この記事を読むのに必要な時間:およそ 0.5 分
「効果」という言葉をさまざまな場所で目にするようになっています。何かしらのテレビ番組を見れば,食の専門家が「ある食品はダイエットに効果がある」と語るのを見かけます。また会社のミーティングでは広告の専門家から「広告の出稿は売上を増加させる効果がある」という話を聞くことになります。私たちは専門家達が伝える効果という情報を信じ,日々さまざまな意思決定を行っているのです。しかし,残念なことに今日目にする効果に関する情報の多くは,間違った効果の計り方をしたものや専門家の思い込みに基づいていることがほとんどです。
「バイアス」によって見誤る効果
ある教育方法の効果を語る場合,理想的にはある1人の子供が,その教育方法で教育を受けた場合と,受けなかった場合を比較する必要があります。しかし多くの場合,効果の分析はその教育方法を受けた子供と受けていない子供の比較で行われます。そしてこの比較において,この教育方法を受けた生徒は将来より良い大学へ行き,より高い収入を得るといった結果を得ることになり,この教育方法を宣伝している専門家の主張と一致する結論となります。
しかし,この比較の方法の正しさに目を向けてみると,いくつかの欠点があることにすぐ気付きます。教育熱心な親は教育に関するさまざまな情報を収集し,積極的にこのような教育方法を子供に施すことになります。この場合,この教育方法を受けている子の親は,受けていない子の親よりも平均的に教育に対してより関心があり,塾へ通わせたり自分で勉強を教えたりする傾向が強いと考えられます。
このほかにも所得が高い親は教育への出費を増やすことが可能なので,このような教育方法を子供に与える傾向が強くなると考えられます。よって,この教育方法を受けている子の親は,受けていない子の親よりも所得が高くなる傾向があり,さまざまな教育方法が施されると考えられます。
因果推論と計量経済学のビジネス適用
因果推論(Causal Inference)とはこのような比較の問題に着目し,与えられたデータを使ってどうすればより正しい比較ができるのか? を考える統計学の一分野です。
1月に刊行となった「効果検証入門」は因果推論のアプローチと,計量経済学の基礎的な手法について,Rのサンプルコードとともに紹介します。本書は,ビジネスに正しい比較を取り入れるための基本的な知識を紹介することが目的です。基礎的な考え方と手法についてなるべく平易に解説し,ビジネスにおける施策の評価をシンプルな集計と可視化で行う危険性についてふれたあとで,その対処方法の解説に移行します。
本書によって因果推論や計量経済学の考え方が少しでも広がり,ビジネスで利用される足がかりとなることを望みます。