事業承継は、中小企業にとって避けて通れない経営課題です。中小企業は地域の雇用と暮らしを支える存在であり、円滑な承継は企業価値を守るうえで不可欠です。
一方で、承継は「株式の移転」だけで完結しません。経営権の委譲、資産の整理、後継者の育成、従業員や取引先との信頼関係の維持など、多面的な論点が同時に絡み合います。
制度の整備も進みましたが、それらはあくまで道具にすぎず、自社の状況に合わせて計画的に使いこなす姿勢が求められます。
本書は、制度の細かな紹介に紙幅を割かず、現場の意思決定に直結する要点だけを事業承継に臨む経営者の立場に立って示しました。迷いやすい論点を順序立てて整理し、「いま何を決め、どこまで確認するか」を明確にしています。拠り所は、適法性と税務の妥当性、そしてガバナンスの視点です。少数株主や債権者、従業員への配慮や情報の扱いについても、実務の流れの中で自然に押さえられるよう記述しました。
読者は、経営者・後継者・銀行担当者などの一般読者を想定し、専門用語はできる限り平易に言い換え、必要な背景と判断の理由を添えています。今日の判断にそのまま生かせる「考え方の型」を、本書全体の骨格として据えました。
本書が、事業承継に臨む経営者の皆様の迷いを減らし、一歩を踏み出すための手がかりとなれば幸いです。
伊藤良太(いとうりょうた)
1984年生まれ。早稲田大学大学院法務研究科を修了後,司法試験合格。2012年に弁護士登録し,ベンチャー企業法務,M&A等の案件に従事。2015年に経済産業省中小企業庁に任期付き公務員として採用され,経営承継円滑化法の執行・改正,事業承継税制の執行・改正作業,事業承継ガイドラインの案文執筆等を担当する。任期満了した2017年,独立して事業承継・M&Aを中心とした中小企業支援に取り組み,2019年,弁護士法人フォーカスクライドに社員パートナー弁護士として参画。第二東京弁護士会「事業承継研究会」代表幹事,東京商工会議所「事業承継対策委員会」学識委員等を歴任。日本経済新聞「事業承継・M&A弁護士50選」に掲載される。
梅田篤志(うめだあつし)
1986年生まれ。中央大学商学部会計学科を卒業後,都内の税理士法人に入社し,法人税務顧問業務や数多くの企業組織再編の提案・実行に携わる。2015年には,資産税に特化した税理士法人タクトコンサルティングに移り,相続・事業承継など資産税分野の業務を担当。2017年,結婚を機に新潟へ移住し,税理士法人山田&パートナーズに入社,引き続き資産税業務に従事。2018年には梅田税理士事務所を開設し,新潟を拠点に資産税専門税理士として活動を開始。2020年には税理士法人フォーカスクライドを設立し,資産税の専門家として多数の相続・事業承継案件を支援しながら,セミナー講演の担当やラジオの相続コーナーに不定期出演している。