新春特別企画

2010年のAR

新年のご挨拶

皆さん、あけました。AR三兄弟の長男、川田十夢です。豪華執筆陣が、それぞれの専門分野に関して2010年の展望を書いているようですが、僕はうっかりAR三兄弟という名前のユニットをやっているため、AR(Augmented Reality:拡張現実)について書かなくてはいけないようです。本当は、"余ったおせちで作るアイデア料理"とかご紹介したいのですが、技評さん一発目の執筆依頼にして拡張解釈し過ぎだろうということで、まずは大人しく責務を真っ当して、ARの展望について書きたいと思います。

AR元年だった2009年

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年初からNaNですが、まずはAR元年ともいうべき昨年のAR業界をざっと三つのトピックから振り返ってみましょう。まず真っ先に思い浮かぶ2009年の最重要ARニュースといえばiPhoneアプリ、頓知・セカイカメラのリリースではないでしょうか。人々は驚きをもってiPhoneのカメラ越しにAR世界を実感し、AR行為(=頓知・井口氏が命名したエアタグを挿入する行動のこと。セカイカメラを知らない人から見るとちょっと怪しく見えるという着眼点から"行為"という言葉をチョイスしたと思われる)に高じるユーザーを街中で目にしました。二つ目はWEBブラウザ越しの手軽なAR体験を適えたFLARToolKitの普及です。今まで、C言語やjavaでコンパイルしたローカルアプリでしか動作しなかったARコンテンツを、WEBブラウザとWEBカメラさえあれば誰でもすぐに体験できるにまでした功績は大きかったと思われます。三つ目はごめんなさい、並びから言ってやっぱりAR三兄弟を挙げざるを得ません。彼らのARを使ったパフォーマンスは、結果的にNHKにてARテレビ番組が生中継されるというエポックな現象を生み出し、ARという狭い世界の専門用語を、広く一般に浸透させるに至りました。

2010年のAR(普及ベクトル)

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2010年のARを予想するに、僕は二つのベクトルが生じると考えています。まず、一つ目は普及ベクトルで、私たちの生活にどんどんARが浸透してゆくのだと思います。例えば、雑誌や書籍などの紙媒体。誌面に印刷されたARマーカーをWEBカメラやiPhone越しに見ると、映像や音楽がレイヤードされた状態で見える聞こえる。2009年11月にベネトンがイタリア本国で発行したCOLORSのような手法の雑誌が、日本にも多く表れることでしょう。あと、ARG(Alternate Reality Game:代替現実ゲーム)とARを融合させた、新しいスタイルのプロモーションやプロダクトも、多く出てくることが予想されます。代替現実ゲームという概念は、物語世界と現実世界の境界を暈して、物語世界のことを現実に、現実のことを物語に再配置することが基礎となるのですが、その境界をつなぐ余白として、あるいはラビットホールとしてのARが広く一般に浸透してゆくと思われます。年初に記者発表のあった、劇場版東のエデンの映画プロモーションはまさにその先駆けとなるケースで、今後も類似のプロモーションやプロダクトは増えると予想されます。

※)
東のエデンというアニメーション作品の中に登場する個体識別システム(エデンシステム)を、現実世界に作ってしまうという大胆なプロモーション企画。公式twitterBOTを通じてエデンシステムに投稿することもできるなど、うっかり押さえるところ押さえてます。東のエデン製作チームと共同でAR三兄弟が企画・開発。

2010年のAR(未来ベクトル)

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もう一つ、大切なベクトルがあります。それは未来ベクトルです。かつてARが全くの想像の産物であったように、ネクストレベルの拡張現実を想像しておかないと、新しい世界を切り拓く事はできません。ここでは、想像力の限界を敢えて拡張し、物語と現実の境界をぼかし、未来のARについて少しだけ触れておきたいと思います。これまで、ARとカテゴライズし、説明してきた現象は、全て視覚情報に頼る部分が多く、このままでは全世界市民同時多発眼精疲労を導くに違いありません。世界は目薬不足に悩み、スマスマの冒頭に流れるロート製薬の鳩もきっとシナシナになってしまうことでしょう。このままではいけないと、AR研究者は新しい知覚を拡張現実の出力デバイスに選びます。視覚に変わる新しい出力デバイス、それは味覚です。味覚をベースにした情報提供システムを、AR研究者とあらゆる分野の科学者が結託をして共同開発します。それが拡張現実を更に拡張することを目的としてARARAR.NET(あるあるあるね)というプロジェクトです。たとえば、悲しいニュースの情報をARARAR.NETのAPIにかけるとします。すると、シューっと塩っぱい粉末が噴射します。人々はあらゆる情報に味覚でコミットできるようになり、視覚に頼りきった世界から人類は脱皮し、また一つ新しい進化を遂げたのです。と、これは全て僕が考えた物語世界の話ですが、拡張現実の未来のいち予測としてはうっかり非常に有用であると思います。

最後に

年々目まぐるしく変化する世界の技術革新スピードに対応するには、相当する想像力の飛躍が必要です。年初からこの突拍子も無い飛躍にお付き合い頂けた方ならば、今年一年の変化なんて容易く予想することができるでしょう。今年も皆さんにとっていい年でありますように。AR三兄弟、長男こと川田十夢でした。本年も拡張現実のほど、よろしくお願いいたします。

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