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ITはラットイヤーで変化,人間の営みは……
ITバブルを覚えていますか? 人によってはまだ余韻が醒めてない方もいるのかもしれませんが,書店店頭でのIT関連書籍棚の減少を見れば自明なことですね。ITバブルがはじけてもういつの間にか10年経ってしまいました。よく「ゆで蛙のたとえ」なんかが思い浮かびます。ゆっくり水温を上げていくと,蛙にはそれがわからずにゆであがってしまうという話です。長い目で見ると,状況は大きく変化しているのですが,その渦中にいると変化がわからなくなってしまうのです。それはどんな人間でもそうかもしれません。
10年前のベストセラーを復刊した理由……
もしかしたらIT業界もそんな具合になっていませんか。2000年代初頭のITバブル時代に大変よく売れた本『システム管理者の眠れない夜』と『暗黒のシステムインテグレーション』を復刊しようと思ったのは,偶然これらの本を読む機会があったからです。なにげなく読み進めてみると,懐かしさも喚起されるのですが,変わらない人の営みというか欲望のあり方に深く感じるものがあったのです。
最先端のITサービスなのにシステムの敵は,電気がもったいないってサーバの電源を落としちゃう掃除のオバちゃんだったり,LANケーブルが余っているからって,ハブの空いているポートに挿してシステムをダウンさせたり……という逸話のみならず,現在からすればへんてこな事件が山盛りの本です。システム管理者は一生懸命に問題の解決に奔走しますが,報われることは少ないという……。それって今も同じかもしれないなと思ったわけです。
復刊のオファーを執筆者にしたところ,ただ単に復刊するだけでなく,現代の視点を加えて過去の考えを正したいという前向きな回答をもらい,この企画を進めることになりました。「懐かしいけど,なぜか新しい……」そんな本にできればと考えたのです。
現在もシステム管理者は眠れない……
だいたい100人規模の会社になれば,1~2名ほどシステム管理者がいると思います。情報システム室があるような会社はまだましです。本業も同時にこなしながら,社内IT設備の御用聞きまがいなことをしつつ,SIerさんと同様な仕事をしなくてはなりません。本書『システム管理者の眠れない夜』はそんな人々を対象に執筆されています。2000年問題に振り回されたり,春先の人事異動でシステムがズタズタになってその再構築に奔走したり,ユーザーのプリンタを出力できるようにしてあげたり,会社をスムーズに動かすために働いているのに,そうした苦労の報われなのなさ,切なさ……にきっと共感できると思います。ただそれだけでなく,執筆者の柳原氏は少し高邁な視点から当時を振り返り,的を射たコメントを新たに書き下ろしています。
世の中の裏を知るには闇を見る……
システムインテグレータ業界は10年経ってみると,ITILやらCMMIやら何やらさまざまな規格が生まれ,さらにはアーキテクトやら,エバンジェリスト,ソリューションコーディネーターなどなど,担当者の肩書きも立派になって,一見スムーズに仕事が進む(?)ようになりました。しかし,現実はそうではないと著者の森さんは言います。「事業がこけたときに責任をとりたくない」という官僚主義の隠れ蓑だと。こうした現状は技術指向のエンジニアにとって,どんどんつまらないものになっています。優秀なエンジニアほど,日本に見切りを付けて海外に出てしまうことになるでしょう。本書『暗黒のシステムインテグレーション』では,単にITバブル期の混乱状態で描くのではなく,補足して書かれた新原稿で現代の状況も踏まえてばっさりと「IT業界の暗黒」を暴いていきます。
IT業界を目指す若い人達にも読んでほしい……
これら2冊に共通して言えるのは,技術以外のところ,つまり人間がやることはいつも同じってことです。最近の若い人は年長者の意見を軽視しがちですが,そういう伝えるべきノウハウは素直に(先取りする気持ちで)受け取ってほしいなと……それが本を制作する側としての思いの一つです。断絶しやすい世代同士をつなぐという意味です。古き考えを温め,現代に活かすというわけです。
さて,古くからの読者の皆様には「ゆで蛙にならない」ために昔の事情を読んで,さらに今から10年後の変化を考えてみてはいかがでしょうか。本書2冊によってきっと新しいアイディアが必ず発見できるはずです。2冊とも,年末のお供にぜひご一読ください。