブラリが複雑な処理を隠蔽してくれるので、あなたは本質的な部分─⁠─⁠何を作りたいか」⁠どう使いたいか⁠⁠─⁠─に集中できます。まずは作って覚える。そして、この本を読み終えたとき、あなたは単なるMCPの理解者ではなく、MCPエコシステムの構築者になっています。

今、MCPを学ぶべき理由は何でしょうか?

MCPは2024年11月にAnthropicがオープンソース化したばかりの、まだ生まれたばかりの技術です。しかし、その可能性を見抜いた主要企業─⁠─OpenAI、Microsoft、Zed、Replit─⁠─が続々と採用を決めています。インターネットが普及し始めた1990年代、スマートフォンが登場した2007年、そしてChatGPTが世界を変えた2022年。技術史には、⁠その瞬間に学んだ人が先駆者になった」転換点があります。

MCPは、まさにそんな転換点にあります。断片的な情報は増えていますが、サーバーからクライアント、エージェントまでを体系的に学べる実装書は本書が初です。今この瞬間にいち早くMCP学ぶことで、あなたはMCPエコシステムのパイオニアの1人になれます。数年後「あの頃からかかわっていた」と振り返る日が来るでしょう。

いますぐ旅立ちましょう。

守・破・離の道を歩み始めましょう。 型を学び、応用し、そして独自の道を創る。サーバーを作り、クライアントを実装し、エージェントを生み出す。そのすべてを、この1冊で体験できます。

最初の30分でAIがあなたのファイルを直接操作する「魔法の瞬間」を体験してください。そこから始まる11章の旅路の先に、あなた独自のAIエージェントが待っています。

小野哲(おのさとし)

『ChatGPTはソフトウェア開発に使えるのか?』『生成AIアプリ開発大全――Difyの探求と実践活用』を執筆。Oracle,PostgreSQLなどデータベースに通暁し,Webアプリ開発にも詳しい。40年以上にわたりソフトウェア開発の最前線で活躍。昨今では生成AIやPythonによるソフトウェア開発のコンサルも行う。