新入社員は「呪い」にかかっています。
「この人、仕事しているの? 何ができるの?」
周囲からこのように思われてしまうのではないか。そんな不安と疑心暗鬼が、本来の力を発揮できない状態を作り出してしまいます。これが「呪い」の正体です。
新しい環境で成果を出せる状態になるというのは、腰を据えて取り組む必要のある、極めて不確実性の高いプロジェクトです。システムや事業についての知識、組織の文化、仕事の進め方、チームの目標や作法など、成果を出すための前提となる知識は山ほどあります。一緒に働く人との信頼関係を構築する必要もあります。どんなに経験豊富な人でも、どんなに優秀な人でも、時間をかけて進める必要があります。しかし、「早く成果を出さなければ」という焦りが、このプロセスを邪魔します。成果を出したいのにうまくいかない。自分の理想と現実とのギャップに苦しむ。焦りが空回りを生み、本来必要なステップを飛ばしてしまう。
「呪い」は、こうして新入社員の力を奪っていきます。
私たちはLAPRAS株式会社のオンボーディングチームとして、この「呪い」を解くための試行錯誤を続けてきました。どうやって最初の信頼関係を築くのか。新入社員の不安をどうやって取り除くのか。自分が苦しいと思ったことを、次の人が経験しなくてよいようにするには。自分が試してうまくいった方法を、ほかの人が意識せずとも実践できるようにするには。たくさんの経験を積み重ねてきました。“できている”と自覚したときこそ落とし穴があるというのは常ですし、油断はできませんが、一定の成果を出せるしくみを構築できているという自負はあります。本書は、そうした実践から生まれたものです。
オンボーディングに取り組むことは、強い組織を作ることにつながります。人を受け入れられる組織には、互いを信頼し任せ合える関係性、体系化され共有される知識、明確に示される期待が必要です。オンボーディングに真剣に取り組むことで、これらが組織に根付いていきます。簡単ではなく、労力もかかることですが、新入社員がチームに馴染み、活躍し始める瞬間を見たとき、その努力は必ず報われます。
本書で紹介する方法を一つの型として、みなさんの組織の文化や状況に合わせて取り入れてみてください。
興梠敬典(こうろきたかのり)
LAPRAS株式会社 CTO
豊田高専卒業後,エンタープライズ,Web,新規事業など多様な開発プロジェクトに従事し,ビジネスとソフトウェア双方の設計・構築を経験。2015年に高知でAI開発組織を立ち上げ,組織構築から地域連携までを主導。
2019年にAPRAS株式会社入社,2020年10月にCTO就任。技術戦略の策定・エンジニア組織の構築とともに,バックオフィスのマネジメントも担当。事業成長に直結する開発体制の確立と,エンジニア一人ひとりが主体的に価値創造できる組織文化の醸成に注力している。